魔法先生ネギま 雨と葱   作:朝来終夜

89 / 100
第12話 まともに取り合わない者もいれば、手を差し伸べてくれる者もいる

「まだか……」

 杖を構え、壁際に身を寄せたまま、ネギは相手の出方を伺っていた。

 相手はまだ動かない。スクラップと化したタクシーも、乗り手がいなくなった後も未だに煙を吹いている。それ以降、何のアクションもないのだ。

「……やけに静かだな?」

 周囲に気配がない。魔法か物理かは不明だが、恐らくは遠距離からの狙撃。しかし、最初に一撃を放ってからは一切、行動を起こしていない。

「どうする? とりあえず索敵と……後は、まだ試験段階だけど」

 索敵の魔法と同時に、光の屈折を利用して視界を広げる魔法を用いて、周辺の状況を探っていく。まずは情報を、でなければゾフィスの時と同様に出遅れてしまう。

「敵は、何処だ……?」

 まずは探れ、襲撃者(てき)の全てを……!

 

 

 

 

 

 近くにビルの屋上にて。

「全員無事?」

「一応だが……」

 双眼鏡でスクラップになったタクシーを、そこに乗っていたが今は隠れているネギを眺めていた黒髪の男に、金髪のロングヘアを(なび)かせた女が、出入り口の横にある壁にもたれながら問いかけた。

 フランコとフランカ、『別の』イタリアで名を馳せた爆弾製作のプロは現在、日本で仕事をこなしていた。以前は五共和国派(パダーニャ)という、イタリアの反政府勢力として活動していたが、今のところは傭兵や便利屋の類で生計を立てている。そんな中、ある依頼が届いたのだ。

 内容は簡潔に、『ネギ・スプリングフィールドの足止め、始末できれば追加報酬有り』。今日中に戻ってこなければぼろもうけのはずだったが、待ち伏せしていた空港に彼が戻ってきた以上、仕事はこなさなければならない。

 ……そう、普通ならば(・・・・・)

「しかし、上手くいったが……この後は?」

「運転手役のピノッキオと合流、そのまま帰るわよ」

 それを聞いた男、フランコは双眼鏡から目を離すと女、フランカに振り返った。

「……いいのか?」

「せっかく第二の人生を楽しんでいるのよ。もう無意味な人殺しなんて勘弁して欲しいわ」

 それだけ言うと、フランカは鞄を手に屋上から降りる階段への扉に手を掛けた。

「それに……警戒してしばらく動けないなら、足止めしてることに違いないでしょう?」

 

 

 

 

 

 そして開演時間となった。

「……そんじゃ、行きますか」

 携帯に連絡はない。一抹の不安は残るが、今の千雨にはやることがある。

 仲間達と共にライブを成功させること、それだけだ。

「最初の曲何だっけ?」

「『ガンダムAGE』のオープニング、4番目のやつね」

「……ねぇ、一回皆で楽曲リスト確認しない?」

 麦野と灰原のやりとりに、風斬も一抹の不安を抱いているが、いまさら気にしても仕方がない。というかもう、本番直前なのだ。

「ところで灰原、歌うの本当にあのネタでいいのか?」

「あら、嫌がらせには十分じゃない?」

「……お前、ライブで喧嘩する話本気(マジ)だったの?」

 ステージの裏に回った。反対側の喧騒から、客は満員御礼だと分かる。後は照明が落ちるのに合わせて、ステージに上がり、演奏をするだけだ。

「しかし、またやることになるとはな……」

「別にいいだろう? ……どうせこの後、ばらけるんだし」

「最後の思い出、か……」

 出会いがあれば別れもある。ここにいる全員が、違う道を歩む。

 この先、極端に言えば生きて会えるかもわからないのだ。ならば今、この瞬間だけでも楽しもう。

「……そう言えば麦野、お前将来どうするんだ?」

「知るか」

「こ、怖い……」

「あまり心配かけないでよね」

 一人、将来に不安のある人間もいるが、別に気にしなくてもいいだろう。一応就活をしているはずだが、彼女が今後どうやって生きていくのかは分からない。犯罪に走らないことを祈るばかりだ。

「時間だ」

 スタッフのスモーキーから合図を受け、千雨達は照明の落ちたステージへの階段に足を掛けた。

「そんじゃ行くぞお前らぁ!」

『おーっ!!』

 照明が落ちる中、ステージの配置へと駆け上がって一分もしない内に、演奏が始まる。

「~♪」

 手続き諸々が面倒臭いので歌詞は省略します。しかし曲を聴けば分かる。

『MELTDOWNER'S REBOOT!!』

 照明を点けたタイミングも、バンド名を叫んだタイミングも。

 

 

 

 

 

「……あれっ、もしかして誰もいないっ!?」

 そしてネギが置いてけぼりになったと気付いたタイミングも、丁度今だったりする。

 

 

 

 

 

「……このパスタいまいちね」

「そうかな? 僕は気にしないけど」

 フランカはフランコと共にビルを出た後、合流した青年、ピノッキオと少し離れたファミレスに入った。そこで夕食を注文したのだが、出てきた料理は現地(イタリア)人のお気に召さなかったらしい。

「……ピノッキオ、足はついてないだろうな?」

「外国人訪問者専用のタクシーってことで誤魔化したから、多分人種で不審者だと判断していない。一応サングラスと化粧で目と肌の色は隠したから、もう一度会ってもすっとぼけられると思う。問題は……」

 そう言ってピノッキオが取り出したのは、ネギから受け取った名刺と署名、ISSDAの連絡先だった。それをテーブルの上に置き、フランカ達に確認させる。

「……さすがに請求するのはまずいからしないけど、これ、処分する?」

「いえ、残しておきましょう。何かに使えるかもしれないわ」

「だが、請求しておかなければ、不審に思ってこちらを探りに来るんじゃないか?」

「……必要ないわね」

 フランコがピザ片手にそう問いかけてくるが、フランカはワイングラスに口をつけながら否定した。

「人間一人をわざわざ足止めするってことは、その人物が邪魔になる何かを企てているはずよ。その規模にもよるでしょうけど、しばらくはそっちにかかりきりになるんじゃないかしら?」

「ならいいけど……」

 食事を終え、煙草を咥えるピノッキオが火を点けようとした途端だった。不意に外を眺めて、あるものを見つけてしまい、口から真新しい煙草が転がり落ちていく。

「……たしかに、こっちに関わっている暇はなさそうだ」

「ピノッキオ?」

「どうした?」

 ……窓が揺れ、次に生まれた大音響に、店内はパニックに包まれた。

「はぁ……もう帰るわよ。料理もワインもこの国も最っ低っ!」

 その言葉と共に、机上にナプキンが勢いよく叩きつけられた。

「……次は本場のシェフを従えた高級店にでも行くか」

「賛成……」

 怒り狂うフランカに従い、フランコとピノッキオは代金を置いて店を出ていった。

 

 

 

 

 

「間に合え間に合え間に合えっ!!」

 ネギ・スプリングフィールドは駆けていた。

 数時間掛けて周辺の索敵を終えたのはいいが、襲撃者は影も形もなかった。おそらくは足止めが目的であり、今この瞬間に仕留める必要がなかったのだろう。だから警戒するネギを置いて、その場から立ち去ったと考えられる。

 ……そう判断できた頃には、すでにライブが開始されている時間帯だった。

「急げ急げ急げ急げっ!!」

 光魔法の応用で即席の光学迷彩を自らに施し、『術式兵装(プロ・アルマティオーネ)雷天(タストラパー・ヒューペル・)双壮(ウーラヌー・メガ・デュナメネー)』で街中を掛けていた。

 可能な限りビルの屋上を掛けて周囲に迷惑をかけないようにはしているが、多少は影響が出ているかもしれない。後でISSDAや魔法協会に罰金や始末書等を提出しなければならないだろうが、今重要なのは『ライブに間に合わない』の一点のみだ。

「駄目だ駄目だ駄目だ駄目だっ!?」

 転移魔法ではおそらく間に合わない。短距離ならば自分で走った方が早いし、長距離転移には事前準備に時間が掛かりすぎる。そもそもネギ自身、転移魔法はそこまで得意ではないのだ。

 だからこそ、闇の魔法(マギア・エレベア)で最短距離を駆け抜けるしかない。常時雷化し、秒速150kmで麻帆良学園都市に辿り着いたネギはその足であと少しの距離を駆け抜けようとしたが、それが限界だった。

「あっ!?」

 転んで壁に身体をしたたかに打ち付けてしまう。闇の魔法(マギア・エレベア)の影響で、着ていたスーツはボロボロだ。

「あ、ああ……っ!?」

 それでもライブ会場がある広場まで急いだ。

 残存魔力は少なく、回復まで待っている暇はない。このままでは確実に間に合わないだろう。

「ぃ、やだ……」

 だがネギは、四肢に力を入れた。

「絶対に、嫌だ……っ!?」

 千雨が演奏するからじゃない。千雨との約束を、絶対に破りたくないからだ。

 しかし時間は無情にも過ぎていく。このままでは間に合わない。

「あっ!? ネギおったでっ!!」

「ネギ君っ! 大丈夫かいネギ君っ!?」

 ……このままならば。

 

 

 

 

 

『――王旗ひるがえれば、邪悪なる蛇王(ザッハーク)の軍勢はぁ、逃げ、ま、ど、い、ぬ! 春雷におびえたる――』

「ねえみんな、哀ちゃんが歌ってるよ、ねぇねえ!」

「お~い灰原ぁ!!」

「灰原さぁん!!」

 その日、江戸川コナンは見た。

 昔馴染み達と共に麻帆良学園都市に来た彼は、自らの相棒である灰原哀が演奏をしているのが見える。会場の観客席は最前列の専用ブースに施設の子供達がひしめき合い、その周囲に張られた柵に沿う様に観客が押し寄せていた。

『――鍛えたるなり。愛馬ラクシュナには、見えざる――』

「ねぇコナン君! 哀ちゃんだよ哀ちゃん!!」

「ああ、うん、すごいな。すごいけど……」

 吉田歩美にそう言われるも、江戸川コナンは何処か呆れた様子で灰原の演奏を眺めていた。

 先程迄はベースギターを弾いていた眼鏡の女性が歌っていたのだが、この曲だけは彼女が歌っていた。横にいる友人との約束もあり、最低でも一曲は歌うとは知っていたが、こればっかりは呆れかえるしかなかった。

『――天空に太陽は、ふたつなく。地上に国王(シャーオ)は――』

「……なんで灰原の奴、『カイ・ホスロー武勲詩抄』なんて歌ってんだ?」

『――彼の天命を継ぐ者は誰ぞ……ぃゃあ!!』

 ちょっとキャラ崩壊していないか? という疑問も生まれはしたが、観客の叫びにかき消されてしまった。

『持ってけぇ!! 金貨二百枚!!』

 

 

 

 

 

「ったく。聞いた時は驚いたでほんま……」

「でも間に合ってよかった。とにかく急いで移動しよう」

 駆けつけた小太郎とフェイトに両側から支えられながら、栞の運転するバンに乗り込んだネギは、そのまま座席に座らさせられた。

「念の為服の手配はしとるけど、間に合うと思うか?」

「ラストくらいは聞けると思うよ。せめて転移魔法さえ使えればよかったけど、今学園結界の調整中で都市内では使えなくなっているし……」

「えっと、どうして……?」

「ネギが誰かにはめられて北海道行ってる、って聞いてたんや」

 小太郎は携帯を降ろしてからネギに振り返った。

「しゃあないからバイト上がりに夏美姉ちゃんと一緒に迎えに行こうとしたら、丁度フェイトと会うてな。お前が街中で超音速飛行による大音響(ソニックブーム)起こしながら麻帆良学園都市(こっち)向かってる言うから待っとったんやで」

「そう、栞さん。そのまま真っすぐ目的地に向かって……犬上小太郎、会場前に待機している村上夏美の方はどうなっているんだい?」

「もう準備できてるらしいで。運営側には事情話して入場できる算段はつけて貰っとる。後はこいつ着替えさせて放り込むだけや」

 もし一人だったらならば、この時点で終わっていただろう。

 しかし頼もしい友人達に囲まれ、ネギは目的を達成することができる。

「みんな、ありが「そういやネギ。関東魔法協会の連中、カンカンやったで? 街中で超音速飛行による大音響(ソニックブーム)撒き散らしていたから、後始末が大変やて」――……後日正式に謝罪に行ってきます」

「後、ISSDAの方にも別口で始末書書いて提出してね、ネギ君」

「はぃ…………」

 周囲に多大な迷惑を掛けながらも、ネギ・スプリングフィールドのライブ会場への道程が途切れることはなかった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。