魔法先生ネギま 雨と葱   作:朝来終夜

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 キセを強引に引き入れた面々は、黄昏の樹海へと迷い込む。

 次回、勇者アカシとキセキの仲間達
 第五話 黄昏の妖精郷

 赤司「見なければ、親でも殺す」


第04話 ライラックの花のような少女

「千雨、お前はライラックの花言葉を知ってるか?」

「確か……初恋じゃなかったか?」

 そうだ、とベッドの上で胡坐をかいたエヴァンジェリンが肯定する。

「それ以外にも、友情、青春の思い出、純潔などがある。……ネギにとって、あいつ(・・・)はまさしく、ライラックの花のような存在だったんだ」

「……なあ、エヴァ」

 ベッドの縁に腰掛けている千雨は、エヴァンジェリンを見つめつつ、口を開いた。

「そのあいつって、結局誰なんだ? さっきも言ってた、エヴァであってエヴァじゃない人物って一体……」

 要領を得ない回答に、千雨は首を傾げている。エヴァンジェリンも、どう説明したものかと腕を組み考えていたが、先程のライラックの花に例えるしか、表現の方法が分からないのだ。

「簡潔に話すのは難しいな……ちょっと長くなるぞ。いいか?」

「別にいいさ。時間はある」

 千雨は立ち上がると、備え付けのティーセットで紅茶を入れ始めた。

 

 あれはネギが魔法学校を壊滅に追い込む前。

 アリアドネー留学の前に、一つの巻物を見つけた時から、彼の生活は一変していた。

「ちょっと休憩して、紅茶を入れてきますけど飲みますか? “エヴァさん”」

「……ああ、頼むよ」

 部屋のベッドを占領し、どこかから取り出したテレビとゲーム機でレトロゲーに興じているのは、エヴァンジェリンの姿を模した人工精霊、闇の魔法(マギア・エレベア)の巻物に残された疑似人格だ。

 彼女はネギに闇の魔法(マギア・エレベア)について教えつつも、彼の数少ない友人となった。周囲の人間は最初、彼女のことを『闇の福音(ダーク・エヴァンジェル)』と思って攻撃しようとしたが、ネギのとりなしもあって、現在彼の部屋で同居しているのだ。

 人工精霊はネギからナギ達の現状を聞きつつも、関係ないとばかりに現状に甘んじている。まあ最も、本体がナギに呪いを掛けられている等とは、夢にも思っていなかっただろうが。

「どうぞ、エヴァさん」

「ああ、ありがとう」

 闇の魔法(マギア・エレベア)を学ぶ側と師事する側。一通りの習熟を皮切りに、二人は友人となった。

「おいしいですか?」

「……まあまあだな。もう一杯くれ」

 そして、互いに惹かれあうようになった。

 当時、ネギには理解者がいなかった。英雄の息子であり、稀代の魔法開発者。同年代で且つ、話題の通じる者は他に存在していない。唯一他の者よりも距離の短かったアーニャですら、ネギの話についてこれずに、いつの間にか疎遠となってしまっている。

 だからこそ、一人でいたネギにとって、彼女は掛け替えのない存在と化していたのだろう。けれども、ネギはともかくとして、人工精霊の方は自らの立場を理解していた。このままではいけない、所詮自分は紛い物だと。

 ある日、人工精霊はネギに内緒で本体の情報を探り(適当な教師を脅した)、麻帆良学園に居るエヴァンジェリンに宛てて手紙を書いた。自分はいつか消える。その時はネギを頼む、と。本来ならばそこまでの自我は存在していなかったはずだが、ネギとの出会いが彼女を変えたのだ。

 もし、最初に出会っていたのが本物のエヴァンジェリンならば、こんな回りくどいことにはならなかっただろう。けれどもネギは、そして人工精霊は恋をした。

(……だが、我が本体ならばぼーやを、ネギを受け入れてくれる筈だ。……私の愛した人を)

 人工精霊は、彼に自らの思いを告げ、そのまま消え去ろうと考えた。今から手紙を書き残し、自らの足でネギの下から去ろうとした時、

 

 ……魔法学校の一部が吹き飛んだ

 

「なっ!?」

 人工精霊は駆けだした。逃げ惑う生徒達を押しのけ、向かった先には……

「がぁああああああ……!!!!」

 闇の魔法(マギア・エレベア)に呑まれ、異形と化したネギがいた。

 

「……つまり、ネギの初恋の相手はエヴァの劣化コピーだったと?」

「そういうことだ。人工精霊(あいつ)の結末は、ネギ自身から聞くまでは知らなかったがな」

 日が昇り、朝陽が部屋を照らした頃、エヴァンジェリンは今まで開いていた口を閉じ、乾ききった喉に紅茶を流しいれた。

「だからネギは、一線を越えるのを躊躇してしまう。……何度も誘惑してるのに、未だにキスすらできてないんだぞ」

「そこはどうでもいい。そもそも子供(ガキ)がキスなんて考えてんじゃねえよ」

 私は600歳越えてるぞ!! と叫ぶエヴァンジェリンを宥めつつ、千雨は紅茶を口に含んでから、真面目な口調でこう聞いた。

「ネギは、本物を好きなっても、その偽物のことも忘れられないのか?」

「……忘れられるわけがない」

 エヴァンジェリンが触れたのは、ネギが就寝に使った枕だった。それを抱きしめると、彼女は悲しげな声を発した。

「未だに寝言で呟いてるんだぞ。……“止められなくてごめんなさい”って」

「俺っちも、あの時は見てるだけでしたっすよ」

 千雨の隣に移動してきたカモも、エヴァンジェリンの話に加わってくる。

「あちこちを破壊しまくってた兄貴が明確な目標を定めて突っ込んだ時、駆け付けたあっちの姐さんを止められなかったんすから」

 この時点で漸く、千雨は人工精霊が、ネギに殺されたことを知ることとなった。

 

「……なんで、ここにいるんですか?」

「昨日、アーニャがネギを見かけたって聞いて……」

 サウザントマスターの杖を握り、ネギに近づこうとするネカネ。しかし彼は拒絶するように、グロック17を抜いて銃口を向けた。

「来ないで下さい。……もう貴女とは何の関係もない」

「でも、貴方の親族であるのに、家族であるのに変わりないわ」

 ネカネは近づこうとするも、ネギの威嚇射撃でその足を止めてしまう。近くに居る護衛が対処しているのか、銃声で近隣の住人が近寄ってくることはなかった。

「……僕が家族だと思えたのは、あの人だけです。貴女じゃない」

「それでも私は、……そう思っているのよ。ネギ」

 ネカネは考えていた。何故ネギは銃を使っているのか。それはおそらく、魔法を使わないという考えからではない。もしそうならば、日本での逃亡事件で魔法を使っていたこと自体がおかしくなる。つまり、目の前のネギにとって、銃や魔法は、同じ道具だってことだ。

「ネギ……もう、やり直せないの?」

 魔法で誰かを救うんじゃ、何かを成し遂げるんじゃない。目的を果たすための手段でしかないのだ。

「……少なくとも僕は、やり直したくない」

 しかし、ネギは後悔している。今ここに居ることじゃない。嘗て殺してしまったライラックの少女のことを。もしやり直せるとしたら、それは……

「早く消えて下さい。いくら僕でも、人を殺せば捕まりますから」

「ネギ……」

 明確な拒絶。ネギの確固たる意志を受け取ったネカネは、手に持つ杖を話題にすることなく、姿を消してしまった。

「……一応、君の関係者だったから見逃したんだが、余計なお世話だったかな?」

「ええ、もの凄く」

 いつの間にか、ネギの背後には龍宮が姿を現し、一緒になってネカネの背中を見つめていた。

「僕の家族はもう、あの人達だけです」

「……そうかい」

 龍宮は踵を返して、ネギに姿を見られないまま風景に溶け込んでいく。

「そう、あそこにはもう……僕の居場所なんて」

 ネギの右手は、無意識に銃把を握りしめていた。

 

「……ただいま」

「お帰りなさいませ、ネギさん」

 部屋に入ると、茶々丸が出迎えてくれた。エヴァンジェリンはベッドに腰掛けたまま紅茶に舌鼓を打ち、千雨は丁度上がったところなのか、ユニットバスから出てきたところだった。

「……どうかしたのか、ネギ」

「いえ、何でもありません……」

 今までネカネに会っていたこと、それまでは自らの殺したもう一人のエヴァンジェリンのことを考えていたネギだが、あまり思い出したくないので、軽く濁してしまう。けれども千雨は違い、

「そういえばトレーニングの帰りだったな。……丁度いい」

 ネギの首根っこを掴むと、そのままユニットバスへと引き込んでしまった。

「ちょっ!? 千雨さん!?」

「いいからさっさと脱げ、ガキンチョの脱衣シーンなんざ興味ねえんだよ!」

 ネギを裸にひん剥くとその背中を蹴飛ばし、バスタブに叩き込むと物陰で素早く水着に着替える千雨。元々何処へでも逃げられるよう、服の種類だけは取り揃えてあるのだ。水着も嵩張らないから事前にトランクに収納済みである。

「というわけでちょっと借りるぞ、エヴァ」

「ネギの貞操は許さんぞ!」

「誰が盗るか馬鹿野郎!!」

 ドア越しにエヴァと罵り合うも、千雨の手はバスタブから逃げ出そうとするネギの頭を鷲掴みにしていた。

「おら大人しくしろっ! ついでに風呂嫌いの身体を洗うつもりなんだからよ!!」

「ちゃんと流しますよ~!!」

 涙目のネギを押さえつけてシャワーを掛けながら、千雨は年下の少年の背中を見つめた。

 固有時制御。ネギの開発した魔法にして、魔法世界を救う手立て。そして彼の将来を左右した全ての元凶である魔法陣が、彼の背中を覆い尽くしている。

「……こいつを刻んだのが、人工精霊の方のエヴァなのか?」

「っ!? あぶぶっ!? あうっ!?」

 驚いて振り返るネギ。咄嗟のことで千雨も反応が遅れてしまい、シャワーヘッドからの放水を至近距離で顔にもろに受けた。しかも驚きで足を滑らしてしまい、バスタブの縁に頭を思いっきり打ちつけてしまった。

「わ、わりっ! 大丈夫か!?」

「だ、大丈夫です。あうう……」

 頭を押さえて蹲るネギを撫で擦りつつ、二人してバスタブの中にしゃがみ込む。千雨はネギを抱え込むと、彼の肩に手を乗せた。

「さっきエヴァに聞いたんだが、お前、もう一人のエヴァの方が好きだったんだってな」

「どちらも好きですよ。……同じエヴァさんなんですから」

 俯くネギの頭を覗きつつ、こぶができてないか調べる千雨。特に問題ないと思ったのか、自らの顎を乗せてしまう。

「だったら拒絶する必要なんてないだろ?」

「……駄目ですよ」

 相手が千雨だからか、それとも今までもう一人のエヴァンジェリンのことを考えていたからか、ネギは簡単に口を滑らせていた。

「同じエヴァさんでも、それぞれ別人なんです。それなのに両方が大好きなんて……不誠実ですよね」

「んなこたねえよ……」

「それに……僕が殺したんですよ。もう一人のエヴァさんを」

 一つ目の悩みには即答できた。けれども二つ目の悩みをぶつけられて、千雨は考える様に口を噤む。

「僕は僕自身の手でエヴァさんを殺した。自分の手で好きな人を殺したんだ! これじゃあ立派な魔法使い(あいつら)と何も変わらない!!」

 彼らは自分達の都合でネギ達を苦しめてしまった。同時に、ネギ自身も闇の魔法(マギア・エレベア)の暴走で本能のまま魔法学校を破壊し、人工精霊である彼女を殺した。理性と本能、違いはあれど自らの都合で相手を、相手の都合を排除した彼らとはどう違うのだろう。

 ネギは叫び疲れたのか、荒く息をしながら言葉を切る。千雨はそんな少年を抱きしめつつも、一緒に悩んで、こう答えた。

「……だったら、苦しめばいい」

「千雨さん?」

 突然の言葉にネギが戸惑うも、千雨は悩める少年の頭を押さえつけつつ、言葉を紡ぎ続ける。

「そんだけでかい悩みなら、いつまでも胸に秘めたまま、苦しみ続ければいい。簡単に答えを出しちまったら、それこそ大したことがない悩みになっちまう。……お前はそうしたくないんだろ?」

 ネギの脳裏に浮かぶのは、ライラックの少女。魔法学校において、たった一人の理解者だった彼女が、いつまでも笑っている光景だった。

「でかい悩みなら吹っ切るな。そのまま胸に抱えて進め。例え悩みに溺れそうになっても……私や他の連中が引っ張り上げてやるからさ」

「……はい」

 小さくも、しっかりと頷くネギの頭から自らの顎を離す千雨。その視線は、徐に下の方を向き……

「……って人が話してる時に何考えてやがんだよ!!」

「胸押し付けといて無茶言わないで下さいよ~!!」

 妙に興奮していた少年を怒鳴りつけたのであった。




千雨とエヴァの次回予告
エヴァ「私のネギを誘惑するなー!!」
千雨「……むしろお前のせいじゃね? 純情さが薄れているからこそ、あいつは性的興奮を覚える余裕ができたんだろうし」
エヴァ「そうなのか!? ならば今すぐネギの前で「いきなり脱ぐとドン引きじゃね?」――ではどうしろと!?」
千雨「私が知るかっ!?」
エヴァ「ああ、もういい!! 次回『決意と麻薬と名探偵』を楽しみにしろ!」
千雨「……それ探偵のファンに言ったらなんて返されるだろうな?」

一言「それはいいんだが……せめてその傷をどうにかしろ」

エヴァ「何故そのチョイス!?」
千雨「今すぐ第01話を読み返せ!」
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