魔法先生ネギま 雨と葱   作:朝来終夜

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第01話 木枯らしの吹く頃に

 麻帆良学園から夏が去り、秋も遠ざかろうかという頃。

「……ウェールズ?」

「そ。ジェイル=スカリエッティゆう男の足跡辿っとったら、なんかそっちの方、向かっとったみたいやねん」

「何考えてんだか……」

 麻帆良学園の外、それどころか東京のとある公園にて、千雨は栗色のセミロングで眼鏡を掛けた女性と会っていた。

 相手の名前は穂波・高瀬・アンブラー。魔法使い派遣会社アストラルに所属する魔法使いで、千雨が持ちうるコネクションの一つである。

 千雨は彼女に、アストラルにある依頼をしていた。

 それがジェイル=スカリエッティのロンドンでの足跡である。元々はAMFの出所を調査する為に依頼していたのだが、背後に控えている人物が判明してからはそちらの情報も探して貰っていたのだ。

 そして受け取った結果が、ウェールズという地名である。正確には連合王国の内の一国であるが。

「一応継続して調べとるけど、どないする?」

「続行で。ただしやばいと感じたら、その場で退()いてもかまわない」

 紙幣の詰まった封筒を穂波に渡し、千雨はコートの前を抑えた。

「……やばい、って聞いてへんけど?」

「いや、そっちの地域は立派な魔法使い(マギステル・マギ)が絡んでんだわ」

「ああ、そゆことかいな……」

 厳密にいうと、穂波の所属する結社、魔法使い派遣会社アストラルの面々は立派な魔法使い(マギステル・マギ)というわけではない。一応取引こそあれど、あくまで『自分達のルール』で活動している為、その範疇(はんちゅう)で彼らと揉めることも多々ある。

 大抵は権力争いに巻き込まれるだけだが、偶にとんでもない厄種を招くこともあるので、基本的には『仕事を依頼されない限りは関わらない』というのが、アストラルの行動指針だった。

 そこを理解しているからこそ、千雨は念の為に予防線を張ったのだ。

「一応、千の呪文の男(サウザンド・マスター)一族の故郷だからな」

「そういやそやな……ほんならその手前までやね。やからちょっとでも接触があったら、そこでやめさせてもらうで?」

「それでいい」

 話は終わり、穂波は封筒をスーツの内ポケットに仕舞ってから千雨の元を去った。

 しかし千雨は立ち去ることなく、携帯を操作してある人物に電話を掛けた。

「……満足か?」

『まあね……』

 電話の相手はこなただった。

 以前隠し事は無しだと約束した為、遠くで盗聴器越しに会話を聞くだけ、という条件で今回の接触に加わらせたのだ。

 実際は『ウェールズに向かっている』こと以外は空振りに終わってしまったが、こなたにとっては後で聞かされるよりも、こうやって一緒に話を聞いている方がまだ良かった。

 ……誤魔化された、という疑いを持たずに済むから。

 千雨は電話を耳にあてながら、煙草を取り出して口に咥える為に運んでいく。

「一服したら車に戻る。エンジンかけといてくれ」

『それはいいけど千雨……大抵の公園って、全面禁煙じゃなかったっけ?』

「…………」

 こなたから返された素朴な疑問に、千雨は咥えかけた煙草をソフトパックに戻した。

「……コンビニ寄ってくる。欲しいものあるか?」

『だったら、そっちに車持っていくよ』

「じゃあ入口の所にあったコンビニで」

 喫煙者にとっては世知辛い世の中だな、と千雨は考えながら、コートのポケットに手を入れて歩き出した。

 

 

 

 

 

 冬が風を支配し、木枯らしが吹きすさぶ時節。

 長谷川千雨は相変わらず、転移者達の行方を追っていた。

 第二の人生を謳歌するまでならまだ見過ごせるが、時に牙をむく可能性がある以上、放置はできない。

 大学の単位も卒論も問題ない。卒業後の進路も既に絵図は引けている。だからこそ、千雨は未だに戦い続けていた。

 ただし、夏の戦いからその状況は一変していたが。

「ほんと、お人好しばかりだよな……」

「そこはせめて人徳、って言っとこうよ」

 東京から埼玉にある麻帆良学園都市への道すがら、こなたが運転する隣で、千雨は資料をめくりながらぼやいていたことを注意され、静かに肩を竦めた。

 今回は情報収集だけなのでこなたしかいないが、夏からこちら、千雨が行動する度に必ず誰かが付き添う形を取るようになった。千雨自身煩わしく思うことも少しはあるが、それでも自分の為に動いてくれていると理解している以上、そこまで多くは言えずにいた。

 基本的には上条達や高音をはじめとした関東魔法協会の面々だが、偶に白き翼(アラアルバ)も混じってくるのだから、千雨の中に芽生えた罪悪感も一時期は内心でかなりひどく、暴れ回ったものだ。

「しかし、ウェールズに向かうにしては、妙な足取りだよな……」

「……何が?」

 高速道路を走行しているとはいえ、車の数が多い。渋滞手前位の速度で進行している中、こなたは千雨の話に乗ってきた。話の内容が気になる上に、眠気覚ましも兼ねて。

「最初はお前の言う通り、聖地巡礼かとも思ったんだが……それにしては、道すがら変な情報を集めているみたいでさ」

「ふぅん……どんなの?」

「吸血鬼伝説」

 徐々に車が引き始め、千雨達の乗るプレオも速度を上げていく。

 ハンドルを握るこなたはアクセルを踏みしめながら、視線を前方から外さず、千雨に問いかけた。

「……ルーマニアの間違いじゃないの?」

「ついでに言えば、闇の福音(エヴァ)でもない」

 千雨は資料を閉じ、後部座席に放り捨てた。

「詳しくは知らんが、昔そんな伝説があったらしい。で、それをスカリエッティは何故か、事細かに調べながらウェールズに向かってたんだと」

「そんなの聞いたことないけど……」

「私だって初耳だよ……」

 煙草の代わりに、コンビニで買ったガムを咥える千雨は、座席に深く腰掛けた。

「……ま、調べないことには始まらない。一応地元の人間(ネギ先生とか)に聞いてみるつもりだが、そっちでも調べてみるか?」

「そうするつもりだけどさ……うまく調べられるかな?」

 現時点では情報が少なすぎる。

 おまけにエヴァンジェリンという、吸血鬼の賞金首までいるのだ。その情報が阻害して、こなたの持つチート『地球(ほし)の本棚』ではかえって、うまく調べられないかもしれない。

「今回もお預けかな……」

「こればっかりは仕方ないさ」

 高速道路を降り、近くのコンビニで小休止しながら、千雨はそう締めくくった。

 既に埼玉県に入り、後は一般道を走るだけで夕方迄には麻帆良学園都市に入れるだろう。コンビニの前で煙草を吹かす千雨の隣で、こなたはしゃがんでホットココアをちびちび飲んでいた。

「ゆっくりいこう。どうせスカリエッティの一件が片付いても、人生は続くんだ」

「そうだね……うん、そうだ」

 その胸中に浮かぶ景色を、千雨はなんとなく悟っていた。

(そう……まだ続くんだ…………)

 親のいない身(・・・・・・)である千雨ではきっと、こなたの気持ちは少ししか分からないのだろう。しかし、少しでも分かってしまうのだ。

(あの似非坊主……)

 フィルターしか残っていない煙草を灰皿に捨て、千雨は缶コーヒーを取り出してプルタブを開ける。

(やっぱり一人は…………寂しいじゃねえか)

 もしかしたら、もう引き籠れないかもしれないな。

 そう内心(うそぶ)きながら、千雨は缶コーヒーを一息で飲み干した。

「こなた、もう行こうぜ。こんだけ寒いと心まで凍えちまう」

「そうだね……ちょっと嫌なこと思い出しちゃったし」

 それぞれ空き缶をゴミ箱に入れ、二人は車に乗り込んだ。今度は千雨が運転席に着き、エンジンを点火する。

「本当嫌だったよ……前世で行った冬のコミケでさ、狙ってた同人誌売り切れてたんだよね」

「……お前後で張っ倒す」

 理不尽だ! と叫ぶこなたを無視して、千雨はアクセルを踏み込んだ。

「ぎゃふっ!?」

 合図抜きで。

 

 

 

 

 

「はあ……」

 所変わって麻帆良学園都市。

 世界樹を中心とした広場の端にて、犬上小太郎は転落防止用の柵にもたれかかっていた。かつてネギ達と知り合った当初と違い、成長しきった彼にとって、柵の高さは既に腰より上には届いていない。その事実に小太郎は気付くことなく、学園都市の街並みを静かに眺めていた。

 しかし、小太郎の傍には誰もいないわけではない。

「小太郎君、ジュース買ってきたけど飲む?」

「あ、ああ。悪いな、ネギ……」

 そこにいたのは、仕事の都合で麻帆良学園都市を訪れていたネギ・スプリングフィールドだった。今日も仕事帰りなのだが、帰宅途中で偶々出会った小太郎を放置できずに、ジュースを買って戻ってきたのである。

「アボガド・マキアートとプルコギエキス、どっちがいい?」

「……どっちもええわ」

 ろくな選択肢がないと、小太郎は諦めてそっぽを向いた。映画の撮影でちょい役しかやらせてもらえなかった時と同じくらいの悲しみがまた去来するとは、彼自身も思ってなかったのである。

「というか慰める気ないやろ、お前」

「いや、正直事情が分からないから、なんとも言えないんだけど……」

 ジュースは一先ず鞄の中に仕舞い、ネギは空いた手の指を小太郎の顔に向けた。

「……なんで夏美さんに殴られたの?」

「それが分かれば苦労せんわ……」

 小太郎はしゃがんで柵の手すりに腕を乗せると、とうとう頭を伏せってしまった。

 

 

 

 顔に作った青(あざ)を隠すように。

 

 

 

 そもそもの起こりは、ネギが仕事を終えて実家であるナギのマンションへと帰宅している時のことだった。遠目に顔馴染み達がいるのを見つけ、声を掛けようと杖を片手に浮遊して近寄ったのだが、声を掛ける直前に状況が急に変わってしまったのだ。

 具体的に言うと、ネギが見下ろしている前で夏美が叫びながら、小太郎に強烈な右ストレートを見舞ったのである。

「そもそも、二人で何していたの?」

「ああ……ネギが麻帆良に帰ってる、って聞いて滋賀県からこっち来たんやけど「え? 滋賀県?」――楓姉ちゃんの実家があるんや。暇やったからそこで修行がてら、住み込みで働いとってん」

 そう言えば、甲賀忍者だっけ? とネギが思い出している中、小太郎はとうとうと話を続けていた。

「ほんでせっかく会ったし映画見に行こか、ってことになったんやけど……」

 その時の会話。

『『武官弁護士エル・ウィン』にしようや!!』

『私は『トワ・ミカミ・テイルズ』が見たいの!!』

「……結局、間を取って『トラブル・てりぶる・ハッカーズ(20年以上前のラノベ作品)』になったわ」

「どんな間!? というか今現在でその話分かる人居る!?」

 思わずネギがツッコむも、小太郎は気にせず話を次に移した。

「その後も喧嘩の連続や……」

 その一部を抜粋してみると、こんな感じである。

『こっちの店の方が量多い!!』

『こっちのお店の方がおしゃれ!!』

『身体動かしたいならボーリングにしようや!!』

『だったらカラオケで思いっきり歌おうよ!!』

『ゲーセンゆうたらアーケードで格ゲーやろうが!!』

『かわいいぬいぐるみ見つけたからクレーンゲーム!!』

『和食!!』

『洋食!!』

 そして二人は移動中も喧嘩を続け、とうとう夏美の怒りが臨界点を超え、

『この馬鹿ーっ!!』

 渾身のストレートを放ってから、怯んだ小太郎を放置して立ち去ったのである。

「……よく喧嘩続けながら、長いこと一緒にいられたね?」

「自分でもよぉ分からんわ……」

 未だに不貞腐(ふてくさ)れる小太郎の背中を眺めながら、ネギはどうしたものかと腕を組んで悩んだ。しかし悩んでいる間にも、夜は更けていく。

「とりあえず、ご飯にしよう。付き合うからさ」

「ああ、悪いな。ネギ……」

 携帯でナギに連絡を入れてから、ネギは小太郎と並んで歩き出した。

 

 

 

 

 

「……ところで、あれ結構グロいシーンなかったっけ? 見た後お昼食べられたの?」

「ああ……さすがにその辺りは(ぼか)されとったわ。今じゃ多分できへんで、あれ」

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