魔法先生ネギま 雨と葱   作:朝来終夜

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第05話 この世で一番腹が立つのは、中途半端に読んだくせに全て理解した気でいる奴らだ

 翌朝。

「どうやら普通で二駅みたいですね。全員分の切符を買ってきます」

「ああ、頼んだ」

 午前五時、始発電車が出る十数分前にネギ達は西宮駅の前にいた。未だに眠いのか、ネギとエヴァンジェリンはベンチに腰掛けたままウトウトしている。これが覚醒状態ならば、ラブホテルのベッドでエヴァンジェリンが暴れ出していたこと請け合いな状況だったが。

 千雨は近くの自販機から缶コーヒーを購入して、眠気覚ましに一息で飲み干した。

「ねむ……」

 流石に朝早すぎたのか、疎らに人がいるだけで、駅はものの見事に静かだった。

「……ん?」

 だからこそ気付いたのだろう。千雨は空き缶をスーツケースの上に置くと、右手を静かに腰の方に動かした。

「警戒しないでください。元々西宮に控えていた、ネギ君、いえ貴方方の味方です」

「味方だと……」

 静かに近寄って来た白髪の少年は、千雨にそう答えた。

「正確には協力関係を敷いているんです。尤も、本格的に助けの手を伸ばせるのは、もう少し先ですがね」

「……ああ、そういうことか」

 心当たりが浮かんだのか、千雨は右手を下ろして、警戒を解いた。

「随分あっさり解きますね。これも虚言かもしれなかったのに」

「向こうが協力者に化けて近づくことはないさ。まだ何処の誰かも理解していないのに、下手をすれば直ぐばれるんだからな」

 周囲に人がいないのを確認すると、千雨は腕を組んで問いかけた。

「それで、お前はどっちの所属なんだ?」

「これは申し遅れました。……完全なる世界(コズモエンテレケイア)所属のフェイト・アーウェルンクスです。以後お見知りおきを」

 そうフェイトは腰を折り、挨拶して返した。

 

 昨年のウェールズにて、協力関係は結ばれた。

「取引?」

「そう、取引だネギ君」

 魔法学校から少し離れたカフェテラスにて、ネギとフェイトは向かい合って話をしていた。取引の内容は、ネギが7歳(正確には違うが、肉体年齢は可能な限り時の流れに合わせているため、周囲が気づくことはない)の時に偽名でアリアドネーに提出したある魔法理論についてである。

「我々は魔法世界の崩壊に対処するために行動している。ただしやり方が違い、MM元老院とは対立しているために、今は犯罪者ということになってはいる。けれども君の書いたこの理論を応用すれば、どちらの手段を用いることもなく、魔法世界とそこに住む全ての人々を救えるんだ」

 フェイトはテーブルに広げたネギの論文の写しを指差し、そう説明すると目の前のコーヒーを飲んで一息ついた。

「無論、合法・非合法を問わずに君が望む対価を支払うつもりだ。なんならアリアドネー留学の権利を取り戻してもいい」

「……いや、もう良いよ」

 その時のネギは、全てに疲れ切っていたようだった、と後にフェイトは語っている。

 紅茶に手を伸ばしたネギは、カップを持ち上げたまま、口に含もうとはしなかった。

「もう、“魔法使い”として、生きるつもりはないんだ。誰もが魔法に飲み込まれている、こんな世界に生きたくないんだ」

 その時のネギの脳内には、強制認識から外れたせいで今も苦しんでいる千雨や、呪いが解けずにただ立派な魔法使い(マギステル・マギ)の傀儡にされているエヴァンジェリンのことが浮かんでいた。

「……だからフェイト、合法・非合法に関わらず、僕達が逃げ出すのを手伝ってくれ」

 フェイトが顎に手を当て数刻、彼は申し訳なさそうに答えた。

「こちらで頼んだ物が完成するまでは物資供給しかできない。司法取引や法の目をかいくぐってだと、それが限界なんだ。だからそれまでじっと、魔法使いとして生きるという選択肢は「ないよ」――そうか。……一番きついが、君にとってはそれが良いのかもしれないね」

 フェイトは立ち上がり、伝票を持ってネギに背を向けた。

「商談成立だ。頼んだものを完成させた瞬間、MM元老院と僕達完全なる世界(コズモエンテレケイア)は君を、君達を守ることをここに誓うよ」

 以来、二人は顔を合わせることはなかったが、それでも連絡は密に取り合っていた。

 

「そうですか。フェイトが……」

「ああ、ここの鍵を渡した途端、どっかに消えたよ」

 芦屋駅に着き、ネギ達は事前に手配したマンションの一室に向かうために、エレベーターに乗った。このマンションもフェイトが手配していた物で、ネギは到着次第連絡を取ろうと考えていたのだが、向こうが気付く方が早かったようだ。

「このマンションは元々新築で、居住者も少ないからしばらくは人目を凌げるらしい。流石に表だって護衛はできないが、完成次第駆け付けられるよう、可能な限り近くに控えているってさ」

「それでも完成させなければ意味がない……」

 エレベーターから降り、一行は与えられた一室へと入って行った。

「急いで完成させます。昨夜の独断専行でしばらく両協会が衝突しているでしょうが、それも時間の問題です。こうなったら早く完成させて、直ぐに彼らの庇護下に入った方がいい」

「そうだな。……巻物を使うか? 精神鍛錬しかできんが、理論を組むだけならば可能だ。時間も72倍に伸ばせる」

「いえ大丈夫です、エヴァさん。理論はできています。後は魔法陣を書き上げてしまうだけですから、以前言っていた別荘の方を貸して下さい」

 そう頼むネギだが、エヴァンジェリンは申し訳なく目を伏せた。

「すまない。別荘の方は使えないんだ。中には入れるが、移動させるために陣を書き換えたから時間は伸びない。しかも別荘は向こうの荷物に混ぜていたんだ」

「そうですか……いえ、大丈夫ですよエヴァさん。僕が頑張って完成させますから、安心して下さい」

「すまない……すまない…………」

 俯くエヴァンジェリンの頭を撫で、ネギは彼女を優しく抱きしめた。

「……もうすぐ春だな」

「もうすぐ春ですね」

 千雨と茶々丸は我関せず、と荷物を広げた。

「私は幻術の首飾りで外へ買出しに行ってきますが、千雨さんはどうします?」

「風呂入ってくる。いい加減汗を流したい」

 そう言って千雨は着替えを持って、風呂場へと入って行った。

 

 同時刻、ロンドンのヒースロー空港にて。

「漸く着いたか。……久しぶりだな」

 タカミチはロンドンに降り立ち、ウェールズの郊外までの足を探しに行った。

「できれば早く、ネギ君の動機を知れればいいんだけど……」

 その瞳は遥か、日本へと向けられていた。

 

 同時刻、麻帆良学園学園長室にて。

「そうか。……うむ、うむ…………あい分かった。済まなかったな、婿殿」

 ガンドルフィーニ達、魔法関係者の前で学園長は受話器をゆっくりと置いた。

「学園長! 今すぐ他の人員を兵庫県に結集「ならん」――何故ですっ!?」

 ただネギ達を捕まえればいいと考えている魔法関係者達を宥め、学園長は命じた。

「刀子君達、正確には刀子君だが、独断で先行しすぎたようでのぅ。西は魔法の隠蔽にてんてこ舞いじゃ。負傷した神多羅木君は保護して貰えたが、刀子君に関しては向こうで謹慎処分中。そして東の人員派遣は無理とのことじゃ」

「そんな……」

 この時、正義と言う理想に溺れている者達に学園長が気付けたならば、

「とにかくこの話は終わりじゃ。後は西の者に任せる。よいな?」

 ……この先の悲劇を起こさずに済んだものを。

 

 そして、何も起きないまま三日が過ぎた。

「うん、そう、完成したんだ。造物主の掟(コード・オブ・ザ・ライフメーカー)とのリンクが一番大変だったけど、その問題もクリアした。……うん、分かった。待ってるから急いで」

 正午。全てが片付いたネギは、今は離れた場所にいるフェイトに連絡を入れていた。しかしタイミングが悪く、控えていた護衛共々現在は別の場所にいるため、保護下に入るにはまだ時間が掛かった。

「なんとか翌日の朝までには駆け付けるそうです。その際、MM元老院の人達も連れてくるので、護衛としては確かですよ」

「漸くか。長いようで短い数日だったな……」

 エヴァンジェリンのぼやきに、他の者も頷いて応えた。

 計画に多少の齟齬があるも、追手を捲けるのであれば文句のつけようがない。ただし必要なのは翌日の朝まで捕まらないこと。ここで捕まってしまえば、全てがふいとなってしまう。

「全部終わったらその足で神戸に行こうぜ。いい加減、ネトゲのない生活にはうんざりだ」

「僕もですよ。それにもう、ゆっくりしたいですしね」

 今は全員、適当なところに腰掛けてゆっくりと茶を飲んでいる。

 もうすぐ全てが終わり、魔法世界ともおさらばできるのだ。それを思うと、この落ち着きも納得ができる。

「ところで茶々丸。食料は足りているんだろうな?」

「問題ありません。が、今日の夕飯くらいしかありません」

「別にいいですよ。全てが終わったら適当なホテルで豪華な朝食にありつきましょう。幸い、結構な金額をおまけで用意してくれるらしいですし」

 ネギの答えにエヴァも満足したのか、カップを茶々丸に渡すとすぐ横になってしまった。

 ネギ達も各々で休息を取るために、適当な場所に寝転がってしまう。

 

 けれども、彼らが平穏を得るのはもう少し先の様だった。

「目標は未だにマンションから出てきません。今日は外出しないようです。……はい、このまま見張りを続けます」

 関西呪術協会。その中でも協会の長、近衛詠春に反感を抱く者達の一派が、ネギ達の居るマンションを取り囲んでいた。彼らはネギ達を亡き者とし、その責任を追及されるであろう長を嵌めようと画策していたのだ。

「突撃は明日だ。相手は四人くれぐれも油断するなよ?」

 その一言で、隊長格を一人残して残りは姿を消した。

 

 同時に、関東魔法教会の人間、とりわけネギ達を『悪』だと決めつけた者達が西の者達とは別の場所でマンションを睨んでいた。

「動きは無しか……」

「突入しましょう、ガンドルフィーニ先生!!」

 高音が強硬策を提示するも、ガンドルフィーニは待ったをかけた。

「魔法を見られるわけにはいかない。特に関西の人間に見つかればやいのやいのと五月蝿く言ってくるのは目に見えている。だから行動は夜だ」

「分かりましたわ。……全く、何を考えているのでしょうね、彼は」

「全くだ。よりにもよって悪の魔法使いであるエヴァンジェリンや魔法とは関係のない一般生徒を巻き込んでの逃亡劇等、立派な魔法使い(マギステル・マギ)としての義務を蔑ろにしているとしか思えない」

 彼らもまた散り、マンション周辺には必要最低限の見張りしか残らなかった。

 

 ロンドン、ヒースロー空港。

「本当なんですか、学園長!? 魔法関係者の一部が先走って兵庫県に向かったというのは!?」

『本当じゃタカミチ君!! 儂も直ぐに関西へ駆け付ける故、君もそのまま向かってくれ』

「分かりました!! では後程!!」

 タカミチは報告のために使っていた公衆電話の受話器を置き、後ろで待っているクルトとフェイトに振り返った。

「不味いぞ!! 既に追手が向かったらしい!!」

「これだから立派な魔法使い(マギステル・マギ)の連中は……」

「その辺りは同意する。昔から全然変わらないっ!」

 彼らは急いで用意されたチャーター機の搭乗口に乗り込んだ。

「早く出せっ!! 時間がない!!」

 クルトの指示に従い、チャーター機は日本へと飛び立った。

「ネギ君……」

 拳を強く握りしめ、タカミチは歯を食いしばった。信じていたものが間違っており、自らを責めずにはいられないのだ。

 

 陽は暮れる……。

 西の下らない思惑と東の歪んだ矜持、そしてネギ達“魔法による弊害”を受けた被害者達は、今宵月夜の下で舞い踊る。銃弾が飛び交い、隠匿されるべき神秘が全てさらけ出された祭典は、いつ終わりを迎えるのだろうか……その結末は誰にも分からない。




次回予告
 ついに始まる凶乱の宴。突撃してくる魔法関係者達にネギ達はどう立ち向かうのか! そしてトリプルT達は間に合うのか!? 作者はルパン三世好きで下手な二次創作を見つけるとブチ切れる程だと見抜いた方を称賛しつつ次回を待て!!
「この程度なら千雨さんとゲームした時の方がまだ遣り応えがありましたね……」
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