魔法先生ネギま 雨と葱   作:朝来終夜

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第10話 こんな日常を書きたかった……というか過ごしたかった

「キョロ、キララ、ふたり、つきあってる?」

「どうなんでしょうね~」

 扉の修理に来た便利屋『RUDE BOYS』のタケシとピーの横を通りながら、新しく来た客は少し離れた席に腰掛けた。上条がサービスのホットドリンクを持って注文を取りに行くのを尻目に、千雨達は雀卓にしていた席を囲むようにして席に着いた。聡美やこなたも、近くの席から椅子を持ってきて座っているので、結構な大所帯となっている。

「……あいつら呼んで修理させるなら、壊さない方が良かったんじゃないのか?」

「何事も勢いが大事なのよ。気合いを入れて何が悪いわけ?」

 蛇足になりそうなので、それ以上話が掘り下げられることはない。精々上条辺りが殺気の籠った涙目を向けてくるだけだろうし。

 冷静になろうと千雨が煙草を咥えると、伸びてくる手が一本。差し出された煙草に借りたライターで火を点けた灰原は、紫煙を軽く吸い込んでから、ようやく話を始めた。

「とりあえず、本番までに色々と準備しましょう。時間がないからイベント運営も便利屋『RUDE BOYS』(向こう)に丸投げして、私達は練習に専念。異論は?」

『異論なし』

 本番まで一ヶ月と少し。商売目的ではないので、チケット代をはじめとした利益全般は全て便利屋『RUDE BOYS』(運営側)に支払えばいい。

(大して利益が出るとも思えないしな……)

 灰原と同じく煙草を吹かしながら、千雨は内心でそう考えていた。

 しかし、これで練習に専念できるということは、好きに歌って満足できると考えられるから、存外気楽にやれるということだ。

「じゃあ、練習の日程を決めるから、全員予定を教えて」

 その日は練習する予定を決めてから、そのまま解散となった。

 

 

 

 

 

「へぇ……千雨ちゃん、ギター弾けたんだ」

「ベースだけどな。使わないからマンションの外に出してて正解だったよ。楽器って結構高いし」

 夕暮れ時、千雨は和美と合流して外へ夕食を食べに出ていた。そのついでに、楽器屋によってベースギターの弦を物色しているのだ。

 弦が並ぶ棚の前で商品を見比べている千雨を眺めながら、ふと和美はある人物の名前を口に出した。

「そう言えば、そのことネギ君には話したの?」

「企画がまとまってからだな。悪友共(あいつら)が暴走して結局なしになったら意味ないし」

「てことは……誘う気はあるんだ?」

 微妙に渋い顔をしながら、千雨は商品を一つ手に取って、レジへと向かった。和美もそれについていく。

「前回は親父(ナギ)さんの件で呼べなかったし、言う程活動してなかったしな。向こうの都合にもよるが、観客の頭数増やす為に声位は掛けるさ」

「もっと素直になったら、千雨ちゃん……」

 呆れる和美に構わず、会計を終えた千雨は購入した弦を片手に店を出た。

「面倒だし、焼き鳥屋台(SOS)でいいか?」

「いいよ。あそこおいしかったし」

 ここから屋台まで距離がある。太陽が沈むのに合わせて、二人はゆっくりと目的地に向かっていく。

「それにしても、またベース弾く羽目になるとはな……」

「あれ、バンドの割り当て(ベース)って千雨ちゃんの希望じゃないの?」

「消去法」

 歩き煙草は違法なので、千雨は代わりにガムを口に含んでいた。適当に風船を膨らませて、割っては噛み直すのを繰り返している。

「元々キーボードができる風斬や(しょう)に合わないからってドラム選んだ麦野のせいで、残りのリードギターとベースボーカルを私と灰原で分担したんだよ。その結果だ」

「それはまた……え、ちょっと待って千雨ちゃん」

 歩いている千雨の肩を、和美は慌てて掴んだ。一瞬、耳を疑う発言を聞いてしまったからだ。

「千雨ちゃん……今、なんて?」

「いや、だからベースボーカル(・・・・)担当してたって…………あ」

 和美の手を払って逃げようとする千雨だが、相手の腕が関節技を決める方が早かった。おかげで身動きが取れず、逃亡することも(かな)わない。

「千雨ちゃんが歌うのっ!? 本当!?」

「くっそ……それバレるの嫌だから黙ってたの、すっかり忘れてた…………てか放せっ!?」

 和美の拘束から強引に逃れた千雨は、肩で息をしながらしゃがみ込んだ。そのついでに吐き出してしまったガムを包み紙越しに摘まみ取ってから、近くのゴミ箱に投げ込んでいる。

「はぁ……私も灰原も『歌と演奏まとめて練習するなんて、面倒臭い』って理由で互いに嫌がってな。適当にギャンブルで決めた結果だよ。あのアマ……あそこであんな手使うか、普通…………」

「はい落ち込まない。落ち込まない」

 和美は千雨の背中を(さす)り、どうどう、と(なだ)めてから立ち上がらせた。未だに路上なので、しゃがんだままだと他の通行者に迷惑だからだ。

「それで、何歌うの?」

「……コピーバンドだからな」

 コンビニが見えたので千雨はそこで立ち止まり、喫煙スペースで煙草を咥え始めた。それに呆れながら、和美もその横に立った。

「アニソンメインで適当に気に入った曲を練習して演奏、その程度のバンドだよ。それで成功させよう、なんて考える輩は、メンバーには一人もいなかったな。いたらまだ続いていたと思うし」

「微妙に千雨ちゃんらしいと思うけどね……」

(……ネットアイドルの件、持ち出したら怒るかな?)

 そんなことを和美が考えていることも露知らず、千雨は煙草を灰皿に放り込んでいる。

「というわけで、大したバンドじゃないから……ライブすることはあいつらにバラすなよ「いや、バラすよ」――お前なぁっ!!」

 このまま殴ろうとする千雨に、和美はただ後方を指差して、そちらに意識を向けさせた。

「というか……もうバレちゃってるよ」

「はぁ!?」

 突発的に後ろを向く千雨。

 コンビニで買い物でもしていたのだろう、明日菜と美砂がコンビニ袋片手に、並んで立っていた。

「お前ら……なんで…………?」

「いや、柿崎に借りてたCD返しに行ってたんだけど……」

「『ついでに宅飲みしようぜ♪』って丁度遊びに来ていた桜子が言い出したから、面子集めは円に任せて、私達は買い出しに……」

 じり、じりと距離を開けようとする二人に、千雨も詰め寄っていく。

 和美は気にすることなく千雨の後ろに陣取っているが、その手は怪しく(うごめ)いている。

「お前ら、そこ動「必殺、超一味謹製閃光の魔力球!!」――こんなアホなことに使ってんじゃねえ!!」

 前回(ゾフィス)の一件から、閃光の魔力球はクラス全員に改めて配られていた。AMFでもない限りは何処でも使える上に、攻撃の用途としては使えないので危険はないと判断したからだ。

 その閃光を合図に、明日菜と魔力球を放って身を(ひるがえ)していた美砂は駆け去って行く。

「大丈夫よ千雨ちゃん!! 私達に任せてっ!!」

「クラスどころか学園都市中に広めたらぁ!!」

「てめえら待ちやがれっ!! ……って、あれ?」

 千雨は腰に当てていた手を何度も叩き、そこに目的のものがないことに今更気付いた。

「千雨ちゃんも、街中でSIGP230(こんなもの)抜いちゃ駄目だって……」

「いいから返せっ!?」

 そして(弾倉(マガジン)だけ抜かれた)SIGP230を受け取りながら、明日菜達が走り去っていくのを見つめていた。銃を抜かずに走っていれば(明日菜はともかく)、美砂だけでも捕まえられていただろうな、と千雨は考えたが後の祭りだ。視界から消えた以上、もう手遅れだろう。

「……朝倉。今すぐ弾倉(マガジン)返すのと、あいつらに『宣伝含めて便利屋『RUDE BOYS』(運営はよそ)に頼んだから、クラス外の人間にまでは流すなよ』って必ず伝えるのと、どっちがましだ?」

「はいはい。連絡しておくから、千雨ちゃんは早く電話しなよ」

 すでに千雨の考えを理解しているのか、和美は携帯を取り出しながら答えた。

「早く誘わないと、明日菜達の方から聞いちゃうよ……」

 

 

 

 

 

「……ネギ君」

 

 

 

 

 

「はあ……どうしよう」

「どうしよう、言われてもなぁ……」

「ネギ君、こういう時は積極性を持たないと」

 とあるファミレスでのことだった。

 ネギは小太郎、フェイトと共にテーブル席に腰掛けると、オードブル系の料理を注文して適当にシェアしながら駄弁(だべ)っていた。ネギが仕事帰りにフェイトと共に歩いていると、丁度仕事(バイト)から帰ってきていた小太郎と会い、せっかくだからと三人でファミレスに入ったのだ。

 ファミレスにしては品揃えのいい紅茶葉を軽くブレンドしながら作った紅茶を一口のみ、ネギは二人に悩みを打ち明けていた。というかぶっちゃけ、千雨のことである。

「それは分かっているけどフェイト……彼女持ちには分からないよ。この気持ちは」

「いや、僕はともかく……犬神小太郎なら分かるだろう?」

「まあ、そりゃあ多少は……な」

 一応付き合いたての彼女がいる小太郎だが、その前までは相手にどう接すればいいか分からずに狼狽(うろた)えていたのだ。なんだかんだでハーレム作っているフェイトよりかは、立ち位置はネギに近いといえる。

「それでも、結局は動くしかないで? 自分でも周囲の手助け使ってでもええから」

「動くと行ったって…………自分でも(・・・・)?」

 ふと、その言葉がネギの心に突き刺さった。

「あれ、ちょっと待って……」

 その瞬間、ネギはとんでもないあやまちに気付いてしまった。

 そう……自分から誘ったことがないのだ!!

「……あ、ああああ…………!?!?」

 夏に映画を観に行った時も、この間の合コンも、小太郎やフェイトには言っていないが千雨の別荘に拉致された時も、いや言ってしまえば立場もあるとはいえ、教師時代でも一緒にいたのは大抵が成り行きだ。

 強いて挙げれば、期末試験の『学年トップおめでとうパーティー』に連れ出したことや、ラカンの土産を届けに行ったことくらいだろう。

 そう……ネギ・スプリングフィールドは自分から、長谷川千雨をデートに誘ったことがないのだ。

「まずい。このままじゃまずい!! 僕から千雨さんを誘ったことがない!?」

 慌てるネギだが、連れの二人は周囲への迷惑を考慮して彼を押さえ込むこと以外、大して取り乱していなかった。

「まあ落ち着けや、ネギ」

「別にネギ君から誘わなかったからって、そんなの偶々だよ。これから誘えばいいだけじゃないか」

「それもそうだ!!」

 慌てて携帯を取りだして操作し、デートスポットを割り出していくネギ。

 最初にフレンチレストランにて昼食。食後は最近、乗馬部の規模拡大の為にできた乗馬センターで乗馬体験。そしてホテル内のブランドショップを散策してから最上階の高級レストランにて夕食。最後に『部屋を取っている』と言って千雨を誘い、日帰りでも良し、しかしあわよくば……という妄想計画(デートプラン)ができあがってしまった。

「……なあ、フェイト。これと似たような計画、見たことある気がするんやけど」

「似てるというか、ホテルの部屋を日本庭園にして、順番を入れ替えるとまんまだよ」

 小太郎の疑問にフェイトが答えるも、ネギは我関せずとばかりに計画を記したA4用紙(メモ用)を掲げていた。

「完璧だ。完璧すぎる……」

『駄目だこりゃ……』

 それぞれこぶ茶とコーヒーを(すす)りながらネギの奇行を眺めていたが、世界的にはそうは問屋が(おろ)さなかったらしい。

『戦えない人間なんていない!! 戦うか、戦わないか、その選択が――』

「はい。……あ、千雨さん!!」

 千雨からネギに電話が掛かってきたのだ。

 しかし、小太郎もフェイトも、この後のオチが読めていた。そもそも、さっきネギが組んだような予定を実行しようとした人間がどうなったかを、二人は知っているのだ。

「丁度良かった。実は……え、千雨さんバンドやってたんですか!?」

「……そうなん?」

「僕も初耳だよ」

 漏れ聞こえた言葉を整理してみると、千雨はバンドをやっていたらしく、今度ライブをするから聞きに来ないか、というお誘いだった。話自体はまだ固まっていないが、明日菜達が暴走してクラスメイト全員に話して回る前に、正しい情報をネギに伝えようと順番が前後したようだ。

「はい、必ず行きます。それで…………ああ、はい、そうですか」

 そしてその練習の為に、しばらく予定が空かないとも言われたようだ。

 つまり今回も千雨から誘われた、という事態になったらしい。

「分かりました。ではまた…………ぅぅ」

 携帯を仕舞ったネギは、先程まで嬉々として書き上げていたA4用紙をテーブルの上に、静かに置いた。

「……………………せっかくだし、使ってもいいよ」

「いらんわ」「いらないよ」

 予算が掛かりすぎる上に、下手したら相手の行動によって計画が破綻(はたん)することが目に見えている。

 結末の読めている二人に辞退されたネギは、静かにA4用紙を引き裂いた。

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