次回、勇者アカシとキセキの仲間達
第十三話 アカシハ セイケン ヲ テニイレタ
赤司「見なければ、親でも殺す」
「Guard Skill――Hand Sonic」
両手の仕込み刃を展開して敵陣に乗り込む茶々丸。しかし相手も只者ではなく、数人を迂回させて千雨に向かわせると、残りで取り囲んで足止めに専念しだした。
「なろっ!?」
「くそっ!? こいつら早すぎる!!」
「千雨さんっ!?」
何とか数人の動きを止めるも、それよりも早く次の者を差し向けられては、身動きが取れない。他の武装を引き出そうにも、相手の動きが早くてそれも叶わない。
「こうなったら千雨さん! 耳を「私の合図でやれ!!」――どうする気ですか!?」
千雨は左手を耳元に持っていき、隠していた魔力球を叩き付けた。闇に包まれていた部屋を閃光が埋め尽くす中、千雨は窓の外へと飛び出していく。
「茶々丸っ!?」
「Guard Skill――Howling」
茶々丸を発生源とした超高音波に襲撃者達は軒並み倒れていく。それを確認すると、千雨に続いて部屋から飛び降りた。
着地した茶々丸の前では、千雨がトリッカーに跨って、エンジンを吹かしていた。
「移動させて正解だったな。後ろに乗れ!」
「はい!」
茶々丸が後ろに跨ると、千雨は直ぐにトリッカーのアクセルを捻った。エンジン音を立てて走り去るバイクだが、その後ろからは未だに襲撃者達が追いかけてきている。
「迎撃します。できるだけ揺らさないように」
「善処はするが、そこまで期待するなよ」
反動で転倒する恐れがあるため、ドア・ノッカーを指輪に仕舞うと、茶々丸は他の装備を出そうと指輪を操作した。けれども全てスーツケースの中なので、バイクの上で取り出すことができないと悟り、指輪から手を離してしまう。
「千雨さん、銃を貸してください。仕込みも少し怪しいので、あまり使いたくはないのです」
「足止めでいいからな。流石にノーヘルだから、タイヤを狙われたら怖い」
千雨の了承を得ると彼女の腰に差されているSIGP230と予備弾倉を引き抜き、後ろの追跡者に向けて発砲した。流石に当たることはないが、少なくとも足止めにはなっている。
「もう少し威力のある弾丸が欲しいですね。……そのような銃をお持ちでは?」
「生憎と非力だからな……下手に装薬を詰め込んだやつだとかえって扱えない」
辛うじて単発銃ならば威力はSIGP230よりも上だが、手持ちは全て
トリッカーは右手に倒れ、表通りへと躍り出た。ギアを上げてさらに加速させるも、向こうはもう隠すつもりがないのか、肉体を変化させて追いかけてくる。
「成程、悪魔だったのですね。下位悪魔ならばいくらでも召喚できるというわけですか」
「だったら逃げるぞ! これじゃあ焼け石に水だ!!」
とはいえこのままではじり貧だ。そう考えていた矢先、突如悪魔達に向かって、あちこちの壁から鎖が伸びてくる。それらは触手の如く悪魔を拘束し、その場に固定してしまった。
「姐さん達ぃ! こっちっす!!」
今まで隠れていたカモが顔を出した裏路地に飛び込み、茶々丸がオコジョの首根っこを掴みあげた。
「いやぁ俺っちの言ったとおりっしょ! 事前に逃走ルートを確保したこの手腕「魚貰いに行くとき、下着泥棒が出たと聞いたんだが?」――……てへっ!」
しばらく追っ手が来ないと見て、千雨はトリッカーを止めると茶々丸からカモを受け取り、縦に二つ折りにした。
「人が命狙われている時に呑気に犯罪たぁ、いい御身分だなコラ!!」
「小動物虐待~!!」
茶々丸が止めに入るまで、千雨の折檻が続き、オコジョ妖精の悲鳴が響き渡ったとか。
「下位悪魔も、ここまでくると……キリがないな」
「……ホントあいつ等に関わると退屈しないな」
龍宮の後ろには、下位悪魔達が砂と化し、その姿を消し去っていった。
「連中は下位悪魔でも、魔力素を媒介に顕現してるから、姐さんの
「弾丸の無駄だ。……できるだけ温存しておきたい」
「茶々丸、どうだ?」
「流石に重装備がメインですので、バイクの上で扱える武器が少ないですね」
茶々丸も武器満載のスーツケースを指輪に仕舞うと、唯一使えそうなAMTハードボーラーを腰と衣服の間に強引に差し込んだ。
「だったら交代だ。茶々丸はバイクの運転、私とオコジョは連中の迎撃を受け持つ」
そう言って千雨が最後に取りだしたのは、エヴァンジェリンと結んだ仮契約カードだった。彼女は
「流石に剣術の心得なんて持ち合わせちゃいねえが、投げるだけなら何とかなるだろう」
「そう言えば
これならば弾切れを気にすることもないし、何より悪魔に対してならば
「ところで姐さん、投擲とかってできるんすか?」
「……コートもあるし、勢いだけなら保証する」
つまりノーコンである。けれども無制限に出せるのであれば、あまり気にしなくてもいいのかもしれない。
「それじゃあ俺っちは別ルートでぎゅむ!」
「お前もくるんだよ。……それじゃあ逝こうか」
逝きたくないっすよぉ!! と叫ぶカモを強引に肩に乗せると、千雨は茶々丸の後ろに跨った。
「とにかく町の外へ……行きます!」
唯一の救いは、茶々丸がふざけることなく真面目に町の外へと逃げて行ったことだろう。
オスティアに位置する一軒のレストランがある。そこは知る人ぞ知る上流階級の者しか立ち寄ることの許されない、最高級レストランだった。その入り口に、一組のカップルが豪奢な
「元老院外交官のジャン=リュック・リカードの紹介で来たウェイバー・ベルベットと、連れのリンダです。連絡は届いていますか?」
「承っております、ミスタ・ベルベット。どうぞこちらに」
外の景色を投影するガラス張り前のテーブルに案内される二人。
「どうぞ」
「うむ」
給仕の手にチップを載せて断り、ウェイバーはリンダのために席を動かした。彼も向かいの席に座り、給仕にフルコースを頼んで追い払った。
「しかし、偽名の一つや二つ考えておくべきだったな。おかげで
「そうですか? 僕は好きですよ。可愛いとか美しいという意味ですしね」
まあ本名の方が素敵ですけどね、とウェイバー扮するネギは答えた。リンダを演じているエヴァンジェリンも椅子に深く腰掛けつつ、自らの髪を撫ぜている。本来ならば襲撃者にマークされているウェイバーの名を使うつもりはなかったのだが、こちらの方が相手も近づいてくる上に警備の目が多い分、護衛しやすいと言われたのでそう名乗っているのだ。
「しかし名前はまだいいが、態々年齢詐称の幻術を使わねば入れないとは……貸し切りにできなかったのか?」
「手配したのがつい先程らしいですからね。護衛は他の席に何人か回しているそうですが……ちゃんと備えて、事前に貸し切りにしておけばいいのに」
等と好き勝手ほざきつつ、二人は運ばれてきた
「それでは乾杯しましょうか」
「何に乾杯するかな……」
クラシカルな音色に耳を傾けつつ、互いのグラスを近づけていく二人。自然と生まれた言葉を口にして、鈴の音色を鳴らす。
『……これからの幸福に』
――チン!
「……思うんだけどさ」
「何です? 千雨さん」
走行中のバイクの上。茶々丸と背中合わせになるように座った千雨は、慣れてきたのか指の間に黒鍵を挟みつつぼやいた。
「今頃ネギ達……
「それよりも迎撃して下せぇよ姐さぁん!!」
カモの声に千雨は、半ば反射的に黒鍵を数本投擲する。近寄ってきた悪魔に当たり、内一体は地面を転がってフェードアウトした。これで丁度10体目である。
現状、茶々丸はトリッカーの運転に集中し、カモは急激な回避運動で飛び出さないように鎖を生成・操作してシートベルト替わりにしている。実質迎撃をしているのは千雨だけなのだ。
「というかファンタジーから逃げといて、こんなところで悪魔相手にチャンバラごっこって……頭痛が…………」
「いいから早く!! 次来たっすよ!!」
再度黒鍵を投擲するも、悪魔の数は変わらず、キリがないのだ。流石に辟易してくるうちに、どうやら町の外に出たらしく、一面を夜空と荒野、悪魔の軍勢に彩られていた。
「絡繰に長谷川ぁ!!」
と同時に、バギーに乗ってきた龍宮と合流し、互いに並走しつつ、迎撃に当たる。
「バックアップの護衛を全てここから北10kmに待機させてある!! 私が足止めするからそこへ迎え!!」
「だったら最初から町に待機させとけよ!!」
そう千雨が怒鳴り返すのも無理はないが、実際は補充要員との合流地点を変更しただけで龍宮に罪はない。
「とにかく行け!!」
龍宮は叫ぶと、助手席に置いていたのか、SMAWを引っ張り出して肩に構えると、即座にバギーを反転させて悪魔の群れに飛び込んでいった。
「ちょっと待て!! なんで片手でロケットランチャー担げるんだよ!? おかしいだろおい!?」
「んなことより早く行きましょうよ~!!」
カモの声に茶々丸は黙ってトリッカーを加速させた。千雨もツッコむのをやめたのか、未だに追いかけてくる下位悪魔達に向けて投擲する。
追いかけてきたのは今の群れだけだったのか、断続的に投擲して足止めしたら、漸く視界から悪魔達の姿が消えた。
「はぁ~この苛立ちは
「先程話してた高級レストランに立ち寄ったかどうか、で判断すれば宜しいかと」
茶々丸の気の無い返事を聞いて、千雨は溜息を吐いてから黒鍵を仕舞った。
「オスティア産野菜のテリーヌです。アクセントに塗した紅茶葉の風味と一緒にお召し上がり下さい」
給仕が説明を終えて立ち去ると、ネギ達は各々カトラリーを手に取って、食し始めた。
「そう言えばオスティアンティーというものが
「それは興味深い。後で貰うとしよう」
完璧なテーブルマナーで料理に口をつける二人は絵になり、周囲の人間は思わず手を止めて見惚れてしまう。
「これくらいの風味だと、ミルクよりストレートの方がいいかな……」
「ほう。銘柄に合わせて飲み方を変えているのか?」
ネギの呟きに興味を持ったのか、エヴァンジェリンが口を挟んでくる。
「ええ。徹夜で研究していた時にミルクだと眠くなるからストレートで飲んで以来、飲み方を色々と試しているんですよ。喫茶店の方でも、飲み方に合わせて銘柄を変えていこうと考えているくらいで……」
二人は次のスープが運ばれてきても、紅茶談義に花を咲かせていた。……千雨達がある者と再会しているとも知らずに。
千雨とエヴァの次回予告
千雨「……結局こっちでも悪魔とやりあってるんだが?」
エヴァ「ああ……ドンマイ」
千雨「ドンマイ、じゃねえよ!? ホント私の人生どうなってんだおい!!」
エヴァ「……次回『使いたくなかった奥の手』を楽しみにしろ!」
千雨「…………頼む。誰でもいいから私の人生どうなってんのか教えてくれ………………」
一言「……そんなところかな」
エヴァ「まあ、こっち来たらちゃんとレストランに連れてってやるから、元気出せ」
千雨「……不幸だ~」