魔法先生ネギま 雨と葱   作:朝来終夜

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第03話 男の裏で女は苦労する

「漸く麻帆良に着いたか……」

「もう完全に日が暮れちゃってるね……上条君心配してないかな?」

 季節は冬。

 闇が支配するのが早い季節の中、千雨達の乗るプレオは麻帆良学園都市の中へと入っていく。すでに下校時刻は過ぎているので、当直や見回り中の教師か、侵入者に備えて影に紛れている魔法関係者位しか人の気配がない。この寒さでは、誰も外に出歩きたがらないのだ。

「……停めるぞ」

 そう……よっぽどの事情か、悪事に手を染めない限りは。

 千雨は車を停めると、ゆっくりとドアを開けた。こなたも続いてプレオから降りると、車の陰に隠れてシグ・ザウエルP228を構えて、残弾を確かめている。

「事情が分からないから、そこに居て見張っててくれ」

「ほいさー」

 軽い口調とは裏腹に、こなたは右手に銃を握り、鎖を垂らして周囲に視線を巡らせていく。そんな頼もしい相棒を背に、千雨は道の端で蹲っている人物に声を掛けた。

「そんなボロボロでどうしたんだよ……村上」

「…………長谷川?」

 顔を上げた人物、村上夏美は声を掛けてきた相手が千雨だと分かり、ぼんやりとした眼差しを向けたまま立ち上がろうとすらしなかった。

 身に纏っている服は破れていないが、身だしなみは乱れて、裾もボロボロ。乱暴にされたというよりも、動き回ってあちこちに引っ掛けた様子だ。

「何かあったのか?」

「何でもない……」

 落ち込んでいるようだが、今は日が沈んで夜が支配している。このまま放置しておくのはまずいだろうと、千雨は強引に夏美を引き起こした。

「取りあえず落ち込むなら、別の場所にしとけ。こなた!」

「ほいほい! ……大丈夫そう?」

「今のところはな……あっちも警戒するまでもなさそうだし」

 空いた手でシグ・ザウエルP228を構えようとするこなたを制し、千雨は暗闇に紛れて近づいてくる人物に声を掛けた。

「久し振り、って言うべきか? ……総督殿」

「別にかまわないよ。電話やチャットでよく話しているしね」

 クルト・ゲーテルMM元老院総督は軽く手を上げてから、夏美の手を掴んでいる千雨の前まで歩いてくる。こなたも銃を握ってはいるが、銃口はすでに下を向いていた。

「偶々通りかかったんだけど、丁度いい。ちょっと時間取れないかな?」

「急ぎじゃないならこいつが先だ」

 夏美を連れ、千雨は車に向かった。

「それでもいいなら車に乗ってくれ。とりあえず喫茶店『Imagine Breaker』(こなたの家)に行くからさ」

「むしろ助かるよ。彼女達の喫茶店にも、一回行ってみたかったしね」

 クルトにはすでに転移者の話をしていた。

 今回もネギとの仕事で麻帆良学園都市に訪れていたのだが、彼も長期の休みを取ろうとしているらしい。

「こなた、悪いが村上と一緒に後ろに座ってくれ」

「はいはい、でもちょっと待って」

 夏美を強引に後部座席に乗せている千雨とは別に、こなたはクルトと向き合い、意外と長身な彼を見上げた。

「色々言いたいことはあるけれど、先にこれだけは言わせて」

「……何かな?」

 クルトは乾いた笑みを顔に張り付けていたが、内心では奮い立つ感情を抑えるのに必死だった。

 転移者の中には『原作知識』という、こちらの世界を覗き見ていた記憶があるのだ。中にはクルトの立場を危うくするものから恥部に至るまで、どんな情報が出てきていてもおかしくない。

 若干身構えつつ耳を傾け、こなたの言葉を待った。

 

 

 

「映画のスタイリッシュ土下座リアルで見せて!!」

「断固断る!!」

 

 

 

 しかし待っていたのは、原作とは関係ない筈の黒歴史だった。

「……こなた、言っとくけどあれ、メイキング映像でやっていたのもただの思いつきだからな?」

「え~、ちゃんと考えているのかな~て思ってたんだけど」

 それを聞き、クルトの頬を一滴の汗が伝った。どうやら一応、自分で考えてはいたらしい。

 

 

 

 

 

「ところで四宮君。私達って付き合っているんですか~?」

「どうだろうね~?」

 最後の客だろう、二人組の男女とすれ違った千雨達は喫茶店『Imagine Breaker』へと入っていく。

「ただいま~」

「はいお帰り……っと、最後に結構来たな」

 そう言ってツンツン頭の男、上条はテーブル席を片付けてカウンター裏に引っ込んだ。

「紅茶を四人前で。後で領収書も、あて名は白紙で頼むよ」

「……食事代経費で簡単に落とせるとか、アホだろ」

「そのアホなんだよ、メガロメゼンブリア元老院(あそこ)は……」

 学生等、社会人でない方は経費について調べてみて下さい。未来が切なくなりますけど。

「だから有効活用させてもらっているのさ」

 全員一先ず、手近な椅子を寄せて四人席を作ってから、それぞれ席に着く。丁度閉店間際と言うこともあり、上条も注文の品を並べると、カウンター席に一人腰掛けた。

「さて、席に着いててなんだけど……男は外した方がいいかい?」

「いえ、大丈夫です……」

 紅茶の入ったカップを両手で抱える様に持ち、膝の上に置いた夏美は、それをじっと見下ろしていた。周囲は急かすことなく、彼女が口を開くのを静かに待っている。

「実は……」

 気落ちはしていても、話す内容は小太郎のものと同じだった。繰り返しになるので詳細は『第01話 木枯らしの吹く頃に』を参照してください。後半です。

 端的に言えば、最後に小太郎をぶん殴ってからあちこち走り回り、体力が尽きて(うずくま)っているところに千雨達が話しかけたのが、この話の顛末(てんまつ)である。

「まあ、グーならいいんじゃないか? パーだったらシリアス寄りで笑い話になんないし」

 と上条が発言するも、周囲は冷たく突き放した。

「女に手を出させる時点で駄目話だ馬鹿」

「だからモテないんだよ。上条君」

 違うんだ、違うんだ……と頭を抱えて(うめ)き出す上条を放置し、辛辣(しんらつ)な言葉を放った千雨とこなたはどうしたものかと、黙り込んだ夏美の方を向いた。

「それで、村上はどうしたいんだ?」

「分かんない……」

 本当に分からないのだろう、夏美は頭を抱えて、テーブルの上に伏せてしまう。それを千雨は咎めることなく、当人が落ち着くまで、考えがまとまるまで待つことにした。

「こんな時になんだけど……」

 しかし手持無沙汰になるのが嫌なのか、クルトが口をはさんでくる。

「実はプライベート寄りな相談事があってね。気分直しに聞いてくれるとうれしいんだが、静かに一人で考えている方がいいかな?」

 どちらかと言うと、意識を一度ずらして悩みを考え直す機会を(もう)ける意図があったのかもしれない。でなければ、いくら何でもこのタイミングで話題を振ってこないだろう。

 そのことに気づいた周囲も、あえて口を(つぐ)んで見守っている。

「いえ、私も考え込んじゃっているので……よければ話してください」

 顔を上げた夏美に許可をもらい、クルトは彼女の気分転換になればと、自分の悩みを打ち明けた。

「……実は葉加瀬君のことでね」

 こなたと上条が顔を伏せた。

 周囲は何事かと思ったが、その当人達に先を(うなが)されたので、クルトは気にせず話を続けた。

「AMF関連の研究を彼女に頼んでいただろう? その件で彼女の功績を称えたいんだが……『超鈴音』の関係者だったから上手くいかなくてね」

「ああ……あの一件か」

 忘れるわけがない。

 なにせ千雨が魔法世界に関わることになった事件なのだから。

「そう言えば、あの事件で一応は『前科持ち』になったんだっけ?」

「ほとんど形だけだから経歴にさほど影響はないけど、そこをむやみにつつくのが今の元老院だからね……」

 むしろ、その一件がなければ今の世界は成り立たない。

 しかし、表立った権威を主張し、黒い染みを見つけては広げてつつき回すのが彼らなのだ。真っ向から対立する程の理由がない以上、無理に進めるわけにはいかない。

「だから代わりに個人的なお礼でも、と思ったんだけど……彼女独身だろ」

「おまけにまだ学生だぞ。あいつ」

 確か大学卒業後はそのまま大学院に通いつつ、ISSDAからの依頼を受けて研究を続けると、千雨は聞いたことがあった。AMF関連の研究の時もそうだが、仕事で3-Aの級友と会うことは結構多い。無論国内組に限るので、海外出張組のネギや明日菜と会うことは稀だが。

「彼女の為にも、下手なやりとりはできなくてね。何かいい方法はないかと思って相談に来たんだよ」

「まあ、葉加瀬には私も散々世話になっているしな……」

 個人的な形にはなるだろうが、仕事のお礼をするというのも社会人としては必要なことだった。そういう積み重ねが、存外次の仕事への潤滑油になることも多い。

「だから今度、飯でも奢ろうかと……使えるかもしれないな」

 何かを思いついたのか、千雨は顎に手を当て、脳内で思考を巡らせていった。

「となると後は面子か……村上、ちょっと待っててくれ」

 千雨は夏美を座らせたまま、クルト達を呼んで反対の隅に集めた。四人で円形を組んだまま、内緒話を広げていく。

「……で、何を思いついたの? 千雨」

「合コン」

 周囲が若干冷たくなるのを感じたが、千雨は気にせず話を続けた。

「……という名の食事会だ。要するに適当な理由をつけて食事会をするんだよ。丁度クリスマスも近いしな」

「なるほど、集団の食事会で同席していただけなら言い訳も立つ」

「おまけにあの二人も参加させてこっそり孤立させれば、強引だが会話もさせられるしな……」

「でも、二組じゃ面子が足りないんじゃない?」

「問題はそこなんだよ……」

 千雨の思惑を実行に移すには、最低三組が必要になってくる。一組はただのデートになって話が流れるかもしれないし、二組でもダブルデートの範疇(はんちゅう)だ。合コンなり食事会なり、集団の態を成すには最低でも三組以上が望ましい。

「事情の分かっているカップルが理想なんだが……お前ら、出るか?」

「やめた方がいいって。私はともかく上条君、ラッキースケベ属性があるし」

 若干落ち込む上条をクルトが慰めているのにも気付かず、二人は言葉の刃を振り下ろしてからも他の候補をひねり出していた。

「佐倉愛衣さんは? この前ピー君と歩いているの見かけたよ」

「できればISSDAの関係者で固めたいんだよな。小太郎も村上も、一応そっちの事情は理解できているし」

「……あの、だったらいいかな?」

 おずおずと手を上げて、クルトが一つの提案を繰り出した。

「千雨君が出るっていうのは、駄目なのかい?」

「私? いやいや、待て待て。そもそも相手が『いる(よね・じゃん・だろ)』――……マジで?」

 全員の返答で、千雨は思わず頭を抱えてしゃがみ込んだ。その相手にすぐ思い当たったからだ。

 他の面々も目線を合わせて追撃を繰り出してくる。

「千雨がネギ先生呼んだら、世界が滅びない限り飛んでくるよ。もしくは仕事に忙殺されない限りは」

「いや、でも……」

「元々彼のハニートラップ対策もした方がいいんじゃないか、って相談するつもりだったんだ。転移者が何をしてくるか、予想がつかないからね。女性慣れさせるには丁度いいと思うけど」

「あ~、だけど、な……」

「というか、自分だけ蚊帳の外なのはおかしいだろうが。言い出しっぺ」

 その上条の一言が止めとなった。

 

 

 

「……ああ、もう分かったよこんちくしょうが!!」

 

 

 

 頭を掻き(むし)りつつ勢いよく立ち上がり、千雨は夏美の方を向いて声高に宣言した。

「村上、合コンするぞ!!」

「…………へ?」

 どうしてそうなったのか理解が追いつかないまま、夏美は勢いに押されて呆然としてしまった。その為、千雨の仕切りを止めることができなかった。

「上条、こなた、この店予約(リザーブ)。日程が決まり次第、閉店後貸し切りで」

『アイ、マム』

「総督はISSDAから経費捻出、ついでに葉加瀬もそっちが誘え。名目は『仕事のお礼がしたいから、一緒に食事会に行かないか』だ。エスコートを前提に話を進めておけ」

「ああ、それくらいなら喜んで」

「必要な物はRUDEに用意させるか。3-Aは色々面倒だからこれ以上話を広げられないし……いや、神楽坂やいいんちょ辺りには話しておかないと、万が一こじれた時に面倒が…………」

 

 

 

 

 

 どんどんと話が進んでいく中、夏美は内心で思った。

(……どうしてこうなったの?)

 それは、誰にも分からなかった。

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