魔法先生ネギま 雨と葱   作:朝来終夜

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第06話 どうしてこうなった……?

第06話 どうしてこうなった……?

 その日、小太郎は人生で初めての鉄火場を目の当たりにした。

「……っ!?」

「おやぁ、ネギ君。どうしたんだい? もう終わりかね?」

 ん? ん? といやらしい顔で聞いてくるクルトに、ネギは拳を握りしめた。

 強く、強く、己の無力さを握りしめるように。

「さあ、早くしたまえ。もう君に出来ることはないはずだ。違うかね?」

「ここまで、なのか……」

「ネギ先生……これが結果だ」

 横合いから、ネギに声が掛かる。発言した千雨は煙草の灰を灰皿に落としながら、軽く息を吐いた。

「私はあんたに、『慌てるな』と言ったはずだ。確かにあんたは計算高いさ。今まではそれで、大抵のことは何とでもなってきた。でもな……選んだ責任は取らなきゃならない。例えそれで、後戻りできない選択肢になろうとも、だ」

「はい、それは……分かっています」

「そうだろう。ならば受け取りたまえ、その結果を!」

 クルトの圧が、ネギに襲いかかってくる。千雨は煙草を吸いながら、明後日の方を向いていた。もう手の施しようがないと、諦めてしまったのだろう。

 ネギは、覚悟を決めると手を動かした。

「千雨さん、お願いがあります。僕が「分かっているから、早くしろ」――……はい、いざっ!?」

 ネギの手が伸び、最後の、敗北の確定した一手を繰り出した。

 

 

 

「……ロォン!! 大三ェ元!!」

「ああやっぱりぃ!!」

「調子扱いてリーチかけっからだアホ……」

 

 

 

 呆れながら吸い殻を灰皿に捨てると、千雨は腰掛けている椅子を傾けながら、財布を取り出して中身を確認しだした。

「だから慌てるな、っつったのに。レートも私達の(ローカル)ルールで行こうと言ったのに調子に乗って蹴りやがってさ……ほら、手持ちいくら足りないんだ?」

「すみません、千雨さん……後でコンビニから引き出します」

 ネギは手持ちの現金を財布から全て出すと、足りない分を千雨から借りて精算した。

「くっくっく……まさかこんな形で7年前の借りを返すことになろうとはね……例え結果が良くても、あの時の交渉は痛かった!!」

「楽しそうですね~クルトさん」

 千雨の向かいの席に着いていた聡美は、先程迄の流れに無頓着な表情を浮かべながら、精算を終えた雀卓を片付け始めていた。

「それにしても、麻雀って面白いですね~。今日初めてやりましたけど」

「これからもやりたいなら誘おうか? 暇な時は大抵悪友共とやってるし」

「『ここは雀荘じゃねえ!』って、上条さん何度も言ってるよなぁ!!」

 そう上条が叫ぶ中、遠巻きに眺めていた小太郎は、なんとも言えない眼差しを千雨達に向けていた。

「どうして……」

「……こうなったんだろう?」

 横に並んで立っている夏美と共に。

 

 

 

 

 

 合コン当日の喫茶店『Imagine Breaker』。

 状況は(つつが)なく進行していた。

 とは言っても、合コンだとありきたりな自己紹介は顔見知りしかいないからと省略され、もっぱら千雨が便利屋『RUDE BOYS』に注文した食事に興味が移っていた。店は貸し切り状態で、合コンの参加者以外はスタッフとして控えている上条だけだ。

 こなたはいない。

『エヴァにゃん達と徹夜でゲーム大会やってきます!!』

 と、エヴァンジェリンの家でゲームをやっているらしい。アスナやその友達(エリ)も一緒になってやっているとか。監督役に誰か残した方がいいかもしれないが、現在は師走(しわす)

 全員出払っているから誰にも止められることなく、徹夜でゲームが出来ると騒いでいたが、千雨は知っている。後でしずなが茶々丸と共に、エヴァンジェリンの家に乗り込むことを。そしてエリも知っている。新田とスモーキーも仕事上がりに寄り道して様子を見に来ることを。

 そんなこんなで店内に計7人しかいない合コンは完全に食事会の様相を呈し、言葉少なく一頻(ひとしき)りの飲食を終えてから、夏美は店の隅の席に腰掛けていた。

「あ、あのさ……夏美姉ちゃん」

「え、あ、こ、小太郎君」

 話の輪から離れて、二人きりになりだしたのを見た面子が気付かれないように、早々に行動を開始していた。

「こ、この間は……えっと」

「あ、えと、私も……」

 ただ一言謝罪すればいい。

「またかおい勘弁してくれぇ!!」

 後ろで叫んでいる上条のように。

「その……痛かったわ。いろんな意味で」

「その、私だって……うぅ」

 どう接すればいいのかが分からない。何もかもが初めてで、とっかかりが掴めないのだ。

「あの、私初めてなんですけど……」

「ああ、教えるよ。僕も接待で結構やってるし」

 聡美のように、クルトという指導役がいればいいのだが、今は二人だけだ。誰も助けてはくれない。

「……なあ、夏美姉ちゃん。正直に言ってもええか?」

「よ、よし来い」

 変な気合いを入れながら、夏美が身構え出すのを、小太郎はなんとなくだが感じ取っていた。

 こんな時に、小手先の技は通じないだろうし、何より小太郎はそんな技を持っていない。

「ローカルルールでいいか? レートは1%で、いかさまがバレたら全員に五千で」

「バレたら、ですか?」

「いかさまはバレなきゃ『技』だ。というか、そうしないと勝てない奴がいるんだよ……椎名バリの幸運持ってるどっかの爆乳眼鏡とか」

 技も、幸運もない。ならば残るは自らの身体のみ。

「大分慣れてきましたし、レート100%で行きましょう」

「調子扱いてると、足下すくわれるぞ」

「お、俺は「やっぱダメッ!!」――あがっ!?」

 しかし、相手の身体の方が持たなかったらしい。

 千雨の忠告通り、前に出すぎていたのかも知れない。再度飛んできた夏美の拳を受け、小太郎はカウンター席に背中をぶつけてしまった。

「ほんと()ってぇな!!」

「煩い!! この前だってあんたがわがままばっかりだったからでしょう!!」

「夏美姉ちゃんもやろうが!!」

 互いににらみ合い、そして感情が爆発したかのようにそれぞれがそっぽを向いた。

「もうあったま来た!! 他の人と話す!!」

「そりゃこっちのセリフや!! 女なんて(・・・・)他にもいっぱい――」

 そして二人が他の合コンメンバーの方を向いた時、ようやく状況に気付いた。

「……え」

「あれ……」

 振り向いた先では、テーブルを囲んだ四人が小さな(パイ)()り、互いの財布(ライフ)を喰らい合っていた。

 ……というか麻雀していた。

「なあ、おい「リーチ!!」――聞けやっ!!」

「慌てるな、って」

 千雨の忠告が、どこか小太郎達にも向けられているような気がしていた。

 

 

 

 

 

 そして話は冒頭に戻る。

「なあ、夏美姉ちゃん……」

「何?」

「男、上条の兄ちゃんがまだおるけど……声掛けるん?」

 雀荘に変えられつつある自らの(しろ)に対してかなり落ち込んでしまっている上条は、頭を抱えて床上に転がっていた。正直話しかけたくない光景である。

「いや、流石にスタッフさんだし……小太郎君は? 声掛けないとまた麻雀始めそうだけど」

「あ~、もうええわ」

 後ろ頭を掻きながら、小太郎は空いた手の親指で外を示した。

「ちょっと、店の外で涼まへん?」

 そう誘われて、夏美も静かに(うなづ)いた。

「うん、いいよ……」

 二人は店の外に出た。

 とはいえ、ただ店の前に並んで立ち、夜風に火照った身体を冷ましているだけだが。

「ああ、頭冷えてきた……夏美姉ちゃん」

「何?」

 夏美の方も頭が冷えてきたのか、今回は落ち着いて話を聞いていた。

「なんか、色々とスマンかったわ。俺、こういうのは苦手で……」

「分かるよ。だから私も……ごめん」

 互いに向き合っているわけじゃない。いや、顔を見なかったからこそ、ようやく言えたのかも知れない。

「……ねえ、小太郎君。もしかして、私のこと好き?」

「ど直球やな……」

「いやぁ……もう今更かな、って」

 並んで立つ相手の方を見る。顔を赤らめて視線を逸らそうとするのを、意思で押さえるのが精一杯だった。

「なんでそう思うん?」

「だって、私も……好き? かもしれないから、かな」

「そっか……悪いけど、よう分からん。ガキやなぁ、まだ」

「お互いにね……クシュン!」

 身体が冷えすぎてしまったのか、夏美の身体が震えていた。小太郎は震える身体を掴むと、自らの方へと抱き寄せた。

「でも、これだけは分かっとるんや」

「……何を?」

 凍える身体を互いの体温で暖め合う中、小太郎は言った。

 

 

 

「……俺は守りたいんや。他の女やなくて、ただ、夏美姉ちゃんのことを」

「そっか……」

 

 

 

 互いに言葉はなく、ただ抱きしめ合いながら。

 

 

 

 

 

(両想いかよ。くそったれ……)

 以前こなたに貸していた受信機越しに二人の会話を聞いていた千雨は、もう必要ないだろうとイヤホンマイクを外した。ちなみに盗聴器は合コン前に、夏美の衣服に忍ばせていた。

「ぼちぼち解散するか。向こうも終わったっぽいし」

「うまくいったかな?」

 事情をなんとなく察していたのか、様子を見ていたクルトにそう聞かれ、千雨は肩を竦めた。

「また喧嘩しそうだけどな……ま、今は二人にしといてやるさ」

 どうなるかなんて、分からない方がいい。だがそれでも、心配になって聞いてしまうのも人間の(さが)か。

「ところで上条、あいつらってくっつくのか?」

「ああ、うん。確か展開は違うけどな……」

 ようやく起き上がった上条は、食べ終えた皿を片付けながら答えてきた。

「少なくとも、合コンも麻帆良での告白もなかったからな。後は当人達が納得すればいいんじゃないか?」

「そうだな……」

 そして千雨達は店の外にいる小太郎達に声を掛けてから、今日の合コンは終わりを迎えた。

「……しかし」

 帰って行く合コンメンバーを見送ってから、上条は店内の様相を見て肩を落とした。

「全部一人で片付けるのか……不幸だ」

 せめてキノが帰ってきてくれれば、そんな淡い願いを抱きながら、上条は店の中を片付け始めた。

 ちなみにキノは、年末に帰ってきました。

「これお土産」

 麦野辺りが喜びそうな馬鹿でかい鮭を抱えて。

 

 

 

 

 

「楽しかったですね~合コン」

「あれを合コンと呼んでいいのかは疑問だけどね……」

 聡美はクルトに連れられながら、家路についていた。現在彼女は大学の近くで倉庫を買い取り、最低限の生活基盤と研究施設を内装して暮らしていた。偶に爆発するのが玉に瑕だが、騒音は開発した特大ノイズキャンセラーで誤魔化しているとか。

「でも、元々は食事会として誘ってくれましたから、これで良かったと思いますよ?」

「まあ、そうだね……」

 さて、どうしたものか、とクルトは内心で考えていた。

 このまま二件目に、という考えはない。話を聞いていると、千雨と違ってあまりお酒を飲まないらしい。それどころか聡美はインドア派で、あまり出歩くような趣味は持ち合わせていないのだ。

 研究への礼としての義務は果たしたが、クルトにとってはそれだけではない。その辺りは小太郎と違い、すでに自覚していた。

「あ、ここです」

「少し殺風景じゃないかな……」

「もっと広い所に引っ越すつもりなんですけど、まだちょっと資金が足りなくて……」

 軽く頬を掻く聡美に、

「そうかい……」

 と返すだけに終えた。

 もう今日は終わりだから、もう帰ろうと踵を返そうとした。

「あ、クルトさん」

「……何かな?」

 機先を制されてしまい、クルトは何を言われるのかと、ただ聞くことしか出来なかった。

「良かったら、お茶でも飲んで行かれませんか?」

「……喜んで」

 明日はタカミチの鉄拳が振ってくるかな、なんて考えながら、クルトは聡美に連れられて、倉庫の中に入っていく。

 

 

 

 

 

「皆さん、うまくいっているでしょうか?」

「さあな……それこそ連中次第だ」

 千雨はプレオにもたれながら、ネギから受け取った紙幣を財布に納めていた。先程立て替えた麻雀の負け分である。

 どうせコンビニに寄るなら、と千雨達は車に乗って麻帆良学園都市の外周部に来ていた。そこでホットドリンクを飲みながら、二人暢気(のんき)黄昏(たそが)れていたのだ。

 車内に入れば暖かいだろうが、千雨達は外に居続けた。ホットドリンクのせいか、誰かといる分温かい気持ちになるからかは分からないが。

 それでも二人は、外に居続けた。

「……なあ、ネギ先生?」

「どうしました? 千雨さん」

 しかし、千雨は頭を振って話を切った。

「いや、なんでもない。帰ろっか」

 そして千雨達は、プレオに乗り込んでいった。最初の目的地はネギの実家があるマンションだった。

「……いい、景色ですね」

「見飽きたけどな……あ、そうだ」

「何ですか?」

 なんとなく走っていると、千雨はふと、思いついたことを助手席のネギに話した。

「ちょっとした思いつきだけど、今度レースしないか。杖とバイクで」

「いいですね! 今の時間なら迷惑にならないでしょうし」

「だろ? じゃあ今度やるか」

 ハイビームに切り替えたプレオは、夜空の下を駆けていった。

 

 

 

 

 

(……まあ、言わなくていいか)

 コンビニの前で言いかけたことを、千雨は咄嗟に飲み込んだ。

 それが正しいのかどうかは分からないが、それでも、千雨はネギの傍に居ることを選んでしまった。例え、自らの(・・・)結末(・・)が分かっていたとしても。

(本当、どうしてこうなったのやら……)

 千雨の運転するプレオは、夜の麻帆良学園都市を駆けていく。

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