ファウード。
正式名称『魔導巨兵ファウード』。太古の魔界にて製造された超巨大な魔物で、世界を滅ぼす程の危険性ゆえに封印されていた。
しかし、ファウードは既に破壊されていた。
ある魔物の一族が、先に行われた千年に一度の魔界の王を決める戦いにおいて、その力を利用しようと企み、人間界に送り込んだのだ。そして、戦いの
ファウードに関する話はそれで終わり……の筈だった。
「……見っけぇ」
そこにいるのは、魔界にいるべきではない存在だった。
黒髪の長髪と長身をしたスーツの女だが、魔界の住人達が見れば驚愕を露わにするだろう。
何故なら、彼女は魔界の住人である魔物どころが、この世界に居る筈のない
「後はスカに座標を送って、っと……デバイスって便利だねぇ」
ついでに言えば、彼女こそ先のゾフィス脱走のきっかけとなった人物、ジェイル=スカリエッティの仲間であった。
彼女は自動小銃型のアームドデバイスから伸びたベルトを肩に担ぎ、腕時計型のインテリジェントデバイスで展開していた画面を畳む。そして、隠れていた洞窟から外に出た。
「ふぃ~……」
洞窟から外に出て、眼前の広場の中央に立ってから、彼女は漸く一息吐いた。
しかしその広場ははるか高空に位置しており、あと少し高ければ酸素ボンベが必要となっていただろう。
彼女は漸く味わえる開放感を一頻り楽しんでから、デバイスに届いたメールを再度操作して確認する。
「『座標確認、少し待て』か。もう少し魔界を見ていたかったけど「ならゆっくりしていけ」――……っ!?」
声のした方を向くと、そこには魔物がいた。
アームドデバイスを構えながらも、彼女はそこに突如、魔物が現れたことへの疑問が消し飛んでしまう。
その姿こそ、魔界の王ガッシュ=ベルとは瓜二つであった。が、かの王が『金色の魔王』であるならば、目の前の魔物こそが『白銀の雷帝』。
「……ゼオン」
「ほう、どうやら俺様は有名らしいな……転移者」
引き金を引く。
放たれたのは殺傷性の高い魔力弾、しかも着弾と同時に炸裂してニードル弾と化す凶悪な代物だ。
「……ラシルド」
しかし、雷帝には効果をなさなかった。
ゼオンの眼前にせりあがってきた雷の紋章が刻まれた防壁が、放たれた魔力弾を全て防ぐ。さらにはそのまま、雷撃を纏わせてから跳ね返した。
「ぅおっとぉ!?」
彼女はアームドデバイスを盾にしたり、身をひるがえしたりしてどうにか回避する。しかし代償として自動小銃型のデバイスを破壊してしまい、仕方なしに手放して地面に落とした。
「ああ、おっかない……漫画で読んでたより強いじゃん。その盾」
「ふざけたことを言う……」
ラシルドが消え、裏に隠れていたゼオンが姿を現すが、彼は不機嫌そうに右手を振る。地面の上を転がるのは数発の、鉛の弾丸だった。
「跳弾、というやつか。こんな平野で、お前が強いと言っていた
「あれ? ばれちゃってた?」
「銃撃の手合いは経験があるんでな……」
左手に隠し持っていた自動拳銃、デザートイーグルを構える彼女に合わせて、ゼオンも右手をゆっくりと挙げた。
「ああ、チェリッシュちゃんの時の――」
言葉はなかった。
マントを用いて転移してきたゼオンの蹴りを、彼女は左手の銃で防ぐ。間髪入れずに右手でも構えたもう一丁のデザートイーグルの
距離を取ろうと蹴りを放つが、それは互いの総意だったらしい。各々の足の裏が合わさり、予想以上に距離を開けてしまう。
「ガンレイズ・ザケル!!」
「ちっ!?」
咄嗟に突き出されたゼオンの手。その周囲に雷の紋章が刻まれた太鼓の様な物体が八つ現れ、そこから雷撃の弾が連射された。
しかし彼女もさるもの、向かってくる雷撃の弾を回避しながら接近し、銃身を掴んで打撃を与えようとしてくる。けれども、それはゼオンのもう一つの手によって防がれてしまう。
その間も
「これが転移者か。人間の癖に「あたたっ、あたたたたた!? 手首が痛いぃ……!?」――」……肉体はそうでもなかったか」
このまま手首を握り潰そうとも思ったゼオンだが、先程の様に不意打ちをされてはたまらないと逆に手放した。
彼女は距離を置いてから、銃を地面に置いてから握られた手首を抑えて、必死に息を吹きかけている。
「とはいえ、厄介な類だな……
「いや、そこまで便利じゃないよ……」
先程迄の回避能力を見て、ゼオンは相手が
そう判断したのだが、彼女はあっさりと否定してのけた。
「まあ、近いところはあるかもしれないけど、私のはただの未来視の一種。経験則からくる勘みたいなものかな」
「
「そりゃあ、私の姿を見られたら、他の転移者にあっさりばれちゃうからねぇ……こればっかりは」
それを聞き、ゼオンは内心で舌打ちした。
ブラゴの報告から、転移者の類には当人固有の能力の他に、『チート』と呼ばれる別種の能力を保有している可能性があると
つまり、彼女の言い分が正しいのであれば……
……ゼオンの目の前にいる人間の女は、まだ
「しっかし厄介だねぇ……おまけにこんな時に限って、何も借りてきてないし」
「
ゼオンの右手に、雷が
捕縛して情報を聞き出そうと考えていたゼオンだが、切り替えるしかないと瞬時に判断した。会話が増えている、つまり時間を稼いでいるのだ。
逃げられる可能性も考慮して、会話でどうにか情報を引き出そうとゼオンもそれに乗っていたのだが、これ以上野放しにするのは危険だ。
しかし、その判断は遅かった。
「おっと、時間だ」
「待てっ!?」
突如展開された見慣れぬ魔法陣に乗る彼女にゼオンは術を放とうとする。しかし、上級呪文ではもはや間に合わない。
「ザケルガ!!」
そう考えての貫通特化の雷撃。だがビーム状の電撃が到達する前に、向こうも手を打ってきた。
「……あ、そういえばあと一発で消えるから、って貰った能力があったの忘れてた」
貴様フザケルナッ!? と内心で罵るも、もう遅い。
デバイスを操作したのか、魔力でとある陣を手の甲に形成する。
それは
そして指から放たれた火花が酸素を伝い、ゼオンの放ったザケルガに触れ、雷に炎が合わさる。結果、大爆発を起こした。
「ぐっ!?」
「まぁたね~……」
声が遠ざかる。
マントの防御と転移を繰り返してどうにか爆発圏外から脱出できたゼオンだが、そこにはもう彼女どころか……
……
「……逃がしたか」
先程迄戦っていた天空の広場ごと転移者が消え去ったのを確認してから、ゼオンもマントを操作して転移していった。
スカリエッティの一味がゾフィスを拉致したのは、ある意味では、偶然ではなかった。
切っ掛けは、図書館で勉強していたモモンという魔物が、偶然にもある仮説を立ててしまったからだ。
曰く、「ファウードは他にもまだ存在する」と。
実際、再び禁書を調べたゼオン自身がそれを証明したのだから、間違いない。
しかし、所詮は身体のみ、ただの抜け殻に過ぎなかった。
元々はファウードを生み出す前に作り出された試作機らしく、生物としての活動は一切していない、言うなれば、肉体のみの存在である。
だから肉の塊として放置されていたが、技術的価値はある。勉強がてら調査したいと、名乗り出たモモンに捜索許可を出したのが全ての始まりだった。
しかしどこで聞いてきたのか、ゾフィスがブラゴの目を盗み、
それを捕らえようとブラゴが動くと同時に、スカリエッティの手により拉致されたのだ。
拷問(ティオのサイフォジオを見せつける)でゾフィスの口を割らせた限りでは、向こうもその話を聞いて狙いを定めたらしい。元々は魔界に眠る武器や宝物の類を狙っての拉致らしいが。
だからこそ定期的に見張りをしていたのだが、今回はその合間を狙われた。
だからこその単騎だったのだが、今回は相手の方が上だった。
(人間とはいえ、流石は転移者と言ったところか……)
ゼオンは魔界の中心に建造された城の中を歩きながら考えていた。別世界の住人、というだけでもピンキリがあると
「攻撃自体は対処できたが、あれで本気じゃないとなると……」
とはいえ、恐らくは搦め手の類だとゼオンは推測している。
ゼオンの最大攻撃呪文である『ジガディラス・ウル・ザケルガ』ならば一撃で消せるかもしれないが、それでは倒せないと自身の経験が
もしジガディラスを放っていれば、攻撃を防ぐか
玉座の間に着き、ゼオンは扉を開けて中に入る。
「今帰ったぞ。ガッシュ、無事だったか?」
「うむ。無事、なのだが……」
玉座に腰掛けるガッシュだが、そこには王特有の
「……これはなんとかならなかったのかのぅ?」
「何を言っている、ガッシュ」
ガッシュの周辺には人型の魔物や同じ大きさの魔物達が、完全武装で玉座を護衛していたのだ。しかも正規兵ではなく王の友人、つまりティオやキャンチョメ、ウマゴンをはじめとした魔界の王の戦いの時の仲間達である。
「大型の魔物で城外を囲み、正規兵で城内を巡回、そしてガッシュと気心知れた連中を周囲に配置してメンタル面もケア。最高の警備だろうが!!」
「流石に過保護すぎるのだ!!」
ここ数年で慣れたのか、あのガッシュですらゼオンにツッコんでから玉座から立ち上がった。
うん、うん……と周囲の魔物達も同調して頷いている。その中にロップスやチェリッシュ等、ゼオンに痛めつけられた過去を持つ魔物達が含まれている時点で、その深刻さが伺えることだろう。
「それよりも、ゼオンこそ無事だったか?」
「なんとかな……しかしあれが転移者というものか」
ゼオンとガッシュが向かい合って立つ中、周囲も警戒態勢を解き、武装を解除し始めていた。
「それよりもすまん、ファウードを盗られてしまった」
「仕方がないのだ。行先の心当たりは?」
「分からんが、手掛かりがあるとすれば、また
他の魔物も近づき、ゼオン達の話に聞き耳を立てていた。
前回ゾフィスが逃げ出した、人間界とはまた異なる別世界。
彼らはそこで何やら暗躍しているという。恐らく今回もまた、その為にファウードを強奪していった可能性が高い。
「……だったら話は早い」
ブラゴが一歩進み出て、ゼオン達に進言した。
「ファウードが強奪された。なら俺がまた、あの世界へ行くぞ」
現実的な案だった。
一度行ったことのあるブラゴの方が、明らかに土地勘がある。しかも彼のパートナーであるシェリーも前回は協力してくれた。勝手な願いではあるが、今回も都合がつけば手伝ってくれるかもしれない。
反対する意見は出なかった。
「いや……」
しかし、追加された提案はあった。
「今度は俺も行こう」
ゼオンもまた、あの世界へと向かうことを決めた。
ファウードを強奪された責任と、これ以上過ちを犯さない為にと。
それに……
「……約束も果たしたいしな」
その言葉は一番近くにいたガッシュしか聞き取れなかったが、それを素知らぬ顔で聞き流せる位には、彼自身の精神は成長していた。
故に堂々と、王は臣下に命じる。
「ではゼオンにブラゴ……頼めるかのぅ」
力強く頷く二人。しかし、出立にはいくらか準備がいる。
ならば先にあの世界の住人、麻帆良学園に警告と連絡をしなければならない。
結論が出揃い、ゼオンとブラゴは魔本を取りに、ガッシュはアースと麻帆良学園に送る手紙の文章を相談しに。
「ねえ……」
行動を開始しようとする彼らに、構えていた等身大の盾を壁に立てかけたティオはふと、疑問に思ったことを口にした。
「……ところでモモンは?」
『…………あ』
警備にもなるから、とモモンの調査許可を取り消さずに調べさせていた。
つまり……
『たぁすけてぇ~!!』
異変に勘付いたモモンは、ファウードが転移したことを自前の耳で感知し、思わず叫んでいた。
お、おまけが、おまけが足せなかった。
ネタはあるんだ。そのうち番外編とかも挟んでいきますので、今後もよろしくお願い致します。
くそぅ……高学歴モンスターめ。
シャーリー「……じゃあこの『戦場は、フリーウェイ』と『大航海ユートピア』は何?」
ストレス発散です。手当たり次第には書いているので勘弁してつかぁさい!!