ズーン…………
気が付けば、アリカは先程エヴァンジェリンが膝を抱えていた場所で、同じく身を
『実は、この世界は別の世界線では『漫画で語られているんだろう。この前聞いた』――……あ、ああそうだ。そうか』
『そして、その世界からこの世界へと転移してきた者達が『その内の一人、泉こなたです。よろしくお願いしまーす!!』――……あ、うむ。よろしく頼む』
『しかも油断してはいけないのが、彼らには特殊な力が『あ、俺それで
『そして、最も恐るべきは……彼らは時として牙を『向けられました。その節は息子さんに助けられましたありがとうございます』――……ソウカーブジデナニヨリダー』
恐らくは事前情報として転移者の話をしようとしたのだろうが、既に転移者、その能力で呼び出された存在、おまけに被害者までいるのだ。アスナとの再会すら霞む程の衝撃に、アリカは完全に興を削がれてしまい、現在落ち込んで膝を抱え込んでしまっている。
「いいから続き話せよ、もう」
ナギが近くの壁に
「まあ、要するにだ。この馬鹿「旦那に向かってひどくね?」――……ナギを追いかけている時にさっきのゴブリン共を喚び出した奴と、それを討たんとする者達と偶然とはいえ遭遇してしまったんだ」
顎をしゃくって促された先は、この空間の四分の三を占めている奈落だった。先程確認しなかったので、今度は全員で近付いて覗き込む。
「げっ……」
「うわぁ……」
その先は地獄だった。
数ばかりのゴブリン達が互いを喰らいあいながらも、たくましく生き残って勢力を維持していた。解放されてしまえば、未曽有の
二回目以降は逆に
「奴らを遺跡ごと葬り去る必要がある。
アリカの瞳は鋭く、ナギの顔を刺していた。
「……先に助かって
「そう言うなって、俺も助けられた後はほとんど寝てたんだからさ」
ナギとアリカがカプセルの近くに移動すると、他の面々もそこに集まり出した。
「問題は連中に
「そしてエヴァの奴がここに来る以上、魔法以外の手段が必要だからそれに期待していた、と」
「それが全容だ。正直『
ナギとラカンというバグキャラがいたせいで、エヴァンジェリンは大して準備することなくここまでたどり着いてしまった。他のものに至ってはアリカの視点で見たら子供に過ぎない。可能性があるとすれば
「とりあえず魔力無効を解除してくれ。そうすれば俺がまとめて
「それができれば苦労せぬわ……」
次にアリカが指を差したのは空間の四隅、四面体の頂点に当たる場所に覆われた岩壁、そこに刻まれた術式の数々だ。
「万が一ゴブリン共が押し入った時の為に、頑強な岩壁に術式を刻み付けておいたのだ。一応物理的に壊せるようにはしたが、魔力も気もないままで宙に浮いて岩を砕く等、簡単にはできぬであろう?」
「まあ、確かにきっついわな……」
魔力も気も使わずに、物理的に破壊するという条件を前に、ナギは腕を組んで
「一ヶ所だけでも壊せればいいのだが……とにかく、一度じっくり対策を「こなた、アレ」「どぞー」――……ん?」
千雨に促されたこなたが、あるものを前に差し出した。それはここに来るまでの間、ずっと背負っていた専用の鞄である。
そのケースを開けて、こなたは六角柱型の塊を一つ取り出した。
「なんじゃ、それは……」
不思議そうにするも、どこか嫌な予感がしたアリカだが、その疑問にこなたは逆に明るく答えてきた。
「軍用爆薬ハンドアーックス!!」
「……は?」
思わず目が点になるアリカだが、千雨は構わず周囲に説明する。
「これ岩壁に取り付けて吹っ飛ばしゃ、なんとかなりますよ」
「いやいやいや、ちょっと待つのじゃ!!」
その説明を遮る様に、アリカが割り込んできた。
「あんな高所で、いったいどうやって取り付け「あ、俺できますよ」――……はえ?」
その声につられて、アリカは千雨からシオンの方を向く。
「元々高所作業なんて
「い、いや、しかし……どうやってあの高さの岩壁に取り付くつもりじゃ?」
「おいおい、俺がいるじゃねえか」
そう言ってラカンが筋肉を見せつけてくるのをアリカは邪見にするも、否定する要素がないので言葉が途切れてしまう。
「俺が投げ飛ばしゃあ、なんとかなんだろ」
「届かなければ、私か鎖打ち込んで
こなたもラカンの意見に賛成らしく、元気に手を上げていた。
「……一応、術式の関係で、この辺り一帯の電波通信に軽く
「それで携帯繋がらなかったんだ……」
「こなた信管貸せ。残った手持ちで時限信管でっち上げてみるわ」
しかし既に作戦が纏まったかの様に全員が振る舞いだしたのを見て、アリカは思わず膝を着いてしまう。
「……まあ、元気出せ」
「昔っから考え込み過ぎなんだよお前は」
「そんなレベルかっ!?」
千雨達がてきぱきと作業をする中、ナギとアスナに慰められながら、アリカは一部始終を見守っていた。というかそれしかできなかった。
「どう見ても手際が良すぎるだろうが……どこぞの犯罪
受け取った信管と手持ちの機械類を分解して
「ブス……」
そして放置されていたエヴァンジェリン大体600歳児は一人むくれていたのであった。
一通り作業が完了し、千雨達は一度カプセルの元へと集合した。
「爆薬の設置は完了」
「起爆装置も動作確認は済んでいる」
「後は爆発後に魔法で掃討……あと3分位か」
すでに、ナギとエヴァンジェリンが奈落の端でスタンバイしている。無効化が解けた瞬間に呪文の乱射でゴブリン共を掃討する手筈だ。
「……ところでさ、千雨」
「どうした?」
爆破まであと数分という時に、ふとこなたは最後の煙草を咥えていた千雨に問いかけた。
「今気付いたんだけど『
コクリ。
静かに
「まあいいけどね。上条君に負担掛けるわけにもいかないし」
「そういうことにしといてくれ。外したらそれこそ無駄弾だしな」
そうこう話している内に、爆破の時間が来た。
千雨が携帯の時計を見てカウントダウンを行う間、こなたはラカン達の元に寄る。
「そう言えばさっきまでむくれていたのに、エヴァにゃんなんでやる気満々なの?」
「ただの八つ当たりじゃね?」
「既婚者狙うとか、面倒臭いこと良くやるな……」
「しょうがないよ。エヴァにゃん、当時はナギさんが既婚者だって知らなかったんだから」
ラカンの傍にしゃがんでいたシオンが頬杖をついて呟くのを聞いて、こなたは後頭部で指を組みつつ答えた。
「つまり浮気をしていたと? あの男は……」
わなわなと震えだすアリカをラカンがまあまあ、と宥めようと手を
「いや大丈夫だって。あの馬鹿がそこまで考えているかよ」
「だから逆にモテたんじゃないかな……」
何気ない呟きだが、アリカの嫉妬の炎にガソリンを注いだのは言うまでもない。
「……監禁「よせってお前キャラ壊れてるぞ!!」――知るかっ!! あの馬鹿
「うわぁ……」
こなたが組んでいた手を解いて口に当てている間にも、千雨のカウントダウンは続き、
「6,5,4……」
とうとう3カウントにまで達していた。
「……3,2!!」
一秒前になると、千雨は携帯を持ったまま両手で耳を塞いだ。他の面々(アスナ、こなた、シオンだけ)も同様に耳を塞ぎ、身を低くする。ナギとエヴァンジェリンは岩壁から最も離れている為、あえて耳を塞ぐことはしない。そしてラカンとアリカは未だに揉めている。
従って……
――ドガガガ……!!
「ぎゃはっ!?」
「ぎゅぐっ!?」
耳を塞いでいなかった二人は鼓膜が破れんばかりの音響に思考を絶ち切られてしまう。完全に伸びてしまった二人を抱えて(ラカン運搬役:シオン、アリカ運搬役:千雨とこなた)立ち去った後、ナギとエヴァンジェリンの呪文が奈落の底にいるゴブリン達に降り注いだ。
「
「
今迄魔法が撃てずに欲求不満だったナギと一方的にアリカを
「そう言えばさ……扉の向こうのゴブリン達はどうする?」
少し離れた場所、最初にこの空間に入った時に通った扉の前で
「そう言えば、まだいたね~」
「とりあえずラカン起こす?」
返事を待つ間もなく、気を失っているラカンにアスナの足がめり込んだ。アリカもその音で意識が覚醒されたのか、上半身を起こしてくる。
「うう……」
「なにやら
頭を振るアリカは腰を下ろして、周囲を冷めた眼差しで眺めていた。
「というわけでおっさん、
「しゃあねえ、行ってくるか……」
「とかいいつつ、ノリノリなラカンであった」
アスナが言う通り、腕輪を外して気を巡らせたラカンが扉を抉じ開け、その場にいたゴブリン達が、異変を感じて後ずさりしていた。
「さあて、絶滅タイムだ」
ゴキゴキ、と指を鳴らしたラカンは右手を振りかざし、ゴブリン達に挑みかかった。その後ろを、気を
「おっさんはともかく、あっさり殺すな~あいつも」
「まあ、生き残られて成長されても困るけどね~」
それを扉の外から眺めていた千雨達がぼやいていた。
「……あ、そうだ。ハンドアックスまだ残ってるけど使う?」
「一応置いとけ。後ろの二人が万が一魔力切れを起こした時の為に保険はいるだろ?」
「別に心配は……」
そう言いつつ後ろを見たこなたは、調子に乗って呪文を唱えまくる二人を見て考えを改める。
「
「
「……うん、一応残しとこう」
最上位呪文が二種類位出ているのだ。考えが改まっても仕方がない。
「エターナル、ネギ・フィーバー!!」
「このおっさん
「向こうも向こうではっちゃけてるな~……」
そしてこなたの脳裏に嫌な予感がよぎる。というか、これだけ
「……そろそろ脱出の準備でもするか。エヴァの転移も当てにならなそうだし」
「どうするの?」
アリカと同じく腰掛けていた千雨はアスナの頭を撫でつつ立ち上がり、懐から携帯を取り出した。
「
「だったら急いでもらった方がいいかも……」
こなたが指差す先では、既に壁に亀裂が走っていた。早く逃げなければ遺跡ごと土葬されてしまうだろう。
「私のいない十年間で、世界はこんなにも変わってしまったんだな…………」
ただ一人、アリカは再び膝を抱えて落ち込むのであった。
漸く余裕ができたので、一周年記念は未定ですが、次話だけでも来週に投稿します。
そして、もうすぐ例のあれを公開する時が!?
シャーリー「……いいから書け」
ああ、時間が欲しい……。