魔法先生ネギま 雨と葱   作:朝来終夜

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第11話 相手に嫌がられている方がましな時もある

 そして、ライブ当日。

「……あれ、ネギ君は?」

「急な出張だって。予定だと、ライブ前には戻ってくるらしいけれど……」

 ライブ会場から離れた場所に一度集合する3-Aの面々。

 あやかが出席者の点呼をする中、明日菜は刹那と並んで立つこのかにそう答えた。その間携帯片手に通話するも、相手が電話に出ることはなかった。

「……駄目ね。全然繋がらないわ」

「何かあったのでしょうか? ネギ先生、今日を楽しみにしていたと聞いていたのですが……」

「大丈夫やろか、ネギ君……」

 心配するも、開場の時間は刻一刻と迫っている。このままでは、ミイラ取りがミイラになりかねない。

「仕方ないわね……ネギにはメール出しといて、私達は先に行きましょう」

 点呼を終えたあやかにネギのことを伝え、そして集合した全員はライブ会場へと向かっていく。

 ライブ会場となっているのは、以前学園祭で『でこぴんロケット』が演奏した広場だった。その広場や周辺区域に簡易天幕を張り巡らせ、敷布で目隠しを兼ねた囲いも施してある。危険物対策の為に持ち込み式のロッカーや手荷物預かりサービスも充実し、簡易的だが出店も展開されていた。

 ここまで大きくなったのは(ひとえ)に便利屋『RUDE BOYS』の宣伝能力と『せっかくだしチャリティライブにして、収入源を施設の運営に回そう』とスモーキー達が暗躍した結果である。

「キョロ先輩。私達って「付き合ってないよ」――何で即答するんですか!? タマだけミソッカスですか!? 仲間外れいくないです!!」

 騒がしい群衆に紛れながら、明日菜達は荷物を預けに預かりセンターへと向かっていく。

「……あれ、明日菜それどないしたん?」

 普段は持ち歩いていないはずの幅広の竹刀袋を携えた明日菜を見て、このかは不思議そうに首を傾げている。

「ああ、これ?」

 ちょいちょい、とこのかや刹那を周囲の視線から阻む壁のようにして立たせると、明日菜は降ろした幅広の竹刀袋を少し開け、中身を晒して見せた。

「……映画で使ってた、ネギ君の剣?」

「転移者対策ですか?」

「そう。この前みたいに不意打ち喰らうのも気にくわないから、普段は持ち運ぶようにしているのよ。……といっても、携帯許可が下りたのはつい昨日のことだけど」

 映画撮影用に改造した中古の剣を竹刀袋に戻し、再び預かりセンターへと歩き出した。

「それにしても……許可を取るのって、結構面倒なのね」

「まあ、正当な理由がないと難しいですし……私もそれを知らずに、麻帆良学園都市(ここ)に来た当初はすごく苦労しました」

 刹那も自らの竹刀袋に仕舞ってある夕凪に意識を向け、当時の苦い思い出を噛み締めていた。同じ苦労を味わった明日菜共々歩いているのを眺めながら、このかは二人を預かりセンターに向けて誘導していく。

「ほなほな、早く預けんと……すみませーん」

 カウンターの向こう側にいるスタッフに向けて声を掛けるこのか。

「はい、ただいま……って、何だ明日菜達か」

「ちょっと!? なんでここにいるのよっ!?」

 出てきたのは、なんとアリカだった。

 スタッフの制服らしき作業服を身に付け、長い髪を束ねてから帽子を被る彼女は、どこからどう見ても元女王だと認識する者はいないだろう。

「いや、割のいいバイトだったから、ナギ達と一緒に働いているんだ。席はないが休憩時間に演奏も聴けるし」

「段々と所帯染みてきているけど……それでいいの? アリカ」

 呆れつつ荷物を預ける明日菜と刹那。他の3-Aの面々も、荷物を預ける為に別のスタッフの元へと並んでいる。アリカが預かりの手続きをする中、このかはふと、先程の発言を思い返していた。

「あれ、アリカさん。ナギさん達と一緒にバイトしてはるゆうとったけど……他の人らは?」

「ああ、ナギはあっちで焼きそばを作っているぞ」

 アリカが指差す先では、出店で焼きそばを作っていた。捻り鉢巻きで小手を返す姿は、どう見ても元英雄には見えない。普通にテキ屋の兄ちゃんだった。十代後半の息子がいるけど。

「ラカンは会場内の警備をしているはずだし、アルは事務所で経理作業。タカミチもラーメンの屋台を近くに持ってきていたはずだが……」

 次にアリカが指差した先では、タカミチが焼き鳥屋台の主である涼宮と一緒に作業服姿のスモーキー達に取り押さえられていた。

「また会ったな焼き鳥屋!! 僕のラーメン道の邪魔をするなっ!!」

「いい機会ねラーメン屋!! 今日こそ決着を付けてやるわよっ!!」

「問題をおこすならどちらも帰れっ!!」

 珍しく激高するスモーキーに率いられたスタッフ一同に連行されていく二人を見ることができずに、明日菜は遠くを眺めていた。

「本当、私の初恋って一体……」

「明日菜さん。しっかりして下さい……」

 屋台ごと連行されていくタカミチ達を直視できずに、明日菜は仕方なく出店の方を眺めていた。キメ顔で焼きそばを作るナギを見て、再びアリカの方を向いたが。

「これが預かり証明の札だ……ってどうした?」

「ううん、なんでもない。ちょっと人生の残酷さと初恋の虚しさについて考えているだけで」

「明日菜……またかいな」

 呆れるこのかに背中を叩かれながら、明日菜は預かり証明の札を受け取った。

「ちなみに小太郎は手荷物確認の列にいるぞ。雑談程度ならいいが、あまり長く拘束してやるなよ」

「……夏美ちゃん、今日はデートちゃうねんな」

 いえ、入場時の臨時スタッフなので、後程合流して一緒にライブを楽しむ予定だったりします。

「なんか、物事全てが馬鹿らしくなってきた……はぁ」

「元気出して下さい。クルトさん」

 会場で合流した聡美と共に、クルトも自らの刀を預かりセンター(アリカとは別のスタッフの列)へ預けていた。

 

 

 

 

 

 そして控え室。

「ん~……」

「どうかしたの?」

 衣装に着替え、ベースギターの調律を終えたので携帯を弄っている千雨に、丁度着替え終えた風斬が話しかけていた。灰原は電話越しに口喧嘩中で、麦野はマニキュアを塗っている。他に話す相手がいなかったのだろう。

「いや、今日来るって言ってた奴が来ないらしくてな。こっちに連絡は来ていないかとさっきメールがあったんだが……それがちょっと気になって」

「何かトラブルでもあったんじゃあ……?」

「……ちょっと調べてみるか」

 千雨は携帯を懐に仕舞うと、鞄からタブレットPCを取り出して立ち上がった。

「すぐに戻る。何かあったら声を掛けてくれ」

「うん。早く戻ってきてね……」

 他の二人に話しかけられない中、ぽつねんとする風斬を残して千雨は控え室を出た。

 スタッフが走り回る中、千雨は壁にもたれたままタブレットPCを起動させ、タブレット状態のまま操作を始めた。

「ISSDAの管理者サイトに接続。ネギ先生の予定は……っと、あれ? 北海道?」

 まだ検討段階ではあるが、未開拓地域を整備して魔法世界(ムンドゥス・マギクス)の住人を移住させる計画があり、その候補の一つに北海道がある。しかし検討段階である以上、現時点で視察をする必要性はないはずだ。

「妙だな。仕事自体、急な依頼で行われているみたいだし……かといって計画の緊急度が釣り合っていないのは……」

 千雨は懐から携帯を取り出し、短縮である人物に電話を入れた。

『……なんだ。人捜しの件は急がないんじゃなかったのか?』

「いや別件だ。今大丈夫か?」

 電話の相手は土御門だった。

 現在は以前エヴァンジェリンが平沢と暴れていた地域を中心に調査中のはずだが、関東魔法協会も出張っている以上、その近くで調べているわけではない。陰陽道で式神を飛ばしながらの調査だと思い、少しならリソースを割けるかも知れないと考えて電話を掛けたのだった。

「ネギ・スプリングフィールドの所在を知りたいんだが、調べられるか?」

『ちょっと待て……飛行機の搭乗記録が残っている。魔法的にも科学的にも信憑性は高い』

 どう調べているのかは分からないが、すぐに結果を出している以上、式神以外にも何らかの手段があるのだろう。千雨は特に気にすることなく、土御門に先を促した。

『だが……東京で記録が途切れているぞ』

「どういうことだ?」

 土御門の話では、そこからタクシーに乗り込んだらしい。その姿は監視カメラにも残されていたらしいが、その後の痕跡は、どう探っても出てこないようだ。

「気になるな……」

『調べてみるか?』

「頼む。無事麻帆良学園都市に入った場合は構わないが、もしトラブルに巻き込まれていたら、匿名で関東魔法協会に連絡しといてくれ」

 通話を切ると、今度は別の人間に電話を入れた。

「まだ外にいればいいけど……あ、朝倉か?」

『どうしたの、千雨ちゃん』

「ネギ先生がトラブルに巻き込まれた可能性がある」

 簡潔に用件を伝える千雨。それだけで状況を理解したらしい、電話越しに朝倉が雑音を立てているのが聞こえてくる。おそらく、手帳か何かを取り出しているのだろう。

『……続けて』

「北海道に出張していたらしいんだが、緊急度が釣り合っていない仕事な上に、東京に戻ってからの足跡が掴めていない。今は土御門に調べさせているが、何かあれば関東魔法協会に通報するように伝えといた。どうせ盗聴しているんだろう? 連絡が入るようなら神楽坂達にも伝えてくれ」

『あ、ばれてた? 了解……こっちでも探ってみようか?』

「ライブが終わっても来なければ頼むわ。杞憂ならそれに越したことはないしな……ネギ先生の気が変わって来ない可能性もあるし」

『……千雨ちゃん、それ本気で言ってる?』

「そっちの方がマシ、ってだけだ。他意はないから怒るな」

 そう、何もなければいい。

 ネギが無事であれば、千雨もこうして本番前に電話する必要なんてないのだ。

「とにかく、ライブが終わっても来なければ調べに行くから、そっちも念の為準備しておいてくれ。何かあれば私の名前を使って、スモーキー達(RUDE)に依頼を出すだけでも構わないから」

『大丈夫。必要になりそうな物は会場近くに準備済み。保険に用意していたんだけどね……』

「分かった。何を準備しているのか知らないし知りたくもないが……その時は連絡入れるから、頼んだぞ」

 携帯の通話を切り、タブレットPCも終了(シャットダウン)させていると、同時に着信音が鳴った。

「……土御門か、どうした?」

『すまない。一つ確認し忘れたことがある……』

 何事かと千雨が身構える中、電話の向こうにいる土御門はおもむろに口を開いてきた。

『……報酬は『エマ』のメイド服でいいか?』

「ちゃんと作ってやるからさっさと仕事しやがれっ!?」

 携帯に向かって怒鳴りつける千雨を、周囲のスタッフ一同(休憩に戻ってきたアリカ含む)は訝しげに眺めていた。

 

 

 

 

 

「やっぱり罠か……」

 ライブの前日、急な出張で北海道に渡ったネギだったが、現地スタッフとして派遣されているはずの人間が待ち合わせ場所に来なかった。急ぎでないはずだが、現地スタッフは以前千雨を通して知り合った起業学生なので、仕事自体に偽りはないと思えば、連絡を取ってみると『そんな話は聞いていない』と返されてしまったのだ。

 それを聞いたネギは急ぎ帰宅しようと、念の為飛行機の席を買い直して東京に戻ってきたのだが、そこで改めて襲撃されたのだ。巻き込まれたタクシーの運転手には(慰謝料の請求先として)自らの名刺と署名、ISSDAの連絡先を渡してから逃がしてある。

 後はネギだけだが、そうも言っていられない。

「飛行機だったからグロック17()は持ってきていないし……残っているのは杖と指輪、閃光の魔力球だけか」

 今後はグロック17を携帯できるようにしよう、とネギは今後の課題を頭の片隅に残すと、鞄を地面の上に置いて、建物の影に隠れながら立ち上がった。

「千雨さんが恥ずかしがって変な仕事を割り振った、ってわけじゃないみたいだし……また転移者かな?」

 杖を構え、不用意に顔を出さないようにして様子を探るネギ。

 その背後には、スクラップと化したタクシーが一台転がっている。

「何処の誰が何の目的かは知らないけど……人の恋路を邪魔して、簡単に許すと思うなよ」

 楽しみにしていたライブに行くのを邪魔されてしまい、若干口調の悪くなるネギだった。

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