「……ネギ君。君を「手足をもいでから残りの生徒も回収し、麻帆良へと郵送してくれるわぁ!!」――拘束したいんだ。頼む、連れが怖いから助けると思って自首してくれ!」
「殺されそうなので嫌です!!」
顔の割に同僚にビビッて投降を促すも、ネギ自身も命の危機を感じて拒否した。というかそこに居る女性は本当に人間なのか、というレベルで怒り狂っている。
「英雄の血を引く癖に人に迷惑かけるたぁいい度胸だ小僧~!! 切り殺すっ!!」
「色々言いたいことはあるし、本当は怒りにまかせてぶつかりたいところなんですが……この人も一応
「……さっき電話で別れ話を切り出されたらしい。あまりの忙しさに顔を合わせてなかったのが原因のようだ」
明らかに私情で動いている!!
互いに共有できる感情があるものの、今は敵同士だということには変わらない。刀子があまりにも怖いので、神多羅木は無言で手を挙げて、無詠唱呪文を連続してネギに叩きこんだ。
「加減はするから早く気絶してくれ」
「嫌ですよ!!」
それでも攻撃の雨はやまない、ネギは前面に障壁を展開しようとするも、阿修羅と化した刀子にビビッて離脱に専念することにした。
「しぃ~ねぇ~!!」
近づいてくる無詠唱呪文の雨に阿修羅刀子、ネギは冷静に背中に刻んだ魔法陣に魔力を注ぎ込み、起動させた。
「Time alter――double accel!!」
固有時制御。一定範囲内の物質の時間を強制的に操作する、ネギが開発した
倍速の速さを得たネギはすぐさま移動し、
「
高速詠唱で唱えた魔法の射手を家の壁に連射して穴をあけ、そこから外に躍り出た。
「待て! ネギ君!!」
「言い訳よろしくお願いします!!」
そう言って手榴弾を投げ込んですぐに、ネギは家から急いで離れた。
「……やられたな」
いくら結界内とはいえ、ここは一般人の居る居住区だ。手榴弾を魔法で拘束して無効化するも、その轟音で近隣の住人が起きてこちらに向かってくるのは時間の問題。そして封鎖結界自体も、直接外に出られてしまえば意味が無くなる。この場合、彼らが起こすべき行動は……
「追いかけますよ神多羅木!! あの逆徒を八つ裂きにせねばっ!!」
「……俺も(麻帆良から)逃げようかな」
この場から離脱して、早いとこネギを追いかけることだった。
「Release alter! ……はあ、はあ、はあ…………」
時間操作の弊害で息が荒げるも、構うことなくネギは近くのマンホールを持ち上げて、地下下水道に降りていった。最初は肉体強化に切り替えて強行突破しようと目論んではいたが、予想以上に広範囲に結界を張られていたため、目立つのを避けるために断念したのだ。
「なんとか結界外に脱出できれば、後はエヴァさんに任せて転移を……」
しかしやることはきっちりやるネギは、通路にあるものをばら撒いたら、すぐに北へと駆けだした。
「みぃ~つぅ~けぇ~たぁ~!!」
ネギが駆けだすと同時に、刀子達も下水道に降り立って、逃亡者を捕捉した。
ネギは駆けながらも詠唱し、振り返ることなく魔法を放った。
「
捕縛の矢が雨あられと降り注ぐも、阿修羅、違った刀子には一切効かず、全て切り落されてしまった。
「逃がすか「落ち着け、相手の思うつぼだぞ」――あ!?」
この時神多羅木は心の底から帰りたいと思った。けれども相手の狡猾さで同僚を亡くすのも忍びないと、仕方なしに声をかけたのだ。
「……向こうも本気だ。もはや少年だと思って対応しない方がいい」
「分かりました。行きましょう」
一息に飛び越えたラインには、ネギの仕掛けた散布地雷が睨みを利かせていた。
「……しかし戦い慣れているな、ネギ君。他の得意な属性よりも、辺りを照らさない風の矢で攻撃して目を引き、近づいたところを地雷で消し飛ばすなんて、どこで覚えたんだ?」
「今は急ぎましょう。他にも地雷を仕掛ける暇を無くさなければ、距離が縮まりません(あの餓鬼八つ裂きにしてやるからなぁ!!)」
冷静さを取り戻そうとも、内心怒り狂っている刀子であった。
「結界とはどういうことだーっ!?」
「落ち着けエヴァ!!」
西宮に転移し、直ぐに茶々丸にネギの居場所を探らせるも、結界が張られたことを知り、エヴァンジェリンは人目も気にせず暴れ出したのだ。慌てて千雨が取り押さえて裏路地のさらに奥に紛れるも、それで現状が変わることはない。
「大方、
「でしょうね。ですが……その結界が強力すぎるんです。おそらく高出力のマジックアイテムかと」
「腐っても東の頭ってことか。資金が潤沢だことで」
彼女達は知らないが、この封鎖結界のマジックアイテム、実は刀子の自腹だったりする。
「どうする? エヴァ以外にもう一人つけて北の方に向かうか? ネギのことだからこちらが来る直前までは魔力封印を外して逃げているはずだ。見つけるのは簡単だろう」
「そうですね。結界範囲外ギリギリに転移してなんらかの合図を送れれば、ネギさんも気付いてくれるかもしれません」
「決まりだな。……私がついて行くから、茶々丸は荷物を頼む」
千雨はイングラムM10から弾倉を抜いて、残弾を確認した後にSIGP230を腰の仕込みホルスターから抜いてスライドして弾丸を薬室に放りこむ。
「よろしいのですか? こちらの方が安全と判断しますが……」
「もしここで襲われでもしたら、一人で対処しなければならなくなる。私より茶々丸の方が一人でも生き残れる可能性が高いだろう?」
「分かりました。こちらは寝床を確保して待機しています」
SIGP230をホルスターに仕舞い、イングラムM10を構えると、千雨はエヴァの下へと近寄った。
「行くぞエヴァ。結界の北側に転移してくれ」
「言われなくともっ!!」
影が蠢き、茶々丸の前からエヴァ達の姿は消え失せた。
「御武運を……」
茶々丸はまっすぐに、彼女達が居た辺りを見つめている。
「
振り向きざまに放った雷の矢が刀子達を襲うも、全て迎撃されてしまい、数秒間足止めしたに過ぎなかった。けれどもその間にネギは通路に小型爆弾を設置し、
「Time alter――double accel!!」
素早く駆け離れて角道に隠れると、起爆スイッチを押した。
ドォン!!
下水道を爆破し、通路を完全に使い物にならなくした。
「Release alter! ……これで、どうにか…………」
ザザザン!!
鋭い斬撃の音が響くと同時に、下水道を埋め尽くしていた瓦礫が細切れと化してしまった。懐から手鏡を取り出し、通路の角からだして向こう側を覗こうとするも、神多羅木の無詠唱呪文であっさりと割られてしまう。
「……いい加減降参してくれないか、ネギ君。本当に連れが恐いんだよ」
「
「俺もそう思えてきたよ……」
阿修羅刀子にビビる男性諸君。けれどもこのままではじり貧だ。
(手持ちのマジックアイテムじゃあ難しい……アレ使うかな)
ネギはグロック17を腰から引き抜いて弾倉を抜き、別の弾丸が込められている物と取り変えた。
(高圧縮魔力弾頭……そこらの炸薬弾よりも効くし、下手な魔力障壁でも力押しできる代物)
スライドを引いて弾丸を取り変え、既に装填されていた9mmパラを握って通路の反対側に投げつけた。
キィン!
「弾丸は捨てました。これって降参の合図になりませんか?」
「ぬぁ~わぁ~けぇ~なぁい~でぅ~わぁ~るぉ~」
「……ゴメン、無理だ」
神多羅木の申し訳なさそうな声が下水道に響く。ネギも降参だと向こうが油断して近付いて来ないと悟り、グロック17を構える。反対の手には小型の魔力球を握り、強く押し潰した。
「まあ、油断を誘おうとしただけなので、別にいいですけれど、ねっ!!」
魔力球を刀子達に投げつけると、ネギは再び駆けだした。直後、魔力球が破裂し、辺り一帯を閃光で包みこむ。
「はあ……はあ、はっ…………」
目をやられるも、魔法教師達も一筋縄ではいかないらしく、すぐに追いかけて来ていた。
「くそっ!!」
グロック17の引き金を引いて高圧縮魔力弾頭を連続して叩き込んだ。
「ガッ!?」
「神鳴流に飛び道具が効くかーっ!?」
神多羅木はどうにか無力化できても、刀子に対しては効果がなかったらしい。魔法使いと剣士では、弾丸の相性は違ったらしい。
「できれば男性の方に生き残って欲しかった……」
阿修羅よりも紳士的だったから、もしかしたら事情を話せば理解してくれたかもしれないと、ネギは内心思っていた。まあ、炸裂した魔力の奔流にのまれて気絶しただけで、死んじゃいないが。
「結界の外までもう少し……身体能力は向こうが上…………一か八かだ
ネギは身体に魔力供給を施して、猛スピードで下水道を駆けた。刀子も追走するが、その距離が縮まることはない。けれども身体の違いか、突発的な脚力よりも持久力が響いてくる。
「あっ!?」
そして結界の端ギリギリで、ネギは近くの瓦礫によって転倒してしまう。後数メートルの距離なのに、その転倒はネギの行く末を分けた。
「とうとう追い詰めたぞ英雄の出来損ないがぁ~!!」
「それが一番嫌なんですよ!!」
グロック17に残っていた弾丸を全て叩きつけるも、効果はなかった。スライドが下がり切ると同時に、刀子は刀を構えて、ゆっくりと近づいてきた。
「さぁて、お仕置きの時間ですよぉ~」
ネギは銃を下ろして、地面に尻もちをついたまま刀子を見据えて、
「いいえ……賭けには勝ちました」
そう吐き捨てた。
「
「なっ!?」
突如下水道の天井が上から爆発して瓦礫が降り注ぎ、ネギと刀子の距離を開けさせた。
「ネギ!! 大丈夫か!?」
上から降りてきた千雨がネギを担ぎ、エヴァンジェリンと並んで結界の外へと駆けだした。
「おの――れぇいっ!?」
千雨のイングラムM10とエヴァンジェリンの
「ネギ!! 早く封印だ!!」
「拘束制御術式第参号――封印!!」
封印を終えると同時に、エヴァンジェリンは影を操作してこの場から転移した。
「くそっ!!」
もう下水道には、何処かで気絶している神多羅木と、悪態を吐いて地団太を踏む刀子しか居なかった。
「……で、何でラブホテルなんだよ茶々丸っ!?」
「身分を隠した上で且つ、今すぐに泊まれる寝床はここしかなかったからです」
千雨はネギをベッドに寝かせると、すぐさまこの場所に対して異議を申し立てるも、効率性を重視した茶々丸にはどこ吹く風であった。
「いいからもう寝るぞ、千雨。夜明けまでそうない」
流石のエヴァンジェリンも疲れきっているからか、千雨程苦言を呈することなく目を閉じてしまった。夜明けと共に始発電車で芦屋に向かうのだ。少しでも寝た方がいいと考えたのだろう。
「……はあ、仕方ねえか」
一息吐くと、千雨は備え付けのソファの上に寝転んだ。極力卑猥な道具一式を視界に入れないよう、背もたれを向いた上で。茶々丸もエヴァンジェリンを抱え上げると、そのままネギの横に寝かせつけた。
「お休みなさい。マスター、皆さん」
茶々丸も照明を消すと、スリープモードに移行して眠りに着いた。
次回予告
芦屋へと向かう前、千雨は協力者と初めて顔を合わせる。彼らは何を求めてネギたちに手を貸すのか。プロテインを飲みつつ待て、次回!!
「