魔法先生ネギま 雨と葱   作:朝来終夜

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体調不良の為、一週間更新が遅れて申し訳ございません。
今回もお楽しみ頂ければ幸いです。


第18話 遺跡内の不審者共

「……なんだこれ?」

「さぁ……?」

 隠し遺跡に入った千雨達が見たのは、訳の分からない石像だった。

「千雨ちゃん……関東魔法協会って、何の仕事をしているの?」

「……私が知りてえよ」

 なにやら呻き声みたいなものも聞こえてくるが、理由はハッキリしているので、二人が気にした様子はない。

「少なくとも、こんな像は報告に入っていないから、見つけてないか調査対象外なんだろうけど……」

 鳥獣がそのまま人型になったような男が、両手と片足を広げている石像だった。

 グ○コに似た立ち姿と、台座に刻まれた『フェニックス』の文字(カタカナ)が、妙な空気を醸し出している。誰が何の目的でこの石像を置いたのかは分からないが、そろそろ現実を見なければならないと観念したのか、二人は腰に手を当て、息を漏らした。

「……そろそろ、現実を見ないとな」

「そうだね、千雨ちゃん……」

 千雨と和美は、ゆっくりと頭上を、その天井の先にある落とし穴(・・・・)の入り口を見上げた。

 

 

 

 

 

『……さて、ネギ(先生・君)達と合流しにいくか』

 

 

 

 

 

 簡潔に言えば、洞窟に入ってから隠し遺跡に入り、ものの数歩で落とし穴に嵌まってしまったのだ。落とし穴自体は作りがしっかりしていたが、関東魔法協会の記録上では、そもそも存在していないはずのものだ。大方、誰かが後から作成したのだろう。

 遭難した際はあまり動かない方が得策だ。けれども報告にない落とし穴を作成されたことといい、上から縄なり魔法なりで救助が来ないことといい、何かがあったのは間違いない。

 故に、待っていても助けが来ることはまずないだろう。

「で、どう動こっか?」

「まずは周辺調査だ。さっさと渡鴉の人見(アーティファクト)出せ」

「はいお任せ~……来たれ(アデアット)

 そして呼び出されたのは六体のスパイゴーレム。

 さよがいない為従来通りの制約が掛かるものの、洞窟内を探る上では十分に効力を発揮できる。おまけに、和美の傍には電子機器を持つ千雨がいた。

「ここから少し南に反応がある。周辺調査の班が()に居なければそこだ」

「最近は階層毎のマップとかで経路検索もできるじゃん。高度で判別とかできないの?」

「できたらとっくにやってるよ。マップデータがない上に確度が低いから、ここでは当てにならん」

 それでも二次元上では、メンバーが何処にいるかを調べることができる。

 茶々丸と同様に白き翼(アラアルバ)のバッジから位置を検索することは可能だ。人物特定はできないが、一人ずつ合流して全員揃えば問題ない。

「北の反応はいいんちょ達か……さらに南にも反応があるが、多分近衛達だろう。少し手前の、南下した辺りを探ってくれ」

「了解……っと、さっそく一人発見、って!?」

 その驚きが何を意味するのかは、千雨はすぐに気づいた。

 SIGP230を抜き、銃身をスライドさせ(引い)て銃弾を薬室に送り込んだ千雨は、銃をホルスターに戻してからイングラムM10を構えた。

「誰が誰と戦っている?」

「小太郎君が棒使いと戦っている……って、あれ? 人間じゃない?」

「やばいのか?」

「今は大丈夫……あ、ネギ君も合流した。あっちは大丈夫みたい」

「なら今は放置だ。見張り分を残しつつ、他を探してくれ」

 次を探す和美だが、あまり距離が離れていなかったからか、すぐに見つけられた。

「あ、明日菜に茶々丸……でかっ!?」

「え? でかいって敵が?」

「どうも広い空間になっている場所が他にもあって、そこにいたみたい……」

 和美の言葉に釣られて、千雨は周囲を見渡した。

 落とし穴の下は広い空間だった。まるで、戦う上で邪魔な障害物がない程に。

「……待ち伏せされていたのか。やっぱりスカリエッティか?」

「多分ね。ゾフィスの時に他の魔物のコピーも作っていたのかな? 千雨ちゃんの時みたいに魔本の使い手はいないみたいだけど、呪文の系統がそっくりだし」

「てことは、本抜きでも術が使()えるのか……厄介だな」

「そうなると、まずいのは明日菜達だね」

 ネギ達に見張りのスパイゴーレムを残しつつも、和美は明日菜達がいるだろう方角に目を向ける。千雨も南から高速で移動してくるバッジの反応を確認してから、起動させていた携帯を戻した。

「桜咲や長瀬にも連絡が行ったんだろうな。……どっちに合流する?」

「近いのはネギ君達だね。明日菜達の方は厄介だけど、うまく立ち回っているからしばらくは大丈夫。それに聞き込み組もそっちに向かっているみたいだし」

「なら決まりだ。ネギ先生達と合流してそのまま神楽坂達に……」

 千雨は、イングラムM10のスライドレバーを引いた。

「まあ、ここも広い(・・・・・)からな……」

「いてもおかしくないよね……敵」

 出てきたのは、エジプトの王様の様な格好をした馬鹿デカい人間、っぽい何かだった。というか、こんなデカい人間がいてたまるかっ!

「でかいな……」

「化け物だね……彼も魔物かな?」

「勝手に聞いてろよ。私は逃げるから」

 そして逃げ出そうとする千雨を、和美は肩を掴んで止めた。

「逃げるならあっち、あの穴からならネギ君達のいるところに一直線だから」

 視界を横切って指差されたのは、岩陰になって気づきにくい場所にある横穴だった。最初に和美が、渡鴉の人見(オクルス・コルウィヌス)を飛ばさなければ、千雨が気付くこともなかっただろう。

「というか、まともに相手する必要もないだろう。……さっさとその穴から逃げるぞ」

「まあ、勝てるか分からないしね……」

 そして和美が取り出したのは、いつもの閃光の魔力球だった。

「じゃあ、視界を妨げて「私の名前はベルギム・E・O。ベルギム・E・Oの『E・O』はぁ!!」――えっ!?」

 化け物もとい魔物ことベルギム・E・Oが叫び出したのに驚き、和美は思わず魔力球を落としてしまった。起動前なので閃光を放つことはない。

「ヤバッ、落としたっ!?」

「バッ――!?」

 慌てて自分の魔力球に手を伸ばす千雨だが、ベルギム・E・Oが叫ぶ方が早い。

 

 

 

「『E(イスにかわって)O(おしおきよ)』だーっ!!」

 

 

 

 向かってくるベルギム・E・Oを止めることは適わない。そもそも椅子に座ったまま接近してくる存在の対処法等、知っている方がおかしかった。

「い、いす、千雨ちゃん、椅子がーっ!?」

「落ち着け朝倉っ!? 椅子とはいえ結局は移動する物体だ。理屈はこの際無視するが、呪文を唱えている間に攻撃すれば――っ!?」

 しかしベルギム・E・Oが呪文を唱えることはなかった。別に呪文抜きで術を行使したわけではない。

 

 

 

「イスが直接おしおきよーっ!!」

 

 

 

 そのまま立ち上がって椅子背を掴んで持ち上げ、振り下ろしてきたのだ。

『ぎゃーっ!?』

 慌てて飛び避けた二人だが、二手に別れてしまったのは悪手だった。ネギ達のいる横穴に飛んだ千雨はともかく、反対側に転がってしまった和美はもろに、ベルギム・E・Oの目の前に姿を現してしまった。

「朝倉っ!? 今そっちに――」

 しかし悪いことは続く。

 千雨が転がり込んだ後、ベルギム・E・Oが叩きつけた椅子の衝撃で横穴が崩れたのだ。幸い、落石で入り口が防がれただけなので千雨に怪我はないが、和美が一人、魔物がいる空間に取り残されている。

 慌てて横穴を塞いだ岩石に手を触れるが、生半可な銃弾で撃ち抜けないのは容易に想像がついた。

「くっそ! 今の手持ちじゃ『魔法の射手(サギタ・マギカ)』で撃ち抜くしか『千雨ちゃん駄目っ!!』――何言ってんだ朝倉っ!?」

 しかし、隙間から響いてきた和美の声に、千雨は指を立てようとしたまま、岩肌に身を近づけた。

『そんなことしている間に攻撃されるからっ、先にネギ君達を『エルム・リュウガ!!』――うわ火ぃ吐いてきたっ!? 熱いあついわぁーお!?』

「朝倉っ!?」

 千雨から様子を探ることはできないが、ベルギム・E・Oが放った炎かその類で炙られているのは和美の叫び声で分かる。そして、未だに生きて逃げ回っていることも。

『私は大丈夫だからネギ君達呼んできてというか急いでヘルプミー!?』

「くそっ!?」

 千雨は自らの手持ちを、己ができることを考えた。

(岩が厚すぎて高威力の魔法しか通用しない。爆薬だとこっちにも被害が来るし、私の魔力総量(キャパシティ)じゃ、魔法一発で半分くらい持っていかれる。銃弾は跳弾の可能性も含めて論外……仕方ない)

「すぐに戻るから、あっさり死ぬんじゃないぞ!!」

『大丈夫っ!! 今夜の中華ドラマ見るまで死なないからっ!? 鉛白隠してた女中に主人公がソバットかますシーンが楽しみで「『薬屋のひとりごと』のことなら私も原作読んだけど、主人公(猫猫)そこまでアグレッシブじゃねえよっ!?」――やっぱりデマだったか……』

 しかしツッコみつつも、和美の状況は変わらない。

「いいから死ぬなよっ!!」

『オッケー!!』

 返事は軽いが魔法世界(ムンドゥス・マギクス)を旅した者同士、修羅場慣れしていることはよく知っている。そして、今は助けを呼ぶのが先決だと判断した千雨は、ネギ達がいる空洞へと駆けて行った。

 

 

 

 

 

「さて、と……」

 軽く手を伸ばし、首を回しながら身体を(ほぐ)す和美。

 座り直したベルギム・E・Oは口から火を放った後、目の前に獲物が一人だけだと理解すると、その標的を和美に絞った。

「一人だけですか、では私はあなたを倒してお歌の時間に戻ります」

「あ、さっきの呻き声、あんただったんだ」

 理由がはっきりしてすっきりした和美だが、それで相手が攻撃を待ってくれるわけではない。そうこうしている間にも、ベルギム・E・Oは呪文を唱えた。

「リュウズレード・キロロ!!」

「おっとぉ!?」

 椅子の周囲に刃を生み出し、高速で横に回転させてきた。身を伏せれば完全に回避できるだろうが、次の動作に移れないからと、和美は後方へと距離を取る。

 次いで武器を取ろうとするが、和美が握ったのは千雨から銃弾を受け取り、再び使えるようにしたM9ではない。普段から彼女が愛用している、スチール製の警棒だった。

「そんな棒切れで何ができるというのですか? 愚かな自分を呪いなさい、ギガノ・リュウス!!」

 おどろおどろしいエネルギー塊が放たれた。その塊は表面に大量の顔模様を描いている。もしあるものが見ればこう答えるだろう。

 ……怨霊の塊だと。

「エジプトっぽい格好だし、本来の術の系統は、死者の呪いってところかな?」

 しかし和美はベルギム・E・Oの攻撃を見ても動かず、ただ、警棒の打突(シャフト)部位に指を這わせた。

 

 

 

 

 

「…………残念、相性が最悪過ぎたね(・・・・・・)

 

 

 

 

 

 和美と別れた後、千雨はネギ達の元へと走った。

 都合良く、といえはご都合主義にも見えるが、戦闘時間を鑑みればまさしく丁度のタイミングでネギ達と合流し、休む間もなく二手に分かれた。

 明日菜達の元へは小太郎が先行し、千雨はネギと共に来た道を引き返していく。

「私が岩ふっ飛ばしたら、そのまま突っ込めっ!!」

「はいっ!!」

 状況は合流してから移動中に伝えてある。後は一人で逃げ隠れているだろう、和美を助けるだけだ。

魔法(マギカ)制御(インペリウム)開始(イニチウム)――」

「ラス・テル、マ・スキル、マギステル――」

 互いに詠唱している間に、目的の場所が見えてきた。

 千雨だけ立ち止まって膝立ちになり、指先に集束させた魔力を放つ。

魔法の射手(サギタ・マギカ)っ!!」

集束(コンウェルゲンティア)魔法の射手(サギタ・マギカ)』が駆けるネギの横を通り過ぎで、そのまま岩を撃ち砕いた。

千の(キーリプル)――っ!!」

 魔物()は他にもいる。先程の(ツァオロン)はほとんど小太郎が倒したものなので、まだ魔力には余裕がある。だからこそ短期決着を狙い、ネギは自らの最大攻撃呪文を唱えた。

 

 

 

いかづ(アストラ)「もう終わったよ、ネギ君」――()ろろ……っ!?」

 

 

 

 しかし千雨が入った横穴から出てきたネギは、そのすぐ横で膝を抱えて休んでいた和美にそう言われてしまい、思わずたたらを踏んで千の雷(呪文)を暴発しかけてしまった。

 暴発の方はどうにか踏み止まるのに成功したネギが転んだ後で、『集束(コンウェルゲンティア)魔法の射手(サギタ・マギカ)』を放った千雨が顔を出してから、和美の方へと歩み寄っていた。

「終わった、って……どうやったんだよ?」

「それは千雨ちゃん、今迄の伏線を考えてみようよ」

「伏線?」

 顎に手を当て、考え込む千雨。

 ベルギム・E・Oは現在、椅子に腰掛けたままの状態で倒れ伏している。前回みたいに存在が消えることなく、遺体として残っているということは、魔物はこなた達からの情報にあった人造生命(クローン)にコピーか別の人格が入っていたのだろう。

 死因は恐らく、胸部に開けられた穴……穴?

「おい、朝倉……まさか」

「うん、そのまさか……」

 和美はおもむろに、懐からあるものを取り出した。

 

 

 

「……ごめん、借りパクしてた『幻想殺し(イマジンブレイカー)弾頭』、使っちゃった♪」

「お前なぁ!?」

 

 

 

 掲げられた空薬莢が飛ばされていくのも気にせず、千雨は和美の胸倉を掴んで、強引に持ち上げて立たせた。

「いや別にいいけどさ!? 人が(お前)死ぬよかマシだけどさ!? 何なのこのやるせなさ!?」

「まあまあ、落ち着いて」

 どうにか落ち着いて呼吸を鎮めようとする千雨の背後から、立ち上がったネギが歩み寄ってくる。

「とりあえずは無事で良かったですよ、朝倉さん」

「うん、ありがとうネギ君……じゃあ行こっか」

 そう言って駆け出す和美と共に、どこかやるせない感情を矢面に立たせている千雨達は、明日菜達のいる方へと向かった。

 

 

 

(でも……銃弾であんなにきれいな穴って、開くのかな?)

 

 

 

 死体を見て脳裏に疑問符を浮かべたネギだったが、今は気にするべきではないと和美の背中を追いかけていく。

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