魔法先生ネギま 雨と葱   作:朝来終夜

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第21話 一方その頃、麻帆良では(後編)

「……おや?」

 雇い主から預かっていたストレージデバイスに、ノイズが走った。

 不審に思った男―ゾルフ・J・キンブリーは椅子に腰掛けたままデバイスを操作し、神多羅木周辺に迷彩を施して散布していた複数の小型光球(サーチャー)を確認すると、なんと一瞬にして消されてしまっていたのだ。

「妙ですね……」

 神多羅木に取り付けた首輪の爆弾は本物だ。

 小型光球(サーチャー)に何かあれば、すぐさま爆弾を起爆させると脅しておいたのに、生半可な覚悟で手を出すとは思えない。そもそも、彼単独であれば、一斉に撃ち落とすことはできでも、一瞬で全てを消し去ることはできない筈だ。となると後は協力者の存在だが、彼が誰かに何かを伝えたのかまでは分からない。

 そもそも盗聴している限り(・・・・・・・・)、異常はなかったのだ。

「仕方ない……爆破して消えますか」

 そしてキンブリーは起爆スイッチに指を掛け、神多羅木の首にある爆弾を起爆させた。

 そのまま上着を着ると荷物を持ち、足早に隠れ家にしていた部屋から出ていく。

 

 

 

「た、助かった……」

「大丈夫ですか? 神多羅木先生」

 正直に言えば、ギリギリであった。

 新田が案内したレンタルルームに設置されていたのは、ホームシアターではなく、千雨が残していったAMFの発生装置だった。近くに小型光球(サーチャー)が飛んでいたことは気付いていたので、奥まで入ってすぐにAMFを起動、ばれて距離を取られない内に全て消し去ることに成功したのだ。後は物理手段を封じれば問題ないが、こなたと上条、そして彼等(・・)が味方についたことは大きなアドバンテージとなった。

「後は学園都市中に張り巡らされた爆弾だけっ!!」

「……そっちももう終わった」

 スモーキーはそう言うと、携帯の通話を切ってから、近くの椅子に腰掛けた。

 キンブリーに『ネギま』の原作知識しかないのが功を奏した。神多羅木の行動を不審に思われなかったのは、あの映画の存在を知らないからにすぎない。いやそもそも、彼自身は適当に協力者を選んだ可能性もある。

「つまり……相手は転移者じゃない(・・・・)

「まさか本物の爆弾魔だとは、思いもしなかったけどね。……調べたら手配写真がネットに思い切り出回っていたし」

 要するに、外部の犯罪者を傭兵として雇い入れたのだ。

 そして向こうにとっては、魔法の隠匿なんて露程にも思っていないだろう。元々は別の世界の住人な上、この世界そのものが魔法の開示に動いているのだから。

「……だから物理手段を用意しているのはすぐに分かった」

「後は爆弾の位置を導く薬指の鎖(ダウジングチェーン)で探ってスモーキー君達(RUDE BOYS)に起爆用のケーブルだけ切ってもらえば、麻帆良学園が爆破されることはない。おまけに匿名で通報もあったしね」

「そして、神多羅木先生の爆弾は、上条さんの時計屋(ウォッチメイカー)であっさり消え去ったわけよ「その後転ばなければ、完璧だったがな」――……すみませんでした不幸だぁ」

 実際、神多羅木が『助かった』と言ったのは、爆弾から逃れた為ではない。上条の『不幸』に巻き込まれかけたからだ。(すん)でのところでスモーキーが蹴り飛ばさなければ、今頃爆弾と共に粉微塵となっていただろう。

「……それで、キンブリーの方は?」

「キノさんと高音さんが追っかけてるけど……大丈夫かな?」

「言っておくが、これ以上は手を貸せない。『家族』に危険が及びかねないからな」

 今回スモーキー達が協力したのも、神多羅木が帰宅の遅れた生徒達―その中にいた元無名街の住人を含めて庇った為に脅される結果となったからに過ぎない。

 周辺調査を行った過程で関わっていることを知ったので、便利屋『RUDE BOYS』の事務所へと駆け込んだ。そして聞き込みの際に事情を知ったスモーキーから『借りを返す』ということで、今回協力してもらっただけなのだ。

 これ以上の強要はできない。

「大丈夫、分かっているよ。……泉、行こう」

「……そのセリフはさ」

 こなたは腰に手を当てながら、呆れた様子で上条を見下ろした。

「せめて立ち上がってから、言ってくれないかなぁ?」

「いや、かなり効いてるから……不幸だぁ~」

 そして若干イラッときたこなたとスモーキーにそれぞれ、軽めとはいえ追撃を喰らいかけたのもご愛敬。

 

 

 

 

 

 しかし、便利屋『RUDE BOYS』にいたのは彼等だけではない。

「こっちの方か!?」

「もうちょい派手に動いてくんないかなぁ~」

 最近よく混ざって働いているナギやラカンが、高音達の方へと向けて駆けていた。

 本来ならばタケシとピーが拵えていたタコ焼きの屋台を担当する筈だったのだが、今回の件で救援を求められた以上、駆け付けざるを得なかったのだ。

「まったく、ロートル働かせやがって!!」

「まあRUDEの連中(あいつら)をこっちの事情に巻き込むのもどうかと思うしな!!」

 周囲への影響を考えなければ、『波乗りラカン』で一気に距離を詰められるのだが、緊急時以外の強引な移動手段は(ネギのせいで)NGとなっているので、身体強化で走るしかない。

「しかし本物の爆弾魔とはな」

「そりゃ『転移者に脅されているかどうか』で引っかからないわけだよ」

 今更ではあるが、こなたの調べ方も万全とは言い難かった。

 情報が完全に出揃っているわけでもない上に、確認事項が『転移者に脅されているかどうか』で調べていたのも悪かった。相手が転移者である以上、無条件で『仲間も転移者』だという先入観を抱いてしまっていたのだから。

 だから転移者に雇われた『ただの傭兵』にまで、気が回らなかったのだ。

「問題はどうやって――」

 ズズン!!

「――捕まえるか、だよな……」

 日本では聞き慣れない爆弾の音。

 国外では割と一般的な解体手法―発破解体の爆発音だった。

 

 

 

 

 

「一先ずは、安全ですかね……」

 適当な空き家を隠れ家にしていたキンブリーだが、逃走用の手段は当然用意していた。

 地下の下水道へとつながる道を爆破して作れるようにし、後は別ルートで持ち込んだゴムボートで外の湖へと脱出、そこから学園都市の外なり水路を辿るなりすれば逃げ切れる。

「さて、脱出を……どういうことですか?」

 ゴムボートを下水の上に浮かべ、荷物を先に載せた時だった。

 進行方向から、誰かが近づいてくるのが聞こえてきた。足音から人数は一人だと分かるが、作業用のランプを点灯させ、照らし出された人物に対して、キンブリーは眉をひそめた。

「何故あなたが生きているのですか? ……神多羅木先生」

 爆破した筈の人物が目の前にいる。黙ったまま、キンブリーと向き合うや両手をポケットから出した状態で。

(外れた瞬間爆発する仕掛けが故障していた? いずれにしろまずいですね……無詠唱呪文の射程距離内ですか)

 先程から言葉を発していないことに対しても、若干の脅威を覚えるキンブリーだった。しかも荷物を手放したタイミングでの登場となると、明らかに手持ちの爆発物を警戒している。

 ……相手に油断はなかった。

(やれやれ……接近戦は苦手なんですけどね)

 キンブリーは火薬を仕込んだ手袋をつけている。殴打の瞬間に爆破して威力を上げるためのものだ。変に時間を与えて魔法を撃たれるよりも、さっさと仕留めてしまった方がいい。特に下水道内という閉鎖空間では、得意の爆破だと自身も巻き込みかねないのだから。

「少しは話をしたらどうです、かっ!!」

 靴に仕込んだ爆薬による加速。

 ただの爆風であまり大した加速はできないが、それでも爆音と威力からそこそこのハッタリにはなる。大抵はそれで怯んだところに拳を叩き込むのだが、逆にキンブリーは、別の意で驚愕することとなった。

 相手が回避したからじゃない。むしろギリギリで接する迄はできていた。

 しかし、手袋に仕込んだ火薬が炸裂した瞬間、触れていた神多羅木の顔が消えたのだ。

 

 

 

 いや…………顔が破れた(・・・)

 

 

 

「なっ!?」

 生半可な変装ならば、すぐに見破れる。魔法による幻覚ならば、ストレージデバイスが反応する筈だ。しかし相手は顔どころか、体格すら変えてのけている。

「残念、逃げるか遠距離だったら――――私に(・・)対抗手段はなかったのに」

 だから殺し損ねたと考えていたのに、途中から甲高くなる、その声だけで偽物だと理解できた。

 殴った後に崩れた体勢をどうにか戻そうとするキンブリー。しかし、神多羅木に化けていた者からの足払いで、容赦なく下水道へと叩き落とされてしまう。

 バシャアッ!!

「なっぷ……!?」

 そして通路に手を掛けたキンブリーは……突如現れたかのように見える、二十代位の女性に驚愕を露わにした。

「あっ、あなたは……がっ!?」

「まったく……せっかく転生できたから、新しい人生では殺しもなくゆっくりしたかったのに」

 手の甲から通路の床にまで針を貫通させ、その上にブーツで覆われた足を乗せながら彼女―チェルシーは下水道に落ちたままのキンブリーを冷ややかに見下ろしていた。

「……ああ、今は転移者(・・・)だっけ? 正直死んでからこの世界に来たから、別に転生者でも間違ってないんだろうけど……」

「なっ、何者ですか? ……あなたは」

「私?」

 その瞬間、チェルシーの瞳はますます、冷ややかなものへと化していた。

「……あんた達が人質に取って爆破しようとした赤ん坊の親達の仲間。要するに身内」

 いつもなら棒付きキャンディを頬張るところだが、下水道内である上に、苛立たしい相手を目の前にして、そんな心の余裕はなかった。

「流石に平和ボケ自体は指摘したいところだけど……それ以上に舐められたままってのは、かつての古巣の沽券に関わるのよね」

「あがっ!?」

 ブーツに覆われた足が艶めかしく動く度に、針が揺れてキンブリーの肉を抉っていく。

 

 

 

殺し屋集団(ナイトレイド)敵に回して、無事に帰れると思ってないでしょうね?」

 

 

 

「あまり舐めるのも「はい、そこまでですわ」――こんどはっ!?」

 反論しようと口を開くキンブリーだったが、それすらも横やりが入った。

 しかし下水道から引っ張り上げられただけ、チェルシーよりかはまだましな扱いだっただろう。そのキンブリーを叩き落とした張本人は、現在後頭部に銃口を突きつけられているが。

「まったく……あなたですわね? 匿名で爆弾の解除方法を送り付けてきたのは」

 でなければ、素人である筈のスモーキー達(RUDE BOYS)に爆弾の解除を依頼したりはしない。通報自体偽物の可能性もあったが、中身の解除方法は聡美に確認も取っていたので、本物だと信じるしかなかった。

 結果、高音の目の前にはキノに銃口を向けられたチェルシーと、今は自らの影に拘束されているキンブリーが揃っている場面に出くわしたのだ。

「御礼はいいわよ」

「ご安心を」

 キンブリーを持ち上げた影での拘束を確認すると、高音は手持ちのハンカチを裂きながら、暗がりから出てきた。

「流石にやり過ぎですわ……殺さないだけまだましですけど」

「おや、私みたいな異常者を許すおつもりですか?」

「それこそまさか(・・・)ですわ」

 キンブリーの言を高音はあっさりと否定した。

「あなたは今回、誰を(・・)敵に回したのかを理解してからこれまでの罪を償って頂きます。覚悟しなさい……あの人のお説教は、本当に長いですわよ」

 針をそのままに即席の包帯を巻きつけて立ち上がる高音。出血の恐れもあるので、まとめて固定したのだ。

「それで、高音さん」

 そこにキノが声を掛ける。チェルシーの扱いについてだ。

「……この人どうするの?」

 しかしキノに『森の人』の銃口を向けられながらも、チェルシーは特に気にせず、懐から一通の封筒を取り出した。

「とりあえず迎賓待遇でお願い。ちなみにこれ、紹介状」

『紹介状?』

 何のことか分からず、一先ず高音が中身を確認することになった。

 

 

 

 

 

「また出番なしか……」

「最近そんなんばっかだな、おい」

 駆け付けた後、瓦礫を掘り起こしながら必死になって手掛かりを探っていたナギとラカンだが、マンホールの下から出てきた高音達を見て状況を把握。今は一人ずつ地上へと引っ張り上げている。

「まあ、そう言わないで。ちょっとまずい話もあるんだし」

「まずい話?」

 奇しくも、キンブリーの発破解体時の少し前に、こなたが千雨から受けていた掛かってきた電話で出たのと同じ単語だった。チェルシーの口から出てきたのは。

 

 

 

「『魔導巨兵ファウード』。今回の盗みは、それを叩き起こす為の『鍵』が必要だったからよ」

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