魔法先生ネギま 雨と葱   作:朝来終夜

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第07話 年末大捜査線(前編)

「おっす~、こなちゃんもお久しぶり~」

「ヤッホーかずみん、お久~」

 普段は授業をさぼって昼寝する癖に、長期休暇になると不良共が必ず問題を起こす季節の一つ。その師走たる年度末に、和美は千雨のマンションを訪れていた。そこにはすでにこなたが陣取っており、半纏にくるまったままさっきまでテレビを眺めていたようだ。

「今年は一緒に年末を過ごそうと思ってな。上条達は転生したから普通に実家があるし、帰省している間はこいつ一人になるからさ。去年はついてったらしいんだが、説明が面倒臭かったんだと」

「へぇ、そうなんだ。お土産持ってきてよかったよ」

 座卓についているこなたの隣に腰掛けた和美は、手に持っていた紙袋の中身を卓上に並べ始めた。どこを巡ってきたのか、レーズンバターサンドからちんすこうまで、ごちゃ混ぜな菓子類を広げていく。

「菓子は後にしろ。もうすぐそばできっから」

「はいは~い。ところで、エヴァちゃんも居るって言ってなかった?」

「エヴァにゃんなら出掛けてるよ~」

 チャンネルを紅白からガキ使に変えながら、こなたは目線をテレビから放さずに答えきた。

「『ジャンプ買うの忘れた』とか言って。私も千雨も、もう読んで廃品回収に出しちゃったから持ってないし」

「まあ、年末だからね~……しょうがないか」

 一度広げた菓子類を紙袋に戻していると、丁度千雨が年越しそばを入れたどんぶりを三つ、お盆に載せて運んできた。

「エヴァの分は後でいいだろ。そういや相坂は?」

「神格化した元幽霊の友達に会いに行ったよ。年明けまで帰ってこないって」

「そうか」

 どんぶりを並べ終えた千雨は、そのまま座卓の傍に腰掛けた。

 

 

 

 

 

 麻帆良学園都市外部、その近隣にあるコンビニにて、エヴァンジェリンはようやく、お目当てのものを見つけた。

「あん?」

「あれ?」

 しかし、そのお目当てのもの、ジャンプに触れる手がもう一本。

「なんだ、貴様もか?」

「うん、そっちも?」

 なにやらぽやぽやとした印象を与える女性だった。見た目は大学生位、しかし彼女の手は油断なく、エヴァンジェリンと同様にジャンプに伸びていた。

「これが最後の一冊だと分かってて言っているのか?」

「うん。8軒目でようやく見つけたんだよ」

「そうか、私は13軒目だ」

「あ、本屋さん含めたら17軒目かも」

「それを言い出したら、駅構内の売店含めて25軒目だぞ私は」

 初対面であるにもかかわらず、互いに威嚇(いかく)しながらジャンプを引っ張り合う二人。大晦日(おおみそか)の日暮れということもあるのか、彼女達がいるコンビニには他の客はおらず、強いて挙げれば店員しかいない。

 そして店員もやる気がないのか、欠伸を隠さずに気を緩めまくっていた。というか面倒毎に巻き込まれたくないと、他人の振りをかましているようだ。

「明らかに少女漫画然とした容姿の癖に少年誌等読むんじゃない。少女漫画読め少女漫画」

「そっちこそ明らかに対象年齢以下じゃん。どうせ理解できないんだから、家に帰って絵本でも読んだら?」

 ジャンプが軋むことはないが、エヴァンジェリン達の表情は明らかに歪み始めていた。

「いいから寄越せ、これは私のだ……!」

「何勝手なこと言ってるの、もう私のものだよ……!」

 じりじりと移動しながら、ジャンプをレジへと運び、手放さないまま小銭をばらまいた。

「ほら、私が先に払った。私の物だ!」

「ふざけちゃいけないよ、私が先だったじゃん!」

 店員はレジを通すことができないと判断した。けれども、手打ちで値段を入力してから、あることに気づいてしまう。

「あの、お客様……?」

「あん!?」

「何っ!?」

 エヴァンジェリン達の鋭い眼差しを受ける店員だが、その店員(アルバイト)、坂本雄二もかつては『悪鬼羅刹』と不良たちから恐れられた男。その程度でビビる手合いではない。

 彼が恐れているのは恋人の霧島翔子だけだ!!

「全然足りません。お二人分で丁度となりますが、いかが致しましょうか?」

 

 

 

 

 

「くっそ、年末だってのに独り身とか……」

「だったら帰ればいいじゃない。実家があるんでしょ?」

「仲悪いから帰りたくねえんだよ……ったく」

『SOS屋――世界を大いに盛り上げる涼宮ハルヒの焼き鳥屋』と銘打たれた屋台である。年末の年越しそばも食べずに、千雨の悪友こと麦野はビールジョッキ片手に焼き鳥のハツを口に運んでいく。

 その様子を屋台の主である涼宮は、次の注文であるせせりの火の通りを確かめながら眺めていた。

「他の娘達はどうしたのよ?」

「実家帰ったり馴染みとつるんだりだよ。私も誘われたけど、面倒だからやめた」

「これだものね……男でも作ったら?」

 口は禍の元。麦野の次の一言で、彼女は地獄に堕ちることになる。

「じゃあ姐御はあのキョンとかいうの「殺すわよ」――……普通に怖ぇよ。照れ隠しなのか嫌悪感なのかどっちだ?」

 一体どういう関係なんだ、と麦野達常連一同永遠の謎の解答は、来年以降へと持ち越しになったのであった。

 

 

 

 

 

 それぞれ移動中に金銭を掛け過ぎた為、仕方なしに二人分の代金で会計を済ませた後、再びコンビニの前でジャンプを取り合っていた。

「こうしよう、私が先に読む。貴様は後だ年明けに読ませてやる」

「私も払ったのに、何自分のものにしようとしているの。じゃあ30分だけ読ませてあげるから今すぐここで読んで」

「できるか私のジャンプ愛は一冊一時間だ!!」

 通りすがりの人達も、両端を握って引っ張り合う二人を見て思わず視線を逸らし、急いでこの場を後にしていく。しかしエヴァンジェリンも向かいの少女も、互いに譲ることなくジャンプを引っ張り、身体を()()らせていた。

「いい、から、寄越せっ!!」

「いや、だって、言ってるでしょう!!」

 いつ均衡が崩れてもおかしくない。

 そんな中、とてつもない勢いで迫ってくる人物がいた。

『どわはっ!?』

 その人物無言で二人にぶつかるが、視界に映ってないのか、長い黒髪の女性は店の中へと駆け抜け、

『雄二、これから一緒に年明けまでカウントダウン』

『年明け迄まだ時間あるし、そもそもシフト明けてねえよ!!』

 恋人の霧島翔子に詰め寄られるアルバイト店員坂本雄二。カウンターから引きずり出されるのをどうにか堪えているようだが、そんなことはエヴァンジェリン達には関係ない。

『ああっ!?』

 何故なら件の女性、霧島翔子にぶつかった衝撃でジャンプが飛ばされたからだ。

 

 

 

 ――バサッ!

 

 

 

「さて、行くか……」

 運転手の呟きと共に、トラックはジャンプを載せた状態で走り出していった。

 

 

 

 

 

「……あれ、唯は?」

「そう言えば……唯先輩何処に行ったんでしょう?」

「ギー太はここにあるし、すぐ戻ってくるんじゃないかー?」

 楽器を携えた四人の女性が、連れが一人いないことに気づき、周囲を見渡していた。その内の一人、琴吹紬は丁度通りかかった女性に話しかけていた。

「あのぉ、すみません」

「はい、どうかしましたか?」

 友人の行方を尋ねるも有力な手掛かりはなく、彼女達はお礼を言ってから、この場を去って行った。

「いいですわね……仲がよろしくて」

「お姉様~お待たせしました!」

 お姉様と呼ばれた女性、高音・D・グッドマンは呼んできた女性、佐倉愛衣と並んで歩きながら話し始めた。

「どうでしたか、愛衣」

「やはりこの辺りにいたみたいです。でも、もう立ち去ったらしくて」

「弱りましたわね……」

 たとえ年末であろうとも、関東魔法協会に所属する立派な魔法使い(マギステル・マギ)たる彼女達には関係ない。そこに事件があれば、必ず駆けつけるのだ。

「まったく、年の暮れに爆弾テロなんて……何を考えているのかしら?」

「しかも狙いはあの軌道エレベーターらしいですし……ここはもう、応援を呼んでは?」

「そちらはエレベーターの防衛に回ってもらっています。私達は事件を未然に防ぐことに尽力しましょう」

 話し終えた後も、ただ真っすぐに目撃情報のあった遠方のコンビニへと向かっていった。

 

 

 

 そう……先程迄エヴァンジェリン達がジャンプを取り合っていたあのコンビニへ。

 

 

 

 

 

「ジンの兄貴、今回の爆弾テロはいったい……」

「分からん。あの方曰く魔法世界とのつながりを絶たなければ、組織の今後に影響してくるらしいが……」

 そう言ったトラックの運転手、コードネーム・ジンはハンドルを握りながら煙草を咥えていた。同じく助手席に座る男、コードネーム・ウォッカはコンビニで購入した缶コーヒーを開けながら、目的地である軌道エレベーターの方を向いている。

「しかし、後ろの爆弾程度で、どうにかなるんすか?」

 親指で荷台を指すウォッカに、ジンは煙草を吹かしながら答えた。

「最低でも不信感さえ募らせられればいい。魔法使い相手に要人暗殺は難しいが、支援者は一般人も多い。そこで組織の息が掛かった人間が向こうの悪評を増長させられれば、目的は達成だ」

「上手くいけばいいっすけど……こんな時に、他の連中は長期休暇に入っちゃいましたからね」

 ウォッカの言う通り、彼等の言う他の連中は年末年始の休暇に入っていた。実のところ、本来は二人も休暇を楽しむはずだったのだが、年明けに年休を消化しようとした際にあの方から『代休にするから年末に仕事をしてくれないか?』と聞かれたので、仕方なしに引き受けたに過ぎない。

「他の連中の休みを邪魔するまでもない。仕事自体は楽なものだ。適当に爆弾を仕掛けたら、そのまま直帰するぞ」

「でしたら兄貴、せっかくですし年明けまで飲み明かしませんか?」

 御猪口を持ち上げる仕草を見て、ジンは静かに笑った。

「フッ……悪くない。この後俺の家で飲むか?」

 軌道エレベーターへと向かうトラックは賑やかに、年末の楽しさを浮かばせながら走り去っていく。

 しかし……そのトラックを追いかける者達がいた。

「まぁてぇええええ……!!」

 マントを顕現させ、高速で飛行を続けるエヴァンジェリン。周囲に他の車がなければ関東魔法協会がブチ切れる暴挙だが、そんなことに構ってはいられない。

「はっ!!」

 なんとかトラックの端につかまり、その勢いで屋根の上へと降り立つ。

 ジャンプは未だに、トラックの上で選ばれし()者を待っていた。

「よし「待ってぇ~!!」――この声は……まさかっ!?」

 勢いよく後ろを振り返ると、ワイヤーの様なものを駆使して先程の女性、平沢唯がトラックへと肉薄していた。

「よし! あと少しで「魔法の射手(サギタ・マギカ)っ!!」――ちょっとぉ!?」

 容赦なく撃ち出された魔法の射手(サギタ・マギカ)をどうにか回避し、平沢はトラックの上に降り立った。本来ならば魔法等この場で放つなんて御法度なのだが、相手はむしろ、別のことに意識が削がれていた。

「え、うそ……もしかして、本物の(・・・)エヴァンジェリン!?」

「ほう、私を知っているか。ならば話は早い、失せろっ!」

 再び放たれる魔法の射手(サギタ・マギカ)

 その氷の矢を、平沢は手に持っている柄を操作し、先端に付いた刃を射出した。刃と柄の間に繋がれた蜘蛛糸(スレッド)が手繰り寄せられることで身体が浮き、不安定な体勢になりながらも魔法の矢を回避していく。

「あっぶないな~もう……というか! 『登校地獄(インフェルヌス・スコラスティクス)』はどうなったの!?」

「はっ! 今は長期休暇を利用しての一時的な自由の身だ!! 次の春には卒業して完全に解放されてみせるわっ!!」

「え~、そんな感じで解放されるの……なんかショボい」

 蜘蛛糸(スレッド)を回収しながら、げんなりした表情を浮かべる彼女に、エヴァンジェリンはふと違和感を覚えた。

「おい、その見聞きしてかじったかのような語り草。まさか……貴様転移者かっ!?」

 その問いかけに、平沢は頭を掻きながら答えた。

「まあ、正確には転生者だけど「今は転生系転移者と呼び名が決まってるぞ」――へえ、そうなんだ……って! そんな呼び名ができる位に転生者や転移者がいるのこの世界っ!?」

 どうやら、他に転移者がいることを知らなかったらしい。というか変な呼び名ができる程に浸透していることの方に驚いているようだった。

「貴様らそこかしこに現れおって、害虫かなにかかこらっ!?」

「そっちこそっ!? 原作通り麻帆良にいてよここは『けいおん!』世界なの私にとってはっ!!」

 しかし、ジャンプをきっかけに上昇したボルテージは下がらない。年末特有のアレなテンションも下がらないっ!!

「ならばここで引導を渡してくれる……」

「元がほのぼの世界の主人公だと思って、甘く見ないでよ?」

 周囲に氷塊を纏わすエヴァンジェリンに、平沢はスレッドをまっすぐに構えた。

闇の福音(ダークエヴァンジェル)、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル……」

蜘蛛(アラクニド)、平沢唯……」

 トラックの速度が上がる中、屋根の上にいる二人を止める者はいない!!

「いくぞっ!!」

「いくよっ!!」

 ブオン!

『ゲフゥッ!?』

 ……訂正、止める()はいた。

 看板という障害が、彼女達を再びトラックの外へと弾き出したのであった。




話が長くなった為、前後編に分割しました。後編は12月31日23時50分に投稿予定です。
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