魔法先生ネギま 雨と葱   作:朝来終夜

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第03話 魔法教師相手の逃亡劇。危機一髪もあるよ

「はい、チーズ!」

 パシャッ!

 真ん中にネギとエヴァンジェリンが並び、左右に分かれた千雨と茶々丸。そして清水寺からの景色をバックに写真を撮った。撮り終わると千雨はシャッターを頼んだ通りすがりの少年にお礼を言ってカメラを受け取った。

「ありがとうな。助かったよ」

「ええってええって! こっちもやること無くて暇やったしな」

 駄賃に小銭を数枚渡し、ネギ達は小太郎を見送って行った。そして後日ネギ達のことを知り、千草辺りからこってり絞られたのは言うまでもない。

「さて……これで満足か、エヴァ」

「もの足りないが、今はこれでいい」

 エヴァも現状を思い出したからか、しぶしぶながらも了承の意を示した。

「大丈夫ですよ。……魔法使い達(向こう)が完全に手を引いたら、また皆で来ましょう」

「……そうだな」

 強く握ってくるネギに握り返して、エヴァはそっぽを向いてそう答えた。

「精神年齢は身体年齢に引っ張られる、っていうのは本当なんだな」

「ああマスターが年相応に可愛らしい」

「縊るぞ貴様らっ!!」

 うがーっ! と吠えて千雨達を追いかけまわすエヴァンジェリン。その間もネギから手を離さなかったため、ただでさえ残り少なかった体力が残り僅かとなってしまった。なので車の中では、二人は仲良くもたれ合って眠りについたとか。

 

 JR大阪駅に、二人の魔法教師が降り立った。神鳴流剣士の葛葉刀子に風系統の魔法使いである神多羅木だ。

「では今から彼らの足取りを追いましょう」

「性急すぎやしないか? 呪術協会から認可が下りているとはいえ、本来ならば明日から行う予定だろうが」

「だからこそ、です」

 刀子は肩に担いでいた竹刀袋を背負い直し、神多羅木を睨みつけた。

「向こうはすぐには来ないだろうと高をくくっているはず、この隙に彼らを確保して麻帆良学園に帰りましょう。ただでさえ急な出張で彼とのデートをすっぽかしてしまったんだから早く挽回しないと婚期が……」

 ブツブツと呟きだす刀子を無視して、神多羅木は近くの売店で缶コーヒーを購入して口にしていた。一息で飲み終わる頃には落ち着いたのか、刀子が近寄ってくる。

「とにかく行きましょう。まったく彼は何故このような振舞いをしたのでしょうか。英雄の息子であるのにも拘らず、嘆かわしい」

「……案外、それかもな」

 神多羅木の呟きに一瞬首を傾げるも、刀子は気を持ち直して案内掲示板に目を向けた。

「とにかく移動です。まずは尼崎から徐々に北に移動しますけど……どう行けばいいんでしょう?」

「……まずは駅員を探すか」

 神多羅木はマイペースで駅員を探しに行った。

 

「もうすぐ着きますが、夕食はどうします?」

「近くのコンビニで済まそう。スーパーももう閉まり始めている頃だしな」

 陽が暮れた頃に、ネギ達を乗せたワゴン車は宝塚に到着していた。けれども未だ家には到達しておらず、先に夕食の調達を行うことに相成った。

「あそこにしましょう。丁度駐車場が空いているみたいですし」

「そうだな。……おい二人共起きろ! 夕飯買いに行くぞ!」

 小さく唸りながらも起き出す二人。茶々丸が車を停める頃にはどうにか頭を動かせるくらいには目覚めたみたいだ。

「今どの辺りです……?」

「尼崎北ってところか? これから北上して宝塚の家に向かうが、その前に弁当を買いに行くぞ」

 千雨に連れられてネギとエヴァンジェリンは、目を擦りつつもコンビニへと向かっていった。

「茶々丸は弁当何がいい?」

「魚系でなければ何でも構いません。そう、骨さえなければ……」

 変なトラウマに入ったのか、黙り込んでしまった茶々丸に居た堪れなさを感じながらも、千雨はワゴン車に背を向けてコンビニの敷居を跨いだ。

「らっしゃーせー」

 やる気のないバイトの挨拶を聞き流して店内を見回すと、菓子売り場に見覚えのある頭が二つ並んでいた。千雨は静かに後ろに近づき、

 ゴン! ガン!

「ポクッ!?」

「ブッ!?」

 それぞれに拳骨を落とした。

「夕飯買いに来たんだろうが。菓子見てないでとっとと弁当選べ!」

「あぅぅ……」

「分かったよ、ったく……」

 どうにか人数分の弁当とペットボトルを購入するに至った三人である。

 買い物袋を分担して持つと、茶々丸の残っているワゴン車へと戻って素早く乗り込んだ面々。

「買って来たぞ茶々丸。ハンバーグ弁当でいいな?」

「はい。助かります千雨さん」

 ネギ達がコンビニに行っている間に茶々丸は携帯端末を操作して、これから向かう家の近辺に設置された警備カメラの映像を見ていたのだが、特に問題はないらしい。

「これから家に向かいます。追っ手の様子はなさそうですね」

「流石に家まではマークしてないだろう。それこそネギやエヴァから漏れ出ている魔力を追いかけるのが精々だからな」

 才能過多や真祖の力により魔力容量(キャパシティ)が人並み以上に外れている分、魔力が漏れ出すことはよくあるが、その魔力もネギが施した封印術式によって漏れ出ることはない。

「後は連中、どうやって追いかけてくるかだな」

「今のところは強引な説得を行う位でしょうし、当面は問題ないでしょうね」

「だといいがな……」

 それこそ捜索手段なんて掃いて捨てるほどある。特に魔法を使う連中ならば尚更だ。千雨は思わずバックミラー越しに、ネギの頭を見つめだした。

 ワゴン車の動き出した今はエヴァンジェリンと二人してはしゃいでいるが、彼こそが英雄ナギ・スプリングフィールドの息子であり、災厄の魔女アリカ・アナルキア・エンテオフュシアの一子。そしてアリアドネーの人間ならば誰もが知る天才、ウェイバー・ベルベットの偽名で名を馳せた魔法開発者なのだから。

「……つつけばいくらでも、敵は増えてくるな」

「けれども悪いのは向こうです」

 小さな呟きだったが、運転中の茶々丸には聞こえていたらしい。どうやらその呟きだけで、千雨が何を考えていたのかが理解できたようだ。

「英雄の名に固執したばかりに、ネギさんの可能性を蔑ろにしたのですから」

「結局行き過ぎた正義なんて、そんなもんだよな。どいつもこいつも――」

 

 ――クソッタレだ

 

 夜も更け、ネギ達を乗せた車は事前に購入された一軒家のガレージに停車した。手元に残しておいたトランク(エヴァンジェリン製、全員分の着替えが収納されている)とスーツケース(市販品、ただし中身は武装一式)を降ろし、一行は家の中へと入っていく。

「ほう、なかなかではないか」

「適当な売り家だったので正直不安だったんですが、特に問題はないようですね」

 ライフラインは計画実行三日前から既に稼働させておいたので、家の電気を点けようと思えば点けられる。

「……ところで何故、電気を点けんのだ? ライフラインは既に稼働しているのだろう?」

「まず先に隣家に住む者全員に暗示をかけておかないと、不審がられますからね。ただでさえ目立つんですから控えて下さい」

 二階の日当たりがいい部屋に移動し、月明かりを頼りに購入した弁当を広げた。

「早く食事にしよう。腹ペコで敵わん!」

「あまり大声出すなよ! 一応まだ空き家だろうが!」

「と言いつつも千雨さんが一番大きいですよ」

 茶々丸をポカンと叩いてから千雨はフローリングに座り込んだ。そして一同は手を合わせて、

『……いただきます』

 遅めの夕食に口を付けた。

「しかし冷たい飯だな。電子レンジも駄目なのか?」

「我慢して下さいよエヴァさん。夜のうちに暗示をかけて回れば、朝から使えるようになりますから」

 愚痴愚痴とボヤクエヴァンジェリンをネギが宥めるも、一向に機嫌が直らないので、かえって苦情を受け止める羽目になってしまった。

「だがネギ、夜のうちに暗示をかけるのはいいとしても、だ。その際魔力が漏れ出すなんてことにならないか?」

「そこは大丈夫です。先に魔力隠蔽の結界を近隣一帯に張り巡らせますので、暗示をかけている間に魔力探査を受けることはありません」

「問題はその結界を張る一瞬です。けれども幸いなことに、ここに追っ手が来る可能性があるのは明日なので、今のうちにかけておけばばれることもありません。結界自体も魔力隠蔽の影響を受けているため、魔力探査に引っかかるのは極近くに寄らない限り問題ありません」

 ネギの説明に茶々丸も補足し、その話を皮切りに全員冷や飯を掻き込んだ。

「それじゃあ結界を張りましょう。とは言っても、この魔法球を設置して稼働させるだけですがね」

「なんだ、簡単にできるのならばさっさとやればいいのに」

 そう言うやエヴァンジェリンはネギから魔法球を奪い取り、

「エヴァさん駄目!!」

「ん?」

 ネギの制止も虚しく、稼働してしまった。

「ああ……見つかった時の保険に、少し離れた場所に設置して囮に逃げようと考えていたのに」

「なっ、なんだ! 私が悪いのか!?」

 落ち込むネギに慌てるエヴァ。千雨は一つ溜息を吐いてから、二人を宥めに掛かった。

「まあ、見つからなければいいじゃないか。暗示をかけた後は直ぐに畳むんだろう。だったらさっさと片付けてしまえば――」

「そうも言ってられなくなりました、千雨さん」

 宥めている千雨を遮り、茶々丸は外をにらんだまま微動だにしない。

「敵です。魔法教師の葛葉刀子と神多羅木と判明。現在こちらへ急速接近しています」

「もしかして……独断専行か、くそ!!」

 正義に心酔している人間を甘く見ていたと感じ、千雨は悪態をついた。実際はとっとと仕事を片付けたいとサービス残業をしていた刀子が偶々近くに来ただけだったりするが、そんなこと彼らが知る由もない。

「わ、私が稼働させたばっかりに……」

「どっちにしたって稼働させたらばれてましたよ! いいから急いで!!」

 落ち込むエヴァをネギが引っ張り、一同は一階の玄関口に置いたままのスーツケースを開けて中身を取り出した。予備の魔法発動媒体である指輪に各種銃器兵装、そしていくつものマジックアイテムを分担して装備した。その間にエヴァンジェリンは自らの水晶玉を取り出し、敵の様子を伺っている。

「連中はこちらに一目散に向かっている。おそらく魔法球の居場所を掴んでいるな」

「だったらこの家は放棄だ。ネギ、宝塚の他の家で、なるべく遠いのは何処だ!?」

 イングラムM10の駆動点検を行ってから、千雨はネギに問いかけた。ネギもグロック17のスライドを引いて、腰に仕舞いながら答える。

「もう宝塚では無理です! 保険で買っておいた芦屋の家に行きましょう! ここより北にある家と車に仕掛けた爆弾を起爆させれば目晦ましになります!!」

「それしかないか……エヴァ、連中はいつ来る!?」

「もう時間がない!! 私の魔力を開放して転移す「駄目です!!」――何故だ、ネギ!?」

 ネギの施した封印術式を開放して魔法を使えるようにしようとしたエヴァンジェリンを、ネギが慌てて制止した。

「そんなことしたら転移先もばれます! だから転移するにしても封印状態のままでお願いします!!」

「だがそれでは魔力が足りなくて全員を連れていけないぞ!! できてもせいぜい二人、最低一人は残ってしまうじゃないか!!」

「時間がありません……」

 荷物を持って近づきあう面々。ネギは自分の手荷物であるリュックをエヴァンジェリンに手渡してこう告げた。

「僕が残ります。エヴァさんは西宮近辺に転移後、直ぐに戻ってきてください。その間に僕は北の方に逃げます。逃走中に落ちあいましょう」

「私の……」

「エヴァさんのせいじゃありません」

 エヴァンジェリンは俯いたまま、影を操作して千雨と茶々丸を包み込んだ。

「それでも謝りたいんだ。……捕まるなよ」

「約束します」

 千雨や茶々丸も、この場ではあえて茶化したりはしなかった。そして彼女達は影に呑みこまれて消えてしまった。

「さて……」

 家の裏から出ようと歩き出した途端、魔法球の結界が書き換えられたことに気付いて慌てて敵の居る方を向いた。

「なっ!? これは……!!」

 封鎖結界。対象を閉じ込める類の結界魔法に捕らえられてしまったネギ。これでは結界内での転移は不可能となる。

「直接出るか、結界を破壊するしかない。……普通ここまでやるか、立派な魔法使い(マギステル・マギ)!!」

 正確には刀子の独断で使われたマジックアイテムのせいだったりする。ホント女って怖いな。

「やるしかない。……エヴァさんとの合流も容易になるし、転移前に封印すれば魔力探査をごまかせる」

 決断するや、ネギは両手を交差させて、自らの封印を一段階、解除した。

「拘束制御術式第参号――解放」

 奇しくもネギが封印を解除するのと、魔法教師達が家に乗り込んできたのはほぼ同時だった。




次回予告
 逃亡するネギ君に、容赦なく襲いかかる魔法教師達。はたしてエヴァは間に合うのか! 作者の屍に黙祷して次回を待て!!
「Time alter――double accel!!」

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