「ふぅ…………」
最後の曲(『機神大戦ギガンティック・フォーミュラ』のオープニング)が終わり、千雨の肩から力が抜けていく。
灰原や風斬も汗をぬぐい、ドラムを叩いていた麦野も今はペットボトルの水を飲んでいた。
「……いや! 一人だけ飲むなよ麦野!!」
「麦野さん! あなた歌ってないからそんなに喉乾いてないでしょう!?」
「いやちょっとは歌っただろうが! 『ソードアート・オンライン-ロスト・ソング-』のオープニングの時!!」
「えっと、長谷川さん。あれいきなり振られて、ちょっと無茶振りだったと思うんだけど……」
具体的に言うと、最後のサビで一人ずつ叫ぼうぜ、という千雨の
普通は無理なので、皆さん上記の
何はともあれ全ての曲目が終わり、互いが互いを罵るというあさましい光景を最後に、ライブの幕が閉じようとしていた。ステージに上がっていた四人は、歌い切った達成感に満足している。
(ネギ先生……結局来なかったな)
……千雨を除いて。
「ええと……そこの灰原の突然の思いつきで復活させたコピーバンドに、こんなにたくさんの人達が集まってくれて、大変うれしく……って、麦野!! 最後くらいお前が挨拶しろよ!!」
「任せたリーダー」
「お前がリーダーだろうが!! 昔バンド名決める時に
このままだと喧嘩になりかねないと判断したのか、灰原はマイクを奪うと観客席に手を振った。
「はい、喧嘩しない!! ……ええ、私達『MELTDOWNER'S』の演奏はいかがでしたでしょうか? 今日は来てくれてありがとうございます。特にきっかけをくれた友達の吉田さんと……どこぞの推理オタク」
「おいっ!?」
観客席から叫び声が聞こえてきたが、灰原は気にせず挨拶を続けた。思わず声が出て周囲の注目を浴びた某探偵を無視して。
「残念ながらライブ自体は今回で正真正銘、本当に最後です。ここにいるメンバーは全員、大学を卒業した後はバラバラの道を歩みます。……中には心配な人もいますが」
「言われてるぞ長谷川」
「いやお前だろ麦野」
碌に進路を話さない人間ということもあり、変に心配をかけてしまっているのは理解しているが、千雨に関しては話しようがないのだ。麦野の方は分からないが、もしかしたら実家と何か、トラブルでも起こしているのかもしれない。
しかし触らぬ神に祟りなし、とばかりに誰も深入りしないので、謎の底が見えることはなかった。
「というわけでライブはこれで終わりです。さよなら、さよなら~」
「灰原さん、適当過ぎる……」
「いいからさっさと
「……ああ」
(未練がましいな。別にいいだろうに…………)
ステージから降り、控室に消えようとした時だった。
「…………千雨さんっ!!」
千雨の視界の端に、ネギの姿が映ったのは。
ネギは走っていた。
「お前服にケチつけすぎやろ!!」
「それは悪かったけど、用意してくれたの地味なのが多かったよ!?」
「後でしばいたるから覚えとれやっ!!」
受付を小太郎に任せ、自らは観客席へと飛び込んでいく。
「…………千雨さんっ!!」
思わず叫び、周囲から視線を集めてしまうが、ネギの目にはステージから
「……あれ、ネギ君!?」
「ネギ先生大丈夫~!?」
するとネギの周りに3-Aの面々が集まって来ていた。曲の合間にネギが向かっていると連絡が来ていたのを確認したのか、早い段階で後方に下がっていたらしい。
「ちょっとネギ!! 大丈夫だったの!?」
「ネギく~ん!」
明日菜やこのか、刹那もやってきたネギに慌てて駆け寄り、無事な姿を見て胸をなでおろしている。
「まったく、一体どうしたのよ……」
「すみません。急いで帰ってきたんです。け、ど…………」
徐々に、ネギの声のトーンが落ちていく。ライブに間に合わなかったことが、千雨の歌を聴けなかったことが、…………彼女の誘いをフイにしてしまったことが、余程ショックだったのだろう。
けれども、明日菜はネギの肩を掴み、背中を押す様にして……観客席の方へと追いやっていた。
「え? えっ、明日菜さん?」
「ほら急いだ急いだ。
一瞬、ネギは呆けてしまう。もうすでにライブが終わり、最後の挨拶も終わって、全員がステージから
(明日菜さん…………魔法世界とか転移者問題とかいろいろ手伝ってくれたばかりに頭が「うらぁ!!」――ひぇびゅりゅっ!?」
ネギは明日菜にぶん殴られた。
「私は正常よ。馬鹿ネギ」
「明日菜さん……ゾフィスの時といい、いつ読心術なんて身に着けたんですか?」
「勘よ、勘」
とりあえず明日菜だとまた殴るかもしれないと、今度はこのかと刹那が両脇にネギを抱えて観客席まで移動していく。
「あの、このかさんに刹那さん。どうして観客席に……?」
「あれ、ネギ君知らへんの?」
「何をですかっ!?」
拘束に近い状態の為、微妙に恐怖心を抱くネギ。
しかしその疑問にこのか達が答える前に、観客は叫び始めた。
『アンコール!! アンコール!! アンコール!! アンコール…………』
「ふひゅぅ、さっぱりした……」
「ようやく汗臭い衣装が脱げたわね……」
控え室に戻り、上半身を黒いTシャツに着替えた面々は、水分補給をしながら観客席からのアンコールを耳にしていた。そしてその歓声を受けたからかは知らないが、椅子に座ったままじっとしていたはずの麦野が立ち上がり、外へ出ようとしている。
「あら、もう行くの?」
「いや、便所」
「麦野さん、せめて隠語を使って……」
と三人が女性としての所作について言い合っている間も、千雨は控え室の隅で携帯越しに土御門と話していた。
「……雇われた?」
『ああ。身の丈もある黒の長髪が目立つ、高長身の女に雇われたらしい』
「まさか……」
ゾフィスからの尋問で出てきた、ジェイル・スカリエッティと共に行動している転移者と特徴が一致している。現在も行方は分かっていないので、関東魔法協会の方でそちらも捜索しているのだが、このタイミングで名前が出てくるのは、何かの前兆としか思えない。
『
「……いや、ここまででいい。仕事に戻ってくれ、悪かったな」
そう言い、千雨は通話を切った。
「スカリエッティが動きだした……?」
依頼こそネギの足止め程度だったが、雇った人間の考え方次第では、殺されていてもおかしくなかった。
しかし、このタイミングでネギを麻帆良学園都市から追い出す理由が分からない。
「何かあるのか……っと」
考え込んでいると、携帯が振動しだした。通話状態にすると、千雨の耳に和美の声が響いてきた。
『あ、千雨ちゃん?』
「どうした朝倉?」
『ネギ君戻ってきたみたいだけど……何か分かった?』
「……スカリエッティが動いている」
それを聞いただけで、向こうも状況を把握したらしい。ガタッ、と電話越しに何かを動かしている音がした。
「ゾフィスと一緒にいた転移者がいただろ? そいつらしい人物がネギの足止めを依頼していたって報告が来た」
『ちょっと怖いね……ライブ後に合流できない?』
「少し時間がかかるが「長谷川さん、そろそろ……」――……ああ、悪い灰原。すぐ行く」
声を掛けてきた灰原に返事をしてから、千雨は携帯の通話に戻った。
「……終わったら連絡する」
『了解。じゃあ後で』
通話を切り、携帯の代わりにベースギターを握った千雨はステージへと向かった。
「さあ、みんな帰るぞ。しっかりついてきなさい」
『は~い!!』
アンコール演奏も終わり、施設の子供達を引率する新田を皮切りに、徐々に人が
何人かは用事があったり、会場の出店に気を取られたりと自然にばらけていったが、ネギと明日菜の二人だけは端に設置されているベンチに並んで腰かけて、休んでいた。
「いやぁ~ライブ良かったわね、ネギ……ネギ?」
ぽぉ、という状態だった。
最後の曲を演奏している時、千雨がウィンクをしたように明日菜の目には見えた。おそらくだが、それが原因だろう。曲が終わって少しの間ぶつくさ言っていたみたいだが、その後はぽけぇ~、と頬を赤く染めたまま、反応が薄くなっている。
心ここにあらずなので、明日菜は仕方なく、先程引き取ってきた剣を幅広の竹刀袋に入れたまま振り被って、
「……って、明日菜さん一体何を!?」
「あ、気が付いた? ネギ」
ゆっくりと降ろされる剣に安堵するネギだが、妙に顔が痛いとばかりに頬に手を当てて撫で始めた。
「あれ? 何故か頬が痛いような……?」
「ああ、あんたさっき小太郎にぶん殴られてたわよ。反応なさすぎで『アホらし……』って漏らしてから帰ってったけど、何かあったの?」
「その前に小太郎君に殴られていた件について詳しくっ!?」
恐らくは夏美が用意した服の件だろうが、いつの間にかしばかれていたことに今更気づいてしまい、どれだけ呆けていたのかと、ネギは自分自身が微妙に怖くなっていた。
「……いや、さっき聞いた歌がちょっと」
「ちょっと?」
「いえ、あの、その……そうだっ!!」
ネギはベンチから立ち上がると、ステージ裏の方を見てから明日菜に振り返った。
「僕ちょっと、千雨さんに会いに行ってきます!! 北海道に行かされていた件について話さないと「言い訳しなくていいから行きなさい」――いや、それも話さないといけないんですけど……とにかく行ってきますっ!!」
そして走り出すネギの背中を眺めながら、明日菜はゆっくりと天を仰ぐ。
「皆大人になっていくわね……」
弟が恋人を作ろうとしているのをどこか寂しく感じながら、明日菜は星空を見上げていた。
「……頑張んなさいよ、ネギ」」
「じゃあ、後は頼む。打ち上げは今度な」
「またね、長谷川さん」
ライブ終了後。最後に残った風斬に後処理の打ち合わせを任せた千雨は、さっさと帰った麦野や昔馴染み達に会いに行った灰原の次に控え室を後にしていた。
「ああ……疲れた」
ライブを成功させたことへの充足感を味わいながら、千雨は会場の外に出た。ベースギターは保管していたレンタルルームにそのまま戻す予定なので、スモーキー達に運搬を頼んでいる。だからここまで乗ってきた
「このまま朝倉と合流するか……」
その前に一服しようと煙草を一本抜いて口に咥えていると、視界の端からライターの握られた手が伸びてきて、千雨に火を差し出してきた。
「格好付けるなら照れるなよ」
「あ、ははは……」
「まあ……火はサンキュ、
肺に吸い込んだ紫煙を吐き出してから、千雨は改めてネギの方を向いた。
「大丈夫そうだな?」
「ええ、なんとか……あ、良ければライター差し上げます」
「ん? ……どうしたんだ、これ?」
ネギから受け取ったライターを弄る千雨。
よくあるオイルライターだが作りがしっかりしており、安物という感じが一切しない。デザインもシンプルで、千雨好みの一品だった。
「貰い物なんですよ、それ。忘年会の賞品のあまりらしくて」
「の割には、随分実用的なやつだな。貰っていいのか?」
「はいどうぞ。僕は使わないので」
「そうか、サンキュ」
ライターを懐に仕舞うと、千雨はバイクに寄りかかって静かに煙を吹かしていた。ネギはその隣に立って、頭上の星天を眺めている。
「……覚えててくれたんですね。千雨さん」
「一応、な……」
アンコールの曲は、千雨が選んだ。
数曲程ストックを用意し、ステージやメンバーのコンディションに応じて決める手筈になっていたのだが、そこは千雨が無理を言って通したのだ。
選んだ曲は『未来日記』の二番目のオープニング。その歌詞の一文の時に千雨はウィンクし、ネギはそのメッセージを理解して呆けてしまったのだ。
「『一緒に星を見に行きたい』って、言ってもらえた気がしました」
「元々約束してただろ? でも、ま……」
千雨も咥えていた煙草を指に挟み、夜空を見上げた。
「……ゆっくり見たいよな。いつか……星の海を」
……しかし、世界は彼らに平和を
「その為にも、今は仕事『緊急!! 緊急!!』『ちうたま大変!! 関東魔法協会が襲撃されましたっ!!』『エマージェンシー!! エマージェンシー!!』――……頭痛くなってきた」
「千雨さんしっかりしてっ!!」
伏線は既に張られていたのだ。まさか狙いが関東魔法協会とは二人共思っていなかったが、その為に障害となるネギを学園都市の外へと追いやったのだと分かれば話は早い。
「ネギ先生、皆に連絡してくれ!! 私は状況を確認するから!!」
「分かりましたっ!!」
この時、千雨は気づいていなかった。
前回の反省を踏まえて、無意識にネギ先生に頼ったことに。
……自身が成長していたことに。
ライブの曲目リスト(好みのアニソン他諸々で千雨達が演奏しそうなものを並べただけです。とりあえずこんなイメージで)
『ガンダムAGE』四番目のオープニング
『魔法科高校の劣等生』一番目のオープニング
『Fate/Zero』第一クールのオープニング
『黒の歌姫』オープニング
『ソードアート・オンライン-ロスト・ソング-』オープニング
『劇場版 灼眼のシャナ』挿入歌
間奏『カイ・ホスロー武勲詩抄』
『スレイヤーズNEXT』オープニング
『ハイスクールD×D』オープニング
『伝説の勇者の伝説』二番目のオープニング
『BLACK LAGOON』オープニング
『ソウルイーター』二番目のオープニング
『機神大戦ギガンティック・フォーミュラ』オープニング
アンコール
『未来日記』二番目のオープニング
ストック
『fate/stay night』第十四話のエンディング
『ハヤテのごとく!』第一クールのエンディング