「まず最初に言っておく……合コンとは戦争だ」
麻帆良学園都市某所。その日、クルトはネギと小太郎を呼び出して向かい合っていた。
椅子に腰掛けるクルトの正面に、ネギと小太郎が並んで横長のベンチに腰掛けている状態だ。
「本命の有無は関係ない。女性のネットワークは我々男性が考えている以上に恐ろしいものだ。故に、誰にどのような情報が回ってくるかは全くもって未知数だ」
「だからなんやねん……」
「駄目だよ小太郎君。しっかり聞かないと」
小太郎のぼやきを
「要するに、合コンに参加する以上は相手を楽しませられなければ、参加女性の交友関係にも悪影響を与えかねない。だからこそ、相手に一切の不快な思いを与えてはいけないのだ……特にネギ君。社交界デビューしたての時みたいに壁の花なんて言語道断だ」
「もうしませんよっ!」
「ああ……あったな、そんなこと」
その時は小太郎も一緒にいたので、なんとなくだが覚えていた。最終的には明日菜やあやかが連れ出していたのでなんとかなったのだが。
「……そういえば、千雨姉ちゃんにもそん時蹴り入れられてなかったか?」
「うん……『いいから前に出やがれ
情けない話だ、とネギ自身忘れたいエピソードだったが、その時の出来事がないと未だに前へ出ようとしないのだ。主に緊張と気後れと小市民感のせいで。
「本来なら英雄の息子という立場だから、その手のことには強いと踏んでたんだけどね……」
「おまけにこいつが主役の祝勝会やったやろ、あれ」
「
微妙に立場が逆転し、ネギの身が
「とにかく、必要なのは事前準備だ。まず「その前に、ちょっといいかな?」――なんだいタカミチ?」
気がつけば、ネギ達とクルトの間に割って入れる位置に、タカミチが一人立っていた。腕を組み、乾いた笑みを貼り付けた状態で。
「……それを僕の屋台の前でやる意味はあるのかな?」
「いや、単なる
そして景色を若干フェードアウト。
ラーメン屋台を背にして、ベンチ席に腰掛けたネギと小太郎、その向かいに予備のパイプ椅子に腰掛けているクルトと、先程まで屋台の中で
そしてタカミチの
「僕を結婚式に呼ばなかった嫌味を言いに来て何が悪いっ!?」
「あの時お前仕事で音信不通だっただろっ!?」
そのまま立ち上がったクルトと、エプロンを外したタカミチが互いに構えて向かい合う。二人は既に臨戦態勢に入っていた。
「正直に言ったらどうだ? 『美人の奥さんを自慢するよりも寝取られたくないから隠した』と」
「人の元生徒を食事に誘おうとする変態から愛する人を守って何が悪い……?」
「……『愛人』、他に本命が「居るわけないだろ僕を殺す気かっ!?」――……ならば来い、恐妻家」
互いの足が地を離れ、己が信念がぶつかり合う。
「クゥルトォオオオオ……!!」
「タカミチィイイイイ……!!」
男達は戦う。それぞれの
同じ頃。
所変わって、こちらは以前千雨とネギがデートしていたショッピングモール。その中にある喫茶店の一角は、彼女達に支配されていた。
「さて皆さん……どなたか代わっていただけませんこと?」
「よしなさい、って。いいんちょ……」
六人席の片側に並んで腰掛けているいいんちょこと雪広あやかの発言に、同じく並んで隣に腰掛けていた神楽坂明日菜がツッコんだ。
ことの始まりは、千雨が『合コンやるぞ』と言い出したことに繋がる。
事前準備や出席者を揃えるまでは良かったのだが、そこに待ったをかけた人物がいた。それが目の前に居るあやかだった。その日、千雨は他の参加者である夏美や聡美を引き連れて、合コン用の服を探しがてら買い物に来ていたのだが、そこは雪広財閥も出資していたのが運の尽き。
大方、監視カメラか何かで見つけたのだろう。気がつけば偶々来ていた明日菜を引き連れたあやかに連行され、千雨達は向かいの席で並んで座らされていたのだ。
今でこそ血の涙を流すまでには至らないが、ネギ関連で黙っていない人間の一人である彼女も呼ばなかったのは失敗だったのではないか、と千雨は内心腕組みしつつ、そう考えていた。
「そうか……いいんちょが居たよな。今更だけど」
「だからといって、今から抜けるとか言わない方がいいわよ。別の意味でややこしくなりそうだし」
そう言い捨ててストローに口をつける明日菜に、千雨も無言で同意した。むしろ何故、合コンを提案した時に思いつかなかったのかと悔恨の念が絶えない。
まあ、今更代える気は千雨自身持ち合わせていなかったが。
「……それで、ここには何をしに?」
「見ての通り、服を買いに来た」
千雨の両隣に居る夏美と聡美を見て、明日菜やあやかも納得したかのように
バイクに乗ることが多いのでパンツルック寄りになる千雨もそうだが、裏方思考で目立つような服を着るのを避けている夏美に、そもそもファッションに興味を持たない聡美の三人だ。
合コン用に衣服を揃えに来るというのも頷けるというものだ。
「丁度株主優待もあるしな」
「それなら……待ちなさい。それはどこの会社のものですか?」
「雪広財閥「インサイダー取引ではありませんか!?」――……大丈夫だって、私は雪広財閥とは縁もゆかりもない人間だから」
「千雨さん……」
ユラリ、と立ち上がり、腕を組んだあやかは千雨を見下ろしながら、厳然たる一言を発した。
「……私の名前は?「いいんちょ」――雪広あやかですわっ!?」
すっとぼけるのも限界だろうと、千雨はジョークだとあっさりばらしつつ、あやかを
(私……本当になんで、こんな所にいるんだろう?)
思えば遠くに来たものだと、夏美はこれまでの人生を振り返りだしていた。
「……そういやあの総督、なんで呼ばれなかったん?」
「宇宙エレベーターの建設手続きでどうしても抜けられない日と被ってたんだよ。それを事前に聞いていたから、招待状じゃなくて祝電依頼にしたんだって。あの時ISSDAが発足したばかりだから、皆忙しかったし」
「言われてみれば……お前も遅刻しとったな」
「思ったよりも打ち合わせが長引いたから、出席前に手続きしておかないと仕事が滞っちゃってたからね」
抜刀された刃に拳をぶつけるという離れ業を眺めていると、屋台の陰から少女が一人、エプロンとバンダナ姿で出てきた。
「タカミチ……何やってるの? タカミチとクルト」
「ああ、アスナさん。お久しぶりです」
「よぉ、ちっこい姉ちゃん」
適当に手を挙げて挨拶してから、少女こと高畑アスナにネギが説明した。
「結婚式の件で軽い
「まったく……子供?」
「それちっこい姉ちゃんに言われたら、二人も立つ瀬ないやろうな……」
軽く溜息を吐いてから、アスナはバンダナとエプロンを外して屋台内にある物入れに突っ込んでいた。そして近くにあった荷物(フシギダネのマスコットキーホルダー付きリュック)を背負っている。
「じゃあ私、これからパルクールサークルに行ってくるから……タカミチにも言っといて」
「はい、また……ってちょっと待って下さいアスナさんっ!?」
「……何?」
アスナの手が伸びていたのは、屋台に取り付けられているレジだった。彼女はネギの方を向いて、不思議そうに首を傾けている。
「さっきまで餃子を作っていたから、そのお小遣いをもらおうとしただけなのに……?」
「事前に取り決められていたとしても、レジじゃなくてタカミチの財布から抜いて下さい。売り上げと人件費は別にしとかないと税収計算ややこしくなりますから」
「そんなネタ誰が分かんねん……」
税理士じゃない作者も理解できません。皆さんも独立して店舗を持つ時は、事前勉強を欠かさないように!!
「まだ目立つ、かな……」
「これ以上となると、本当に地味になりますから避けないと……」
「いっそシンプル路線で攻めたら? ヒールも履いて大人っぽさをアピールする形で……」
そして喫茶店を後にした5人は、いくつかの(あやかのコネが効く)店を回り、商品を物色しては購入するを繰り返していたが、最後に夏美の服を決める段になって、流れが止められてしまっていた。
千雨は元から決めていた服があったので即決。聡美はこだわりがないのか、学会にも出られそうなフォーマルデザインの一式を買い揃えていた。そして未だに決まらない夏美を明日菜とあやかが連れ回しているのを、千雨はタブレットに夢中になっている聡美に付き合う形で待っていた。
「なんだかんだ、面倒見がいいんだよな。あいつら」
「千雨さんもそうだと思いますけど?」
「そうでもねえよ……」
喫煙室が近くにないので、休憩用のベンチに並んで腰掛けているだけで手持ち無沙汰な千雨は、作業中の聡美と話すことで暇を紛らわすことに。
「そういや、あの総督殿とはよく話すのか?」
「はい、仕事の関係でちょこちょこと」
作業の手を止めることはないが、話す上で支障がないのであれば、千雨も特に気にすることはなかった。その手の人間が近くにアホ程いるから、とも言えるが。
エヴァンジェリンとか茶々丸とかこなたとか灰原とか。
「ただ、最近は雑談とかも多いですかね……好きな食べ物とかも聞かれたことがありますし」
「合コン前の希望を聞きがてら?」
「いえ、大分前に聞かれました」
その発言に、千雨の脳に冷気が
「……他には、どんなことを?」
「仕事の話の延長ですけど、趣味とか最近はまっていることとかを……どうかしましたか?」
「いや、何でもない……ちょっと用事思い出したから、メールしてていいか?」
「? ……はい」
不思議そうに千雨を
それを脇に、千雨は携帯を取り出して軽くタップし、メッセージアプリを起動する。相手はこなただった。
『こなた、ちょっといいか?』
『なに~(。・ω・。)』
『原作知識で聞きたいことがあるんだが……』
『葉加瀬さん達のこと?』
『当たり』
どうやら、いやな予感が当たったらしい。こめかみを押さえながらも、千雨はメッセージを打ち込み続けた。
『まさかとは思うが……葉加瀬と総督殿って』
『まあ、そっちもダイジェストなんだけどね』
千雨は以前、こなた達から転移者が持つ原作知識について、さわり程度には聞いたことがあった。とはいえ未来を変えるレベルのことは
だから千雨は、原作内で映画を撮っていたという事実がないことを知り、銃という選択肢を選ぶに至ったのだ。話が逸れたが、それでも必要な知識は必要な時に聞き、また教えるという不文律が千雨達の中で生まれていた。
『原作最後の『そして彼女はこうなった』的なナレーション内で、『某総督と結婚した』って書いてましたΣ((°Д°;;;)))びっくりだよねー(^_^)/』
『……まじかよ』
頭が痛くなるのを
『まあ、なるようになるって。私としては放置推奨(^_^)b』
『不安しかねえよ!!』
携帯を仕舞い、千雨は静かに目を閉じた。
「未来なんて知るもんじゃねえな……」
「結果が分かっている実験程、つまらないものはないですからね~」
千雨の独り言に、聡美は視線を外すことなく適当に返してきた。