今回もお楽しみ頂ければ幸いです。
「……なんだこれ?」
「さぁ……?」
隠し遺跡に入った千雨達が見たのは、訳の分からない石像だった。
「千雨ちゃん……関東魔法協会って、何の仕事をしているの?」
「……私が知りてえよ」
なにやら呻き声みたいなものも聞こえてくるが、理由はハッキリしているので、二人が気にした様子はない。
「少なくとも、こんな像は報告に入っていないから、見つけてないか調査対象外なんだろうけど……」
鳥獣がそのまま人型になったような男が、両手と片足を広げている石像だった。
グ○コに似た立ち姿と、台座に刻まれた『フェニックス』の文字(カタカナ)が、妙な空気を醸し出している。誰が何の目的でこの石像を置いたのかは分からないが、そろそろ現実を見なければならないと観念したのか、二人は腰に手を当て、息を漏らした。
「……そろそろ、現実を見ないとな」
「そうだね、千雨ちゃん……」
千雨と和美は、ゆっくりと頭上を、その天井の先にある
『……さて、ネギ(先生・君)達と合流しにいくか』
簡潔に言えば、洞窟に入ってから隠し遺跡に入り、ものの数歩で落とし穴に嵌まってしまったのだ。落とし穴自体は作りがしっかりしていたが、関東魔法協会の記録上では、そもそも存在していないはずのものだ。大方、誰かが後から作成したのだろう。
遭難した際はあまり動かない方が得策だ。けれども報告にない落とし穴を作成されたことといい、上から縄なり魔法なりで救助が来ないことといい、何かがあったのは間違いない。
故に、待っていても助けが来ることはまずないだろう。
「で、どう動こっか?」
「まずは周辺調査だ。さっさと
「はいお任せ~……
そして呼び出されたのは六体のスパイゴーレム。
さよがいない為従来通りの制約が掛かるものの、洞窟内を探る上では十分に効力を発揮できる。おまけに、和美の傍には電子機器を持つ千雨がいた。
「ここから少し南に反応がある。周辺調査の班が
「最近は階層毎のマップとかで経路検索もできるじゃん。高度で判別とかできないの?」
「できたらとっくにやってるよ。マップデータがない上に確度が低いから、ここでは当てにならん」
それでも二次元上では、メンバーが何処にいるかを調べることができる。
茶々丸と同様に
「北の反応はいいんちょ達か……さらに南にも反応があるが、多分近衛達だろう。少し手前の、南下した辺りを探ってくれ」
「了解……っと、さっそく一人発見、って!?」
その驚きが何を意味するのかは、千雨はすぐに気づいた。
SIGP230を抜き、銃身を
「誰が誰と戦っている?」
「小太郎君が棒使いと戦っている……って、あれ? 人間じゃない?」
「やばいのか?」
「今は大丈夫……あ、ネギ君も合流した。あっちは大丈夫みたい」
「なら今は放置だ。見張り分を残しつつ、他を探してくれ」
次を探す和美だが、あまり距離が離れていなかったからか、すぐに見つけられた。
「あ、明日菜に茶々丸……でかっ!?」
「え? でかいって敵が?」
「どうも広い空間になっている場所が他にもあって、そこにいたみたい……」
和美の言葉に釣られて、千雨は周囲を見渡した。
落とし穴の下は広い空間だった。まるで、戦う上で邪魔な障害物がない程に。
「……待ち伏せされていたのか。やっぱりスカリエッティか?」
「多分ね。ゾフィスの時に他の魔物のコピーも作っていたのかな? 千雨ちゃんの時みたいに魔本の使い手はいないみたいだけど、呪文の系統がそっくりだし」
「てことは、本抜きでも
「そうなると、まずいのは明日菜達だね」
ネギ達に見張りのスパイゴーレムを残しつつも、和美は明日菜達がいるだろう方角に目を向ける。千雨も南から高速で移動してくるバッジの反応を確認してから、起動させていた携帯を戻した。
「桜咲や長瀬にも連絡が行ったんだろうな。……どっちに合流する?」
「近いのはネギ君達だね。明日菜達の方は厄介だけど、うまく立ち回っているからしばらくは大丈夫。それに聞き込み組もそっちに向かっているみたいだし」
「なら決まりだ。ネギ先生達と合流してそのまま神楽坂達に……」
千雨は、イングラムM10のスライドレバーを引いた。
「まあ、
「いてもおかしくないよね……敵」
出てきたのは、エジプトの王様の様な格好をした馬鹿デカい人間、っぽい何かだった。というか、こんなデカい人間がいてたまるかっ!
「でかいな……」
「化け物だね……彼も魔物かな?」
「勝手に聞いてろよ。私は逃げるから」
そして逃げ出そうとする千雨を、和美は肩を掴んで止めた。
「逃げるならあっち、あの穴からならネギ君達のいるところに一直線だから」
視界を横切って指差されたのは、岩陰になって気づきにくい場所にある横穴だった。最初に和美が、
「というか、まともに相手する必要もないだろう。……さっさとその穴から逃げるぞ」
「まあ、勝てるか分からないしね……」
そして和美が取り出したのは、いつもの閃光の魔力球だった。
「じゃあ、視界を妨げて「私の名前はベルギム・E・O。ベルギム・E・Oの『E・O』はぁ!!」――えっ!?」
化け物もとい魔物ことベルギム・E・Oが叫び出したのに驚き、和美は思わず魔力球を落としてしまった。起動前なので閃光を放つことはない。
「ヤバッ、落としたっ!?」
「バッ――!?」
慌てて自分の魔力球に手を伸ばす千雨だが、ベルギム・E・Oが叫ぶ方が早い。
「『
向かってくるベルギム・E・Oを止めることは適わない。そもそも椅子に座ったまま接近してくる存在の対処法等、知っている方がおかしかった。
「い、いす、千雨ちゃん、椅子がーっ!?」
「落ち着け朝倉っ!? 椅子とはいえ結局は移動する物体だ。理屈はこの際無視するが、呪文を唱えている間に攻撃すれば――っ!?」
しかしベルギム・E・Oが呪文を唱えることはなかった。別に呪文抜きで術を行使したわけではない。
「イスが直接おしおきよーっ!!」
そのまま立ち上がって椅子背を掴んで持ち上げ、振り下ろしてきたのだ。
『ぎゃーっ!?』
慌てて飛び避けた二人だが、二手に別れてしまったのは悪手だった。ネギ達のいる横穴に飛んだ千雨はともかく、反対側に転がってしまった和美はもろに、ベルギム・E・Oの目の前に姿を現してしまった。
「朝倉っ!? 今そっちに――」
しかし悪いことは続く。
千雨が転がり込んだ後、ベルギム・E・Oが叩きつけた椅子の衝撃で横穴が崩れたのだ。幸い、落石で入り口が防がれただけなので千雨に怪我はないが、和美が一人、魔物がいる空間に取り残されている。
慌てて横穴を塞いだ岩石に手を触れるが、生半可な銃弾で撃ち抜けないのは容易に想像がついた。
「くっそ! 今の手持ちじゃ『
しかし、隙間から響いてきた和美の声に、千雨は指を立てようとしたまま、岩肌に身を近づけた。
『そんなことしている間に攻撃されるからっ、先にネギ君達を『エルム・リュウガ!!』――うわ火ぃ吐いてきたっ!? 熱いあついわぁーお!?』
「朝倉っ!?」
千雨から様子を探ることはできないが、ベルギム・E・Oが放った炎かその類で炙られているのは和美の叫び声で分かる。そして、未だに生きて逃げ回っていることも。
『私は大丈夫だからネギ君達呼んできてというか急いでヘルプミー!?』
「くそっ!?」
千雨は自らの手持ちを、己ができることを考えた。
(岩が厚すぎて高威力の魔法しか通用しない。爆薬だとこっちにも被害が来るし、私の
「すぐに戻るから、あっさり死ぬんじゃないぞ!!」
『大丈夫っ!! 今夜の中華ドラマ見るまで死なないからっ!? 鉛白隠してた女中に主人公がソバットかますシーンが楽しみで「『薬屋のひとりごと』のことなら私も原作読んだけど、
しかしツッコみつつも、和美の状況は変わらない。
「いいから死ぬなよっ!!」
『オッケー!!』
返事は軽いが
「さて、と……」
軽く手を伸ばし、首を回しながら身体を
座り直したベルギム・E・Oは口から火を放った後、目の前に獲物が一人だけだと理解すると、その標的を和美に絞った。
「一人だけですか、では私はあなたを倒してお歌の時間に戻ります」
「あ、さっきの呻き声、あんただったんだ」
理由がはっきりしてすっきりした和美だが、それで相手が攻撃を待ってくれるわけではない。そうこうしている間にも、ベルギム・E・Oは呪文を唱えた。
「リュウズレード・キロロ!!」
「おっとぉ!?」
椅子の周囲に刃を生み出し、高速で横に回転させてきた。身を伏せれば完全に回避できるだろうが、次の動作に移れないからと、和美は後方へと距離を取る。
次いで武器を取ろうとするが、和美が握ったのは千雨から銃弾を受け取り、再び使えるようにしたM9ではない。普段から彼女が愛用している、スチール製の警棒だった。
「そんな棒切れで何ができるというのですか? 愚かな自分を呪いなさい、ギガノ・リュウス!!」
おどろおどろしいエネルギー塊が放たれた。その塊は表面に大量の顔模様を描いている。もしあるものが見ればこう答えるだろう。
……怨霊の塊だと。
「エジプトっぽい格好だし、本来の術の系統は、死者の呪いってところかな?」
しかし和美はベルギム・E・Oの攻撃を見ても動かず、ただ、警棒の
「…………残念、相性が
和美と別れた後、千雨はネギ達の元へと走った。
都合良く、といえはご都合主義にも見えるが、戦闘時間を鑑みればまさしく丁度のタイミングでネギ達と合流し、休む間もなく二手に分かれた。
明日菜達の元へは小太郎が先行し、千雨はネギと共に来た道を引き返していく。
「私が岩ふっ飛ばしたら、そのまま突っ込めっ!!」
「はいっ!!」
状況は合流してから移動中に伝えてある。後は一人で逃げ隠れているだろう、和美を助けるだけだ。
「
「ラス・テル、マ・スキル、マギステル――」
互いに詠唱している間に、目的の場所が見えてきた。
千雨だけ立ち止まって膝立ちになり、指先に集束させた魔力を放つ。
「
『
「
「
しかし千雨が入った横穴から出てきたネギは、そのすぐ横で膝を抱えて休んでいた和美にそう言われてしまい、思わずたたらを踏んで
暴発の方はどうにか踏み止まるのに成功したネギが転んだ後で、『
「終わった、って……どうやったんだよ?」
「それは千雨ちゃん、今迄の伏線を考えてみようよ」
「伏線?」
顎に手を当て、考え込む千雨。
ベルギム・E・Oは現在、椅子に腰掛けたままの状態で倒れ伏している。前回みたいに存在が消えることなく、遺体として残っているということは、魔物はこなた達からの情報にあった
死因は恐らく、胸部に開けられた穴……穴?
「おい、朝倉……まさか」
「うん、そのまさか……」
和美はおもむろに、懐からあるものを取り出した。
「……ごめん、借りパクしてた『
「お前なぁ!?」
掲げられた空薬莢が飛ばされていくのも気にせず、千雨は和美の胸倉を掴んで、強引に持ち上げて立たせた。
「いや別にいいけどさ!?
「まあまあ、落ち着いて」
どうにか落ち着いて呼吸を鎮めようとする千雨の背後から、立ち上がったネギが歩み寄ってくる。
「とりあえずは無事で良かったですよ、朝倉さん」
「うん、ありがとうネギ君……じゃあ行こっか」
そう言って駆け出す和美と共に、どこかやるせない感情を矢面に立たせている千雨達は、明日菜達のいる方へと向かった。
(でも……銃弾であんなにきれいな穴って、開くのかな?)
死体を見て脳裏に疑問符を浮かべたネギだったが、今は気にするべきではないと和美の背中を追いかけていく。