魔法先生ネギま 雨と葱   作:朝来終夜

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第20話 一方その頃、麻帆良では(前編)

 千雨達が沖縄の南大東島へと上陸する日、喫茶店『Imagine Breaker』の扉には朝から、臨時休業の札が掛けられていた。

「お兄ちゃん、私達って付き合っているの~?」

「兄妹だから付き合ってないよ~……あれ? 今日はお休みだね」

 顔立ちがよく似た兄妹らしき二人が立ち去っていくのも気付かず、カーテンで覆われて視界を遮った店内にいるのは五人。

 この店の店長と店員である上条当麻とキノ、泉こなたの三名、吸血鬼エヴァンジェリン・A(アタナシア)K(キティ)・マクダウェルと、関東魔法協会在籍の高音・D・グッドマンの計五名だ。

「……で、見つかりましたか?」

「う~ん、まだ出てこない~……」

 朝からこなたは大忙しだった。

 高音が持ち込んできた監視映像を見つめながら、持ち上げた右手から導く薬指の鎖(ダウジングチェーン)を垂らしていた。『HUNTERXHUNTER(原作)』でクラピカが内通者を探していた要領で、同じく探れないかと思い立っての行動だが、その人数の多いこと多いこと。

 原作(クラピカ)の場合はある程度人数が絞れていたから良かったものの、疑わしき関係者全てを探るとなると、とてつもない労力がかかってしまうのだ。実際、『魔法先生ネギま(原作)』の登場人物かどうかだけでも仕分けできれば良かったのだが、スカリエッティ側が洗脳や人質といった手段も用いてくる可能性がある以上、身近な者すら疑わなければならない。

 同様に、こなたの能力(チート)地球(ほし)の本棚』で検索できれば良かったのだが、この世界に関しては原作知識以外見ることがかなわない以上、こうして地道に探さなければならなかった。

「もう少し絞ってよ~」

「それができれば苦労はしません」

 実際、今も高音は、こなたが腰掛けているカウンター席を背に、テーブル席の上に資料を広げて怪しい経歴や行動の記録を残している人物がいないかを精査しているところだった。

「今も探しているのですが、全員がその気になれば動機も手段も持ち合わせているとなると、もう何を基準にして絞ればいいのか……」

「そういえば、自分すら導く薬指の鎖(ダウジングチェーン)で探らせていたな」

「信じられるのがあなた達みたいな完全に外部の人達だけなんですよっ!?」

 キノと共に、以前使えなかったワルサーP5に代わる銃を物色していたエヴァンジェリンからそうツッコまれると、高音はテーブルを掌で強く叩きつけながら叫んでいた。

「ここまでほぼどころか全員が怪しいとなると、自分すらも疑わしくなってしまってもう何を信じていいやら……この世に自分ほど信じられないものが他にありますか~っ!?」

「高音さ~ん、泣いてないで手を動かしてよ~……(ボソッ)気持ちは分かるけどさ」

 正直、こなたも内心泣きたくなってきていた。

 そもそも部外者である筈の自分達がここまで働く羽目になっているのだ。スカリエッティが絡んでいるとはいえ、この量には流石に嫌気が差してくる。

「というかもうちょい、人数絞らないか?」

 全員に紅茶を振る舞いながら、上条はお盆片手に動き回っていた。

「流石に全員容疑者とかだったら、まずは条件付けで絞った方が――」

「だから……それができれば苦労しませんわ」

 上条を近くに呼び寄せた高音は、資料を指差しながら改めて説明を始めた。

「ハッキリ言って、千雨さんが疑われた理由でもあるのですよ。動機と手段が明確な人物という点で、真っ先に彼女が容疑者に挙がりました。逆に言えば、千雨さん以外に疑われるような行動を取っていた人物が一人もいない、ということになります」

「だからこうやって、一人一人調べなきゃならないんだよね~……」

 最早、普段の元気すら、今のこなたは持ち合わせていなかった。

 後で茶菓子でも差し入れようと考えた上条は、その説明を聞いて、ある疑問を口にした。

「ということは……動機と手段以外じゃ絞れなかったのか?」

「せめて先日の襲撃だけで済むのなら、アリバイの一つでも調べ上げて絞れたのですが……」

 その内通者は事前に麻帆良に溶け込んでいたとしか思えない程、周到に行動していたらしい。大抵は行動を起こした途端にぼろを出すものだが、その形跡すら見つけられない為に、疑いの目が千雨に向いてしまっている。

「分かっているのは、千雨さんが怪しいということだけ。本当、何が立派な魔法使い(マギステル・マギ)なのやら……」

「それでもあんたみたいに、ちゃんと理解してくれている人もいるのは知っているよ」

「そうそう、じゃなきゃ私達だけで勝手にやっているし」

 上条のとりなしにこなたも同意するが、高音は未だに苛立っているのか、一度腰掛けている椅子の背もたれに思いきり体重を掛けている。

「まったく……疑っている人間は何を考えて「あれ、ちょっとおかしくない?」――……何がおかしいんですの? キノさん」

 エヴァンジェリンに千雨が使っているシグP230の後継であるP232を勧めている時だった。高音達の話を聞いていたキノの脳裏に、ふと疑問が浮かんだのは。

「いや、だって……前に聞いたんだけど、ある映画(・・・・)を上映したから、魔法関係の被害者が認知されるようになったんだよね?」

「ああ……『魔法反徒ネギま(あのクソ映画)』のことか」

 受け取ったシグP232の調子を確かめているエヴァンジェリンが忌々しげに呟くが、高音は気にせず、キノの疑問について思案しながら返そうとする。

「ええ、その通りですわ。だから千雨さんを疑うなんて、自分達の罪を浮き彫りにしているよう、な……」

 しかし徐々に、キノの言いたいことが理解できてきた。

「……それなのに、千雨さんを(・・・・・)疑った(・・・)?」

「まずは、映画を見ていない人間を中心に探すのはどう?」

「でも新人は一通り見たけど、誰も引っかからなかったよ?」

 千雨以外に疑うとすれば、まず怪しいのは最近関東魔法協会に入った者達だ。しかし、こなたが調べ始めてから大分経つものの、一人として該当する者はいなかった。

「となると後は……映画を見ていない古株のメンバー?」

「いえ……」

 しかし高音はUSBメモリを取り出すと、こなたが今迄確認していたノートPCに接続されていた監視映像を保管したものと差し替えた。

「これは?」

「議事録代わりに録音したものです。ヘッドセットを外して全員に聞こえるように」

 ヘッドセットを外し、高音に指示されたファイルを再生するこなた。

 聞こえてきたのは千雨達が退席した後の、会議の会話だった。

「もしかしたら、わざと疑いを掛けさせた可能性があります」

「どういうこと?」

「人質だろう」

 こなたの疑問に、エヴァンジェリンはそう答えた。

「元々は疑いの目さえ誤魔化せれば、なんでも良かった可能性が高い。今後も麻帆良内で裏工作を行う上ではな。しかし……向こうは態々(・・)、千雨に疑いの目を向ける手段をとった」

「そう、言い出した人間を辿れば足がつくのに……だから、会議でそれらしき発言をした人から、つながりを探っていければ?」

「そこから犯人を割り出せる……?」

 後は簡単だ。会議の内容から千雨に対して猜疑心を抱く者をピックアップし、その人物達を順にこなたが導く薬指の鎖(ダウジングチェーン)を用いて探っていく。

 果たして、犯人はあっさりと見つかった。

 

 

 

 

 

 世界樹を中心とした広場の端に、二人の男がいた。

「しかし楽な仕事ですね……そう思いませんか、神多羅木(・・・・)先生?」

「別に……」

 神多羅木は不機嫌を露わにそう言うと、缶コーヒーを口に流し込んだ。

 ……ちょっとした油断だった。

 帰宅の遅れた生徒達を送り届けていた際に、目の前の男に声を掛けられたのは。

 一般人(・・・)にまで魔法を見せるわけにはいかず、ましてや狙いが自分ではなく送り届けている生徒達に向けられているとあれば、従わざるを得なかった。

 その男は夜を嫌うかのような白いスーツで身を包み、オールバックにした黒髪の下から、細い眼差しを向けてきている。

 今もまた逆らえないのは、チョーカーに模した首輪型爆弾で自らの命を握られているからだけではない。この男を確実に捕らえられないからだ。

 直接、生徒や他の人間を人質に取られてはいないのだが、この男の攻撃手段がまずかった。一度恐喝の為に見せられたのだが、威力と範囲が並の魔法を超えていた。防衛手段が確立していなければ、想定以上の被害が生まれてしまう。

 その為、誰も傷付けない範囲で男の言いなりにならざるを得ず、情報の流出を行ってきてしまったのだ。

「それより……明石教授のことは本当に何も知らないのか?」

「知りませんね」

 しかし、ただ言いなりになっていたわけでもない。

 千雨に疑いの目を向けさせるという、関係者からすればありえない行動を気付かれない様に取っていただけではなく、未だに行方不明のままである明石教授の所在を探ろうと、雑談交じりに何度か、問い掛けているのだ。

 しかし、恐喝犯からは未だに、手掛かりを探ることができずにいた。

「私の雇い主が関係している可能性もありますが、少なくとも、私の仕事の範囲では関わっていませんよ」

「そうか……」

 そう言い捨てると、神多羅木は空になった缶を近くのくず入れに投げ入れた。

 チョーカーに模した首輪型爆弾だけではない……自分には見張りがついている。

 それさえ解決できればすぐさま救援を呼べるのだが、相手に勘付かれてはまずい。今のところ『千雨に疑いの目を向ける(救難信号)』を出すことには成功しているが、気付かれない内に次の行動に出られてしまえばまずいことになる。

 最も……一番重要な仕事だけは、既に達成されてしまっているが。

「さて……私はそろそろ行きます」

「次の指示がないぞ。もう用済みか?」

 もし用済みであれば、監視の目がなくなるかもしれない。

 神多羅木自身、今更情状酌量の余地は期待していないが、少なくともこれ以上の被害は避けたいとは考えていた。

「……まさか」

 しかし、相手は少し嫌味を利かせた笑みを浮かべて否定してきた。

「まだ企てている途中なのでね……余計なことをせず、大人しくしてて下さい」

「……っ」

 かつて、超一味が放った偵察用のドローンであれば、一撃で吹き飛ばす自信がある。しかし、今度の相手が放った監視手段が、同様の物とは限らない。

 実際、それらしきものに当たりはつけているので、その気になれば無詠唱呪文で吹き飛ばせるのだが……。

「では失礼、これでも忙しい身なのでね。また連絡します」

 帽子を外して挨拶する様も、相手が相手なだけに苛立ちしか生まれてこない。

 このまま見逃すしかないのか、と歯噛みしている時だった。

「おや、神多羅木先生じゃないですか?」

「……新田先生?」

 丁度相手が去った時、入れ替わりに神多羅木の前に現れたのは、ビニール袋を片手に近づいてくる新田だった。

「どうされたんですか? こんなところで」

「いえ、人と会う約束がありまして……新田先生は?」

「私は見回りがてら差し入れに」

 そう言って新田が指差したのは、屋台を立ててタコ焼きを売っている便利屋『RUDE BOYS』のタケシとピーだった。

「最近、仕事も減っているので屋台でも(こしら)えないと世知辛いですからね。特に先日の事件が影響して、しばらくはあまり大きな仕事も生まれないでしょうから」

「成程……いや、先日は申し訳ありません。こちらの力不足でした」

 新田が彼等『RUDE』のことを気に掛けているのは、神多羅木もよく耳にしていた。

 だからこそ、早期解決を願っているのだが、肝心の自分がこの様では話にならない。「いえ、神多羅木先生が悪いわけではありませんから……ですが、やはりお疲れの様ですね」

 しかし、新田は神多羅木が仕事に対する疲労から顔色を悪くしているのだろうと思ったのか、ビニール袋から一つの紙パックを取り出すと、そのまま手渡してきた。

「よろしければたこ焼きをどうぞ。少しは気晴らしにもなるでしょう」

「ああ、これはご丁寧に」

 すでに太陽も傾き始めているが、昼食はまだとっていない。

 神多羅木は有難く、新田からの好意を受け取ることにした。

「後、彼等がいない内にあの映画(・・・・)をまた見ないか、という話があるのですが……これからご一緒しませんか?」

 その新田の誘いは…………神多羅木が待ち望んでいたものだった。

 

 

 

「ええ…………ぜひ」

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