魔法先生ネギま 雨と葱   作:朝来終夜

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第16話 信じる者と疑う者、そして暗躍する者

「先日の襲撃者は三名。もう一人いますが、彼は正確には『帝具』と呼ばれる武器の一種、いわゆる人造生命体とのことです」

 千雨達のライブの、そして関東魔法協会が襲撃を受けた翌日。

 関東魔法協会の関係者達は、早朝より会議室に集合していた。その中にはネギや明日菜、千雨をはじめとした3-Aの面々も何人か混じっている。

 彼らの視線を一身に受けながら、タカミチは事前に揃えていた資料を基に、状況報告を続けた。

「この場の人間は既にご存知ですが、彼らは転移者と呼ばれる者達です。ですが……事情聴取の結果、今回の騒ぎを起こした元凶はたった一人です」

 指定のページを確認するよう、タカミチは皆を促した。そこには昨夜狙撃された、長い黒髪と赤い目を持つ少女の写真が写っている。これは監視カメラからの映像を写真に起こしたものだ。

「彼女の名前はアカメ。別の世界の、『アカメが斬る』という作品の主人公です。しかし……彼女はその作品の登場人物、本人ではありませんでした」

 つまり、スモーキー達のように物語として語られている世界から来た住人ではなく、上条達の様にその物語を鑑賞する世界から来た転移者だということだ。

「他の襲撃者の話によると、彼女が本人であると誤解し、その隙をつかれて子供を人質に取られていたとのことです。実際、彼女達は我々に深く関わらない方針、つまり『傍観』を決めている者達だと、既に調査が完了していました」

 タカミチの説明に耳を傾けている千雨に、隣に腰掛けていた和美が肘で突いてくる。

「……夏に調べに行った、定食屋の若夫婦だよね、これ」

「ああ……本人達にその気はなくても、恐喝されて行動する可能性までは頭が回らなかったな」

「元々、戦闘能力も結構高そうだったしね」

 話している間に他の襲撃者たちの話も出てくるが、千雨達は既に知っていたので、軽く聞き流していた。

 そして話題は、盗まれた品にシフトする。

「盗まれた物は『ジュエルシード』と呼ばれる、恐らくは転移者がこの世界に持ち込んだであろう品です」

「高畑先生、『この世界に持ち込んだ』というのはどういうことですか?」

 タカミチの説明を遮り、質問してきたのは瀬流彦だった。

 その質問に答えようと、タカミチは配布資料の少し先のページをめくるように指示する。

「襲撃者の身元を改める際、同時に盗品について協力者に確認を取りましたところ、本来は『この世界の物』ではないとのことでした。恐らくは他の転移者が持ち込んだとのことですが、その目的は不明です。実際、今回の件がなければ名前すら分からなかったわけですから……」

「今は保留(ペンディング)にするしかないでしょうね……記録が古すぎて、現状ではあてになりません」

 タカミチに続いて、同じく資料を見ていたガンドルフィーニもそう捕捉した。

 実際、千雨も同意見だった。

 資料を見る限り、『ジュエルシード』と呼ばれる魔法道具(マジックアイテム)は、元の世界では『ロストロギア』と呼称されていた品物らしい。『ロストロギア』とは滅んだ世界や古代の遺跡から発掘される莫大な力やその手掛かりの総称とのことらしいが、今まで麻帆良学園都市に封印されていたということは、誰かが悪用する事態を防いだ結果ともとれる。

 しかし現時点では、誰が封印したかはさほど重要ではない。問題は、その封印が解かれたことと……。

「しかも、例の協力者から話を聞いたところ、『ジュエルシード』は全部で二十一個あることが分かりました」

「……ちょっと待って下さい。ということは、」

 他にも存在する『ジュエルシード』を、ジェイル・スカリエッティが回収している可能性もある。会議の参加者は、一同にそう認識した。

「丁度お昼ですね……午後からも会議を続けたいと思います。議題は裏にいるであろう首謀者、ジェイル・スカリエッティの思惑を阻止するための対策会議です。では、一度解散します」

 その言葉を合図に、参加者は席を立った。

 少し離れた席に座っていたネギは、明日菜達と共に千雨の元へと向かっていたのだが、先に彼女に話しかける者がいた。

「……千雨さん、少しよろしいかしら?」

「一服つけるとこなので、喫煙所で良ければ」

 千雨は声を掛けてきた高音と共に、会議室の外へと出て行ってしまった。一瞬追いかけようと思ったネギだったが、その肩を掴まれて止められてしまう。

「……朝倉さん?」

「ネギ君、ちょっと」

 和美はネギ達と共に、少し離れた無人の教室へと入っていく。

 ここにいるのはネギ、明日菜、和美、刹那にこのかと、途中から合流してきたあやかだった。

「どうしたのよ、朝倉?」

「ちょっと面倒なことがあってね……」

 和美は教壇にもたれかかりながら、それぞれ教室の席に着いて、くつろいでいる面々の方を向いて話し始めた。

「あの『ジュエルシード』、封印されていたことすら知らなかった人が多かったんだって。さっきも話が出ていたけど、『記録が古すぎた』から、って」

「それが、一体どうしたんですか?」

 和美の発言に、意味が分からず首を傾げる刹那。アスナも理解できていないのか、同じく首を傾げている。しかし、他の三人は違った。

「……ちょっと、おかしくありませんこと?」

「だったらなんで、ジェイル・スカリエッティは『ジュエルシード』が麻帆良学園都市(ここ)に封印されている、って知っとったんやろ……?」

「ゾフィスの一件で、偶然判明したとかは?」

 ネギは昨年の夏季休暇での出来事を思い出すが、和美は首を振って否定した。

「……多分違う。そしてこの件がネギ君達を呼んだ理由なんだけど」

 言うや、和美は手の中から何かを取り出して、教室の四方へと向けて投げた。何事かと全員が目を配るが、いち早く気づいたネギが、座っていた教室の椅子から立ち上がり、教壇へと近づいていく。

「これ、魔法じゃない(・・・・・・)ですよね? 魔力を一切感じませんし、いったい……」

「それはまた今度ね。そして今から内緒話スタート」

 周囲に張り巡らせたのは、恐らくは盗聴防止の結界だと分かるが、詳細な性能までは分からない。ネギはそのことで猜疑心を抱くも、次の和美の発言で、その思考は別の意味で吹き飛んでしまう。

 

 

 

 

 

「内通者がいる。そして、この状況で一番疑わしいのは……千雨ちゃんだよ」

「千雨さんが犯人なわけないじゃないですかっ!!」

 

 

 

 

 

 和美の発言を即座に否定するネギのこと等知る由もなく、千雨は煙草を咥えながら高音と並んで立っていた。彼女も喫煙者だったらしく、細身の紙巻き煙草に火を点けている。

「……やっぱり疑われるか」

「普通はそうでしょうね……転移者との関係、情報を確認できる立場と技術を持ち、かつ……魔法世界(ムンドゥス・マギクス)を恨んでいてもおかしくない人物と考えれば」

「今更恨みも何もあったもんじゃないんだが……」

 紫煙が視界を遮る中、千雨は煙草を持つ手で口を覆い、何事かを考え込んでいた。

「……随分舐められて(・・・・・)いるな。関東魔法協会」

「ええ……腹立たしいほどに」

 千雨に疑いの目が向く。面識のない関係者ならともかく、既に顔見知りと言ってもいい高音達には、却って怪しむ結果となってしまった。

「その程度で千雨さんを疑うわけがないというのに……そもそも本気を出したら、学園都市中の情報機器を操作してIoTテロを起こすことも可能な人物が、こんな杜撰な手を使うとも思えませんし」

「……ちょっと待て。私そんな疑いもたれているのか!? ある意味内通者と疑われるよりショックなんだけどっ!!」

 それを言い出したら、ネギからは核弾頭を世界中に降り注がせられると疑われているわけだが、知らぬが仏である。

「とにかく……犯人が他にいると言うのであれば、」

「私が距離を置けば、そいつが堂々と動き出せる」

「他に目的があるのでしたら……押さえるとしたらそこですわ」

 フィルター付近まで灰と化した煙草を吸殻入れに投げ入れ、千雨と高音は喫煙所を後にした。

「出所はまだ判明していませんが、千雨さんを会議から外すよう提案を受けています。例の件を理由にすれば、簡単に追い出せると伝えてありますので、こちらは気にせずに」

「私もちょっと気になってたんで……問題はメンバーか」

 腕が立ち、信頼できる人間が欲しい。

 関東魔法協会は千雨に嫌疑が掛かっている時点で協力は望めない。かと言って外部だと、別の仕事を割り振っているので人的資源(リソース)が足りない。

 つまり、頼れるのは……ネギ達しかいない。

「じゃあ、後は頼みます」

「ええ、千雨さんもどうか……彼女を(・・・)

 高音と別れ、千雨は和美に伝えられた教室へと歩き出した。

 今はネギ達が暴れないよう、代わりに事情を説明してもらっている最中のはずだ。変に拗れないためと、盗聴防止を働かせていることを聞いていたこともあり、事前に決めた合図でノックする。

「……話は終わった?」

「ああ、そっちは?」

「こっちも問題なし」

 教室に招き入れられた千雨は、ネギが明日菜と刹那に取り押さえられているのを見て、本当に問題はないのかと、和美に胡乱気な眼差しを向けた。

「本当に問題ないのか……これが?」

「ごめん……『千雨ちゃん疑っている連中をブッ飛ばす』って聞かなくて」

「気持ちは嬉しいんだが……」

 未だに暴れているネギだが、近づいて顔を寄せてきた千雨を見て、何処かバツが悪そうに顔を歪めている。

「取りあえず落ち着け。今はそれどころじゃない」

「どういうことですの、千雨さん」

 問いかけてきたあやかの方を向く千雨。顔を背けられたネギは微妙に落ち込んでいたが、どうにか手を放せると明日菜と刹那は、揃ってこのかの横へと移動した。

「あ~疲れた~……」

「けっこう疲れましたね……」

 若干わざとらしく、肩を回しながら。実際に疲れているのは事実だが。

「相手が動かなくても、元々、多少は疑われるような立場だってのは理解しているから、別に気にしてないんだよこっちは。問題なのは内通者の正体と、学園都市を離れる理由(・・・・・)の方だ」

「理由、って?」

 未だに状況が飲み込めていない明日菜は首を傾げるが、先にあやかがそのことに気づいて声を出した。

「もしかして……裕奈さんのことですか」

「ああ……未だに行方が分かってないらしくてな」

 千雨達のライブに、裕奈は参加しなかった。それどころか、麻帆良学園都市にすら存在していなかった。人数が多いのでそのような描写はなかったかもしれないが、何日も前から、行方不明になっていたのだ。作者の技量でも、うっかりその手の描写を混ぜ忘れていたのでもなく。

 その原因はただ一つ。

「明石教授が行方不明になり、そして裕奈さんまで……」

「ちょっと気になるなぁ……」

「連絡の一つもありませんし……もしかして、今回の一件と関係が?」

「そいつを調べに行くんだよ」

 和美と共に教壇の横に立った千雨は、ネギ達を一度見渡してから、こう宣言した。

「内通者の件は高音先輩達に任せる。私は疑惑が拗れる前に明石達を探しに行くけど……お前らはどうする?」

 ……全員、答えるまでもなかった。

「関東魔法協会が駄目なら、3-Aの皆さんにも声を掛けましょう。全員は難しいでしょうが、緊急事態です」

「最悪、ここにいる七人か……なんか最後の七人的な感じで「神楽坂、黙れ」――言うだけいいでしょう千雨ちゃん!?」

 泣き出す明日菜を放置し、千雨達はそれぞれ予定の調整や人員、物資の調達に乗り出していた。

「ところで千雨さん」

「ん?」

 電話越しに武器を手配している千雨に近づいたあやかは、今後のために肝心なことを問いかけた。

「これからどこへ向かいますの?」

「手掛かりがないから、とりあえず明石教授の足跡を辿る」

 千雨は南を指差して、こう告げた。

「沖縄、南大東島。そこで明石教授が消息を絶った。明石も向かうとしたら、多分そこだろう」

 

 

 

 

 

 そして、あやかの手配したチャーター機に乗り、再び集った『白き翼(アラアルバ)』の面々は、沖縄へと旅立っていった。

 

 

 

 

 

 そのチャーター機を、見送っている者がいる。

「行っちゃったか……さて」

 包装を破いたばかりの棒付きキャンディを頬張りながら、その人物は化粧ケースを片手に、麻帆良学園都市を見下ろした。

「……落とし前はきちんとつけないと、ね」

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