――バゴッ!!
「よしあいたっ!!」
イングラムM10の9mmパラベラム弾でボンネットにこじ開けた穴から身を乗り出すと、千雨は乱れる髪を手で抑えながら、前方を走るアルトを見つめる。
今はまだカーブが連続しているが、最後のカーブを抜けた所は一直線のストレート。かつての映画撮影で路面電車に乗り、ネギと一緒にスモークグレネードをばらまいた、あの橋の上だ。
「そっからストレートか……朝倉、牽制任せた」
「どうやって?」
和美の問いかけに、千雨は再び首を引っ込めると、手に持っていたイングラムM10を突き出した。
「他に手段があるなら、それでもいいから」
「まあないけど、私銃は「撃てるだろ」――……
「当たり前だアホ」
和美の手先は器用だった。運転中とはいえ気付かれることなく千雨のシグP230を抜き、中の弾を抜いて元に戻す程に。
そう……器用
「詳しい話は後で聞く。銃は持ってないのか?」
「ごめん、
そしておとなしく千雨からイングラムM10を受け取る和美。予備の弾倉を受け取ると一本を交換し、残りを自らの近くに置いた。
「弾丸をばらまくだけでいい。相手に反撃の隙を与えるなよ」
「分かってるって。千雨ちゃんも外さないでよね」
「……任せろ」
千雨が再び顔を出し、和美がスライドドアを開けてイングラムM10片手に身を乗り出す。
「次のカーブでハンドル、速度固定しますっ!」
「よし!」
「やるよっ!」
ハンドル操作による反動を受けてよろけた後、千雨は右手を、魔法発動媒体である指輪を填めた人差し指を伸ばし、左手を覆うようにしてかぶせた。
まるで、右手を銃に見立てるようにして。
「『
それだけで、千雨に宿る魔力が魔法発動媒体を通して、立てた人差し指に集中してくるのが分かる。
魔力は無詠唱で魔法を起こす感覚を呼び起こして集中させた。しかし、今から使う魔法は、ガジェット・ドローンのAMFを突破しなければならない。
だから千雨は、狙いを定めつつ詠唱を始めた。
「雷の精霊128柱・
『
本来ならば高威力の魔法を覚えるところだろうが、千雨は魔法を覚えずに、『
千雨の
スサノオが飛び出した後、後部ドアは開け放たれたままなので、球形のずんぐりした胴体が丸出しになっている。
「ほいっと!!」
千雨の行動を警戒してか、ガジェット・ドローンは仕込みだろう、砲門を展開しようとしていた。そこへ和美がイングラムM10の銃口を向け、銃弾の雨を降らせていく。砲門を破壊できる程の威力は望めないだろうが、下手に撃てば着弾した弾丸を導火線にして暴発する危険もある。
相手が反撃できない中、千雨の準備は整った。
「フゥ…………『
呼吸が漏れた後、魔法は放たれた。
放たれた『
そして、AMFの展開された空間を突っ切り、多少威力を削がれながらも、千雨の攻撃はガジェット・ドローンを貫いた。
――ギ、ギギ、ギギギギギ…………ドゴォッ!!
「掴まって下さいっ!!」
爆発するガジェット・ドローン、そして巻き込まれて吹き飛ぶアルトを確認したさよは、サイドブレーキを引いてハンドルを切った。
さよの警告が間に合ったので二人はどうにか振り落とされることなく、停車したサンバーバンから飛び降りていく。
「さよちゃんは車にいて。エンジンは切らないでね」
「さて、どこまでやれるか……」
しかしまだ、ガジェット・ドローンと逃走用の車を破壊しただけだ。
その証拠に、今回の騒動を巻き起こした犯人が飛び出してくる。車体を切り裂き、左手にケースを抱えたまま、その姿を現した。
長い黒髪と、特徴的な赤い目が目立つ少女だった。
黒い制服のようなデザインの衣服を纏い、小手の付けられた両手の右手側には、不気味な印象を与えてくる刀を抜き身で携えている。
「近接型か。こっちは『
「ちょっち難しいかもね……」
ならば時間を稼ぐ他にない。
通常弾頭を装填したコンデンターとシグP230、弾切れのイングラムM10を手放してから抜いたスチール製の警棒のようなもの。それぞれが装備しながらも、向こうは待っていた。
単に爆発のショックから立ち直っているだけなのだろうが、向こうにとっては大した痛手ではないのだろう。ケースを静かに置くと、改めて両手で、刀を構えだした。
――…………ボフォッ!!
おそらくはガソリンに引火したのだろう。
その爆発を合図に、少女は切っ先を千雨達に向け、こう呟き――
「葬ろぉぺりっぶ!!」
――きる前に、反対側から突っ込んできたトラクターヘッドに轢かれていた。
『えぇ~……』
思わず声が漏れる千雨達をよそに、停車したトラクターヘッドからよく見知った顔が出てきた。
「良かった。間に合ってんな……」
「いや、このか。その前に……」
「このちゃん、このちゃんっ!! 犯人轢いてしまってますよお嬢様ぁ!?」
我関せずと降りてくるこのかに続いて、呆然とする明日菜と、犯罪じゃないかとビクついて混乱している刹那が、後ろについてきている。
その姿を見てアホらしくなったのか、千雨と和美は、武器を持っている手を降ろした。
「近衛……トラクターヘッド運転できたんだな」
「こんなのばれたら、免許取り消しだろうけどね……」
しかし他にも敵がいる可能性もある以上、武器を仕舞うことなく犯人の少女へと近づいて行く。相手が転移者である可能性もあり、まだ生きているかもしれないからだ。
「で、千雨ちゃん。状況は?」
「犯人は近衛が轢いた。とりあえず生存確認と盗品の回収を「車の陰へっ!!」――なっ!?」
刹那と、その声に反応した明日菜が動いた。二人は呆然とする千雨、和美、このかを回収してからさよの残っているサンバーバンの陰へと隠れる。
――ガァン!!
刹那がある気配――殺気を感じ取って叫ばなければ、危なかったかもしれない。
「ぼっ!?」
攻撃は狙撃で、狙われたのは犯人の少女だった。恐らくは口封じだろうが、同時に牽制も兼ねていたのかもしれない。
「またっ!?」
「明日菜駄目っ!!」
「明日菜さん駄目ですっ!!」
学園都市の、正確には学園結界の範囲外から転移してきた別のガジェット・ドローンが盗品の納められたケースを回収していく。しかし千雨達に、それを止める術がない。
「なろっ!!」
飛び出そうとする明日菜は危険だからと和美と刹那に取り押さえられ、千雨が発砲したコンデンターの銃弾すらも狙撃で撃ち抜かれてしまい、届かない。シグP230で撃っても、威力の問題で意に介することはないだろう。
何一つ抵抗できないまま、ガジェット・ドローンは再び結界の外に出て、姿を消した。
千雨は懐から取り出したワイヤーカメラを携帯に接続し、どうにか狙撃地点を割り出せないかと車越しに探っているが、性能の限界か、望遠機能が乏しいので確認することができなかった。かといって望遠鏡で覗こうと頭を出せば、犯人の二の舞になりかねない。
「……桜咲。犯人の狙撃地点、予想できるか?」
「無理ですね。遠すぎて……最低でも龍宮クラスの
いつまで狙撃を警戒していればいいのかは分からない。
けれども、確認するということは自らの命を危険に晒さなければならない。
どうしようもないまま、千雨達は車の陰や中でじっとしているしかなかった。
「よ~し、回収完了。帰るよ~」
千雨達がいる橋の上を一望できる高台。そこにあの女はいた。
スカリエッティの仲間にして、魔界よりファウードを強奪してのけた転移者。彼女は背後に
未だに警戒する千雨達を残したまま、悠然と。
「――――――――」
「……ん? 殺さないのかって?」
そう問いかけられても、彼女は気にすることなく身の丈もある黒髪と共に手を揺らした。
「それはまたのお楽しみぃ~♪」
そして彼女達は、展開された転移魔法陣に乗り、そのまま姿を消した。
――シュボッ!!
「ハァ……さて、どうしたものか」
「殺気は消えているのですが、まだ狙われている可能性も捨てきれませんし……」
とりあえず一服、とばかりに千雨が煙草を吸いだしたので、サンバーバンの中に残っていたさよが、車内に載せていたペットボトルを数本手に出てきた。
手隙の者はペットボトルを受け取り、口につけていく。
「とりあえず、関東魔法協会に連絡を取るか……そういえば、近衛達はなんで外側から
「いや、大したことやあらへんねんけど……」
このかは離れた場所に停車したままのトラクターヘッドを指差して答えた。
「犯人は千雨ちゃん達が追いかけているって聞いて、先に車を回して待ち伏せしとったんや」
「よく分かったな。犯人の逃走ルートが」
「占いで」
千雨は状態異常・頭痛となった。
「関東魔法協会の捜査状況を確認して、どうにか犯人の逃走ルートを探ったっていうのに……」
「どないしたん、千雨ちゃん?」
「このか、そっとしといてあげて……」
合理主義な理系の千雨にとって、勘や占い等不確かな感覚で正解に辿り着くこのか達に理不尽な感情を抱くしかなかった。同じく予想を立てた和美にしか、この気持ちは分からないだろう。
「それより千雨ちゃん、ネギは?」
「ああネギ先生なら追手の一人と応戦中「千雨さーん!!」――……向こうも終わったみたいだな」
ネギが杖に乗って飛んできている。
そう、
「……って、ネギ先生逃げろっ!?」
「ちょっと、
「もういないみたいですね……」
「助かったか……」
「でも千雨ちゃん、」
「……分かってるよ」
今夜の事件は、完全に千雨達の敗北だ。
その事実を噛み締めながら、この場を立ち去ろうとそれぞれ車に乗り込んでいく。
「やられたのぉ……」
「ええ……今回ばかりは後手に回りましたね」
夜闇に覆われた学園長室には、二人の人間がいた。
学園長である近衛近衛門と、教師である高畑・T・タカミチ。
二人は事件の後、学園長室に集まって状況を整理していた。
盗品や相手の目的、そして今後の方針を。
「しかし、犯人は何故あんなものを……?」
「それなんじゃが、盗まれたものはどうも『転移者が持ち込んだもの』らしくての」
「なんですって!?」
近衛門の言葉に、タカミチは驚きで目を見開いた。
今回盗まれた品は、タカミチが赴任される前から学園都市に保管されていた品で、使用方法が分からずに今まで封印されていたものだ。
だからその存在すら知らずにいる魔法関係者も多い中、何故スカリエッティはその存在を知り得て、今回の犯行に及んだのだろうか。
「少しまずい状況になるかもしれん。例の件もあるしの……」
「はい。明日、早速会議に掛けます。ところで……」
タカミチは近衛門を見つめながら、天井を指差して問いかけた。
「……何故切れた電球を換えられないのですか?」
「買い置きがなくてのぉ……すまんがしずな君に頼んでおいてくれぬか。出勤前に買ってくるように」
シリアスで始まり、ギャグで終わる一幕だった。
いや、ギャグにすらならずに、失笑しか浮かばない展開のまま、まて次回!!