魔法先生ネギま 雨と葱   作:朝来終夜

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第08話 年末大捜査線(後編)

「……え、高畑先生来れないの?」

「うん。仕事が入ったから、そのまま年越しだって」

「マジかよ。こっちも人手が足りないってのに……」

 茹でたそばの麺を湯きりしながら、ラカンはカウンターの向かい側にいるアスナにぼやいた。

 大晦日は便利屋『RUDE BOYS』も大忙しだった。

 学園都市中の養護施設にいる子供達全員を集めての年越しパーティー、彼等が中心となって年越しそばを振る舞い、大型プロジェクターにて紅白歌合戦やアニメスペシャルを(関係各所に許可を取った上で)上映しているのだ。他にも屋台の食事等も用意してあるが、無名街にいた家族全員(大人だけ)と養護施設の職員総出でも、子供達の人数の方が圧倒的に多い。だから社長であるスモーキーも休出手当を奮発し、増員を手配しなければならない事態と化しているのだ。

 ラカンからどんぶりに麺を出してもらい、スープを注いで具を盛り付けるシオンを眺めながら、アスナは呆れた様に肩を竦めていた。

 元々家族総出で年越しパーティーに参加し、しずなやタカミチは手伝い、アスナはパーティーを楽しむはずだった。しかし、その予定は世界平和の前に脆くも崩れ去ってしまう。

「でもラカンは暇だったんだよね?」

「小太郎ですら彼女と年越しする、とか言っていたのにな」

「うるせぇよてめえら。余計なお世話だ……」

 もうすぐ年が明ける。

 アスナの年越しそばを最後に、今度は自分達(スタッフ側)の分を用意し始めていた。

「ナギは家族で過ごして、アルは寝正月で引き籠っている……俺も、旅行にでも行けばよかった」

「年明けに行けばいいじゃん。バイト代出るんでしょ?」

「結構大金になるしな。近場位なら余裕で行けるだろう」

「つってもこの辺りは遊び尽くしたしな……詠春の所にでも転がり込むか?」

 京都旅行へと思いを馳せるラカンを放置し、シオンはどんぶりの準備をしながら、アスナに問いかけた。

「それで、仕事って魔法関係か?」

「うん。軌道エレベーターの護衛」

 適当な台を椅子代わりにして腰掛け、アスナはそばを啜りつつ答えた。

「どこかの組織が年末に爆弾テロを仕掛けようとしている、って情報が入ったんだって」

「わざわざ年末にやるかね。傍迷惑な……「どうせ失敗する。高畑先生達もその内戻ってくるだろう」――……スモーキー?」

 会話に混ざりながら緑のジャンパーコートを羽織る男、スモーキーは歩み寄ってきた。大きめのお盆を持って。

「……なんでそう思うの?」

 不思議そうに首を傾げるアスナに、スモーキーはお盆をシオンに預けてから答えた。

「誰よりも高く飛ぶには、しっかりと助走する必要がある。年末に慌てて爆弾テロを実行しようとしても、途中で転ぶのがオチだ」

 丁度あのように、とスモーキーが指差した先を見るアスナ達。そこでは新田がユウに勉強を教えている所だった。

「ほらあと少しだ。年明けまでにしっかり課題を済ませるんだぞ」

「あ~、なんで俺だけ……」

 実は便利屋『RUDE BOYS』、いや無名街の面々は仕事の都合上、最低限の学力を身に付ける必要がある。その為、鬼の新田特製の課題をこなすことが義務となっていた。そして、年末が締め切りの課題をこなせていなかったのは、ユウだけである。

「だから子供達と一緒に宿題をやれ、って言ったのに……」

「今更だ。まだ掛かりそうだから、先にララ達の方にそばを配ってくる」

「あ、私も行く。エリと一緒に年越しする、って約束してたんだった」

 そして、旅行先での芸者遊びに思考がトリップして、手が止まっていたラカンを蹴り飛ばす事態になり、年越しそばの配布がさらに遅くなるのであった。

 

 

 

 

 

「そう言えば、バーボンの奴が潜入先の喫茶店の店員に惚れてる、って噂聞きましたか?」

「逆じゃなかったか? 俺は店員がバーボンに惚れてる、と聞いたぞ」

 トラック内は静かに、順調に目的地へと向かっていた。あまりに平和すぎて、職場内での噂話を雑談の話題にする程に。

「……まあどちらにしろ、潜入先の女とくっつく等、(ろく)な事態にはならんだろう。最悪あの方に伝えて「……~ン、プ……」――……なんだ?」

 不審な声を聞き、ジンは雑談を切り上げてから、ダッシュボード内にある(ベレッタ)を掴んだ。

「兄貴?」

「警戒しろウォッカ。もうすぐ目的地だ「ジャ~ンプ、を……」――横かっ!?」

 右手でハンドルを握ったまま、左手に握った(ベレッタ)の銃口を声のする方へと向けるジン。しかし、その銃口から弾丸が飛び出ることはなかった。

 小さな手に不釣り合いな力で窓を叩き割り、(ベレッタ)を掴んだまま、拳をジンの顔へと突き刺した。

「ジャンプを寄越せぇ!!」

「ガファッ!?」

 殴られた勢いでハンドルが狂い、トラックの水平運転が困難になる。

「あっ、兄貴「ジャン、プは……」――アバッ!?」

 自らの兄貴分が(ベレッタ)を掴んだ拳で殴られるのを見て、どうにか助けようと手を伸ばすも、その手は突如自らの首に巻かれたワイヤー状の何かに伸ばすことに。そうしなければ、窒息死が免れないからだ。

「ジャンプは私のだぁ!!」

「ナガッ!?」

 それが止めとなった。

 (ベレッタ)を持った手でジンを殴った少女、エヴァンジェリンの一撃で浮きかけた車体は、ウォッカの首に巻き付けた蜘蛛糸(スレッド)を手繰り寄せた女性、平沢唯がトラックに取り付く為に勢いよく引き寄せたのだ。

 ここまでされてしまえば、さすがのトラックも横転待ったなし。

『……ってギャァアアアア!?!?』

 年明けも近い最中、4人の男女はトラックの横転事故に巻き込まれるのであった。ついでに言えば積載物も積載物なので、大爆発追加で。

 

 

 

 

 

「知ってるか? 除夜の鐘は108回突くんだが、それはある武術家が己を育ててくれた武術に感謝する為に山籠もりして、1日に行った感謝の正拳突きにあやかったものなんだよ」

「父さん、何嘘言ってるの? しかも感謝の正拳突きは1日1万回だし」

「少しは父親としてまともなことを教えようと思わんのか、貴様は」

 父母息子と家族3人が揃ったスプリングフィールド一家。

 年末年始と仕事のない彼らは、家族水入らずで年越しそばを(すす)りつつ紅白歌合戦を眺め、年明けの時間に合わせて初詣へと向かっている所だった。ちなみに向かっているのは龍宮神社だったりする。

「ほら父さん、馬鹿言ってないで急ごうよ。明日菜さん達ももう着いているだろうし」

「まったく、年明けまであと少しという所で……」

 困ったように話すネギと、呆れて腰に手を当てるアリカ。

 しかしナギはどこか嬉しげに、二人に手を回してから並んで歩かせた。

「まあ、いいじゃねえか。毎年の恒例行事に「え、僕結婚したら家を出るつもりなんだけど?」――……その時は奥さんと子供連れてこい。初詣行けりゃいつでもいいから」

「うむ。(わらわ)はまだ若い気だが、家族が増えるのはいいことじゃ……初孫かぁ」

 年齢に関しては思うところはあるも、微妙に嬉しそうなアリカ。

 しばし歩いていると、目的地である龍宮神社の鳥居が見えてきた。

「まあ、その前にネギは千雨ちゃんに告白する必要が……ちゃんと告白できるよな?」

「それは私も知りたいわね」

「失礼な。ちゃんと告白するつもり……って明日菜さんっ!?」

 鳥居を抜けた先。道の横に立てられた休憩所のベンチに、明日菜達が甘酒を飲みながらたむろしていた。そして明日菜は立ち上がると、スプリングフィールド一家に気取られることなく近寄り、話しかけたのであった。

「ちょっ、いつのまに「お姉ちゃんには神出鬼没のライセンスがデフォルトで備わっているのよ」――……なんで皆年末にそんなでたらめや嘘を吐くんですか? エイプリルフールにやりましょうよ。そういうことは」

 そんなこんなで近場に住んでいる3-Aの面々+ナギとアリカが年末に揃い、年明けまで真名が配っている甘酒を口に運んでいた。

「……って、あれ? 千雨ちゃんとエヴァちゃんは来ないの?」

「千雨ちゃん達は初日の出を見てから行くからええ、()ってたえ~」

「朝倉さんもそちらに混ざると(うかが)いましたが?」

 明日菜の疑問に、このかと刹那が答える。

 そんな話をしているとあやかが立ち上がり、パンパン、と手を叩いて声を上げた。

「はい皆さん注目!」

 注目を集めたのを確認し、あやかは懐中時計を見てカウントダウンを始めていた。それを見て、全員がその意図を理解した。

「……1、皆さん!」

『明けまして、おめでとうございまーす!!』

 こうして、(ネギを除く)全員が挨拶を終え、皆(つつが)なく初詣へと向かおうとした。

「……ヒック」

 そう、かつて甘酒で酔っ払ったネギ以外は。

「……ってネギ?」

「あの、ネギ先生……?」

「ぼっ、僕は……ヘタレじゃなぁい!?!?」

 そして、泣き上戸で暴れだすネギをナギや明日菜達が取り押さえる、非常に騒がしい年明けとなったのだが、彼ら彼女らにとってはいつものことなので割愛します。

 それでは皆様、どうか良いお年を。

 

 

 

 

 

「……大丈夫か、ウォッカ?」

「なん、とか……しかし兄貴、テロの方は?」

「目的地近くで爆発したんだ。一先ずは及第点とするぞ」

 ボロボロになりながらも、ウォッカに肩を貸したジンの2人はこの場を去って行った。

 その後ろでは、トラックから零れ落ちたジャンプに手を伸ばす2人が。

「ジャ、ジャンプは……」

「わた、しの……って、あれ?」

「……ん? おい、これって」

 爆発によるショックからか、若干冷静になって見てみると……それはジャンプではなかった。

『……ジャンプGIGAじゃん』

 彼女達の耳に、どこかの神社のものだろうか、除夜の鐘が鳴り響いてきた。

 

 

 

 

 

「少し、長居しすぎたのかもな……この麻帆良学園都市(まち)に」

「どういうこと?」

 年明けということもあり、熱燗を口に入れながら、千雨はぼやいた。

「初めて転移者と戦った時の話なんだけどな……私、死ぬんだってさ。ネギ先生を(かば)って」

「でもそれ……明日菜のいない(別の)世界線の話だよ」

 千雨が得ていた情報に、こなたは訂正した。

 自らが知る原作知識とは、微妙に異なる点に。

「それに、死ぬ原因となった事件ももう終わってるから「因果律はそう簡単に変わらねえだろうが」――……それは、まあ」

「正直、ゾフィスを使って記憶をなくす、ってのもちょっとは考えたんだよ。でも……やっぱりできなかった。あいつが死ぬかも知れない、ってのにのほほんと生きるなんて考えられなかった。例え、記憶をなくすとしてもな」

「本当、優しいよね……千雨ちゃんって」

 自らも熱燗の日本酒を飲みつつ、和美も話に混ざってくる。

「例えヨルダがいなくても、転移者が代わりの敵になる可能性がある。というか、ジェイル・スカリエッティという敵が存在している。おまけに千雨ちゃんは既に襲われているから、どこへ逃げても追いかけてくるかもしれない……選択肢が戦うしかない、ってのもね」

「まあ、誰かに護衛役を押しつけてもいいんだが……それで自由を失うなんてごめんだ」

「でも、そうすれば生きる確率が高いんだよ?」

 こなたが指摘してくるも、千雨は首を振って否定した。

「もういやなんだよ。誰かの顔色を(うかが)って生きるなんて、実質死んだような生き方は」

「それで戦う力を得て、この麻帆良学園都市(まち)に残っているのか……でもさ」

 徳利(とっくり)(もてあそ)びながら、和美は座卓の上に頬杖を突きつつ、言葉を漏らす。

「千雨ちゃんの気持ちはともかくとして、ネギ君には言わなくていいの? 自分が死ぬ可能性を上げてても、近くにいることをさ」

「言わなくていいよ。別に見返りを求めているわけじゃないし……それに、な」

 千雨は自らの御猪口を置き、代わりに持ち上げた煙草を咥えながら呟いた。

「私の気持ちとか、本当はどうでもいいんだよ……あいつが、」

 照明と月明かりの他に、ライターの明かりが追加される。煙草の先端に火を点けた千雨の視線は、外の月を眺め始めた。

「ネギ先生が幸せなら、それで――」

 煙を吹かしながら呟く千雨を、和美は何処か楽しげに眺めていた。

「想われてるね~ネギ君」

「うん、それなんだけどさ……」

 ルーレットを廻しながら、こなたは不思議そうに聞いてきた。

「そんな重要そうな話を、なんで人生ゲームやりながら話しているの?」

『……なんとなく』

 年明けまでの暇潰し、3人だけの人生ゲーム大会は日の出の数十分前まで続いた。

 

 

 

 

 

「……なあ」

「何……?」

 目の前にあるのはジャンプGIGA。

 もう争う理由はないはずだが、エヴァンジェリンにはまだ、その理由があったのだ。

「もしかしたら火種になる発言、してもいいか?」

「うん。多分、私も同じこと言うかもしれないから……」

 平沢にも事情が読めたのか、蜘蛛糸(スレッド)の柄を掴む手に力を込めている。

 

 

 

「私…………ジャンプGIGAもまだ読んでないんだ」

 

 

 

 こうして、第2ラウンドは始まった。

術式兵装(プロ・アルマティオーネ)・『氷の女王(クリュスタリネー・バシレイア)』!!」

「ギア2(セカンド)! 集中力操作自在(Concentration Driving Free)!!」

 この戦いは、犯人を捜査中の高音達と、軌道エレベーター護衛を解除されたタカミチ達が止めに入るまで続いた。つまり、

「…………あ、夜明けだ」

 エヴァンジェリンに対して蜘蛛糸捕縛(スレッドバインド)をかましながら高音の影に拘束されていた平沢の目に、初日の出は眩しく映ったとか。

 

 

 

 

 

 ――ピッ!

「……エヴァンジェリンが面倒事を起こしたから、帰るの遅くなるって」

「さすがに、他の面倒事までは読めなかったな……」




(読み終わった頃には多分)新年明けましておめでとうございます。
今年もどうか、よろしくお願い致します。
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