魔法先生ネギま 雨と葱   作:朝来終夜

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 盗賊のハイザキを仲間に入れたアカシ達の耳に、自称吟遊詩人ことキセの旋律が飛び込む。

 次回、勇者アカシとキセキの仲間達
 第四話 キセの被写体即興曲

 赤司「見なければ、親でも殺す」


第03話 彼女はとんでもないものを撃ってしまった

 あれはネギが魔法学校を壊滅に追い込む少し前のこと。

「ちくしょう! こんな罠に引っかかるなんて……」

 カモは町の人間が仕掛けた罠に引っかかり、身動きが取れなくなっていた。彼は本来人間だったが、魔法を悪用して泥棒を働き、オコジョへと変えられてしまったのだ。まあ、本人はそれでも気楽に泥棒三昧を働き、今日この瞬間に捕まったのだが、

「……ん?」

 そこを通りかかったのがネギだった。彼は何を思ったのかオコジョを罠から解放すると、

束縛する中指の鎖(チェーン・ジェイル)

 魔法で生み出した鎖で拘束して、自らの部屋に持ち帰ったのだ。

「……生物実験に使えるな」

「やめてそれだけはお願い!!」

 

「そして俺っちはネギの兄貴に取引を持ちかけ、持ちうる全ての泥棒魔法を伝授した代わりに、見逃して貰ったとそういうわけさ」

「成程。ひょっとしてエヴァの呪いを解析していた魔法陣も、お前の魔法か」

 その通り、とネギ共々頭を下げたカモ。実際、泥棒魔法に関してはネギを上回る実力を持っていたので、その技術を頂く代わりに見逃されたのだ。一緒に魔法開発の一部も習っていたこともあり、ある意味ネギの師匠ともいえる人物(オコジョ)だ。

「でもどうしたの、カモ君? 僕が日本へ発つ前に雲隠れするって言ってたのに」

「いや確かに、ネギの兄貴への恩義もあったし、過去の後ろめたさもあったから、とりあえず魔法学校から姿を晦ましてたんですけど、ちょっと犯罪組織に追われて……って兄貴、なんで俺っちの首根っこを掴んで窓から投げようとしてんすか!?」

「黙れオコジョ。面倒起こしやがって」

 窓際に立っていた千雨がガラス戸を開けるのに合わせて、ネギもカモを掴んでいる腕を振りかぶって……

「待って待って! そもそも追われてんのは兄貴のせいなんだよ!!」

「……僕のせい?」

 それを聞いてネギは落ち着いたが、今度はエヴァンジェリンがジャッカルの銃口をカモに向けた。

「その手を放せ、ネギ。そこの小動物を駆逐する」

「まあ待って下さい、エヴァさん。……それで、カモ君。なんで僕のせいで犯罪組織に追われることになったの?」

 ネギはカモの首根っこを掴んだまま、ジャッカルの銃口に晒した。下らない回答は即デストロイの状況に、オコジョはビビりまくりである。

「ほら、俺っち、魔法学校にいた時から兄貴とつるんでたっしょ? だから周りの人間は兄貴の開発魔法を知ってるんじゃないかと勘違いしてるんすよ。それを犯罪組織も知っちまったらしくて……」

「それは本当みたいですよ、皆さん」

 部屋に入り、話に割り込んできた茶々丸に皆の視線が集中する。

「先程龍宮さんから連絡がありまして、不審者を見かけたので捕らえたところ、『ネギ・スプリングフィールドの使い魔を追っていた』とのことです」

「別に使い魔でも、カモ君が知っているってわけでもないんですけどね……」

「というか俺っちも、途中からはちんぷんかんぷんっすよ。ネギの兄貴が改良しまくって、教えた分はもう原型留まってねえですし……」

 人差し指で頬を掻きつつ、掴んだままのオコジョをどうしたものかと思案するネギ。エヴァンジェリンは駆逐しようと考えて、というかそれしか見えてなくてジャッカルの銃口を下ろそうともしていない。

「それにしてもエヴァさん。カモ君が僕のせいだと言ったことに対しては、事情があるからそこまで怒る必要はないと思いますよ?」

「いや、それもあるが……問題は他にある」

 不思議そうに首を傾げるネギとカモに、エヴァンジェリンは昔聞いた泥棒の噂について語り始めた。

「アルベール・カモミール。魔法開発者にして史上最悪の盗人。その罪を問われてオコジョの刑に処すも、本人は反省の色を見せず、むしろその立場を利用して犯行に及んだ……」

「へえ、有名人なんだ」

 椅子の背凭れに凭れかかりつつ座り込み、そう呟く千雨にエヴァンジェリンは真実を吐き捨てた。

「……稀代の下着泥棒で、美女の裸体よりも下着を選ぶような変態だ」

「よし殺そう」

 カモに向けられた銃口がもう一つ増えた。

「まあ千雨さんも落ち着いて。ちゃんとカモ君にも弱点がありますから、そこをつけば大人しくなりますよ」

『……弱点?』

 ビビるカモに構うことなく、ネギは手を放さないまま自分の鞄からあるものを取り出し、そのままオコジョに捲き付ける。

「ぎぃやぁああああ…………!!!!」

 そしてホテルの一室を、オコジョ妖精の絶叫が埋め尽くした。

 

「成程、野郎の下着が弱点だったのか」

「流石は変態、と言ったところか」

 ネギのパンツを捲かれて、カモは全身にジンマシンが発生したかのようにピクピクと伸びている。この段になって腕を下ろした二人は、各々漸く銃を仕舞った。

「それで、こいつどうする? 犯罪者なら刑務所にでも放りこんでおけば、とりあえずは看守辺りが守ってくれるだろうけど」

「いえ……それは得策ではないかと」

 千雨の提案を茶々丸は却下し、伝えてない部分を告げてきた。

「どうやら元老院にもネギさんの固有時制御を悪用しようと考える派閥が存在するようです。厄介なことに帝国やアリアドネーにも仲間がいるようで、全容が未だに把握できていないとか」

「つまりそこから拷問……てか、別にいいんじゃね? こいつ何も知らないんだし」

「とも、限らないんですよ……」

 ネギは顎に手を当て、呟くように答えた。

「さっきカモ君が言っていたように、途中までは知ってるんですよ。しかも、今回の仕事で確認する結界の基幹部分には、カモ君の解析魔法も多分に含まれているんです。もし起動前になんらかの細工を施されてしまえば、どのような動きを見せるか……」

「……決まりだな」

 カモの行く末は決まった。

「こいつは引き入れるか消そう。そのどちらかしかない」

「個人的には引き入れたいんですが……カモ君次第ですね」

 仕方ない、と思いつつネギはカモから下着を抜き取り、

束縛する中指の鎖(チェーン・ジェイル)

 改めて拘束する。

「ネギ、その下着は捨てとけよ。お前がそれを履くのは我慢ならん」

「分かってますよ。流石に毛だらけですしね」

 ネギは捲きつけた下着をそのままダストボックスに投げ入れた。

 

 そして明朝。陽も昇らぬうちに、不審な影が部屋の中を駆け巡った。その影はベッドの中にいる者達に気取られぬよう、細心の注意を払いつつトランクに手を伸ばそうと、

「手を出したら、いくらカモ君でもぶち殺すよ。特にエヴァさんの下着に手を出せば……」

「ヒィィッ……!!」

 すると同時に突き付けられたグロック17にビビって、即座に床に転がっていく。

「あ、朝早いんすね、兄貴」

「ちょっと日課のジョギングをね。これから出かけるんだよ」

 トレーニングウェアに着替えたネギは、魔法発動媒体である指輪と、先程のグロック17を腰のホルスターに差した。

「ところでカモ君。あの鎖は縛った相手の魔力を用いて持続、強化を繰り返して半永久的に拘束しておけるものだけど、どうやって抜けだしたの?」

「ほら、前に兄貴が拘束制御術式、っていう魔力抑制の魔法を編み出したじゃないっすか。それを俺っちも使ったんすよ。拘束レベルを最大に上げて通常魔力を持たない状態にまで持ち込めば、後は鎖の魔力切れを待つだけでどうとでもなったっすよ」

「封印した分の魔力か……そちらも吸収するように改良しないとな」

 ブツブツと呟くネギから離れつつ、カモが振り返ると、そのベッドの上では未だ就寝中のエヴァンジェリンが安らかな寝顔を浮かべていた。

「兄貴……昨晩は気付かなかったっすけど、この人ってまさか――」

「……カモ君。これ以上言うと怒るよ」

 慌てて口を噤むカモを無視して、ネギはドアノブに手を掛ける。

「エヴァさんと彼女は……」

 呟きつつ部屋を出たネギを見つめたまま、カモは寂しげな瞳を向けていた。

「兄貴……」

「どういうことなんだろうな、あれは」

 慌てて振り返ると、いつ起きたのか、千雨が愛用の伊達眼鏡を掛けてベッドの縁に腰掛けていた。

「それで、ネギが抱えている悩み事は、野暮な話なのかそうでないのか。……どっちなんだ?」

「……野暮な話っすよ」

 目を背けてしまうカモ。ならいいと思ったのか、千雨もそれ以上は詮索しなかった。自らのトランクから着替えとタオルを持って、シャワー室に向かおうとして、

「……別に聞くだけなら構わんさ」

 エヴァンジェリンの声に止められる。彼女は寝転がったまま、目を細く開いていた。

「……いいのかよ」

「お前との間に、蟠りは作りたくないからな。……それにいつかは分かることだ」

 千雨が着替え等を近くの椅子に置くと、エヴァンジェリンの居るベッドの縁に腰掛けた。

 

「あいつが好きになったのは……私であって、私じゃないんだよ」

 

『どうやらここまでのようだな、ぼーや。……いや、ネギ』

『あ、ああ……』

 禍々しい右腕に貫かれた少女。ネギの唯一の理解者であった彼女を殺してしまったことに、ネギは今まで飛んでいた理性を取り戻してしまう。

『それでいいんだ。……我が本体のこと、宜しく、頼、む……』

 砕けゆく少女を見て、ネギは闇の魔法(マギア・エレベア)を解いて地に膝を付けた。人の姿を取り戻したネギの前から彼女、エヴァンジェリン(・・・・・・・・)は虚空に消える。その周囲を苦痛に顔を歪める魔法学校の教員陣と、杖に凭れかかる校長が取り囲んでいた。

『あ、ああ、ああああああああ……………………!!!!????!!!!????』

 ネギは虚空を見上げ、吠えるように泣き叫んだ。

 

「……少し、遠出しちゃったな」

 ロンドンブリッジの傍、テイワズ川を見下ろしつつ、ネギは頬を掻いた。既に日は昇り切り、朝靄で身体を冷やさぬよう、簡易的に風の結界を張って冷気を遮断しつつ休んでいるのだ。護衛も近くにいるようだが、向こうからは特に何も言われてないので、ジョギングを日課にしてるものが担当してるのだろう。

「……“エヴァさん”」

 どちらのことを言ったのだろう。今ホテルのベッドで寝ている筈の彼女か、それとも自らの手で殺した彼女のことか。ネギ自身も理解できないまま、ぼんやりと昔に想いを馳せていた。

「……僕は、このままでいいのかな?」

 それはただの自問か、それとも既に消えた彼女への問いかけか。

 けれども、その言葉を聞いている者がいた。

「……ネギ」

 慌てて振り返ると、そこに居たのはネギの姉のような、姉のようだった人物。ネカネ・スプリングフィールドだった。

 

 昨晩、ネカネの下に一本の電話があった。

 受話器を取ると、そこから聞こえてくる声に驚き、慌てて声を上げる。

「アーニャ! アーニャなの!?」

 聞こえてくるのは確かにアーニャの声だった。けれども、泣いているのかその言葉は要領を得ず、辛うじて聞き取れた『ネギ』という名前について問いかけるのが精々である。

「アーニャ!! ネギが一体どうしたの!?」

『……ネ、ネカネさぁん!!』

 一通り泣き終ったのか、アーニャは今日の帰りに見たことを、感情的ながらもどうにか説明した。

「ネギ、が……ロンドン(ここ)に来ている?」

『それ、で、あの時の、女の子がいて、それで、わた、し……』

「アーニャ! 今からそっちに行くから!!」

 ネカネは夜間にも拘らず、強引にタクシーを停めてロンドンへと向かった。

 しかし距離があり、到着した時には既に日付が変わってしまっている。

「アーニャ!!」

「……ネカネさぁん!!」

 ホームステイ先の人の案内でアーニャを見てみれば、自室の隅で膝を抱えて蹲っていた。慌てて駆け寄り、抱き留めるも彼女の放った一言に、ネカネは持ってきているナギの杖を思い浮かべてしまった。

 

「なんで……なんでネギの隣に居るのが私じゃないのよぉ!?」

 

 




千雨とエヴァの次回予告
千雨「そういや、お前らの馴れ初め話は聞かないな」
エヴァ「その辺りは今後流していく予定だ。……そして私はあいつに勝つ!!」
千雨「いや勝てないだろ。ある意味向こう勝ち逃げしてるだろ」
エヴァ「うるさい! それでも私はネギをモノにするぞ!!」
千雨「……次回『ライラックの花のような少女』って完璧ネタばれじゃねえかよ!!」
エヴァ「人の台詞を奪った上に突っ込むなー!!」

一言「……ああ、頼むよ」

エヴァ「なんであいつの言葉なんだー!!」
千雨「……前回の予告でネギの言葉を選んだから、連続使用ができなかっただけだ(まあ、逃亡編ではネギでやってた上にオンリーで行こうとしてたけど……)」
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