次回、勇者アカシとキセキの仲間達
第三話 盗賊ハイザキとの戦い
赤司「見なければ、親でも殺す」
茶々丸より
「皆様、魔法反徒ネギまをお読み頂き、誠にありがとうございます。最初に注意しておきますが、イギリスまでの旅程や知識は半ば聞きかじりで占めています。よって時差がおかしいとか、これイギリスじゃなくね、とか思われましても、当局は一切関知しません。いい意味で。
その辺りをご了承の上でご一読ください。では魔法世界残業編第02話、どうぞ」
「……やな雨だな」
「イギリスの天気は崩れ易いですからね。だからイギリス紳士は傘を常に携えているんです」
ネギからイギリスの天気について聞きながら、一行はヒースロー空港の外に出た。流石にビニール傘は置いてなかったが、土産にもなりそうな傘が店頭に並んでいたので、それらを購入して差している。そして知っての通り、ネギとエヴァンジェリンは相合傘だった。
「魔法世界に行くのは二日後だ。夜明け前に迎えに行くから、それまでは自由時間でいい。……何か質問は?」
一緒の飛行機で来た龍宮がそう説明すると、千雨が周囲に視線を這わせつつ、問いかけた。
「ここいらの護衛は? 魔法世界と行き来できる分、日本以上に襲われやすいだろうが」
「そう、そして政府側の護衛も容易に送り込める。だから君達の周囲は常に使い魔達が見張っている。一応彼らとの中継役は私だ。何かあれば取り次ぐが?」
「……いや、いい。一応味方だとこちらに伝える手段を用意するように伝達してくれ。敵を間違えている内に背中を撃たれたくないからな」
了解した、と告げると龍宮はネギ達から離れて行く。彼女は振り返ることなく、近くの人混みに一瞬にして紛れ込んでいった。
「て、ことは……明日までは観光ができるではないか! 面倒なオマケつきだが」
「とにかく一度ホテルに行くぞ。いい加減、荷物を置きたい」
エヴァンジェリンの発言を流しつつ、千雨の先導でホテルに向かう面々。観光自体には反対意見はないらしい。
「ところで千雨さん。ホテルは何処です?」
「……あ」
敵のことばかり考えていたために、そのことをすっかり忘れていた。クルトは次の便だから到着は未だ掛かるし、龍宮からは何も聞いていない。
「……茶々丸、龍宮に連絡を入れてくれ」
「了解しました。一緒にホテルまでのマップデータを転送して貰います」
少し腑抜けてきたな、と千雨は額に指を押し付けてそう感じた。
「じゃあデータが届くまでそこのカフェでお茶にしましょうか」
「そうだな。少し休もう」
しかしチビッ子二人とその後ろについて歩く茶々丸を見ていると、それでもいいかと思えてしまうから不思議だ。三人共自分よりも遥かに強いだけでなく、
「おい、千雨! 早く来い!!」
「千雨さん、早く!!」
「……おう」
他の誰よりも遥かに信用、いや信頼できるからだ。
「ああ、疲れたぁ~」
黄昏時。占い師の仕事を終えたアーニャは傘を差し、ロンドンの街道を家へと向かって歩いていた。修行である占いを始めて未だ間もないが、そこそこに名は売れてきているので、現時点では順調と言えるだろう。
「この調子なら
あることを思い出したアーニャは、意気消沈して顔を伏せてしまう。
原因は一つ。幼馴染の起こした逃亡事件である。
あれから魔法世界は混沌に満ちていた。まだ犯罪者とかならば影響はなかったのだが、ほとんどの人間は
アーニャもその事件を聞いた時は驚き、また妙に納得してしまった。自らの幼馴染であるネギは、自分よりも先に行き、かつ
「確かに……最高の報復よね」
ネギは魔法使いとしての修業から逃げ出し、同時に魔法世界を救うための手段を公表したのだ。そのことが元老院より発表された時は誰もが驚き、英雄の息子を称え、次いで話された逃亡の動機に今までの行いを振り返った。
自らの信じてきたものが、
結果的に魔法世界全土を揺るがしてしまった事件は、図らずも
「ねえ、
誰も答えない問いかけを漏らし、歩いているとふと、手前のカフェテリアに視線が泳いだ。その視線の先を見て、アーニャは思わず立ち止まってしまった。
「あ、ネギ……!?」
そこには、件のネギが連れであろう女性達と紅茶を飲みつつ談笑しているのが見えた。流石にガラス越しなので声までは聞こえないが、見慣れた顔立ちに直ぐ気づき、アーニャは思わず駆け出し、
「ネギ、っ!?」
同時に見た金髪で同じ年頃の少女に見せた笑顔で、その足を止めてしまった。あの時失くしてしまった筈の自然な笑み。しかしその顔は自分には向けられず、隣に腰掛けている少女に向けられていた。しかもその彼女は……。
「なんで……
ネギが杖を折る直前、自らを魔へと変貌させた彼を、命を賭して止めた少女。けれどもネギの傍にいる彼女は、あの時の少女と瓜二つだった。そして金髪の少女がネギの口元に顔を持っていくのを見て、
「っ!?」
アーニャは無我夢中に家まで駆けだした。差していた傘を手放し、雨に濡れながら家に入った彼女は、閉ざした扉に背もたれて、そのまましゃがみ込んでしまう。
「あ、ああ…………」
アーニャは思っていた。ネギには自分が付いていないと駄目だと。
アーニャは考えていた。ネギと仲直りして、一緒に
そしてアーニャは気付いてしまった。……ネギのことが好きなのだと。
「ネギ! ネギィ!!」
少女はただひたすらに泣いた。……全てが遅すぎたことに対して。
「ほら取れたぞ。まったく、クッキーの粉を口元につけるとは、まだまだ子供だな」
「取ってくれたのは嬉しいんですけどエヴァさん。子供扱いはやめて下さいよ~」
「というかそれ以前に指で取れよ!!」
千雨はネギの口元に付いたクッキーの粉を舐め取ったエヴァンジェリンに思わず突っ込んでしまった。隣同士で座って食べさせあいを見せつけられて、挙句の果てにはキス一歩手前なのだ。もう勝手にしてくれ、と言いたいところだが、目の前で見せつけられる側にとってはたまったもんじゃない。
「ところでマスターにネギさん。念のため、千雨さんに仮契約のことをお教えした方が宜しいのではないですか?」
「仮契約?」
疑問に首を傾げる千雨に、そういえばまだ話してなかったな、と思い出すエヴァンジェリンに、自分が説明すると話しかけるネギ。
「仮契約というのは、突き詰めてしまえば魔法使いの従者と結ぶ契約のことなんです。契約には仮契約と本契約があり、本契約は一人に対して一人までですが、仮契約ならば限定的にはなりますが、一人に対して複数の
「他にも私と茶々丸が結んでいるドール契約等があるが、まあ千雨には関係あるまい」
「……というか、その契約自体関係ないんじゃないのか?」
そもそも彼らは魔法世界から逃げるために、現状を受け入れているのだ。それなのに魔法の力を得ようとするなんて、本末転倒も甚だしいのではないだろうか?
「結局は道具ですよ、道具。魔法なんてその程度だって認識しておけば、いざ必要が無くなっても、簡単に切り捨てられるでしょう?」
「……だが今は必要、か」
千雨自身も気づいている。これから向かうのは魔法世界。いくら護衛がいようとも、未知の世界へと向かうのであれば、手数は多いに越したことはない。
「じゃあ三つ程質問だ。一つ、従者としての契約の掛け持ちは問題ないのか。二つ、契約の破棄は可能、及び簡易的なのか。そして三つ、契約の方法は?」
とはいえ最初の二つは千雨自身、大体予測したとおりだった。仮契約ならば複数の
しかし三つ目、契約の方法を聞いて、千雨はテーブルの向かいに居るネギ達を指差して拒絶の姿勢を見せる。
「できるわけないだろキスなんて!! どっちかにやった時点でもう片方に殺されるわ!!」
「別に殺しはしませんよ。ちょっといらっとして、仮契約のカードを破り捨てるくらいで」
「ネギさん。それでは契約の意味がありません」
ネギの返答に茶々丸も思わず口を挟んでしまう。しかしこの場で暴走してもおかしくない筈のエヴァンジェリンが大人しいのを訝しんで、千雨はジト目を向けた。
「……随分余裕だな、エヴァ。この話自体最初から論外なのか?」
「当然だ。……とは言っても、論外なのは方法だけだがな」
頬杖をついて訝しげな眼差しを向けてくる千雨に、エヴァンジェリンは人差し指を振りつつ説明した。
「何もキスだけが方法ではない。実際、近年では結婚相手を探す口実になってしまってはいるが、本来はネギが説明した通り、魔法使いとその
まあ、一番手っ取り早いのはキスだがな、と締めくくったエヴァンジェリンの言を聞いて、ネギはかなり強めに舌打ちした。
「ちっ!! くそ親父と母さんを離婚させるための口実が一つ減ってしまった」
「そ、そうだな。できればびっくりするから舌打ちはやめてくれ! 私自身にされたかと思ったぞ!!」
慌てて涙目のエヴァンジェリンを慰めるネギから目を背け、千雨は茶々丸に意識を向けた。
「……てことはネギの親父さん。野郎と組んでたのか?」
「はい。現在確認できているところで、アルビレオ・イマ、ジャック・ラカンが該当しております。流石にそれ以上は知りえませんでしたが、他にも男性の仲間が多数おりましたので、他に契約している可能性もあります」
「ふぅん……」
エヴァンジェリンを抱きしめて頭を撫でているネギに再び意識を向けるが、これ以上は無駄だと悟り、仮契約の話はここまでとなった。
「ところでイギリスの料理は不味いって聞いたことがあるんだが、本当か?」
「文化的な好みもありますが、どちらかというとイギリス料理は調理法がシンプルなので、食材に左右されるらしいですよ。私も食べたことはありませんから存じませんが」
「まあ、不味くなければいいさ」
漸く落ち着いた二人を連れて、彼らはカフェを後にした。もう雨も上がっており、代わりに暗い空に覆われている。一行は龍宮より送られてきたマップデータを基に、ホテルへとその足を向けた。
「……ん?」
「どうしました、千雨さん」
「いや……傘が転がってるな、と思っただけだ」
千雨が一瞥した先では、広がったままの傘が近くの建物の雨樋に引っかかり、風に吹かれて転がっていた。
それは深夜のこと。
時差ボケや飛行機等の疲労で早めに夕飯(案外好評だった)を済ませ、早々にホテルの一室で就寝したネギ一行。三人部屋だが千雨、茶々丸、そしてネギとエヴァンジェリンに割り振られたベッドで就寝している中、その生物は誰にも気取られることなく侵入してきた。
外見は白く、細い出で立ちだが、ただの生物なわけがない。何故ならこの部屋は現在使い魔だけとはいえ、厳重な警備が敷かれているのだ。ただの生物が侵入できる隙間など存在していない。
「漸く……」
その生物はネギとエヴァンジェリンが寝ているベッドを見つけるや、空高く(約1.5メートル)ジャンプして、そのまま布団の上に……!!
「漸く見つけ――ブベラッパ!?」
飛び込もうとした瞬間、エヴァンジェリンのジャッカルが布団の下から火を噴いて、白い生物を壁に叩きつけた。
「……やったのか、エヴァ?」
「分からん。直撃はしたから、ただでは済まん筈だが……」
事前に起きていた千雨に返すも、その瞳はジャッカルの超高圧縮魔力弾頭を直撃して壁に叩きつけられたのにも拘らず、床に転がって痙攣しているだけで済んでいる生物に向けられていた。
「茶々丸、電気点けてくれ」
「了解しました」
茶々丸を除く三人(ネギも起きていた)がその生物に得物を突きつけるも、明かりが点いた途端、ネギはグロック17を捨てて、慌ててベッドから飛び降りる。
「カモ君!?」
「兄貴、ひど、い……」
オコジョ妖精のアルベール・カモミールを抱き上げ、ネギは慌てて治癒魔法を詠唱し始めた。
千雨とエヴァの次回予告
千雨「……てかなんでお前ら同じベッド?」
エヴァ「よいではないか、別に。添い寝してるだけでその先は「馬鹿! その先はネタばれだろうが!!」――おっと危ない」
千雨「しかしエロガモが出てくるとは……
エヴァ「その辺りは私のネギを信じろ。というわけで次回『彼女はとんでもないものを撃ってしまった』を楽しみにしろ! ってこれ私じゃないか!?」
千雨「……確かに、とんでもないものを撃ったよ。お前は」
一言「……生物実験に使えるな」
エヴァ「やはり、ネギの言葉が一番だな!」
千雨「……聞くだけだと結構グロいけどな」