魔法先生ネギま 雨と葱   作:朝来終夜

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 運び屋イヅキの助けを借り、魔王の城に辿り着いた一党だが、まずやるべきことがあった。

 次回、勇者アカシとキセキの仲間達
 第十五話 クロコの聖剣白羽取り

 赤司「見なければ、親でも殺す」


第14話 一人前の証

 暁の空の下、一台のバギーが荒野を駆け抜けていた。運転席に合流したタカミチ、助手席に龍宮、そして荷台には千雨と茶々丸、カモが後ろの景色を眺めていた。彼らは一路オスティアへと向かっている。

「もう直ぐデュナミスが来る。そうすればグランドマスターキーを使って直ぐに転移できるさ」

「済まなかったね、君達には戦わせてばっかりで」

 前方から声が聞こえてくるが、千雨達は聞こえていないのか聞き流しているのか、一切の反応はなかった。本当(・・)の味方に対して刃を向けたのだ。ただでさえ疲労が溜まっている時にそんなことを聞けば、流石に何も考えられなくなっても仕方がないのかもしれない。

 そんな中、先に気持ちの整理がついた千雨は、茶々丸達に声を掛けた。

「……ネギ達にも話して、いつかヘルマン(あいつ)を呼ぼうぜ。戦わせるためじゃない、また話すために」

 茶々丸とカモは千雨の方を向いて、その言葉に頷いた。もう三人(二人と一匹)とも、荒野の背景に目を向けていない。

「さて……確か最初にあいつが敵だという先入観を持たせた奴は誰だったかな?」

「ぎくっ!?」

 カモは逃げ出したが、千雨の手が伸びる方が早かった。オコジョ妖精の尻尾と首根っこをそれぞれ掴み、広げるようにして思い切り引っ張りだす。

「しょっ、小動物ぎゃくた~い!!!!」

 流石の茶々丸も、千雨の横暴を咎めることなく、むしろ平然として深く座り込み、目を閉じた。オコジョ妖精の悲鳴は、上位悪魔の群れに放り込まれてボロボロになりつつも、どうにかグランドマスターキーを持って戻ってきたデュナミスが現れるまで続いたという……。

 

「というわけで、今オスティアに着いたってさ。これからホテルに向かって休むらしいよ」

「そっか。……とにかく皆無事で良かった」

 昼過ぎ、昨日と同じ小屋の中で作業確認を行っていたネギに、フェイトは千雨達のことを報せた。ネギも傍に居たエヴァンジェリンも安心したのか、安堵の息を漏らしている。

「どうやら今日は、皆で夕食に行くことになりそうですね」

「ま、あいつらも居ないと静かすぎるからな」

 素直じゃないエヴァンジェリンの言葉を聞くと、ネギは再び作業に戻っていった。それを見てフェイトも用事は済んだとばかりに小屋の外に出る。

 外へ出ると、近くに立っていたクルトが近づいてきて、フェイトに話しかけてきた。

「あのことは話してないよな。護衛の中に間者(スパイ)が居たなんて話してないよな!?」

「すぐにばれると思うよ。千雨さん達は既に知っているみたいだし」

「……その時は土下座でも何でもするさ。固有時制御(これ)のためなら安い代償だ」

 力強く情けない言葉を紡ぐヘボ総督(クルト)の前から辞し、フェイトは少し離れた所に居るラカンの下へと寄って行った。

「何を考えているんだい? 今朝からずっと、そんな顔じゃないか」

「フェイトか。いや……ネギの掲げた希望について、な」

「……ああ」

 彼らは広い荒野を埋め尽くしている魔法陣を見下ろしつつ、今朝クルトから聞かされたネギの希望について思いを馳せた。

 

「ここオスティアでは、拳闘大会が開かれていますよね? そこの選手と戦わせて下さい」

「……一体何のために?」

 レストランを辞した三人は、ホテルのエントランスにある待合席に向かい合って着いた。その時に再度同じ問いかけをしたのだが、同じ答えが返ってくるだけだった。

「……僕には、向き合わないといけない大事な悩みがあります」

 エヴァンジェリンは繋いでいるネギの手を強く握った。彼が何を悩んでいるのかを理解したために。

「ある人は僕に、でかい悩みならば胸に抱えて進めって、言ってくれました。けれども、抱えたままでは駄目なんです。例え簡単に答えは出せなくても、答えを探して前に進まなければならないんです。……だから、僕は強くなりたい。大好きな人に堂々と『好き』って言うために」

 だからこそネギは望んだ。強者との戦いを、自らの強さの指針を。

「なにより、あのくそ親父をぶん殴るためには、力は幾らあってもいい位ですからね」

「……分かったよ。けれども、必ずしも強者を呼べるわけじゃない。あくまでも『内密で戦ってもいい』という条件の揃う人材しか紹介しない。それでいいかい?」

 クルトの提案に、ネギは了承した。

 

「ナギの奴をぶん殴りたいって聞いた時は、『あ、なんか面白そう』とかつい思っちまったな」

「そう言えば、君とサウザントマスターは仲間になる前は殴り合った仲だったっけ?」

 フェイトの言葉に、ラカンは懐かしげに過去を振り返る。

 実際、楽しかったのだ。陰謀だの策略だの一切考えずに、ただやりたいようにやったのは。それからなし崩し的に仲間になったが、それでも喧嘩は絶えなかった。いやむしろ、仲間だからこそ本気でぶつかり合えた。

「……なんとなく、君が何を考えているのかが分かるよ。僕個人としては勝ち負けに関わらずに『全力をぶつけられる相手』を用意した方が彼のためだと思ってるしね」

「いいこと言うじゃねえか」

 思い立ったが吉日。ラカンは美しい土下座の姿勢について、本気で悩んでいるクルトの方に振り返り、近寄って行った。

 

 黄昏時。無事起動確認を終えたネギ達は、飛行艇でオスティアへと戻ってきていた。そこには千雨達が待ち構え、手を振りつつ彼らを迎えた。

「なんか、久しぶりって言いたい気分だな。そっちは問題なかったか?」

「これでもかという位に順調だ。……後は明日の試合だけだな」

 エヴァンジェリンの言葉に、千雨は黙って頷き、ネギの方を見た。事情はここに残っていたリカード(無駄に平身低頭だった)から聞いているのだ。

「ネギ……それでいいのか?」

「はい……こればっかりは、しっかりけじめをつけておきたいので」

 力強く頷くネギを見て、千雨はもう何を言っても無駄だと悟った。

「ま、死なない程度に頑張れよ」

 せめてとばかりに激励を述べるだけに留めると、今度はクルトの方を向いて話を振った。

「それで、相手って誰なんだ?」

「それなんだが「俺様が相手になってやる」――ということになってしまったんだ……」

 肩を落とすクルトの背中を強く叩き、ラカンはネギ達の、ネギの前に立った。

「というわけでこの俺、赤き翼(アラルブラ)『千の刃』ことジャック・ラカン様が相手をしてやる」

「却下だ」

 そのことに対し、エヴァンジェリンが速攻で異議を唱え出した。

「なんで私のネギを、貴様のような筋肉達磨と戦わせねばならんのだ? 恥を知れ脳筋」

「おめぇ……入れ込み方が半端じゃねぇな」

 ある意味ナギの時以上じゃねえか? とラカンは思わず呆れてしまうが、話が進まないのでとりあえずエヴァンジェリンに関しては保留にした。

「とにかくだ。……お前、てめえの親父(ナギの奴)を殴りたいんだろ?」

 空気が変わった。ネギはエヴァンジェリンを自らの背に追いやり、目の前のラカンと対峙する。

「いいか、俺様とナギは永遠のライバル。実力もイコールではないが似たり寄ったりなのは確かだ。つまり……俺を殴れなければ(・・・・・・・・)親父を殴るなんてどだい無理な話だ(・・・・・・・・・・・・・・・・)

 ラカンの言葉に、ネギは強く拳を握り込む。まさかサウザントマスターと同じクラスの強さを持つ者と戦えるとは思ってもみなかったのだ。だからこそ、力の入れようも違うというものだ。

「御託はいらねぇ……()ろうぜ、ネギ」

 ネギは首肯し、エヴァンジェリンの手を引いてこの場を後にした。

「やる気満々だな、あいつ」

「千雨さん、宜しいのでしょうか?」

 心配そうな顔を浮かべる茶々丸を促して、千雨もネギ達の後を追った。

「そもそもこの戦いを否定したら、麻帆良から逃げ出した(今ここに居る)ことも否定することになるだろうが」

「……そうでしたね」

 今ここに居るのは麻帆良から、立派な魔法使い(マギステル・マギ)から、魔法世界という大多数と戦い、逃げ出したからだ。それを否定することは誰にもできない。そう、あの時戦わなければ、今自分達がどうなっていたかなんて誰にも分からないのだ。

「少し……羨ましいな」

 黒髪の少女を思い浮かべた千雨の独り言は、誰にも聞かれないまま虚空へと消えていった。

 

 ホテルの一室。ここにはネギとエヴァンジェリンしか居ない。千雨達は別室(カモはさらに檻の中)に居るので、今は二人っきりだ。

「眠れないのか、ネギ」

「ええ、いろいろ有り過ぎて、目が冴えちゃいました」

 麻帆良からの逃亡に成功して以来、閨を共にするのは当たり前になっていた。けれどもどちらかが眠れずに悶々としているのは、今回が初めてかもしれない。

「ネギ。お前は勝つ気なのか? あの筋肉達磨を相手にして」

「ええ、勝ちますよ。……でも、なんででしょうね」

 ネギがベッドの上に倒れると、エヴァンジェリンも横になって、視線を合わせた。

「本来なら、実力が分からないうちは向こうが格上だと考える筈なのに、今はラカンさんを倒さないと、前へ進めないって考えてしまいます」

「だったら簡単だな……勝て」

 互いに見つめあう二人。徐々に夜が更けていくのに、不思議と今の二人には睡魔も近寄れないでいる。

「お前なら勝てる。私もあいつ(・・・)も、相手が誰だろうとお前が勝つと信じている」

 だから、早く寝ろ。

 そう耳元に口を寄せて囁く吸血鬼は、ついでとばかりに男の頬に口づけた。

「エヴァさん「前祝いだ。これで負けられなくなったな」――……そうですね」

 ネギはエヴァンジェリンを抱き寄せるとそのまま眠りについた。彼女もそれに続くように、睡魔に身を委ねていく。

 

「姐さぁん!! ここから出してくだせぇ!?」

「るっせぇな!! とっとと寝ろ!!」

 檻(大型鋼鉄製の虫かご)の中で暴れるカモに怒鳴り散らすと、千雨は再び横になって眠りについて行った。夢現の中を彷徨い歩くと、目の前にとある光景が映った。

 春なのに発生した台風。豪雨で水嵩の増した川。その上に掛かっている橋に、さ迷い歩いてきた一人の少女。その少女は橋桁をよじ登ると、静かに川を見降ろしていた。

(……懐かしいな)

 既に振り切った過去だと分かるや、千雨はその光景に背を向けた。

 彼女は歩いた。歩き続けた。夢の世界を彷徨い歩きながら、千雨はただ夜が明けるのを待ち続けた。

 

「ヒック! まさかレストランで土下座させられるとは……」

「仕方ないよ、クルト。全面的に魔法使い側(僕達)が悪かったんだからさ」

 タカミチは夕飯を摂ったレストランで土下座させられた(原因は護衛の中に居た間者(スパイ)について)クルトを誘い、近くの居酒屋に来ていた。大衆向けのため、値段も抑えられるからと、結構な量を注文している。

「ところでタカミチィ……ネギ君って強いのか?」

「う~ん……昔会った時はそうでもなかったかな」

 当時のネギは修行意欲に溢れ、タカミチが強いと聞くと直ぐに稽古を頼むくらいの積極性があった。だからこそ、ネギに対しては『強い』というよりも、『強くなろうとしている=当時は弱かった』という解釈の方が強い。それでもネギが、今日まで努力を怠っていたとは思えないでいる。

「どう成長したのかが楽しみだね」

「その楽しみなところ悪いんだが……彼は誰から戦い方を学んだと思う?」

「……どういうことだい?」

 タカミチは思わず横でカウンターに寝そべっているクルトを見下ろした。けれども若き総督殿は我関せずと以前提出された報告書の内容を諳んじた。

「『目立たない属性による魔法の射手を用いた上で、本命の地雷で相手を消し飛ばす』……こんなやり方、まともな魔法使いが考えられるわけがない。それこそ魔法を道具のように扱う者にしか思いつけない手段だ」

「……千雨君が考えて教えたんじゃないのか? 彼女は魔法を道具のように考えているし」

「僕もそう考えたけど……当の彼女が否定したんだよ。『それ以前に、ネギ(あいつ)からそういった相談自体、持ちかけられたことがない』ってね」

「じゃあ一体……」

 誰がネギに戦い方を教えたのか?

 悶々とした問いかけと底知れぬ不安に、タカミチは酒に酔えずにいた。

 

 




千雨とエヴァの次回予告
千雨「随分伏線が増えてきたな」
エヴァ「伏線じゃないと思ったら伏線だったり、伏線の筈があっさり切り捨てられたりと、伏線で伏線を隠すのは作者の得意技だからな」
千雨「……まあいいさ。少なくともカモとニセエヴァだけだと、ネギの成長具合が矛盾しているからな。独学でも限界があるのにどうやって強くなったのか。今後が楽しみだな」
エヴァ「というわけで次回『拘束制御術式第壱号――解放』を楽しみにしろ!」

一言「拘束制御術式第壱号――解放」

千雨「漸く二週目か……そう言えば、この小説ではネギの始動キーが原作と違うんだってな?」
エヴァ「それも次回発表だ!!」
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