次回、勇者アカシとキセキの仲間達
第十七話 聖剣の真価
赤司「見なければ、親でも殺す」
「目標を認識。完全沈黙までの間、
『
「Drown to death carrying your dreams!! 黄昏よりも昏き存在、血の流れより赤き存在。時の流れに埋れし偉大なる汝の名において、我ここに闇に誓わん――」
朗々と語り出す詠唱。その詩がネギの周囲を赤く染め上げていく。
「――我らが前に立ち塞がりし全ての愚かなる者に、我と汝が力以て等しく滅びを与えんことを――!!
浮かび上がる絶対的な力。赤く染まる破壊の塊を、ネギは掴み取る。
「
全身に竜破斬の力が行き渡ると、ネギの身体に変化が起きた。髪に血のような赤みが増して伸び、所々で露出した皮膚に赤みがかった黒い鱗で覆われだす。瞳も赤く染まり、両手首より先はネギが動かす度に鉤爪と人の掌が交互に変わっていく。
「……やっぱり、偶には解放しとかないと鈍りますね」
「へぇ……そいつがお前さんの最強形態ってやつか?」
軽く手首を捻って関節を鳴らしながら、ネギは首肯した。その間も全身を解すように曲げ伸ばすと、腰の剣を引き抜いて右手に構える。
「今度は剣か。……いいぜ、来な」
「…………Time alter――square accel!!」
ネギは固有時制御を働かせ、
抜き放たれたネギの剣を、ラカンは同じく剣状に変えたアーティファクトで防ぐ。数合程打ち合うと、今度は鉤爪状にしてきた左手が襲い掛かってきた。
「ふんっ!!」
二振りの剣にして両手に持ち、ラカンはネギの攻撃をいなし続けている。幾ら超人的な速さを得て、且つ四倍速にまで高めたとしても、彼の千の刃には届かなかった。
けれどもネギも負けてはいない。剣と鉤爪で攻撃しながらも、口は次の魔法のための詠唱に、役割を割り振られていた。
「Drown to death carrying your dreams!!
剣と鉤爪を同時に叩きつけてラカンを弾き飛ばすと、ネギはその反動を利用して後ろへ飛んだ。
「――
左手に雷の槍を生み出すと、そのままラカンへと投擲する。けれども向こうも剣を複数生み出すと、数本毎に纏めて投擲し返してきた。雷の槍で何本か弾かれるも、剣の雨は未だにネギに降りかからんとしている。
しかし、ネギは右手の剣を地面に突き刺すと、右手を太腿のホルスターに、左手をマントに仕込まれていた物品収容用の魔法陣に伸ばす。そして両手に構えた大きさが不揃いの銃を向け、発砲して降りかかってくる剣を全て撃ち落とした。
「……流石にそれは予想できなかったな」
「すみません、ラカンさん。でも僕は……」
右手にグロック17を、左手にエヴァンジェリンのジャッカルを構えて、ネギは言い放った。
「……勝つという結果のためには手段を選ばない、悪党ですから」
「おぉい!! あれってエヴァンジェリン専用じゃなかったのか!?」
「……聞いたら、短時間ならば使用可能なんだと。闇の魔法展開中の間だけ」
各種飲物を入れたグラスを皆に配っていたリカードの叫びに、千雨は半ば呆れた口調で説明した。流石に反則じゃないかと思う面々だが、
「今のネギならばありだろうが。
「マスター、駄々っ子の眼差しで殺気を振り撒かないで下さい。皆様の観戦の邪魔になってしまいます」
エヴァンジェリンの威圧感で何も言えないでいた。まあ、修行云々に関してはその通りなので、褒められたことではないにしても、責めるのはお門違いなのは否めない。
「それよりもラカンが動きましたよ! ウェイバーさんへ突っ込んでいきます!!」
セラスの声に皆が前を見ると、両手に剣を構えたラカンが突っ込み、ネギが両手の銃の弾倉を素早く交換していた。
「オラララララァ……!!」
ネギの右手に握られたグロック17から放たれる高圧縮魔力弾頭の悉くを両手の剣で弾き飛ばしていくラカン。けれども今度は左手のジャッカルから放たれた超高圧縮魔力弾頭には、さしもの
「ラァッ!!」
「ぐっ!?」
しかし弾丸を掠めているにも拘らず、確たる力を持った拳が迫っていく。ラカンの拳を受けて両手の銃を手放してしまい、ネギは突き立てていた剣を引き抜いて後ろに跳ぶ。
「Time alter――ァッ!!??」
同時に固有時制御を働かせようとしたが、先に身体を掴まれてしまった。
――羅漢破裏剣掌!!
ネギは地面を転がっていく。彼が居た場所には、まるで墓標のように剣が突き立った。
「小細工が得意なようだが……格の違いは理解できたか、オイ」
ネギは地面に蹲ったまま、身動き一つしない。気を失っているのか、それとも……。
「あ、あれ……」
ネギが辺りを見渡せば、そこはウェールズにある筈の丘だった。魔法世界から逃げ出す前、日本へ向かう前に立ち寄った時と同じ空、同じ景色を見上げると、丘の先に誰かが背を向けて立っていた。
「……“エヴァ”、さん?」
「何をやってるんだ、ぼーや」
彼女は振り返らない。自らの金髪を風に乗せたまま、遠く虚空を見つめてネギに言葉を投げつけてくる。
「いつまで夢を見ているつもりだ? ……早く行け。我が本体も、お前の仲間達も待っているぞ」
「……エヴァさん。僕は「その気持ちだけでいい」――え?」
人工精霊は、ライラックの少女はネギに言葉のみを与えていく。
「私もまたエヴァンジェリン・A・K・マクダウェルだ。その個人を愛してくれるのならば、本物も偽物もないさ。ただ愛し、愛されること程嬉しいことはない。……お前を愛して良かった」
気がつけば、ネギは駆け出していた。白昼夢で見た幻の様に、彼女の存在が薄らいでいったからだ。
「エヴァさん!!」
「……ありがとう、私を受け入れてくれて」
手を伸ばそうとするも、ライラックの少女は陽炎の如く消え去った。ネギは空を掴んだ腕を引き戻すと、拳を胸に当てた。
「お礼を言うのは僕の方です。……行ってきます」
一陣の風が吹き、ネギの夢が崩壊を始めた。
「放せ千雨!! 早くネギの下へ「いい加減にしろ!! これはあいつの戦いだろうが!!」――だからといって!!」
起き上がらないネギを心配してか、闘技場内に乱入しようとするエヴァンジェリンを千雨がどうにか取り押さええていた。けれども封印を解こうとしている彼女を止めることはできないでいる。最悪、ここの人間で取り押さえなければならないが、この面々でそれが可能なのはフェイトしかいない。それ以外の面子では辛うじてタカミチ位だろうか。
「エヴァ!! 頼むから落ち着いてくれ!! クルトは未だか!?」
「今フェイトさんを探しに行っています。何故コーヒーを用意しなかったのですか? 奉公を舐めているのですか?」
タカミチがエヴァンジェリンの前に出てまあまあと手を動かし、茶々丸はドリンクの中にコーヒーを用意しなかったリカードを責めていた。どうやらガイノイドとして思うところがあったらしい。
リカードは土下座のまま微動だにせず、クルトは護衛を龍宮に任せてから外にコーヒーを買いに行ったまま戻ってこないフェイトを探しに東奔西走(まあ、闘技場内かその付近に居るだろうけど)していた。
「……のう、ぬしら。どうやらネギが起き上がったようなのじゃが」
『ナニィ!!??』
テオドラの声に皆が前方へと集まる。そこではネギが立ち上がり、膝に手をついているところだった。
『すみません……少し寝てしまいました』
『構わねえさ。カウントは続いてたんだ。……未だ終わってねぇぞ』
互いに見つめ合う中、ネギは腰に差したままだった鞘を、抜き取って捨てていた。ラカンは腕を組み、声を投げかけている。
『それよりどうしたんだ? なんかすっきりした顔してるけど』
『……夢を、見たんです。懐かしい夢を』
ネギは右手を持ち上げると、ラカンとの間に突き立っている剣に向けた。
『そこで答えを
ネギの手から生まれた鎖が剣の柄に巻きつき、引かれることで地面から抜けて宙を舞った。駆けたままその剣を掴み取ると、そのままラカンに向けて叩きつけていく。
『効かね『
剣で動きを押さえてから、体内に取り込んだ
「駄目だ……威力が足りてない」
「いや……未だ終わってない!!」
ラカンガ再び立ち上がるのを見て千雨はそう言うが、エヴァンジェリンはネギを見てそう確信した。何故なら、剣を捨てたネギが、飛びずさった場所に落ちていたジャッカルを拾ったからだ。
ジャキン!
「
銃に残されていた最後の弾丸を抜き取ると、掌に包み込んで内蔵された魔力を取り込んだ。元より予備の弾がなかったため、ジャッカルはもうこの試合では使えない。マントに収納すると、取り込んだ魔力を魔法発動媒体である指輪に注ぎ込んだ。
「Drown to death carrying your dreams!! 緋の目に映りし中指の爪よ、縛鎖となりて敵を捕らえよ!
今度は詠唱することで数を増やした鎖が、ラカンの四肢に絡みついていく。
「ふんっ! そんなくさ――なっ!?」
思わず膝をついてしまいそうになるも、ラカンはどうにか持ち堪えた。
全身の気が鎖に吸収されていた。それだけでなく、吸収すればするほど強化されていく鎖を前に、彼の英雄も成す術なく身動きを止めてしまう。
しかし、そこまでだった。
「
「まさか、それだけじゃないよな?」
「……勿論、僕は前に進みます。貴方を倒して!!」
ネギは右手を鉤爪に変え、空高く持ち上げた。
「Drown to death carrying your dreams!!
右手の上には雷が生まれ、今か今かと暴走の時を待っている。
「――
呪文は完成した。けれどもネギはその雷をラカンに放たないまま……右手で握り込んだ。
「
右手を降ろして左手でその手首を掴み、取り込んだ雷を一転に集束させていく。千の鳥が一斉に鳴き出すような音を立てて、その術式は完成した。
「――雷切!!」
千雨とエヴァの次回予告
千雨「おい出番だぞ!! 頭に蝋燭巻いてないでこっち来い!!」
エヴァ「あの女が出てきたんだぞ。私が引導を渡さないでどうする!!」
千雨「知るか!!」
エヴァ「次回『やることやったので観光に行こう』を楽しみにしろ! よし終わった!!」
千雨「行かせねえよ馬鹿!! てかタイトル投げやり過ぎだぞおい!!」
一言「じっとしてろ!! まったく、ここまで怪我をするなんて……」
エヴァ「予告はやったぞ!! その手を放せ千雨!!」
千雨「だったら反対の手に持ってる鉈を降ろせ!!」