北方海の守護天使   作:h.hokura

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No.12ー奇妙な追跡ー

「依然変化無しですか。」

発令所に入って来た簪が共用ディスプレイを見て呟く。

「はい、進路及び速力とも変化無しです艦長。」

当直に付いて居た火器管制担当が振り向いて答える。

溜息を付き簪は艦長席に座る、同じく発令所に入って来た機関・ダメコン担当も自分の席に着く。

「当直を交代します、艦のコントロールをこちらへ。」

「了解、今切り替えました。」

今まで艦のコントロールを担っていた火器管制担当が答える。

「切り替えを確認、そっちはどうですか。」

艦長席のディスプレイで切り替えを確認した簪が機関・ダメコン担当とセンサー担当に聞く。

「こっちもOKです、じゃあ後宜しく。」

機関・ダメコン担当に自分の担当を引き継いだがセンサー担当がそう言って席を立つ。

「二人ともお疲れ様でした。」

席を立った火器管制担当とセンサー担当の2人にそう声を掛ける簪。

「はい艦長。」

「では失礼します。」

2人はそう答えると発令所を出て行く、それを見送り現状を確認する簪。

だが状況は自分が交代した時と変わっておらず簪は再び溜息を付いて共用ディスプレイを見る。

まあそうだろう、何か変化があれば簪は即座に呼び出された筈だから。

「状況に変化無しみたいだね。」

「そのようですね。」

出て行った2人と入れ替わる様に発令所に入って来るシャルとクロエ。

この2人相変わらず簪のシフトに合わせてここに来る、それは最早恒例だったので誰も気にしなかったが。

「ええ変化無しです・・・もう6時間も経つのに。」

そうりゅうは今1匹のシーサーペントを6時間も間追跡し続けていたのだ。

6時間前、通常の哨戒任務中だったそうりゅうが1匹のシーサーペントを発見したのが、この奇妙な追跡劇の始まりだった。

簪は直ちに戦闘配置を指示し攻撃を掛けようとしたのだが、そのシーサーペントはそうりゅうに見向きもしなかった。

船舶であれば何であれ攻撃を仕掛けて来るシーサーペントがだ、お陰で簪は攻撃のタイミングを外されてしまった。

最初簪はこれはシーサーペントが何かを仕掛けて来る為のものだと思って警戒しつつ追跡を命じのだが、1時間経ち2時間経つうちにその考えに自信が持てなくなっていった。

何しろシーサーペントは航路や漁場を何度も横切っているのに見向きもしないのだ、航行中の船舶や漁をしている漁船が居たのに。

「一応持ち込んだ文献を調べてみたんだけどね、該当する様な物は見付けられなかったよ。」

簪の隣に有る補助席に座ったシャルが溜息を付きながら話始める。

シャルは休息時間に自分がそうりゅうに持ち込んだ資料を調べてみたのだが、結局何の手掛かりも得られなかった。

「そう・・・ですか。」

それを聞いて簪も溜息を付く、様は前代未聞な状況と言う訳だ。

追跡が始まって3時間後に簪は派遣艦隊を通じて織斑ギルド長に連絡を取ったのだが、流石の彼女もシーサーペントについて北方海で最も詳しいシャルですら判断出来ない事項を分かる筈も無く、『更識艦長の判断に任せる。』と指示を出すのが精一杯だったのだ。

「皆様大分お疲れが溜まっているみたいでこのままでは・・・」

簪の傍らに立ったクロエが心配そうに話す、何しろ6時間経っても何の進展も無いのだ、乗員達の疲れも溜まる一方だった。

その事は簪も考えていた、このままの状態では不味いと、最早決断を先延ばしに出来そうも無いと。

「補助発電機の燃料はあとどの位持ちそうですか?」

現在そうりゅうは燃料電池ではなく、シュノーケルによって補助発電機を使いながら追跡していた。

もしもの時に備えて燃料電池を温存する為にだ。

「・・・あと2時間ですね艦長。」

機関・ダメコン担当の乗員がディスプレイを見ながら答える。

つまり後2時間は追跡出来る訳だが、幾ら燃料電池に問題が無いとは言え、全て使い切るのは危険だと簪は考えて決断を下す。

「分かりました、1時間経っても現状に変化が無い場合には追跡を断念し帰還しましょう。」

「はい、その方が良いと私も判断します簪様。」

そうりゅうの技術担当であるクロエも同様に考えていたのか簪の判断に同意を示す。

「僕としてはこのシーサーペントの謎を是非解明したところだけど・・・仕方が無いだろうね。」

シャルもクロエ同様に簪の判断に同意する。

「乗員の皆にもそう伝えて下さい。」

「了解です艦長。」

簪の判断を機関・ダメコン担当が艦内放送で乗員達に伝え始める。

 

それは共用ディスプレイに表示される時刻を見た簪が帰還の指示を出そうとした瞬間に起こった。

「!?艦長、シーサーペントが進路を変更します。」

一時的にセンサー担当を兼任している機関・ダメコン担当が振り向いて報告して来る。

「どちらへですか?」

緊張の走る発令所内で簪は冷静に問い掛ける。

「やや北に進路を変更、速力には変化無しです。」

簪は共用ディスプレイに表示されている海図を見る。

「ここに来てですか・・・一体何が有ったと言うのでしょうか?」

傍らで簪同様共用ディスプレイを見ているクロエが呟く。

「奴にとっての目的地に近づいたって事だろうね、簪進路の先に何かあるのかな?」

補助席に座り同じく共用ディスプレイを見ながらシャルが質問して来る。

「・・・この辺に人の住む島や航路、漁場は無かったと思うのですが。」

簪は自分の席に据え付けられたディスプレイに付近の海図を表示させ確認する。

「このまま進むと・・・これって・・・まさか?」

驚きと戸惑いの混じった声を上げる簪に、シャルとクロエは顔を見合わせる。

それに気付いた簪は共用ディスプレイに表示されている海図を縮小させて、シーサーペントが向かう先を2人に見せる。

「π島です・・・半年前シーサーペントに襲われ・・・島民全員が消えた・・・」

シャルとクロエは簪の言葉にはっとした表情を浮かべて共用ディスプレイを見つめる。

「何故今更あの島に?」

簪の問いに答えられる者は居なかった。

 

半年前、今回の様に哨戒任務中だったそうりゅうはπ島からの救援要請を受信し直ちに向かった。

だが島に到着したそうりゅうが見たのは今まで何度も見た破壊された港と誰も居ない街と言う光景だった。

簪達は付近の捜索に入り遭遇した1匹のシーサーペントを撃破したが、結局島民達の消息の手掛かりを得る事も出来ず帰還するしかなかった。

「あの時の・・・それにしても何でまた。」

当時の事を思い出しシャルは首を捻りつつ呟く。

「簪様・・・」

クロエは押し黙ってしまった簪を心配そうに見る、助ける事が出来なかったと自分を責める彼女の姿を思い出して。

簪が最善を尽くしたのはシャルとクロエ、乗員達も知っており誰も責める事は無かったのだが、本人としてはやはり救えなかったと言う思いは消せなかったのだ。

「・・・全艦戦闘体制に。」

「はい艦長、全艦戦闘体制繰り返す全艦戦闘体制。」

俯いていた顔を上げ簪が指示すると機関・ダメコン担当の娘はクロエ同様心配そうな表情を浮かべつつ復唱し艦内放送を行う。

「大丈夫ですよクロエさん、シャルもそんな顔をしないで下さい。」

心配そうに見るクロエとシャルに簪は微笑んで見せる。

そんな簪を見てクロエとシャルは大丈夫だと確信して顔を見合わせて頷きあう。

簪は確かに優しい性格だが、だからと言ってそれに引きずられる事はけっして無いと2人は信頼しているからだ。

「申し訳ありませんがもう少し追跡を続行します、名無し猫にも連絡を。」

「了解です艦長。」

 

進路を変えたシーサーペントとそうりゅうは1時間後π島に到着した。

「距離を保って下さい、艦首発射管の用意はどうですか?」

そうりゅうはシーサーペントと距離を保ちつつ停船する。

「1番及び2番魚雷に目標データ入力済み、何時でも発射出来ます。」

火器管制担当がディスプレイを見ながら報告する。

「分かりました、そのまま待機を・・・それにしてもシャル・・・」

隣の補助席に座るシャルを見る簪。

「・・・僕にもさっぱりだよ。」

シャルは両手を上げ、お手上げだよと言うポーズを取る。

「一体シーサーペントは何をしたいのでしょうか?」

簪の傍らに立つクロエも困惑を隠せないのかそう呟く。

π島に到着したシーサーペントは廃墟と化した街の前でさっきから佇んでいるだけだったからだ。

「艦長!後方より急速に接近中の物体有り・・・反応からシーサーペントと思われます。」

その時だった、当惑して居る簪達にセンサー担当が振り向いて報告して来る。

「!?補助発電機を停止し燃料電池へ切り替えて下さい、シュノーケル閉鎖急いで。」

突然の報告を聞いた簪は慌てる事無く冷静に指示をする。

「補助発電機停止、燃料電池へ切り替え完了・・・シュノーケル閉鎖します。」

機関・ダメコン担当は簪の指示を復唱し操作を行う。

「メインモーター全開へ、皆注意願います。」

ディスプレイで切り替えと閉鎖を確認した簪はそう言うとそうりゅうを急発進させる。

「きゃあ!」

「クロエさん私に掴まって下さい。」

急発進でバランスを崩し倒れそうになったクロエに簪は言う。

「はい簪様。」

クロエが肩に掴まるのを確認しつつ簪はそうりゅうの進路を変え島の前から離れさせる。

「接近中のシーサーペントの進路は?こっちへ向かって来ますか?」

進路を確認しながら簪がセンサー担当問い掛ける。

「・・・いえそうりゅうではありません、もう一匹のシーサーペントに向かって行きます。」

センサー担当問の声に簪は共用ディスプレイに表示されている海図を見る。

そうりゅうの後方から接近して来たシーサーペントはこちらに見向きもせず、もう一匹の方へ向かって行くのを簪は確認する。

「僕達が目標じゃない・・・明らかにあのシーサーペントが目当てみたいだ。」

同じ様に共用ディスプレイを見ていたシャルが補助席のアームに掴まりながら言う。

「一体何が起きているんでしょうか?」

クロエは簪の肩に掴まりながらシャル同様共用ディスプレイを見ながら言う。

「私にも分かりませんね・・・何が始まると言うのでしょうか?」

そうりゅうを島から離れた位置にまで移動させた簪は共用ディスプレイを見つめる。

後方から接近して来たシーサーペントは佇んで居るもう1匹に迫ると襲い掛かって行く。

「同士討ち?」

シーサーペントが餌が無い時に共食いしたりする事は知っていたが、今回はとてもそうは思えなかった簪達だった。

事態を理解出来ないまま簪達は激しく格闘するシーサーペント達を見つめるしかなかった。

そして戦いは唐突に終わる、首に噛みつかれどす黒い体液をまき散らしシーサーペントの1匹が沈んで行く。

「どっちが勝ったんでしょうか?」

共用ディスプレイを見つめながらクロエが呟く。

「・・・直ぐに分かるさ。」

シャルが言った通りそれは直ぐに分かった、仲間のシーサーペントを倒した方は今度はそうりゅうの方へ向かって来たからだ。

「艦長!シーサーペントが急速に接近して来ます。」

センサー担当の報告に簪は即座に指示を出す。

「1番及び2番の魚雷発射用意を、完了しだい発射して下さい!」

「1番及び2番魚雷への目標データ再入力・・・良し、発射します。」

簪の指示に火器管制担当が復唱し魚雷を発射させる。

そうりゅうから放たれた魚雷はこちらに突進して来たシーサーペントに真正面から命中し、激しい水柱を上げる。

そして海面をのたうち回るシーサーペントはやがて力尽き自分もまた海底へ沈んで行くのだった。

 

シーサーペントを撃破後そうりゅうを浮上させた簪はクロエとシャルと共に指令塔上に出て来ると、体液でどす黒く染まった海面を見つめる。

「結局あのシーサーペントの行動の理由は不明のままですね。」

簪はそう言って深い溜息を付く、何も分からないまま全てが終わってしまったと思って。

「そうだね何故アイツはあんな行動を取ったのかだけでなく、何故仲間のシーサーペントに倒されなければならなかったのかも含めてね。」

簪と共に海面を見つめながらシャルは肩を竦めて答える。

「私にはあのシーサーペントが何かの意志で動かされていた様な気がします、それが何か分かりませんが。」

クロエがそう呟くと簪とシャルは顔を見合わせる。

「何かの意志ですか・・・あのシーサーペントをπ島に向かわせたもの。」

それは一体何だと言うのだろうと考えていた簪はふとこちらの世界に来る前に見たドラマを思い出す。

亡くなった者の魂が宿った怪獣の物語を。

「亡くなったπ島の住民達がシーサーペントに宿って帰って来た?」

唐突にそんな事を呟いてしまった簪はクロエとシャルの視線に気付き慌ててしまう。

「あ、いえすいませんね変な事を言ってしまって。」

我ながら変な事を考えてしまったと簪は思ったのだが、クロエとシャルの反応は違った。

「なるほどね・・・そう考えると。」

「何となく納得できますね。」

簪の言葉を聞いてクロエとシャルはそう言ってきたのだった。

「言って置きますがこれは私の想像ですよ、そんなに真剣に受け止められても困るんですが。」

前の世界で見たドラマから思い立った話を真剣に受け止められた簪は困惑してしまった。

「世界には科学では説明出来ない事は多いからね、無いとは言えないと僕は思うけどね。」

シャルは苦笑しつつ言って海面を見つめる。

「私もそう思います、故郷に帰りたいと思う亡くなった島の人達が戻って来たと・・・」

クロエはシャル同様そう言って簪を見る。

「・・・まあそう言われると私としても。」

そうじゃないかと簪は思ってしまう、そう解釈すれば今回の事は説明出来ないのではないかと。

「もっとも正式な報告書には書けませんけどね、これは私達だけの話としましょう。」

簪の言葉にクロエとシャルは同意したと頷くのだった。

 

こうしてそうりゅうは奇妙な追跡劇は終え、進路を退避港に向けると島を離れて行くのだった。

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