次回、勇者アカシとキセキの仲間達
第六話 妖精が語りし伝説へ
赤司「見なければ、親でも殺す」
「エヴァさん、一緒に散歩に行きませんか?」
「それはいいんだが……せめてその傷をどうにかしろ」
あれから千雨にぶたれまくったネギは、服を着てからエヴァを散歩に誘った。けれどもその顔は腫れ上がり、今でも鼻血が止まらないでいる。
「あ、す、すみませんっ!? 直ぐ治してきますっ!!」
「ああ、ゆっくりでいいぞ。……茶々丸も手伝ってこい」
畏まりました、と茶々丸は治療キッドや専用マジックアイテムの入った救急箱を片手に、ネギを追いかけて行った。エヴァンジェリンは入れ違いに近寄って来た千雨に、心の底から嫌悪したかのような眼差しを向ける。
「……ネギに何をした?」
「ちょっとマセガキを懲らしめただけだ」
ジャッカルとSIGP230が互いに向き合い、銃口を交わし合う二人。互いに油断することなく、各々は引き金に指を掛けている。
「……で、何を言ったんだ? いくらお前でも、余計な茶々を入れるとどうなるかは、分かってるよな……?」
「別に。……ただ簡単に答えを出すなと言っただけだ」
エヴァンジェリンは一瞬目を見開いてしまう。けれども右手の銃を下ろすことはなかった。
「……ネギに苦しめと?」
「人間、そう簡単に割り切れるもんでもないだろ。……だったら悩み続ければいい。それで得た答えにこそ、意味がある」
あっさり銃を下ろすと千雨は、ジャッカルの銃口に晒されながらも、洗濯物を片づけ始めた。エヴァンジェリンはその姿に呆れつつも、銃を手放してベッドの上に落としてしまう。
「……偶にお前が年上じゃないか、って思うよ」
「はっ! 600オーバーも年くっちゃいねぇよ。……ババアかっつうの」
千雨が悪態を吐いた後に、治療を終えたネギ達が戻って来た。
ロンドンのベイカー街道を、ネギとエヴァンジェリンが並んで歩いていた。
「そういえば、かの有名な名探偵はコカイン中毒者だったらしいですね」
「刺激を求めるためにな。……そこまでして求めるものかね」
手は繋がれてこそいないが、二人は距離を開けるようなことはしなかった。
「私は刺激的な生を歩んできた。流石にこれ以上は必要ないよ。……ネギはどうなんだ?」
「僕は……僕には未だ、必要ですよ」
立ち止まるネギ。エヴァンジェリンも立ち止まって振り返るが、彼は頭を下げたままピクリとしない。
「僕はかつて……貴女を殺した。例え偽物でも、好きになってしまった彼女を忘れることはできない」
「…………ああ」
エヴァンジェリンは腕を組み、俯いたままのネギの言葉に耳を傾けた。
「だから必要なんです。彼女を忘れないために、貴女を好きでいるために……過去の未熟だった頃に決着をつけるために」
それがネギの覚悟。本能のままに殺してしまった彼女を無かったことにしない。いつまでも立ち止まらない覚悟の表れだった。
「罪なんて見えないモノは背負えません。ですが約束します。……僕は立ち止らない。本物でも偽物でもない、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルという存在と共に歩み続けると」
「それでいい。……絶対に立ち止まるな、ネギ・スプリングフィールド」
エヴァンジェリンは声を張り上げた。ネギが逃げないよう、立ち止まらないよう、倒れないように。
「動植物の血肉を喰らうのと同義だ。他者の命を絶った以上、手を下した者は立ち止ることを許されない。もしその足を止めてしまえば……殺された者の生、過去の全てを否定することになるのだから!!」
まあ、私の場合は逆に否定してやりたいがな。エヴァンジェリンはそう締めくくると、ネギを優しく抱きとめた。
「つらくなったら支えてやる。だから立ち止まるな、ネギ」
「エヴァさん……待っていて下さい。必ず、必ず答えを出して、貴女の傍に行きます」
ネギも抱きしめ返し、街道の真ん中であるにも拘らず、二人は固く身を寄せ合う。
「だからそれまでは、あまり僕を誘惑しないでくださいね」
「……知らんな。その辺は自己責任だ」
互いに苦笑し合い、漸く二人は距離を置いた。
「……『殺したことのない者は存在しない』って、誰の言葉だったかな?」
「さぁ……私には分かりかねます」
ネギとエヴァンジェリンの姿を視界に入れつつ、千雨と茶々丸は近くの建物に凭れかかっていた。二人の散歩にこっそりついてきたはいいものの、今までのやりとり(茶々丸の協力で会話も含まれている)を見て、漸く意識を逸らせたのだ。
「さて、あいつら誘ってこれから昼でも……ん?」
意識を逸らせたからこそ気付けた。一緒について来ていたカモが、ネギ達とは別の方を見つめていることに。しかも、
「どうした?」
「……急いだ方が、急いで逃げた方がいいっすよ!!」
何かに怯え、青ざめた表情を浮かべていたのだ。
「奴が来たっす!!」
気がつけば周囲から、人の気配が消えていた。
「やれやれ……漸く見つけたよ、使い魔君」
「だから俺っちは兄貴の使い魔でも、開発魔法を知ってるわけじゃないすよ!!」
怒鳴るカモに構うことができなかった。茶々丸は仕込み刃を展開できるよう腕を構え、千雨はSIGP230を引き抜く。けれども、突然現れた襲撃者に対して敵意を向けるのではなく、もう既に別の場所へと移動してしまったネギ達に意識を向けている。
「……茶々丸、どうだ?」
「駄目です。強力な結界らしく、護衛の方達どころか、マスターですら気付いた様子がありません。同じく通信も不可」
「不味いな……」
相手はおそらく人間じゃない。僅かに距離が開いているだけなのにも拘わらず、千雨屋茶々丸、カモを除く全ての者達を隔離してのける結界等、例え使えても人間の所業では不可能だ。
「そこのお嬢さん方は初めましてかな。……ヴィルヘルム・フォン・ヨーゼフ・ヘルマンと申します。以後お見知りおきを」
「油断しないで下さいっす!! あいつはっ……!!」
「ネギの兄貴の村を襲った……上位悪魔っすよ!!」
「茶々丸っ!!」
ピンッ!
カモの言葉を聞くや、すぐさま千雨は銃を持ってない方の手で魔力球を引っ張り出し、ヘルマンに向けて破裂させた。その閃光が悪魔の視界を奪い、彼女達はオコジョを掴むと走りだす。
「千雨さん、どうします!?」
「ネギ達と合流する! いくら私達の存在を結界で希薄にしようとも、中には気付く奴だって……!?」
裏路地へと周り、千雨達の視界に映ったのは幾体もの石像だった。
「左の腕章……護衛です。先手を打たれました」
「やっぱりか……」
これではもう、ネギ達に気付いて貰う以外に助かる道はない。千雨達と連絡が取れないと知るや、向こうも必ず結界を探し出して、助けに来るに違いない。しかし、彼女達の所在を彼らは知らない上に……。
「……定時連絡は結界を張られる前に、マスター達の会話の前に終了しています。場所に関しては報告していません」
「てことは約30分、ネギ達の助けはあまり期待できないってことか」
袋小路に追い詰められた彼女達の背後から、ヘルマンが悠々と近づいて来ていた。
「ところで、君達はネギ君の仲間かね? もしそうならば、君達を人質にとれば彼も従わざるを得ないだろうね」
「生憎と、大人しく捕まってやれる程……」
千雨の指に填められていた、格納用マジックアイテムである指輪が輝き、異空間から幾つかの武器が漏れ出てきた。
「……人間できちゃいねえんだよ!!」
咄嗟に掴んだイングラムM10とSIGP230の発砲を合図に、千雨達の戦闘は始まった。ただし彼らに上位悪魔を倒せる程の術はない。……勝利条件はただ一つ。
「早く助けに来てくだせぇ、兄貴ぃ……!!」
倒せる術を持つネギとエヴァンジェリンが、駆け付けるまで生き残ることだ。
「……おかしいな」
「どうしたんです? エヴァさん」
通りにあるカフェのオープンテラスでネギ達がお茶をしている時、ついでに昼食も外で取ろうと千雨達に連絡を入れたのだが、何故か繋がらないらしい。
「先程の定時連絡では、茶々丸と念話が取れてたのだが……今は繋がらないんだ」
「繋がらないって……ちょっと待ってて下さい」
妙な胸騒ぎを感じたネギは、懐から携帯電話を取り出すと、短縮に入れてある千雨の番号に繋げてみた。
「……圏外? 衛星電話を改造したものだから、
「不味いな。……おい龍宮!」
「ん? どうかしたのか?」
少し離れた席で雑誌を読みつつ、他人のふりをして警護していた龍宮を呼び寄せると、エヴァンジェリンは矢継ぎ早に指示を出した。
「あいつ等にトラブルが起きたかもしれん。直ぐに向こうにつけた護衛に連絡を取れ!」
「ちょっと待て……こちらも駄目だな」
護衛対象の指示に従う形にはなれど、その内容が彼女の決断を早めた。龍宮は電話をはじめとした科学・魔法を問わずの通信手段を出しては、使えないと断じて躊躇なく手放し、地面にばら撒いていく。全てを出し切ると、今度はネギ達に配置していた護衛に連絡を取って、数名に様子を伺うように指示を出した。
「向こうの護衛と連絡がつかない。……敵襲かもしれん」
「しかも相手は単数であれ複数であれ、護衛全てを鎮圧できる存在……」
「急ごう。奴らが危ない!!」
エヴァンジェリンは勢い良く立ち上がると、ネギと龍宮を連れて駆け出した。
「居場所は!?」
「お前を呼ぶ時に、同時に魔力探査を掛けた。おそらく結界を張られている一角だ!」
駆け出した先は、先程千雨達が飛び込んだ裏路地の入口だった。
「はっはっは! そんな鉛玉が効くとでも「茶々丸今だっ!!」――おっとと!」
千雨の銃が全て弾切れになるのを合図に、茶々丸がヘルマンへと突っ込んでいく。
「Guard Skill――Hand Sonic」
展開された仕込み刃が、ヘルマンの首筋を狙うも、相手にとっては些事なのか、あっさりと両手とも受け止められてしまう。しかし、千雨と茶々丸の間をカモが詠唱しつつ、尻尾から魔法発動媒体である小型水晶を引っ張り出して突っ込んでいった。
「インテルルス・フル・ムターティオ!! 緋の目に映りし中指の爪よ、縛鎖となりて敵を捕らえよ!
カモの小型水晶から具現化した、先端が鉤爪状の鎖がヘルマンの全身を駆け巡り、四肢を縛り付けてしまう。
「なっ!?」
「でかしたオコジョ!!」
驚きで力の抜けた一瞬をついて、茶々丸はヘルマンから離れた。そのタイミングで千雨は事前に装弾していた中折れ式の単発銃を向けて引き金を引く。
ダァン!!
「がぁっ!?」
「いくら悪魔でも……流石に
千雨の一撃を受け、ヘルマンは膝をついた。けれども、いくら
「今のうちに――ごっ!?」
『千雨(の姐)さんっ!?』
茶々丸達に逃げようと進言する前に、もう一人の敵が現れて千雨の腹に拳を叩き込んでいた。
「おやおや、ヘルマン伯。この程度で膝をつかれては困りますね」
「すまないね。……あの弾丸もそうだが、まさか使い魔が詠唱魔法を使うとは、思いにもよらなかったよ」
「当然でしょう。……彼はオコジョの刑に処された下着泥棒、元人間ですよ」
吹き飛ばされた千雨を茶々丸が受け止め、その前方で二人を守るように、オコジョが立ちはだかった。
「千雨さん! しっかりっ!!」
「カハッ! ……てめぇ、なにもんだ?」
腹部を抑えつつ、茶々丸の腕に凭れ掛かっている千雨が、突然の襲撃者に問いかけた。向こうは隠すことなく、あっさりと名乗る。
「私の名前はセバスチャン・ミカエリス。……ただの執事ですよ」
そしてセバスチャンの指には、銀色に輝くカトラリーが握られていた。
千雨とエヴァの次回予告
千雨「ちょっと待て! 変なところで切るなよ!! 私は一体どうなるんだ!?」
エヴァ「少なくとも生きてるだろうが。じゃないと予告が違うと苦情が来る」
千雨「……そもそもこの小説、苦情とか一切ガン無視じゃね? せめて、と注意書きを増やしてるくらいで」
エヴァ「甘いな。……注意書きをまともに読まずに自爆する奴も居るぞ!!」
千雨「それはお前だろうが!! 麻帆良に居た時私のPC壊した奴が言うな!!」
エヴァ「……次回『悪魔対吸血鬼(未遂)』を楽しみにしろ!!」
千雨「おい誤魔化すなよ!! ていうか戦えよコラ!!」
一言「しかし、私が運転しなくて宜しいのですか?」
千雨「……何故茶々丸?」
エヴァ「消去法だ!!」