デモルト、という魔物がいる。
かつては『
……しかし、忘れてはいけない。
ネギ達もまた、数々の強敵を相手にこれまで生き残ってきたのだ。
更に言うと、彼等の中にはかつて、リョウメンスクナノカミという二つの顔と四本の腕を持つ化け物と戦った者もいた。その大きさは優に60メートルにも及ぶ巨体である。
しかも、ネギ達がその化け物と対峙したのは、麻帆良学園都市で教鞭を振るって半年にも満たない時期。そう、まだ未熟だった時のことだ。
そんな彼らが、今更でかい魔物一匹に恐れる理由等、何一つとして存在しなかった。
故に、仲間が集えば集う程、ネギ達の勝利は揺るぎないものへと化していた。
「くそぉ、くそぉ……!?」
「茶々丸、龍宮!! 離れたとこから顔に銃弾撃ちまくるぞっ!!」
「皆で
「もう少しで詠唱が完了します!! 合図したら皆さん下がってっ!!」
というより……最早いじめである。
攻撃しようと術を唱えれば気付いた誰かに基点を攻撃され、飛んで逃げようとすれば翼を切られ、近付いてぶん殴ろうとすれば反対側から尻尾を引っ張られる。弱点である首の後ろにこそ攻撃はされていないが、そんなものは関係ないとばかりに痛めつけられてしまえば、現在は封印されているかのリョウメンスクナノカミですらも涙目になるのは間違いなしの容赦のなさだ。同じ化け物でも、対抗できそうなのは『呪術廻戦』の両面宿儺位だろう。
ただし『
「……おい!! 誰か何か言ったか!?」
「悪いが銃声で聞こえなかったっ!!」
「
その言葉を合図に千雨と真名が一歩下がると、茶々丸はしゃがんで右膝の仕込みを操作した。
「Guard Skill――Micro Missile」
右膝の膝頭が割れる。そこには小型ミサイルの発射機構が仕込まれており、発射されたそれはデモルトの口目掛けて飛び込んでいく。
「ギルガドボッ!?」
苦し紛れに自らの中で最凶の禁術、『ギルガドム・バルスルク』を唱えようとするもその口に茶々丸のミサイルが飛んできてしまい、術は霧散してしまう。
「
そのどてっぱらに、ネギは容赦なく『
しかし彼らは知らない。
いくらスカリエッティが生み出したであろう偽物とはいえ……デモルトもまた、魔物の
――シュボッ!
「ああ、疲れた……」
「いや、本当に……」
デモルトを徹底的に蹂躙した
「……で、どうだった?」
「どうやらもぬけの殻っぽいよ。……いるとしたらもっと奥深くかな」
今の戦闘に、和美は参加していなかった。
他の伏兵や、スカリエッティ側の陣営の誰かしらが逃げ出さないように周辺の
「皆さん、ちょっと集まって下さい」
一息吐けたと判断してか、ネギが皆を呼び集めた。
車座に円陣を組んだ皆は、ネギの言葉を待った。
「さっきまでの戦いで、魔力も武装もかなり減りました。幸い、大きな怪我をした人はいませんが……朝倉さん、まだ探していない
「後は更に地下深く。まだ探ってはいないけど、ここよりは大きい空間じゃないみたいだよ」
いくつもの視線が、足元に向けられる。
「……未確認
「おまけに連中が地形を変えまくっているから、魔法協会が調べていた分は完全に当てにならない」
煙草を手放した千雨は、靴底を押しつけて火を消した。
「ここを拠点にして地下に降ります。……まずは偵察に、人数も最低限だけで」
「じゃあ、私とネギは決まりね」
そう言って明日菜は、ネギの肩に手を置いた。異論はないのか、ネギも頷いて応える。
「となると後は……」
小太郎を皮切りに、自己申告で参加するかしないかを伝え始めた。
その中、千雨は脳裏で自らの装備を検めていく。
(魔力は回復して7割弱、ただ……)
デモルトに銃弾を使い過ぎた。
あやか達待機組が控えている大型クルーザーに戻れは補充は可能だが、それならば待たせるよりも、異空弾倉が使える真名を同行させるべきだ。
「それで……千雨さんは?」
いつの間にか最後になっていたらしく、千雨は溜息を一つ漏らしてから、新しい煙草を口に咥えた。
「私は残る。……武装が
結局、更に地下深くに潜るのは、片手の指にも満たない人数だった。
「問題ないでござるよ、ニンニン♪」
「よし、進もう」
楓が先行し、真名が殿を務める道中。間にいるネギは内心、複雑な感情を抱いていた。
その隣を歩いている明日菜は、そんな弟分の背中を叩いた。
「アダっ!?」
「ほらシャキッとする!! ……そんなんだと、朝倉に告げ口されるわよ」
そう言って明日菜が指差したのは、和美のアーティファクトである
実際、他に敵がいないとも限らない上に、後から現れる可能性も捨てきれない。
だからこその、状態重視の分担だった。しかし、何かあれば即座に撤収も考えなければならない。
仮契約の召喚を利用して、いざという時に回収することも可能だが、スカリエッティ側に『Anti Magi-link Field』を使われてしまえば、状況は更に悪くなる。
「このまま何もなければいいんですけど……」
「ネギ先生はどう思う? 連中は来ると思うかい?」
「分かりません。ただ……」
遺跡内に戦力が割かれていた。
つまり、ここに何かがあるということだ。
そして……まだ調べていない場所へと、ネギ達はとうとう辿り着いた。
「扉、みたいでござるな……」
「この先に何が……?」
遺跡に不釣り合いな鉄製の扉だが、鍵穴の類は見られなかった。
即席で追加したのだろうが、ここまで辿り着くとは予想していなかったのか、それとも……その必要がなかったのか。
「……開けるわよ」
そして勢いよく扉は開けられ、全員が中に雪崩れ込んでいく。
「……何、これ?」
「カプセルの類ですね……」
スカリエッティの研究施設だったのか、そこには培養を目的に設置されただろうカプセルが列をなし、その奥に挟まれるように置かれた机には、一冊のノートが残されていた。
「……少し、警戒をお願いします」
グロック17をホルスターに戻したネギは、更に杖を背中に背負って両手を開け、机の上に置かれたノートを取り上げた。使い込まれているがそこまで古いものではなく、その気になれば空きページに書き込むことも可能だった。
そのページをパラパラと捲りながら、ネギはその内容を反芻していく。
「スカリエッティの研究記録みたいですね……上条さん達が戦った人達のことも書かれています。これって……憑依系転移者についてのものですか?」
そこには、憑依系転移者についての定義が記されていた。
既に存在する人物に別の精神が宿ること。それが死者のものであれば、その人物に憑依して蘇ったとも言える。故に、その存在は憑依系転移者と呼ばれた。
「どうやらスカリエッティは、人工的に転移者を生み出せるみたいですね」
「それって、とんでもなく厄介じゃない?」
周囲を警戒しながら明日菜が漏らすが、ネギはその考えを否定した。
「いえ、どうやら精神は、別の人の劣化コピーみたいですね。造り出した身体に記憶を一部削った精神を憑依させて、『あなたは転生した』と伝えることで転移者だと錯覚させていたみたいです」
憑依系能力者には、総じてチート能力はなかった。
何故なら、このノートに書かれている範囲では、人工的に憑依させる以外のことができなかったからだ。憑依系転移者が使っていた力も、世界の抑止力が偶然にも誤作動を起こして、アカシックレコードの記録を頼りに原作通りの能力と記憶を与えているだけに過ぎない。というのが、スカリエッティの仮説だった。
だが逆に、その抑止力による修正が魂との結合をより深いものにしたので、感覚の違和感を完全になくしてしまっている。だからこなたの様な転移系転移者とは違って、新しい身体を使うという実感もなく、感覚を修正する必要がなかったのだ。
「でも、それももう打ち止めみたいですね。別の転移者から
「後は残りの憑依系転移者だな。ネギ先生、それについては?」
真名の指摘した箇所について探してみるものの、誰を作ったかは記載されていても、誰が生き残っているかの記載は見つけられなかった。どうやら完全に、憑依系転移者についての研究記録として残していたらしく、コピーを作れなくなった今としては完全に無用の長物と化したのだろう。
「駄目です、龍宮隊長。ノートからリスト化はできそうですが、憑依系転移者の生み出し方しか書かれていませんでした。誰が残っているかは書かれていません」
「そうか……後、隊長はやめよう。ネギ先生」
「じゃあ、完全に手掛かりなし?」
もうどうしようもないのかと各々に諦めムードが流れる中、最後のページまで読み終えたネギは、そこに一枚のルーズリーフが挟まっているのを見つけた。
「これはまだ新しいみたいですね……魔導巨兵ファウード?」
どうやら憑依系転移者以外の戦力を求めて、他の転移者からチート能力を奪うだけでなく、別の方法も模索していたらしい。いくつかある案が塗り潰され、一つだけ残されていた単語を丸で囲っている。
その単語が、『魔導巨兵ファウード』と呼ばれるものだった。
「魔導巨兵ファウード?」
スパイゴーレムからの映像を確認した和美は、すぐに千雨達に伝えた。
しかしそのことを知る者はここにはいないので、何のことかは分からなかった。
そう、
「スカリエッティの新戦力みたいだね。そういう人物か兵器かは分からないけど」
「まあ、それくらいならすぐに調べられる。一回外に出よう」
ネギ達との合流を待ってから、彼等は遺跡やその外側である洞窟からも出て、数時間振りの日差しをゆっくりと浴びていた。
しかし時間は限られているので、目が光に慣れてすぐに、千雨は電話を掛けた。
『……あれ、千雨どうしたの?』
「悪いこなた。今大丈夫か?」
千雨は
「……で、『魔導巨兵ファウード』って、何か分かるか?」
『あ~……この世界オワタ』
「おい、何諦めてるコラっ!?」
ますます嫌な予感がするものの、聞かないことには対処法も思いつかないので、おとなしくこなたが話すのを待った。
『もし私が知っているのと同一なら、それは『進撃の巨人』以上に馬鹿デカくて最悪な『泉!! 奴が動いたぞっ!!』――ごめん!! 詳しくはまた電話するから!!』
「あ、おいこらっ!?」
しかし向こうも取り込み中だったらしく、千雨の制止はこなたには届かなかった。
「……どうする?」
「とりあえず、いいんちょさん達と合流しませんか?」
ここでの用事も終わったようなものなので、一旦こなた達からの連絡を待つことにした。
「それにしても……どこ行ったんだろうな。明石も教授も」
千雨の言葉が風に乗って消えていく。
手掛かりが見つからなかったことに苛立つも、現状では解決できないのでおとなしく北港の外れへと戻っていった。