魔法先生ネギま 雨と葱   作:朝来終夜

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第17話 GO SOUTH

 ――シュボッ!

「ふぅ……」

 雪広財閥が所有する大型クルーザーの甲板上で、千雨は咥えた煙草に火を点けていた。

 時間帯は深夜。海岸上から星空を眺めながら、千雨は腰を下ろし、片足を抱えて煙を燻らせている。

「ここはまだ、綺麗な方だな……」

 ネギ達3-Aの面々は、現在南大東島へと向かう為に沖縄まで来ていた。

 沖縄の那覇空港でチャーター機を降りた後、そのまま港に手配したクルーザーで目的地まで向かう予定だ。航空機を着陸させる環境がないわけではないが、目立つので途中乗り換えることにしたのだ。同じ理由で定期便も却下。乗っている間に襲撃されでもしたら、周囲も巻き込むことになりかねない。

 そのため、今夜はクルーザーで一夜を過ごし、夜明けと共に南大東島へと進路を取ることになっている。そして寝静まった面々を背に、千雨は甲板で一人、煙草を吸っていたのだ。

「いい風が吹いているね、千雨ちゃん」

 そんな時だった。誰かが千雨に話しかけてきたのは。

「ごめんね、こういう時に来るのはネギ君なんだろうけど……彼、今寝ちゃってるから」

「余計なお世話だ、朝倉」

 しかし千雨の悪態も気にすることなく、和美はその横に腰を降ろした。流れてくる副流煙を気にすることなく、首を後ろに倒している。

「というかお前、あいつらと一緒に徹夜でウノやるんじゃなかったのか?」

「いや、さすがにきついって。それに……」

 一緒に持って出てきたミネラルウオーターのペットボトルを千雨に手渡しながら、和美もまた、前方の海に視線を向けた。

「一人より二人の方がいいでしょう……見張るなら」

「何のことやら……」

 とぼける千雨だが、和美は半分(・・)嘘だと理解しているからか、特に気にせずミネラルウオーターを呷っていた。

「まだ苦手なの? みんなで騒ぐの」

「横で聞いている分には、楽しいからいいよ。……疲れるけどな」

「そっか……」

 深夜の静かな海上で、二人はただボーっと、景色を眺めていた。

「朝倉……」

「何、千雨ちゃん?」

 吸殻を携帯灰皿に仕舞うと、千雨は和美に問いかけた。

 

 

 

「……いつ『転移者』のことを知った?」

 

 

 

 その問いかけに、和美は軽く口を歪めてから、こう答えた。

「……多分、千雨ちゃんよりも前に」

「やっぱりな……」

 もう一本吸おうと、煙草のソフトパックを取り出して咥える千雨。ネギから貰ったライターで火を点けていると、目敏く見つけた和美が詰め寄ってくる。

「そのライター、ネギ君から貰ったやつ?」

「……何で知ってるんだよ?」

「さっきネギ君が愚痴ってたよ。『もっと格好良く手渡したかった……』って」

「あっそ……」

 千雨がライターを仕舞うと、それを合図に和美の方から問いかけてきた。

「いつ気づいたの? それともこなちゃんが話しちゃった?」

「ある意味な……『この世界産の人間です』ってのが気になって確認してみれば、こなたからそんなことを指摘されたよ。その後あいつが何も言ってこないからまさかとは思ったが……」

「うん、口止めをお願いしてた。変な疑いを持たれたくなかったし、自分から話したかったからさ」

「そうか……」

 波と紫煙が揺れる中、千雨と和美は少しの沈黙を挟んでから、話を続けた。

「……大丈夫、私が知るきっかけとなったその人は、定食屋の若夫婦と一緒。第二の人生を楽しんでいるだけだから」

「人質を取られて利用される可能性は?」

「それも大丈夫。『原作側』じゃなくて『読者側』だから、少なくとも同じように騙されたりはしない」

「また専門用語増やしやがって……横展開するの、結構面倒臭いんだぞ」

 まあまあ、と肩を叩いてくる和美の手を払うと、千雨はそのまま立ち上がった。

「……で、その相手のことは詳しく聞いてもいいのか?」

「ん~、ごめん。それだけは勘弁して。その代わりと言っちゃなんだけど……」

 そう言って、和美は腰からM9軍用拳銃を抜いて、銃床の方を向けてから千雨に差し出した。

「やっぱり持っていたのか……いいのか?」

「その人も偶々持っていただけで、普段から使っているわけじゃないしね。それに……使えない理由があるんだよね」

「そういえば、そんなことも言っていたな……何でだ?」

 持てば分かる、とばかりに軽く揺らされたM9を見て、千雨は仕方ないとばかりに和美から銃を受け取った。携帯しているSIGP230とは違う大きさだが、それでも気づいたことがあり、弾倉を引き抜く。

「なあ、その理由ってまさか……」

「……うん」

 

 

 

 

 

「実は弾が一発もない。調達する理由も伝手もなくてそのまま。千雨ちゃんのイングラムM10(サブマシンガン)と規格が同じだから分けて♪」

 

 

 

 

 

 翌朝。

「……あれ、朝倉どうしたの? そのたんこぶ」

「ちょっとふざけ過ぎちゃって……千雨ちゃんに力の王笏(アーティファクト)でぶん殴られた」

 あやかから配られた朝食用のパンを齧りながら、徹夜明けで欠伸交じりの明日菜にそう答える和美。他の面々も眠気(まなこ)を擦りながら、皆一様に身体を伸ばしている。

「その千雨ちゃんは?」

「クルーザーの操縦席。茶々丸と一緒に話しているよ」

 ネギ・スプリングフィールドをはじめとした計十七名の乗る大型クルーザーは、既に目的地へと向かっていた。年明けで卒業と就職を控えた時期であり、かつ急な話であるにもかかわらず、ここまでの人数が集まってくれた。

 これも(ひとえ)に人徳のなせる(わざ)だろうが、果たしてそれは誰のものなのかは、言うまでもない。

「しかし、男二人だけって言うのも、肩身が狭いなぁ……」

「仕方ないよ小太郎君。フェイトも呼ぼうかと思ったけど、さすがに麻帆良学園都市(まほら)の人員をこれ以上()くわけにはいかないし。後ISSDAの仕事が回らなくなるし」

 例え世界の危機になろうとも、本来の仕事を放置する理由にはならない。

 それでも、かつて魔法世界(ムンドゥス・マギクス)で戦っていた時よりかは、幾らか状況がましだった。相手こそ未知数だが、今回は頼りになる仲間達が、事前に準備を整えた上で目的地へと向かっている。

 

 

 

 そう、決して一人ではないのだ。

 

 

 

「皆さん、もうすぐ目的地ですわ」

 パンパン、と手を叩いて注目を集めるあやかの声を聴き、ネギ達はすぐに出られるよう準備を整えた。

「今度は使う機会がなければいいけど……」

「ま、何とかなるって」

 グロック17の弾倉を抜いて残弾を確かめるネギの横を通りながら、再び刃を入れた中古の剣を肩に載せた明日菜がそう告げた。

 

 

 

 

 

 沖縄県、南大東島の北端にある北港の外れ。

 そこに大型クルーザーを停泊させた面々は、周囲に気づかれないよう迷彩を施しながら、上陸用のゴムボートを準備していた。

「光学迷彩用の空間投影技術か……」

「まだ試作品だけどな。用途は限られるが、ネギ先生達の幻術と組み合わせれば、しばらくは誤魔化せられるだろう」

 ビー玉状の投影機を周囲に撒きながら、千雨は真名とそう話していた。ネギは夕映達と共に幻術の魔法陣を刻んでいる。自然に漂っている魔力量よりも多くなるが、光学迷彩と合わせれば最低限の操作で済む。

「できればアルベール・カモミール(あのオコジョ)もいれば良かったんだが……あいつ今どうしているんだ?」

「妹の所にいると聞いている。転移者の件はネギ先生から耳に入っているはずだが……しばらくはじっとしていてもらった方がいいかもしれないな」

 魔法と科学の迷彩が整い、上陸用のゴムボートも準備ができた。

 確認したあやかは、一度全員を集めてから、それぞれの役割を言い渡していく。

「では三手に分かれます。上陸して明石教授が仕事に訪れた隠し遺跡へ向かう班と、二人について住民に聞き込みを行う班。そして、ここに残る班です」

 ここにいるのは十七人。しかし全員が荒事を経験していても、戦闘に参加できるわけではない。

「隠し遺跡に関しては、関東魔法協会から事前に話を聞いている。そっちに混ぜてくれないか?」

「だったら私もいいかな。渡鴉の人見(私のアーティファクト)なら索敵に向いているし」

 それを聞き、ネギは一度考えてから、自分の考えを口にした。

「では、こう分けましょう」

 遺跡へ乗り込む前線班。ネギ、明日菜、千雨、小太郎、和美、茶々丸の六名。

 周辺への聞き込みをしつつ後詰として控える班。このか、刹那、古菲、真名、楓の五名。

 大型クルーザーに待機し、指揮所として運営する班。あやか、さよ、のどか、夕映、ハルナ、夏美の六名。

「これなら少し前線よりですが、戦力のバランスは取れていると思います」

「そうですわね……刹那さんの式神と楓さんの分身も他の班にそれぞれ配置して下さい。何かあればすぐに動けるように」

 魔法の存在を耳にしてから、あやかはクラス全員の背景と能力を可能な限り把握するように努めた。その結果、ネギの意見をさらに強固なものとすることができている。

「では、このメンバーでいきましょう。みなさん……よろしくお願いいたします」

 上陸前に武器の点検を始める面々。そんな中、千雨は和美に向けて、あるものを投げつけた。

「9mmパラベラム弾だ。銃に入れとけ」

「ありがとうね、千雨ちゃん」

 受け取った銃弾のケースを開け、中身の弾丸をM9の弾倉に詰め始める和美を背に、千雨はゴムボートの近くまで歩いて行った。

「うまく……いけばいいけどな」

 この先は全くの、未知の領域だ。

 千雨が懇意にしている魔法使い派遣会社アストラルの前社長、伊庭司はあらゆる魔法の知識を吸収し、その対抗手段を用意することで、いかなる状況も対応してのけたらしい。千雨も同様の手段が取れないかと検討したこともあったが、転移者の存在が、それを邪魔していた。

「こなた達と常に連絡が取れればいいんだが……難しいな」

「千雨さん。大丈夫ですか?」

「なんとかな……そっちはどうだ?」

「映画の時のバックパックは用意してあります。使える武器は少ないですが……」

 不安が残るのは、茶々丸も同じなのだろう。いや、高性能なガイノイドだからこそ、不安要素があるのを見逃せないのかもしれないが。

「AMFの対抗手段の方は?」

「ハカセ曰く、まだ不完全とのことですので、今回は装備していません。その代わり、魔力駆動が停止しても動けるようにしていただきました」

「とりあえずはそれで誤魔化せられる、か」

 解析し、小型化に成功しているとはいえ、AMFに関してはまだ未知の部分が多い。特に相手の主力兵装である『デバイス』というものもある。また、他にもチート能力がある可能性も否めない。

「よし……行くか」

 できるだけの準備は終えた。後は前へ進むのみ。

 待機組以外の面々はゴムボートに乗り込み、北港へと進路を取った。

 

 

 

 

 

「明石教授がこの島を訪れたのは、島の中央にある大池の近くに不自然な洞窟とその中にある遺跡が見つかったからだ」

 港から上陸したネギ達は、千雨からことの経緯を聴きながら、その中央へと歩を進めていた。

「スカリエッティの奴が『ジュエルシード』の情報を手に入れたのは、多分そこからだ。遺跡の調査のために古い記録とかを掘り返していたんだが、恐らくはゾフィスの一件で、その中から見つけていたんだろう」

「調査、って明石教授一人で?」

「いや。麻帆良学園都市の学園結界の件で、調査は一度中止になったんだ」

 その証拠に、年末年始の裕奈は明石教授と共に過ごしていた。

 失踪が判明したのは、調査再開の事前準備で一人先行した教授と連絡が途絶えてからだ。それを逸早く聞いた裕奈も、その数日以内に姿を消した。

 二人の行先として考えられるのは、この島しかない。

「連絡手段がなくなったとかならまだいいが……着いたな」

 目的地である隠し遺跡は、現在魔法で人が立ち入れないようになっている。解除手段は千雨が関東魔法協会から受け取っている。それもあって、前線に加わったのだ。

「ここで別れよう。……また後で」

 全員で一度頷き、それぞれの役割を果たそうと歩を進めた。

 

 

 

 

 

 その先に何が待ち受けているのかは、まだ分からないまま。

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