それに合わせて今までの簪視点の記載を止めています。
新たな守護天使の物語を良ければ宜しくお願いします。
No.01ーセキュリテイーブルー1-
北方海最奥・N諸島・イリオモテ島近海
連絡船むろとは後方から迫り来る何かに追われる様に全力で航行していた。
「船長、シーサーペント追って来ます、振り切れません。』
操舵室に後方見張りの船員の声が響き、船長は顔の表情を強張らせるて呟く。
「くそ!もう少しで港だというのにこんな所で・・・」
むろとはG群島の島々を連絡する中型の貨客船だ、何時も通り乗客と荷物を載せ次の島に向かっていた。
そしてあと少しで到着というところで、流氷の下から現れたシーサーペントに襲われたのだ。
シーサーペントが流氷の下に潜み襲ってくる可能性が高い、それはもちろん船長も知っており、流氷群を避けて航行してきたのだが、もう港近くと安心したのが仇になってしまったのだ。
「救援信号への返答はあったのか?」
船長が無線機に向かっている乗員に聞く。
「まだありません、信号はちゃんと発信されたのですが。」
唇を噛み締める船長、このままではじきに追いつかれる、そうなれば結果は明らかだ。
周りの船員達もそれを想像し顔を青ざめている。
一方乗客達も後方迫り来るシーサーペントの姿に、青ざめて震え、中には泣き喚いている者も居る。
誰もがあのシーサーペントに自分達がどんな目に遭わされるか分かっているからだ。
「速度は、もう上がらんのか?」
「これで精一杯です、既に機関は焼きつく寸前です船長。」
船長の問い掛けに機関担当の船員が悲痛な声で答える。
もはやこれまでか?誰もがそう考え絶望に沈み込もうとした時だった。
凄まじい轟音が響き、シーサーペントが数本の水柱に包まれる。
『せ、船長シーサーペントが!」
見張りの声に慌てて船後方を見た船長は、シーサーペントが海面をのたうち周る姿に驚く。
「も、もしかして・・・」
「せ、船長?」
船長と船員達はシーサーペントが更に数本の水柱と爆発音に包まれるのを呆然と見つめる。
そして水柱と爆発音が収まった後、どす黒い体液まみれの海にシーサーペントは沈んでゆくのだった。
「どうやら助かった様だな俺達は。」
安堵する船長に呆然とした表情のままの船員が尋ねる。
「船長一体何が起こったんですか?どうしてシーサーペントの奴急に・・・」
「助けてくれたんだよ・・・守護天使がな。」
船長は微笑んで船員に答える。
「守護天使・様が?それって・・・」
「船長、本船右舷側に何かが浮かび上がってきます!!」
船員が船長の言葉に驚き聞き返そうとした時、別の船員が怒鳴って報告してくる。
「まだ居たのかよ!?」
狼狽する船員に船長は首を振って答える。
「いや守護天使が光臨されるのさ。」
「へ・・・?」
船長の言葉に船員達は右舷側の窓に殺到した、そして彼らはようやくそれが何か理解する。
むろとの右舷側に浮かび上がってきたのはシーサーペントでは無く、青いカラーを身に纏った潜水艦だったのだ。
「「「う、うお!!!」」」
船員達がお互いの肩を抱き合い歓喜の絶叫を上げる。
「「「守護天使様のそうりゅうだ!!」」」
歓喜の声は船橋から船内各部へ広がって行く、船員も乗客も関係無く声を上げている。
セキュリテイーブルー所属の潜水艦そうりゅう、北方海の守護天使の光臨に。
その光景を当の守護天使は発令所に設置された大型の共用ディスプレイを通して見ていた、困惑の表情を浮かべながら。
「凄いですね艦長、皆さん大喜びですよ。」
多分にからかいの篭った声でセンサー担当の娘が報告してくる。
「それは助かったからですよね?」
「まあそれも有ると思いますが、やはり艦長が来られたと言うのが大きいでしょうね。」
機関・ダメコン担当の娘はそう言って微笑む、火器管制担当とセンサー担当の2人も同様に。
「何ですかそれは?」
北方海の守護天使、更識 簪はそう言って額に指を当ててぼやくのだった。
セキュリテイーブルーが結成され数ヶ月が過ぎていた、そして現在N諸島に進出したそうりゅうを中心とした艦隊は北方海最奥に潜むシーサーペントの監視及び調査の傍ら、付近の哨戒任務に付いている。
「艦長、ミカサとサトラガの2隻が到着しました。」
どうやら艦隊に所属する2隻の武装船が到着した様だった。
「分かりました、後は任せて私達は港に戻ります、ミカサとサトラガによろしくお願いしますと伝えて下さい。」
「了解です艦長。」
簪の指示にセンサー担当の娘が答える。
「進路を港に設定、潜航します。」
両脇のキーボードに手を置き簪は進路を設定するとそうりゅうを潜航させる。
「ミカサより返信『守護天使殿、ご苦労様でした、後はお任せ下さい。』との事です。」
潜航完了前に通信が入りセンサー担当の娘が伝えてきてくれる。
簪はそれに頷きつつ、「守護天使殿と呼ぶのは止めて欲しいですね・・・」と切に思った。
むろとと2隻の武装船に見送られながらそうりゅうは潜航して海中に消えていった。
「ご苦労様です簪様。」
「お疲れ簪。」
戦闘配置が解除され通常の照明に戻された発令所にそう言って2人の少女が入って来る。
シャルロット・デュノアとクロエ・クロニクルだった、2人共今回の艦隊の編成で、正式なそうりゅうの乗組員になったのだった。
「ええ、2人もお疲れ様です。」
ただ簪にしてみれば心から納得出来た話しでは無かったのだ。
「今更ですがお2人共無理に乗艦する必要は無いのですよ。」
簪自身としては自分や他の乗員の娘達と違いシャルとクロエは最前線に出る必要は無いと思っている。
危険な状況にこの2人を巻き込むのは簪は絶対避けたかったのだが。
「簪、僕は言ったよね、これは自分で決めた事だって、君が気に病む必要は無いよ。」
シャル曰く、研究室に篭るより直接対象に接する事の方が大切だから当然だと主張。
「シャルロット様の言う通りです簪様、これは私自身が決めた事、束様の許可も得ております。」
クロエも、自分はそうりゅうの担当技師として常に同乗しなければならないと主張したのだ。
もちろん簪は説得しようとしたのだが、2人の意思は固く、結局押し切られる形で納得させられたのだ。
まあ、姉の更識 楯無と篠ノ之 束まで同乗したいと言い出しのには流石に簪も閉口させられたが。
大体楯無と束の2人は特に乗せる訳にはいかなかった。
商会会長でありセキュリテイーブルー幹部でもある楯無。
ドック責任者であり、セキュリテイーブルーの技術顧問を務める束。
こちらの方は織斑ギルド長の雷が2人に落ち、何とか収まったが。
「・・・そうですか。」
やはり説得は無理そうだと悟り簪は溜息を付くしかなかった。
そうしているうちに艦長席に付けられたディスプレイがそうりゅうが港に着いた事を知らしてくる。
「深度を上げます、マルチセンサーポスト用意を。」
「了解です艦長。」
センサー担当の返答を聞き、簪はそうりゅうの深度を上げて行く。
「深度よし、マルチセンサーポストを上げて下さい。」
海上にマルチセンサーポスト(海上監視カメラと電探用アンテナ及び各種環境センサーなどが搭載されたもの)が上げられる。
「マルチセンサーポスト作動確認・・・海上に船影無し。」
センサー担当の娘が複合ディスプレイを見ながら報告しくれる。
簪は共用ディスプレイに映し出された海上の様子を見ると頷きながら指示を出す。
「では浮上します、2人共何処かに掴まって下さい、揺れますから。」
「うん。」
「承知いたしました。」
簪の指示に2人は何故か艦長席に、正確に言うと席に座る彼女に掴まる、もちろん操舵に邪魔にならない様腕以外にだが。
「あの・・・2人共。」
「何かな簪。」
「どうかいたしましたか簪様。」
2人の行動に簪が繭を顰めて言うが両人ともまったく気にせず答えてくる。
簪は何時もの事かと溜息を付くと首を振って答える。
「いえ何でもありません。」
そう言いながら操舵システムを操りそうりゅうを浮上させるのだった。
海面を割り浮上してきたそうりゅうはイリオモテ島の港に入港してゆく。
ここにはN諸島海域に於ける退避港であり、今そうりゅうを始めとした艦艇達の拠点になっている。
「艦長、名無し猫より通信が入ってます。」
通信担当でもあるセンサー担当の娘が振向いて報告してくる。
名無し猫とは艦隊旗艦であり工作艦兼補給艦でもある『吾輩は猫である(名前はまだ無い)』の事だ。
そうISに出てきた束の移動ラボの名だ、この世界では彼女の所有する艦という事になっている。
まあ、あまりにも長い名前(束は気に入っている様だが)の為、名無し猫か単に猫と皆は呼んでいるが。
「相川艦長からですか?」
「はい、相川艦長からです。」
「分かりました、繋いで下さい。」
センサー担当の娘と簪は微笑つつ会話する、艦長という部分を強調しながら。
『お帰りなさい更識艦長、ご苦労様でした。』
「はい、ただいまです、貴女も留守番ご苦労様です相川艦長。」
『ははは、その呼び方には今だ慣れませんよ・・・』
簪の言葉に相川艦長こと相川 清香は疲れた様な声で返すのだった。
艦隊の編成により、元まほろばの乗員達はそうりゅうと名無し猫に分かれる事になった、と言ってもお互いに専任と言う訳では無い。
そうりゅうと名無し猫の2艦に交代で乗艦する体制になったのだ、その為相川副長は簪と共に両艦の指揮を交互に取る事になり艦長に任命されたのだった。
まあその為に簪の様に甲型潜航艇の操艇資格を習得しなければならなくなり、実技は兎も角、座学でとても苦労する羽目になった様だったが。
「まあ早く慣れて下さい、あと2週間後にはそうりゅうの指揮を取る事になるんですから。」
『努力します、更識艦長の名を汚さない為にも。』
その答えに満足した表情を浮かべ簪は頷く。
「期待してます、それでは到着したら艦橋にいきますので。」
『はい、お待ちしています。』
通信を終わり簪はそうりゅうを名無し猫に向ける、既にその艦は見えているが、やはり何度見てもかっての旧日本海軍の明石にそっくりだなと簪は思う。
ただ似ているのは外観だけで、艦隊の旗艦やそうりゅうや武装船の修理や整備に加えて補給まで担う、結構チートな艦になっているのは束が建造したものだからだろう。
あと、シーサーペントに関する研究室もある、シャルはその責任者であり数十人程の研究員もいる。
本来ならシャルはそこに居るべきなのだが、現実は簪が指揮を取る時は傍を離れない、ちなみに清香が指揮を取る時はもちろん名無し猫に居る(笑)。
簪が名無し猫にそうりゅうを接舷させる為に更に近付くと、艦隊に配備されている他の艦艇も見えてくる。
その一隻がハルナ、先程出てきたミカサと同じ択捉型海防艦がモデルの武装船だ。
あとミカサと一緒に出てきたサトラガだがこちらはアメリカ海軍のフリゲイトアッシュビル型がモデルだ。
そしてハルナの隣に停泊しいるのが、戦車隊ギルドから派遣された戦車揚陸艦アークロイヤルだった。
乗せられている戦車隊は高名な西住商会と双璧をなす島田商会の所属であり、戦車隊長が揚陸艦長を兼ねている。
その戦車隊長兼揚陸艦長が島田 愛里寿と言う13歳の少女なのだが。
(後で会いに行かないと愛里寿ちゃん拗ねちょうだろうな。)
アークロイヤルを見ながら内心苦笑する、何故か愛里寿に簪は懐かれて(?)いるからだ。
「メインモーター反転。」
「メインモーター反転。」
簪の指示に機関・ダメコン担当の娘が復唱するとそうりゅうは速度を落とす。
席に付けられたディスプレイでそれを確認した簪はそうりゅうを名無し猫に接舷させる。
軽いショックと共にそうりゅうは名無し猫に接舷した、それを確認し簪は告げる。
「メインモーター停止、艦を待機状態に移行、皆さんお疲れ様でした。」
その簪の声に発令所内にほっとした空気が流れ、乗員の娘達が顔を見合わせて微笑み合う。
簪自身も安堵の表情を浮かべるが、直ぐに困った表情になって両脇のシャルとクロエを見て言う。
「・・・ところでお2人共、もう私に掴まっている必用は無い筈ですが。」
「ごめん忘れていたよ。」
「はい、失念しておりました。」
相変わらずマイペースな2人だった。