魔法先生ネギま 雨と葱   作:朝来終夜

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第04話 合コン前のボヤキ

 便利屋『RUDE BOYS』。

 この世界に転移したスモーキーが立ち上げた何でも屋だ。その名の通り、犯罪や理不尽な仕事を除けば、大抵のことは引き受けていた。社員はスモーキーの能力(チート)顕現(けんげん)したRUDE BOYSのメンバーをはじめ、無名街の住人達がそれぞれできる仕事をこなしている。

 その内の一つに、以前千雨が経営していたレンタルルームの管理がある。元々物資や財産の隠し場所を用意する為に経営していたのだが、搬入物と築いた資産の増加に伴い、人に管理、運営を任せることにしたのだ。

 それが当時、新田を通じて知り合ったスモーキー達だった。

 現在は千雨がオーナーとなっているレンタルルームの一部を改装し、二階の一部を事務所、その下を作業場兼駐車場としている。

 その作業場兼駐車場に千雨は愛車の大型自動二輪(BT1100ブルドッグ)を押し入れていた。

「あれ、ネギ先生来てたのか?」

「あ、千雨さん。こんにちは」

 丁度遊びに来ていたネギに挨拶してから、ブルドッグを近くにいたピーに預け、千雨は一斗缶を裏返して腰掛けた。

「まさかここで会うとはな。何か用事か?」

「僕は付き添いですよ。小太郎君が今、上で仕事を選んでいるところです」

「仕事、ってRUDEの?」

 以前ここに来た時はナギやラカン、アリカが混ざって働いていたのを見て、かつての千雨は呆れたものだ。今度は小太郎かと思うと、身内が混ざって所帯染みてきた感覚を味わってしまうのだから不思議だ、と内心思っていた。

「千雨さんはこちらへは?」

「バイクの点検。時間がある時は大抵預けてるんだ」

 元々吸う人間がいないので、灰皿がないから煙草は咥えない。

「ネギ先生はRUDEに知り合いいたっけ?」

「昨日スモーキーさんと知り合ったばかりなんですよ。寡黙(かもく)ですけど、いい人ですよね」

 通りかかったタケシが頷いているのが見えたが、千雨は気にせず肯定するだけで留めた。一々家族自慢なんて聞いてられっか、という面持ちで。

「それで小太郎君が仕事も兼ねて勉強したいからと、ここでお世話になることにしたんですよ」

「まあ、働きながら学ぶこともあるか」

 そんなことを話していると、小太郎がスモーキーと共に並んで、二階から降りてきた。

「あれ、千雨姉ちゃん?」

「久し振り。これで茶々丸がいれば四人組完成なんだけどな「いますよ」――どわっ!?」

「まあ、落ち着いて」

 驚愕で思わずSIGP230を抜き、気配を消して近づいていた茶々丸の額に銃口を押しつける千雨だが、如何せんここの面子は鉄火場慣れし過ぎていた。

「私に銃弾は効きませんよ。いい意味で」

「千雨さん、驚いたからっていきなり銃口を向けるのは良くないですよ」

「子供達がいないからいいが、ここには危険物もあるから仕舞え」

 挙句の果てにはスモーキーまで、おざなりに注意してから奥にいるタケシとピーに話しかけていた。

「皆冷静やな……これ、普通に事案ちゃうん?」

 呆れる小太郎の視線を受け、千雨は漸く銃口を降ろした。それと同時に、スモーキーと入れ替わりに、奥からエヴァンジェリンが顔を出してきた。

「……ん、なんだお前達来ていたのか?」

「それはこっちのセリフだ……」

 SIGP230を仕舞い、掴んでいた茶々丸の胸倉を離してから、千雨は再び一斗缶の上に腰掛けた。

「お前らこんな所で何してんだよ」

「ちょっと修理(・・)を頼もうと思ってな。丁度帰ってきていた茶々丸に運ばせたんだ」

 エヴァンジェリンはおざなりに挨拶してから、茶々丸を引き連れて帰り出した。

「しかし随分暇そうな面子だな」

「ほっとけ」

 捨て台詞に噛みつき、エヴァンジェリン達が立ち去った後、千雨はふとネギに問いかけた。

「ああ、そうだネギ先生。昨日のメールの返事、いつになりそうだ?」

「午後からの会議次第ですけど、予定通りに進めば行けそうです」

「ん? どうかしたん?」

 不思議そうに問いかけてくる小太郎に、千雨はふとあることを思いつくと、こっそりネギにだけ軽くウィンクした。

「村上の気晴らしに、合コンもどきの食事会をな」

「なっ!?」

 昨日の今日で聞かされた名前に驚く小太郎を尻目に、千雨は立ち上がって歩き出した。

「じゃあネギ先生、頼んだ通りもう一人の面子もよろしくな」

「あ、はい。また連絡します!」

 そして千雨はネギ達に背を向け、二階へと上がって行った。

「なあ、ネギ「ごめん、5秒待って」――……どないしたんや一体」

 千雨のウィンクに軽く参っていたネギだが、深呼吸してどうにか心を落ち着けていた。

「大丈夫。ちょっとくらっと来ただけだから」

「まあええけど……なあ、もう一人の面子ってどういうことや?」

「うん、男側の面子が僕とクルトさんで、あと一人足りないんだ。だから僕の方で誰か(・・)誘っておいて欲しいって言われているん、だけ、ど……」

「へえ……そうなんや…………」

 二人の間に、微妙な沈黙が流れた。『誰か』という単語に敏感になる二人だが、ネギの男友達は(悲しいことに)少ない。しかも『独身かつフリー』の『人間もしくはその類』で歳の近い者等一人しかいない。

 だからネギに合コンの話が来た時、面子を聞いてすぐにピンときた。『奴を誘え』と言われていることに。

 しかし、原因となったのもその『奴』である。だからネギは、千雨の無言の指示もあり、一計を案じたのだ。

「小太郎君、来る?」

「いや、まあそれやったら「いや、無理にとは言わないよ」――……え?」

「だってスモーキーさん達もいるし、瀬流彦先生とか教師時代の同僚の人達にも声を掛けられるからさ。無理だったら千雨さんに謝って大学のお友達紹介して貰ってもいいし」

 小太郎は言葉を失った。

「フェイトはルーナさん達がいるから流石に呼べないけど、なんならラカンさんでもいいしさ。あ、上条さんを呼ぶのもありかも「お願いします。参加させてください!」――いいよ」

 元々小太郎を誘うつもりだったので、ちゃんと自分の意思でお願いしてきたことを確認したネギは、あっさりと参加を承諾した。

「とは言っても、僕の仕事次第では中止になるかもしれないから、それだけは許してね」

「それはしゃあないからええわ。じゃあ後よろしゅうな」

 丁度スモーキーが戻ってきたので、小太郎も一緒に仕事に出て行った。ネギも一緒に外に出て、ISSDAの支部へと向かって歩き出した。午後から始まる会議で年末年始の予定が決まるので、知らず知らずの内に気合が入ってくる。

「仕事の進捗に問題はないし、今回はクルトさんも参加してくれる。お正月もゆっくりできるかな……」

 欠伸した口から漏れ出た息が、白く染まってしまう。もう完全に冬と化した景色を楽しみながら、ネギの歩みは楽し気なリズムを刻んでいく。

 

 

 

 

 

 二階の事務所。

「楽しそうだね、千雨」

「そうでもねえよ……灰皿ねえか、ララ」

「ここ禁煙」

 千雨はそこに居たスモーキーの妹、ララに食事会のことを話し、必要な物を当日に用意するよう、仕事を頼んでいたのだ。

 食事だけでも上条達に用意させようとも考えたのだが、偶に手伝う都合上嫌でも内部を見る羽目になってしまっているので、正直楽しめないのだ。見事に千雨一人だけ。

「取りあえず食事と、未成年がいるからアルコールは無しで。確定したらまた連絡入れるから、それから準備しといてくれ」

「まあこれくらいなら、他の仕事の手間を増やせば許容内だから大丈夫だけど……できれば断わらないで欲しいな」

「一応確定寄りだが、何かあったのか?」

「お兄ちゃん、また養護施設を作る気なの……」

 呆れつつも、ララは何処か嬉し気に肩を竦めた。

「お義父さんも乗り気なのはいいけど、少しは自分やお金のことも考えて欲しいな、って」

「まあ、そう言ってやんなよ。奴さんも楽しんでんだしさ」

 しかし本気で反対しているわけではないのは、ララの態度を見ていれば分かる。恐らくもっと、自分のことにもお金を使って欲しいと考えているのだろうと、千雨は推察した。

 しかし千雨にできることは限られている。それでも、まだ彼女の動ける範疇(はんちゅう)だ。懐から取り出した封筒を差し出し、そのまま話を進めた。

「代金は先に払っとくよ。万が一駄目になったら、用意した食事は子供達のクリスマス会にでも回しといてくれ」

「ありがとう。千雨には本当お世話になりっぱなしね」

「気にするな。持ちつ持たれつだ」

 簡単な打ち合わせも終わり、千雨は腰掛けていたソファから立ち上がった。

 ララも千雨の背中を見送っていたが、ふと彼女が立ち止まって振り返ったのを見て、(いぶか)しんだ。

「どうかしたの?」

「いや……」

 振り返った千雨の視線を追ってみると、事務所の壁に飾られていた額縁に注がれていた。

「……あの額縁、何処で買ってきたんだよ?」

「え、いい言葉だと思うけど……」

「いや、物騒過ぎるだろ。これ」

 額縁にはこう書かれている。

 

『働かざる者、死ね 作:フィオ・アトキンス』

 

 と。

 

 

 

 

 

「しかし、よくできているな。これ」

「まったくだ。しかもこれ、大分昔の代物なんだろう?」

 一階の奥でエヴァンジェリンから預かったもの(・・)を広げながら、タケシとピーはその出来を堪能していく。

 

 

 

 それは、不気味な人形だった。

 

 

 

 ハロウィンのカボチャのような人形だが、その頭部はボロボロで両手足の中には破損が目立つものがある。右手に持っていたであろう大鎌の刃がついた箒も、刃が不揃いに欠け、箒の穂が完全に縮れていた。内部の可動部分は辛うじて残っているだろうが、それでも形を保っているのが精一杯、という様相だ。

「直せると思うか?」

「機構は問題ないと思うが、部品をかなり交換する必要があるな」

 適当に広げてから二人掛かりでばらしていると、外から大量の機械部品の入った箱を抱えた男が入ってきた。

「今帰ったぞ。使えそうな部品を掻き集めてきた」

「おう、シオンお帰り」

 箱を置き、シオンは改めて人形の全貌を見下ろした。

「家宅清掃のバイトの時に見つけたんだが、こんな感じだったんだな」

「というか、これの持ち主といつ仲良くなったんだよ?」

「夏に遺跡の探検をした仲だ。ラカンのおっさん達もその時にな」

 今度は三人掛かりでばらしていき、漸く全体の構造を理解できるまでになった。そして新しく設計図を引き、どう修理するかを打ち合わせしていく。

「ついでに幾つか改造するか。機構に影響ない範囲で武装を増やしておいてくれ、とも頼まれているしな」

「といっても、頭部に仕込み武器つけるので手一杯じゃないか? 鎌は新調ついでになんとかなるとして」

「いっそ箒で空飛べないかな……あ、そういえばこれの名前は?」

 話し合っていると、ピーがこの人形の名前を聞いてきたので、シオンが答えた。

 

 

 

「ジャック・オー・ランターン、通称『ジャコ』。エヴァンジェリンが昔何処かから盗んできた人形で、『人形遣い(ドールマスター)』の異名を持つ前に使っていた得物らしい」

 

 

 

 魔法が未熟だった時代に、絡繰り機構だけで操作して敵を蹂躙してきた代物だ。つまりAMF関連の対抗策であると同時に……

「……盗品?」

「いや、もう持ち主は居ない筈だし……」

「いやでも盗品だろ。これ?」

 果たしてこのまま修理して本当にいいのだろうか。何らかの犯罪に巻き込まれてしまうのではないか。

 彼らがその議論を終えるまで、修理の手が入ることはなかったという……

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