「しっかりして、大丈夫?」
「ああ、ごめんしずなさん。なんとか……」
夕暮れ時、麻帆良学園女子中等部の廊下をタカミチとしずなは肩を組んで歩いていた。
先程迄トイレの住人と化していたタカミチだが、どうにか持ち直して仕事をこなし、定時になってようやく帰るというところであった。
授業のない夏季休暇中だからこそ、この程度の被害で済んでいるのだ。もしこれが学業期間中ならば残業は免れなかっただろう。
「漸く仕事が落ち着いてきたから、もうすぐ休みがとれそうだよ」
「それは良かったわ。アスナちゃんと皆で出掛ける約束をしていたから……」
そして学園の外へ向けて歩いていると、ちょうど反対側から、誰かが歩いてくるのが見えた。
「ああ、高畑先生にしずな先生。こちらにいましたか」
「新田先生?」
そこにいたのは、タカミチ達の同僚にして学園広域生活指導員である新田先生だった。
新田先生は軽く手を振りながら、タカミチ達の前に立つ。
「これからお帰りですか?」
「ええ、そうです」
「なら丁度良かった」
そう言って新田先生は、校舎の外を指差した。
「先程
『迎え?』
不思議そうに首を傾げる二人だが、数秒後に迎えに来る人物が誰かに気付き、慌てて荷物を担ぎ直してから急ぎ気味に歩いて行った。
「廊下を走るな、って言いたいところだがまあいいでしょう。生徒もいないことだし」
軽く鼻を鳴らしてから、新田先生は反対の方へと歩き出した。職員室に戻り、自らも帰宅する為に。
「さて、
エヴァンジェリンの家で着替え直したアスナは、ラカンとシオンに連れられて麻帆良学園中等部まで来ていた。本来ならば家まで帰るところだが、通り道だからとせっかくだから待つことにしたのだ。
大して待つことなくタカミチ達と合流したアスナは、ラカン達と別れて家路へとついた。
「気ぃ付けて帰れよ~」
ラカンはシオンと共に、仕事で中等部に来ているスモーキー達を待つそうだ。話していて分かったのだが、どうもバイト先で何度かニアミスしていたらしく、その話で今も盛り上がっている。
「タカミチ久しぶり」
「うん、久し振りだよね。ごめんね、今迄忙しくて……」
若干落ち込みながらも、タカミチとしずなはアスナを挟んで自宅へと歩き出した。
「ああ、そうだ。せっかくだし、これから外で食べようか」
「あら、偶にはいいわね。アスナちゃんは何が食べたい?」
「気分的には中華の肉団子」
ならば超包子に行こうと、行先を自宅近くの支店へと変更する。同時に漸く調子が戻ってきたのか、タカミチはアスナを肩車して歩き出した。
「私今小6なんだけど……」
「まあ、いいじゃないか」
「そうそう。今のうちだけよ」
まあ悪くないか、とアスナはぼんやりと前方の夕日を眺めていた。
しずなが真横を歩きながら腕を組む中、タカミチはアスナに話しかけた。
「ところで今日は何してたんだい?」
「ナギ達と冒険してた……」
冒険ごっこかな、と二人が考えていると、ふとアスナは今思い出したかのように口を開く。
「……そこでアリカを見つけた」
「そうかい、アリカ……って、え?」
タカミチの足が止まり、つられてしずなも不思議そうに顔を横に向ける。しかし彼は若干顔を引きつらせながらギギギ、と気持ち上を向いていた。アスナに意識を向ける為に。
「……もしかして、そのアリカって、アリカ様?」
「そう、ナギの嫁のアリカ」
あまりの衝撃に、タカミチは肩の力を抜いてしまう。そしてアスナとしずなにぶん殴られてしまうのであった。理由は察して下さい。
「もっと酒寄越せ……」
「飲み過ぎだぞ、エヴァ」
「それ以前に、ちゃんと成人してんでしょうね……」
エヴァンジェリンは自棄酒の逃げていた。
仕方ないと、千雨は解散後に飲み会(一応は女子会である)でもするかと、行きつけの焼き鳥屋台に来ていたのだ。他にも面子を呼んではいるが、こなたは一度家に帰っているし、高音は事後処理で遅れているので二人しかいない。
「大丈夫だって、
「まあこっちが捕まらないならいいけど……はい、レバー」
そう言って
「それで、そっちの娘はまたビール?」
「……日本酒だ」
「焼酎ならまだしも、何かあったかしらね……ねえキョン!」
他に焼いている串もないので、涼宮は一度離れて裏手で作業している男性らしき人物に話し掛けていた。男性らしき人物、と表現しているのは姿が見えずに、低い声だけしか聞こえないからである。
「ほら、もっと食えって。じゃないとすぐ潰れるぞ」
「ん……」
カウンター席に顎を乗せながら、千雨の差し出した皿から串を摘まんで口に咥えるエヴァンジェリン。レバー肉だけを
「……うまいな」
「だろ? 大学の連中とよく食いに来るんだよ」
「まあ、味はともかく名前がな……」
エヴァンジェリンの目線が屋台の壁に描かれた屋号に注がれている。
壁にはこう刻まれていた。
『SOS屋――世界を大いに盛り上げる涼宮ハルヒの焼き鳥屋』
と。
「……もう少しまともな名前はなかったのか?」
「何度かツッコんでんだが、向こうは何故か聞く耳持たなくてな。まあ、他に代案もないし別にいいか、と」
というか、『SOS行くぞ』と言うだけで要件がすぐ伝わるのだ。ある意味便利ともいえるので、千雨達もそこまで言うつもりはないのだが。
「私ももうちょっと飲むかな……」
「どうした、お前も自棄酒か?」
「いや……ちょっと昔を思い出して、そんな気分になっただけだ」
アリカが挙げた協力者達の中に、気になる人物がいたのだ。
特徴が一致しているだけなので別人の可能性もあるが、千雨は心のどこかで確信していた。
「そうか。玄「ごめん、日本酒売り切れてたんだけど
場末の焼き鳥屋台にあるまじき組み合わせに、千雨は過去への回想を強引に断ち切って涼宮にツッコんだ。しかしエヴァンジェリンは我関せずと、残りのレバー串に手を伸ばしている。
そして千雨と取り合いの喧嘩になるのだが、涼宮にぶっ飛ばされたとだけ伝えておこう。
「ただいま~」
「お~お帰りこなちゃん」
喫茶店『Imagine Breaker』の扉を潜ると、カウンター席に腰掛けていた和美が振り返って挨拶してきた。それにこなたは応えながら、傍に寄って行く。
「あれ、かずみんどったの?」
「いやそれが聞いてよ、こなちゃん」
聞くところによると、ここ数日知り合いへの挨拶回りで一時期麻帆良学園から離れていたらしい。そしてさよとも連絡が着いたので明日にでも
「ちなみに上条さんは閉店後に出掛けて行ったよ。『瀬流彦先生~』って叫びながら」
「……上条君に一体何があったの?」
不思議そうに首を傾げながら、こなたは一度部屋へと向かう。
「これから千雨達とエヴァにゃんの痛飲に付き合う予定なんだけど、かずみんも来る?」
「行く行く♪」
そして荷物を置き、着替え終えたこなたと和美は喫茶店を後にした。
携帯を弄りながら歩いているこなただったが、メールを打ち終わってから和美の方を向く。
「……ところでかずみん、ちょっと聞いていい?」
「ん、何こなちゃん」
並んで歩く二人。身長差の為に軽くこなたを見下ろしながら、和美は何事かと耳を傾ける。
「ちょっと気になったんだけどさ……何で」
――
歩みが止まる。
「……どういう意味かな?」
「今日千雨達と出掛けてたんだけどね、その話は今置いとくけど、その時にちょっと不思議に思ってさ……」
どちらからかは分からない。だがどちらかが止まった為に、二人は歩みを止めて立ち止まっている。
「普通信じられないんじゃないかな、って思ったんだよ。自分達の世界が別の世界では漫画になっていることも、そんな世界や他の世界から誰かが来るなんて……それこそ異世界人がいるって証明している様なものじゃん」
「いやいや、当てずっぽうで言っただけだよ。私もまさかだって思って「じゃあなんで知ってるの?」――……?」
「千雨から聞いたよ。『
ジャラ、と金属の
暗闇に紛れて、こなたの鎖が周囲に張り巡らされていることに。
「自分が『
そう、あり得ることではない。
この世界で生まれたこと自体は証明できても、『
そしてこなたが以前話した通り、別の『原作』も混ざっている『平行世界』の可能性がある以上、自分も別の『原作』の登場人物である可能性が僅かなりともあるのだ。それを
どこかで『原作』の知識を持つ転移者と接触したか……和美自身が憑依系の転移者であるか、だ。
「できれば銃まで抜きたくない……だから答えて、どっち?」
嘘は許さない、とばかりにこなたは右手を持ち上げた。既に中指の鎖は伸び切り、薬指の鎖は宙を
「……一流の詐欺師は、嘘を吐かずに相手を
「別に……実はどっちでもいいんだ。ただ…………」
そう、こなたにとって和美の正体等
だからこそ、こなたは和美が持つ可能性を潰さなければならない。でなければ……
「かずみんは……朝倉和美は転移者なの?」
それに和美は軽く息を吐き、両手を上げて静かに答えた。
「…………外れ。私は転移者じゃないし、こなちゃん達の敵でもない。ついでに言えば、ジェイル=スカリエッティとも面識はないよ」
……鎖は、微動だにしなかった。
一向に動く気配のない鎖を消し、こなたは肩の力を抜き、
「ブ、ハァ…………」
大きく息を吐いた。緊張が緩んだからか、足の力も抜けてしまい、そのまま倒れ込もうとするのを傍に寄った和美に支えられる。
「よかったぁ~敵じゃなくて……」
「ははは。ごめんごめん、流石に簡単に信じすぎたね。もうちょっと演技すればよかったかな?」
こなたの足に力が戻ってから、和美はゆっくりと立たせてやる。そして数歩距離を置いてから振り返った。
「確かに転移者のことは知っていたよ。でも……そのことはまだ内緒でお願い」
「え……なんで?」
こなたは首を傾げた。
すでに転移者の存在が知られている以上、事前に知り合っていたことを隠す必要が何処にあるのかが、分からないからだ。
「昔……ちょっと
和美は腰から、スチール製の警棒を抜いてこなたに見せる。
倉庫でガジェット相手に戦っていた時は『頑丈な警棒』という印象しかなかったが、改めて見ると、こなたはそれが『警棒』ではないことに気付いてしまった。
「もう失敗しない。その為に必要だから手に入れた」
一瞬、闇が切られる。
そしてこなたは、その正体が何かを完全に理解した。
「……今度こそ
――千雨ちゃんを泣かせない為に
警棒らしきものを腰に戻し、和美は引き締めていた顔を緩めた。
「……じゃ、行こっか」
「うん……そうだね」
転移なんて安易にするものじゃない。
そうこなたは、かつて『泉こなた』をはじめとした架空の存在に惹かれた人間だった者は、そう結論付けて和美の横に再び立って歩き出した。
『原作』にはない
『はい、チーズ!』
「……何だ、これは?」
「ネギ達の自主製作映画『魔法反徒ネギま 四人の逃亡者達』の第一作、『麻帆良学園逃亡編』だ。面白いだろう?」
「いや、どう見てもテロリスト一歩手前だろうが!?」
アリカを伴って帰宅したナギは、せっかくだからとネギの成長記録代わりに映画を見せたのだが、集中して鑑賞した後に叫ぶ始末だ。流石に元女王であっても、このストーリー自体を簡単に受け入れることはできなかったらしい。
「唯一まともなのはナギのことを『くそ親父』と呼んだ「まんま反抗期の発言じゃねえか」――それがいいのだ。お前みたいな馬鹿な父親に変な憧れを抱かせるよりもよっぽどいい」
「……そうかよ、じゃあこのピザは俺が食う」
そして映画鑑賞中にナギが作成したピザは、作成者の手を離れてアリカの胃に納まってしまう。
「っつぅ……」
「全く、妻に食事を与えないとはなんて勝手な夫だ」
「旦那
一つ寄越せ、とピザを一切れ咥えながら、ナギはDVDを取り出してケースに収めると、新しいものを棚から引っ張り出してきた。
「ったく……そんじゃ、ついでに見るか。第二弾」
「……続編もあるのか?」
「ここで終わってるけどな」
そしてナギは、掴んだケースをアリカに掲げて見せた。
『魔法世界残業編』と記載されたケースを。
皆様、ここまで読んで頂き、誠にありがとうございます。本日を持ちまして『魔法先生ネギま 雨と葱 1.The future after seven years』を完結させて頂きます。次回更新は『魔法反徒ネギま 四人の逃亡者達 2.魔法世界残業編』です。再掲載の為、今後は週一にて掲載致します。
これからも両シリーズをどうか宜しくお願い致します。
シャーリー「……一周年記念は?」
書けたら先にそちらを掲載します。無理ならしれっと割り込み更新致します。一応書いてはいますのでご安心を!!
アンケートはまだまだ募集中です!! 活動報告までコメントを是非是非!!
url:https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=189781&uid=213900
さあ、忙しくなるぞ!!
シャーリー「……再掲載でブログの方は更新休止だろうが」
いそがしくなるぞぉ~!!