次回、勇者アカシとキセキの仲間達
第十四話 ドジョウの背にどじょう
赤司「見なければ、親でも殺す」
「例によって護衛は石像って……帰って寝たい」
「何処へ帰られるのですか? 千雨さん。というよりも現実逃避しないで下さい」
茶々丸に説教されて、千雨は嫌々ながらも黒鍵を構えた。視線の先にはここに居た護衛を石化させた犯人がいる。
「んで、まぁだ人質云々で追っかけてきたのかよ、おっさん」
「いや、おっさんはやめてくれないかな。精神的にくるから」
等と手を振りつつ、ヘルマンは帽子を弄りながら返してきた。その周囲には幾体もの石像が、幾人もの石化された魔法使い達が立っている。
「……頼むから対悪魔の専門家を護衛につけてくれよ」
「姐さん、相手は上位悪魔っすよ。そこらの魔法使いじゃ手も足も出ませんて」
千雨のボヤキに返すカモ。けれども警戒は解かずに、茶々丸を含む三人は徐々に距離を取り始めた。もし戦闘になれば、周りの者達を巻き込むからだ。ここがロンドンの時のように壁になる建造物等があれば良かったのだが、拓けた荒野では攻撃の余波を気にしなければならなくなる。
「なんなら場所を移そうかい? 無論、逃げないことが条件だがね」
「……随分殊勝な考えじゃねえか」
けれどもヘルマンは、そう言われても肩を竦めるだけだった。近寄ってくる悪魔に千雨達は適度に距離を開けつつ、別の場所へと誘導する。
「……どうします?」
「石像から離れたら即波状攻撃だ。オコジョは足止めに専念、私と茶々丸で手段問わずに遠距離から攻撃するぞ」
小声での相談を終え、石像からある程度離れた場所に着くや否や、カモの詠唱を合図に千雨と茶々丸は左右に分かれた。
「インテルル「まずは君からだ」――グエッ!?」
「オコジョっ!?」
一瞬カモに意識が向くも、千雨はすぐに黒鍵を構えて左右連続でヘルマンに投擲した。さしもの悪魔も初めて見る武装に警戒して回避するが、その先には茶々丸がAMTハードボーラーの銃口を向けて、そのまま連続して引き金を引く。
「こっちはただの銃弾か。そんなものは――っ!?」
茶々丸に意識を裂きすぎたのか、千雨の放った新たな黒鍵には対応できず、背中に数本立てるのを許してしまう。けれども流石は上位悪魔なのか、多少黒鍵を刺されたくらいではびくともしていない。
今度は千雨に向けて口を開こうとするが、石化光線を出さないまま茶々丸のドア・ノッカーの餌食となった。
「ハハハ!! なかなかやるな、ええ!!」
「こちとら悪魔にんなこと言われても、嬉しかねえんだよ!!」
ヘルマンに蹴り飛ばされた石で昏倒しているカモを掴んで遠くに投げると、千雨は指輪からありったけの手榴弾を取り出して投げつけた。悪魔相手にばら撒かれる鉄片は効果を示さないが、中に混ぜていたスモークグレネードには、ヘルマンも思わず口に手を持っていってしまう。
「なかなか煙たいな……」
視界を覆っている隙に茶々丸はしゃがんで左の膝頭を煙の中に居る筈のヘルマンに向けた。
「Guard Skill――Micro Missile」
今度はちゃんと発射された小型ミサイルは煙の中に飛び込み、着弾して煙を吹き飛ばすほどの爆発を起こす。しかしヘルマンは纏っている服をぼろぼろにしてしまうも、未だに健在であるかのように起立していた。
「いやはや……ここまで楽しいとは思わなかったな」
「こちらとしては、早々に立ち去って欲しいのですがね」
今はヘルマン一人だが、前みたいにセバスチャンのようなイレギュラーが起きてもおかしくない。だから早いところ倒すなり撒くなりしてここから離れたいのだが、早々うまくいかずに歯噛みしてしまう。
「ああ、連れのすらむぃ達や下位悪魔は全て町に居るよ。セバスチャンに関しては正直何を考えているのかは分からないけど、ここには来ていないね」
「……随分あっさりばらすんだな。余裕だってことか?」
「……そんなところかな」
千雨の問いかけにヘルマンは、歯切れの悪い返事を返してきた。若干訝しむも、それどころではないのですぐさま武器を構えている。
「さて、どうするかな……」
再度黒鍵を出して構えるも、これだけでは決定打に欠けていると千雨自身自覚していた。茶々丸もドア・ノッカーの弾を取り換えているが、それでも無理だと分かる。それだけ力の差があるのだ。
「茶々丸、私が時間を稼ぐからその隙に「すみませんが千雨さん。ミサイル以上の威力を持つ武器がありません」――……嘘だろおい」
そもそも悪魔が来るなど当初は思いにもよらなかったのだ。高威力の武器があるだけまだましだというものだ。
「ですが、結界弾があります。それで足止めしている隙に逆転の一手を」
「その手が……あるにはあるが、できれば使いたくないんだよなぁ」
それでもやらなければ意味がない。千雨は一旦黒鍵を手放すと、ポケットから格納用とは別の指輪を取り出し、そのまま右手の指に嵌めた。
「ドア・ノッカー用にも用意しておいたので、装弾すれば直ぐに撃てます」
「……よし、とっとと片づけるぞ」
千雨が地面に突き刺した黒鍵を構えると、茶々丸もドア・ノッカーの銃口をヘルマンに向けた。
「それじゃあ……」
戦闘が始まる。おそらくこれが最後の攻防となるだろう。
「……始めようか!!」
先手を取ったのは……!?
「牛肉のフィレステーキでございます」
フルコースもとうとうメインに入り、ネギ達の話題も別のものにシフトしていた。
「そう言えば、千雨さん達とは普段何をやってたんですか?」
「それは麻帆良での話か? そうだな……」
エヴァンジェリンにとって、麻帆良での生活はもう過去のものと化していた。なのでネギの問いかけにも、左程気にすることもなく答えようと記憶を漁っている。だが他の人間ならば、即デストロイだっただろうが。
「茶々丸と一緒にあいつの下へ遊びに行くのが多かったな。千雨が家に来たこともあったが、ほとんどの場合はこっちから誘っていた上に訓練目的だったから、遊ぶとしたらいつも女子寮のあいつの部屋だったな」
「へぇ……そこからネトゲをやっていたんですか?」
「まあ、そうだな。家にもパソコンはあったが、千雨の持っている方が高性能だったからな」
メインディッシュに口をつけながらも、話の花は咲き続ける。楽しい食事とはこういうものをいうのだろう。
「茶々丸が家に来て、千雨とも知り合い、
ネギは答えない。いや、答えられなかった。今の彼女は、誰もが魅了する位の笑顔を見せていたのだから。
「……どうかしたか?」
「いえ……とても綺麗で、素敵な笑顔でしたので、見惚れてしまいました」
ネギがそう言うとエヴァンジェリンは眉をひそめてそっぽを向く。その顔は赤く染まり、次の料理が来るまで、照れくさくて視線を戻すことができないでいた。
「……縛鎖となりて敵を捕らえよ!
今まで気を失っていたカモが鎖を生成してヘルマンを拘束した。その隙を逃さず、茶々丸はドア・ノッカーの弾丸を入れ替えて結界弾を撃ち込む。
「ご、が……」
「千雨さん!!」
深紅のコートを纏う千雨が駆けていく。向かうはヘルマンの懐。黒鍵を出して左手に握り、魔法発動媒体の指輪になけなしの魔力を流していった。
「プラクテ・ビギ・ナル、
千雨は右手に雷を、左手に黒鍵を構えて突き進む。先に左手の刃を身体に突き立てると、そこを避雷針にして右手を叩き込んだ。
「オコジョ直伝の付け焼刃だが喰らえ!!
「ガァアア……!!」
黒鍵の干渉力と雷の斧による雷撃。二つの攻撃にさしものヘルマンも悲鳴を上げてしまう。けれども攻撃はそれで終わらない。
「茶々丸っ!!」
「もう準備はできています!!」
千雨が後ろに跳ぶと同時に、茶々丸が指輪から取り出して周囲にばら撒いた武器の一つ一つを手に持ち、次々とヘルマンに向けて発砲していく。高火力の銃撃に砂塵が巻き上がり、
一通り撃ち終わると、ヘルマンは腹に半ばから折れた黒鍵を突き刺したまま、地面の上に倒れだした。
「……漸く終わったか」
千雨はそのまま崩れるように、地面に腰掛けた。
「オスティア産フルーツをふんだんに使ったシャーベットです」
千雨達の決着が着いた頃、ネギ達の前にデザートが運ばれてきた。フルーツの甘みとシャーベットの冷たさを舌の上で味わう二人の下に、ある人物が近づいてくる。
「色々と迷惑をかけて済まなかったね」
「まったくですよ。今の今まで何をしていたんですか? クルトさん」
エヴァンジェリンは沈黙を決め込み、遅れて来た総督の相手はもっぱらネギが担当した。
「少し面倒なことに巻き込まれてね。ところで……君の中にある秘宝は無事かね?」
「……ええ。それを目当てにきた悪魔も居ましたが、未だに暴走していると知って手を引きましたよ」
どうやらスタークリスタルのことを知ったらしいが、狙われる理由が増えただけで襲われる危険性は変わらない。ただ、現在オスティアに居る二人はいいが、残る面々は……。
「増援としてタカミチを千雨君達の方に送っておいた。後はここでの仕事を終えれば全て解決する」
「だと、いいんですがね……」
結局増援は間に合わないまま、千雨達だけで悪魔を倒していたことはこの時点では誰も知りえなかった。
「迷惑料の他にこちらとしても便宜を図りたい。何か希望があれば叶えるけどどうする?」
「そうですね…………」
ネギの希望に、クルトだけでなくエヴァンジェリンも驚きで目を見開いた。
「やれやれ……ここで終わるとはね」
「良く言うぜ。……本気じゃなかったくせに」
地面に横たわっているヘルマンの周囲に千雨達は立ち、静かに見下ろしていた。既に消えゆこうとしている悪魔を見て、誰もが武器を降ろしている。
「……どうして、本気じゃないと?」
「ロンドンでもここでも、お前は私達に対してほとんど攻撃しなかっただろうが。余裕扱いて攻撃受けていられたのなら、そのまま突っ込んで殺すことだってできた筈だ」
「……そうだね。確かに、本気にはなれなかった」
ヘルマンは瞳を閉じると、何処か懐かしむように話し始めた。
「私がネギ君の村を襲った時、サウザントマスターが駆け付けるまで、彼は何をしていたと思う?」
「……逃げてたんじゃねえのか?」
千雨はあまり考えずにそう答えた。今でこそエヴァンジェリンと並んで戦えるネギだが、幼少時から強い者などいないに等しい。
けれどもヘルマンの解答は違った。
「彼は私の前に立ったんだ。泣きながらも、杖を持つ手を震わせながらも、気を失って倒れていた少女を守るためにね」
その後ナギが、次いでスタンが駆け付けて悪魔達を倒し、封印していったが、ヘルマンだけは数日程村の近くに逃れ、倒れていた。いつ消えてもおかしくない中、ネギは彼の下に一人でやってきたのだ。
「『何故他の者に教えない?』と思わず聞いてしまった。けれども彼は川から水を汲んできて、『もう罰は受けているのに、これ以上痛めつけたら僕は悪者になっちゃう』と答えてきた時には驚いたよ。彼は悪魔であり、少女を傷つけようとした私に手を出さないまま帰国を看取ったんだ。……だから帰る前に言ったんだよ」
……水の恩は返すと。
「……ま、彼はもう覚えてなかったようだけどね。けれども悪魔は、契約をきっちり守る性質なんだ。それが良いことでも悪いことでも関係なくね」
「じゃあ、お前が石化させたのは……」
千雨の疑問に、ヘルマンは首肯した。
要するに彼はずっと、ネギとその仲間達を守っていたのだ。元老院をはじめとして暗躍し、護衛に紛れていた者達から、襲撃に見せかけてずっと。それこそ下位悪魔を勝手に指揮し、召喚者の意思を無視してまで。
「そうだ。……これを置いていくよ」
ヘルマンは懐から、紫色の小さな水晶を取り出して、地面の上に置いた。
「それを使って悪魔を喚び出すと、他に契約を結んでいない限り私が出てくる。好きに使うといい……」
そう言い残して、一体の上位悪魔は夜の虚空へと消えていった。
千雨とエヴァの次回予告
千雨「……いろんな意味で落差が酷過ぎる」
エヴァ「まあ、いいではないか。次は漸く合流できるんだからな」
千雨「ということは……もうすぐ締めに入るのか?」
エヴァ「前章よりも長くなった今回だが、意外と得る物が多かったな」
千雨「そうだな……全部返すから私に平穏な日常をくれ(涙)」
エヴァ「マジ泣きするな。というわけで次回『一人前の証』を楽しみに……できるかぁ!!」
千雨「訳も分からずノリツッコミしてんじゃねえよ!!」
一言「御託はいらねぇ……
千雨「ネタバレもここまで来ると、いっそ清々しいな」
エヴァ「そうだ!! 私が先にあの筋肉達磨を仕留めれば「アホか!!」――だから気安くぶつなぁ(涙)!!」