魔法先生ネギま 雨と葱   作:朝来終夜

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(注)次回更新は11月1日更新となります。ご了承ください。

シャーリー「……注意書きにして書くなコラ」


第36話 After Story アスナの冒険Vol.1-7

「……鍋だ」

「鍋だな」

「鍋だね」

 連れ去られたエヴァンジェリン達の目の前には、巨大な鍋が置かれていた。

 ゴブリン達は周囲に生えた草から作られた枯葉を鍋の下に詰め、石を打ち合わせて火花を出そうと躍起になっている。

「確か、安土桃山時代の盗賊、石川五右衛門は釜茹での刑に処されたとか……エヴァンジェリンが自作自演(マッチポンプ)なんてするから」

「やかましいわ!! そもそも持ち掛けたのはジジイの方だっ!!」

「エヴァにゃん、共犯も罪に問われるって知ってる?」

 焦げ臭い匂いが鼻に付いた。既に鍋に火が掛けられているのだろう。

「……どうだ?」

「急いでやってるけど、まだ無理……」

 その間も、こなたは癒す親指の鎖(ホーリーチェーン)で肉体を強化しながら、束縛する中指の鎖(チェーンジェイル)の鉤爪と律する小指の鎖(ジャッジメントチェーン)の短剣を操作し、拘束している縄を切ろうと必死に足掻いている。

絶対時間(エンペラータイム)とか寿命の制約がなくてよかった。じゃないととっくに死んでるよ……」

「見ている限り、便利だか不便だがさっぱり分からんな。能力(チート)というのも」

「そんなもんだよ。むしろネット小説とかだと、ネギま(この)世界の魔法を能力(チート)として貰っている人の方が多かったんだからね」

 二人が話し込んでいる間に、既に鍋のお湯は沸き始めていた。

 沸き立つ湯気を見てこなたは焦るも、結果は変わらない。

「決めた!! 今度から仕込みナイフを装備する!!」

「できれば今装備していて欲しかったがな!!」

「……あ、ゴブリンが来た」

 とうとう具材となる時が来たらしい。ゴブリン達は近づきながら、誰を鍋に入れるかを話し合っているらしい。

「GOBUBU……FAKE」

「GOBUBU……OLDER」

「……GOBU,YOUNGEST.FOR NOW」

 協議の結果、選ばれたのはこなただった。

「なん、で「私、義体だから」「一応600歳越えの吸血鬼だからな」――転生すればよかった!! 赤ん坊時代が嫌だからって転移するんじゃなかった!! そうすれば精神年齢三十路超えるのにっ!!」

 近づくゴブリン達。しかしこなたの縄は未だに切れる気配がない。

「誰か何か奥の手っ!!」

「そう言えばアスナ、お前気はどうした!?」

「移動中も使ってたからガス欠。魔力の維持で手一杯」

『このお子ちゃまめっ!!』

 泉こなた。ゴブリン共に釜茹でにされてから喰われて死亡。

「せめてっ、せめてPCは破棄して「GOBUBU」――エヴァにゃんお願いっ!!」

「もう少しまともな遺言を残せエロゲ貯め込んだ男子大学生か貴様はっ!!」

 後がない、誰もがそう思った瞬間だった。

 

 

 

 ――ジャシュッ!!

 

 

 

 近づいたゴブリン達は全員、首を落としたまま棒立ちになり、そして身体も重力に引きずり落とされた。

 ギリリィン!!

 そして首を切り落とした張本人であるナギは両手に持っていた二本の包丁を擦り鳴らし、こなた達の前に降り立つ。

 

 

 

「料理は愛情!!」

「貴様はもう魔法使いを名乗るなーっ!!」

 

 

 

 アスナと共にシオンに担がれたエヴァンジェリンが思わず叫ぶが、ナギは包丁を懐に仕舞ってからこなたを抱えて走り出した。

「いやナギさん縄切ってっ!!」

「そんな暇ねえよ!!」

 必死扱いて逃げ出す面々、しかし来た道は既にゴブリンの群れで塞がれている。仕方なく奥の道を行こうとするも、身軽な小鬼たちの方が早い。

 

 

 

 カラララ……シュバッ!!

 

 

 

 けれども、突如発生した閃光がナギ達の背中を押す様に一帯を覆い尽くし、ゴブリン達の視界を焼き尽くしていく。

「早くしろ、こっちだっ!!」

閃光手榴弾(フラッシュグレネード)これだけなんだ、もう後がねえぞ!!」

 ナギ達の突入に遅れて侵入した千雨達は先に奥の通路に移動し、道を押さえていた。そこに飛び込み、千雨のナイフで縄を切りながら、全員で逃亡を図る。

「地図だとこの先なんだが……」

「このままだとゴブリンも一緒に連れて行く羽目になるぞ!!」

「こなた手伝え!!」

 アスナを背負ったシオンが先導し、残りで拳銃弾や瓦礫を投げつけて後続を抑えるも、数の差ですぐに無理が出てきている。殿(しんがり)についたナギやラカンの手で直接攻撃する機会が増えてきたのだ。

「あと少し――」

「見えたっ!!」

 アスナの叫びに全員が視線を前に向けると、そこには扉の様なものが見えた。先導するシオンの記憶が確かならば、そこが依頼人の、アリカ=スプリングフィールドらしき人物が待ち構えている場所となる筈だ。

「それはいいが後ろどうするよ!?」

「最後の手榴弾で吹っ飛ばす!!」

 最後となった弾倉をSIGP230に叩き込んでから、千雨はこなたに手渡した。

 先程受け取ったシグ・ザウエルP228と合わせて二丁拳銃(命中度外視の即席弾幕)で牽制(けんせい)している間にピンを抜いた手榴弾を投げる。

 手榴弾はゴブリンの群れの中に落ち、爆破し飛び散る破片が小鬼達の肉を削り飛ばしていく。おまけに肉壁が厚く、破片が千雨達を襲うことはなかった。

「よし、今の内だ!!」

「扉開けるぞ!!」

 手榴弾の爆破を確認した千雨が叫ぶ。それに合わせてシオンが扉に飛びつき、取っ手を引いて開けようと力を籠める。

 扉に鍵は掛かっていないようだが、そのものが重い為に開けるのに時間を掛けてしまっている。ナギとラカンも扉に飛びつき、シオンと共に引くことでどうにか開けられた程だ。

「飛び込めっ!!」

 隙間を潜る様に全員で扉を抜け、慌てて全員で扉を閉めに掛かる。

 扉自体が盾や防壁の役割を果たしているのか、こちら側にゴブリンの気配はない。けれども現在進行形で千雨達に続いて侵入しようとしているのは変わらないのだ。

 扉の重さとゴブリン達の力を押し退けてどうにか扉を閉めてから、全員漸く息を吐いた。

「はぁ……これ以上はもう何もないよね?」

「そう願いたいよ」

 弾切れのシグ・ザウエルP228のスライドを戻してからホルスターに戻すこなた。それにシオンが床に腰掛けながら答える。

 その間も千雨は周囲を確認していく。視界に映るのは洞窟とは思えない程整備された空間だった。シンプルな四面体だが地表の遺跡と比べて広大で、かつ四分の三が削れて奈落と化している。

 地下がどうなっているかは確認しに行こうとはしない。何故なら目を引かれるオブジェクトが千雨達の前に鎮座していたからだ。

「やっぱりお前か……アリカ」

 それは巨大なカプセルだった。

 魔法陣が刻まれた物体のガラス部分から金髪で妙齢な女性、アリカ=スプリングフィールドの顔が覗いていた。しかもカプセル自体はほぼ垂直に立てられ、そこを中心として床上に別の魔法陣が刻まれている。

「魔力供給の術式だ。昔オスティアで見たことがある」

 しゃがみ込んだアスナが床に手を当て、刻まれた魔法陣を分析していく。

「ということはウェスペルタティア王国の術式か?」

「多分そうだと思う。そこまで詳しくないからわからないけど……」

 今は亡き王都の術式を眺める中、ふと千雨はある人物が近くにいないことに気が付いた。しかし後ろを向けば、すぐに視界に入ってくる。

「どうしたエヴァ? そんな隅っこに居て」

「ほっとけ……」

 膝を抱えて扉の横に壁に(もた)れて座っているエヴァンジェリンを眺めていると、合点がいったのかラカンが割り込んできた。

「ああ、そうか。お前ナギが「(くび)るぞ……」――……もう覇気もないな」

 流石に目の当たりにすると、エヴァンジェリンとて落ち込むのだろう。

 想い人(ナギ)の愛妻アリカを見て、恋愛的に奪うことがほぼできないと考えてしまったのだ。

 とはいえ、離婚という手段がある以上エヴァンジェリンが簡単に諦めるとは思えないが。

「……これか」

 その間もナギはカプセルの周囲を調べ、一つのヘッドギアが台座に載っているのを見つけた。イメージとしてはSAOのナーヴギアに近く、その隣には横になれるベンチが置かれている。

「台座にも『頭に付けて寝ろ。そして『LINK START』と呟け』って書かれてますね。しかし……完璧SAOのパクリだな」

「というか、システムはフルダイブ技術を(それ)イメージして作ったんじゃないの?」

 こなたも千雨の横に並んで台座の文章を読み上げた。

「いや、時系列は?」

「それ今更気にする? ぶっちゃけると私、原作の『泉こなた』と違って最初から大学生位の年齢で転移したんだけど」

「原作知らねえから分かんねえよ!!」

 等と千雨達が喚いている間に、ナギの方は既に準備を終えていたのか、ナーヴギア(もど)きを(たずさ)えてベンチの上に横になった。

 頭に付ける前に、一度周囲の面々を見渡していく。

「ちょっと行ってくるわ。ここは任せた」

「あいよ」

 代表して、ラカンが返事をする。

 そしてナギはナーヴギア(もど)きを装着し、目を閉じて呟いた。

「……LINK START」

 

 

 

 

 

 ナギの意識が飛ぶ。

 簡易的だが自らのボディが形成されていくのが分かる。おそらくナーヴギア(もど)きかベンチに仕込んだセンサーか、もしくは両方を用いてイメージをスキャンしたのだろう。

 簡略化された身体でナギは、一先ず暗闇を進むイメージを抱いた。それだけで、自らが前進していくのが分かる。

 流れに逆らわずにナギが辿り着いたのは、何もない空間に浮かぶ、巨大な扉だった。いくらイメージしても、身体は扉の前から動かない。おそらく、ここが終着点なのだろう。

「さてと……姫さん、迎えに来たぜ」

 ドンドン、と力強く扉を叩く。

 返事はないが、鍵は掛かっていないのか、取っ手を引くと簡単に開いた。

 ナギは勢いよく扉を開け、中へと入っていく。そこは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん? ……ナギっ!? 何故お前がここにいる!?」

「ああ、うん……答えるからその前に一ついいか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ナギは一瞬、行方知れずになったアリカを除いた全てが悪夢ではないか、と思えてならなかった。

 空間自体は先程までと同じだったが、一足扉を潜ると古代の魔法書からファッション誌に至るまで、あらゆる書物が床に散乱していた。その中心にアリカもいるが、彼女は設置した炬燵(こたつ)の中でみかんを頬張りながらテレビを見るという、女性としての尊厳が永眠したかのような振る舞いをしているのだ。

 正直ナギは一瞬、自分の女房が元女王陛下だということを忘れてしまう。

 だからナギは叫んだ。

「お前今の今まで何やってたんだよっ!?」

「まあ、落ち着け……流石に(わらわ)も恥ずかしくなってきた」

 そう言うと、アリカは起き上がって炬燵の上で手を組んだ。

「先に聞くが、連れはいるのか?」

「外で待たせている」

「では、一度外へ出るとしよう。まとめて話そう」

 組んでいた手を(ほど)き、指を一本立てて空を切る。するとアリカの眼前に、一枚の電子的な板が浮かびだした。

「完全にSAOのパクリだな……」

「仕方ないだろう。ここを作った協力者が当時ハマってたんだ」

「協力者?」

「それもまとめて話す……よし、出るか」

 操作が完了したのか、周囲に散らかっていた物品の数々が光の粒子となって消えていく。炬燵が消えたのを最後に、アリカは静かに立ち上がる。今迄と同じ白のドレスを纏っている様は、かつて女王だった彼女を思い起こさせた。

 炬燵で寝ていたさっきまでの姿とはこれでもかというくらいに差があるが。

「後は待つだけで戻れる……ところで、闇の福音(ダーク・エヴァンジェル)に手紙を送った筈なのだが、彼女はどうなった?」

「外で待ってるよ。あの野郎、お前からの手紙を十年もほったらかしてやがった」

「そうか……もうそんなに経つのか」

 次に空間も粒子となって砕けていく。いつの間にか二人は並んで、互いに身を寄せ合っていた。

「……ネギには会ったか?」

「ああ、元気にやってるぜ」

「そうか……」

 最後に、ナギとアリカ自身が粒子と化した。

 流れるままに身を委ね、現実世界へと意識を巻き取られていく。

 

 

 

「早く会いたいな……我が息子に」

 

 

 

 最後に見せた笑みは、女王でも炬燵の中でだらけていた女でもなく、一人の母親のものであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あ、でも今仕事で魔法世界(ムンドゥス・マギクス)に行ってるぞ」

「貴様ぁー!!」

 せっかく会えると思った息子がこの場にいないと知り、アリカはナギに殴りかかる。

 取っ組み合った状態のまま、二人は仮想空間から姿を消したのであった。

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