卵が割れると中から出て来たのは小さなシーサーペントの幼体、とは言え大きさなら人の数倍はあったが。
その幼体の前に成獣のシーサーペントが食料である大型の海洋生物を置くとたちまち食らい付いて行く。
それがあちこちで繰り広げられている、そうここはシーサーペント達の繁殖地。
繰り広げられる光景を見ていた簪は溜息を付くと目から双眼鏡で外して呟く。
「地獄の釜の傍らに居るんですね私達は・・・」
「簪・・・」
簪と共に繁殖地を見ていた愛里寿がその言葉に複雑な表情を浮かべる。
「シャル達の所へ戻りましょう・・・私達が餌にされない中に。」
頷く愛里寿と共にその場から離れながら簪はここに至る経緯を思い出していた。
現時点より6時間前。
封鎖海域北端を簪はクロエとシャル、そして愛里寿達と共にタイプ11型の魚雷艇で移動中だった。
目的は近くにある岩礁の調査の為だ、ちなみにそうりゅうでは無いのは現在清香が艦長として、別の海域でのシーサーペント撃破を遂行中な為だ。
「あと1時間程で目的の岩礁ですね・・・シャル、そちらはどうですか?」
操艇者席に座りディスプレイで航路情報を確認した簪がセンサー担当席にいるシャルに問いかける。
「今のところ反応は無いよ簪。」
複合ディスプレイを見ながらシャルが答える、今回彼女がセンサーを担当しているは本人の強い希望だからだ。
研究者であるシャルだがセンサー系の操作も出来たのだ。
もっとも簪は出来ればシャルを連れて来るつもりはなかったのだが、説得を頑として受け付けなかったのだ、理由は説明の必要は無いだろう。
「機関は問題ありません簪様。」
それは機関担当席に居るクロエだって同様なのだが、「私は慣れてますから。」の一言で同行を決めてしまったのだ。
「火器管制も問題無し。」
火器管制担当席に居る愛里寿もまた同様だった、「簪を守るのが私の使命。」の一言で。
本来なら専任の人間に簪は来てもらう積もりでいたのだが、何時の間にかこの3人が乗り込んで来てしまったのだ。
もちろん説得を試みた簪だったが、まったくの無駄だったのは言うまでも無い。
最早諦めの境地の簪だった。
「レーダーに反応・・・シーサーペントだよ。」
突然シャルが複合ディスプレイから顔を上げて叫ぶ。
「真直ぐにこっちに向かって来る!」
「機関全開、戦闘準備。」
簪はシャルの報告を聞くと、皆に指示を飛ばす。
「機関全開にいたします。」
「魚雷及び主砲発射準備。」
愛里寿とクロエが指示を復唱し動き始める。
「シャル、目標との距離と速度は?」
加速された魚雷艇を操りながら簪はシャルに問い掛ける。
「距離は30、速力は12だよ簪。」
シャルの返答と共に航路情報を映すディスプレイに情報が表示され、簪はシーサーペントが急速に接近して来る事を確認する。
「魚雷に目標データ入力完了、発射準備良し。」
自分のディスプレイを見ながら愛里寿が報告して来る。
「発射!」
簪が指示すると愛里寿が発射スイッチを押して、魚雷艇の両舷に装備された発射管から魚雷を放つ。
魚雷の発射を確認した簪は魚雷艇を旋回させて離脱しようとしたが。
「!?シーサーペントが真直ぐにこっちに来る。」
シーサーペントは魚雷を避けずそのまま魚雷艇に向かって来たのだ。
次の瞬間激しい衝撃と轟音が魚雷の命中を告げたが、シーサーペントは衝撃で身体がバラバラになりながらも魚雷艇に・・・
「間に合いません!皆衝撃備えて・・・」
自分の叫びと同時に衝撃が起こり魚雷艇が海上を横転しながら吹き飛ばされて行くのを感じながら簪は意識を失った。
背中が熱い、まるで熱した鉄板の上に居る様だ、こんなに暑いのは理不尽だと簪は思った。
「え!?」
そこで唐突意識が戻り簪は起き上がると周りを見渡す。
「簪、良かった意識が戻って・・・」
何処かの海岸に居る事を認識したとたんそう言われて簪は抱きしめられる。
「愛里寿ちゃん?」
愛里寿に抱きしめられた事に気付いた簪は一瞬恥ずかしさに襲われれるが、直ぐにこうなった原因を思い出す。
「愛里寿ちゃん、クロエさんとシャルは?」
抱き着ていた愛里寿をそっと引き離し簪は問い掛ける。
「2人とも無事、今周りの様子を確認しに行っている・・・いくら経っても目を覚まさないから心配した簪。」
目を潤ませながら愛里寿は答える。
「そうですか・・・心配掛けましたね愛里寿ちゃん、私は大丈夫ですよ。」
立ち上がりながら簪は心配そうに見る愛里寿に微笑みながら言う。
「簪大丈夫?」
「簪様大丈夫ですか?」
次の瞬間今度はいつの間にか戻って来ていたクロエとシャルに抱き着かれる簪。
「・・・(むう)」
そして対抗してか再び抱き着て来る愛里寿。
「お願ですから皆さん落ち着いて・・・」
3人とも例のISスーツモドキの艦内服で簪に抱き着いているので、まるで裸で抱き合っている様に感じて簪は非常に恥ずかしかった。
そんな状態で少女4人が暫し波の寄せる海岸で抱き合う事になったのだった。
「つまり私がなかなか目を覚まさなかった、と言う事ですね。」
3人に落ち着いてもらい(かなり時間が掛かったが)簪は状況を聞くことが出来た。
この海岸には4人とも一緒に辿り着いたらしいのだが、簪だけが何時までも経っても意識を取り戻さなかった。
取り敢えず愛里寿が簪を見守っている事になり、クロエとシャルは辿り着いたこの島の様子を調べる事になったらしい。
なおそう決めるに関し3人の間でかなり白熱した議論があった事を、簪はもちろん知らなかった。
「それでこの島の事は分かりましたか?」
北方海にある島については大概知っている筈の簪もここには見覚えが無かった。
「人は住んで居なかった・・・いや住める状況じゃないと言った方がいいね。」
シャルが深い溜息を付きながらクロエを見る。
「はい・・・これは見て頂いた方が分かると思います簪様。」
意味深な言い方のクロエとシャルに簪と愛里寿は顔を見合わせる。
・・・そして冒頭の場面に繋がる事になる。
入り江にあった繁殖地から簪と愛里寿はクロエとシャルが待っている林の中に戻って来る。
そこには4人と一緒に流れ着いたサバイバルボックスを使って一応休める場所が作られていた。
意外な事にクロエとシャルは技師と研究者ながらこう言ったサバイバルのスキルと経験を持っていた。
これが簪と愛里寿なら艦船乗員として基本的なスキルだから当然だと言えるのだが。
「問題はこれからどうすべきかですね。」
ボックスに入っていたレーションで腹ごしらえを終え4人は今後の事を相談し始める。
「まあ本当なら誰かに救助に来てもらうですが・・・」
クロエの問い掛けに簪が困った表情を浮かべて答える。
「あの繁殖地が有る限りそれは危険。」
「そうなるだろうね、下手をすれば僕達だけでなく救助に来た連中もね。」
愛里寿とシャルがそう続けて2人揃って深い溜息を付いて見せる。
この島に船舶が接近すれば繁殖地に居るシーサーペント達がそれを見逃す筈は無いからだ。
「・・・だとすれば何とか自力で此処を脱出するしかありませんね。」
危険な点は同じだが犠牲を最小限に出来る可能性があると簪。
「もっとも手段が有ればの話ですが。」
するとクロエとシャルは顔を見合わせると、考え込んでいる簪と愛里寿に躊躇いがちに声を掛ける。
「それなんだけどね・・・手段は無い事も無いだけど。」
「かなり危険な賭けになりますが。」
そんな2人の言葉に今度は簪と愛里寿が顔を見合わせる。
4人は林を奥に進み小さな入り江にでる、そこで簪と愛里寿は船を見付け驚きの表情を浮かべる。
「先程島を捜索した時に見つけたのですが。」
それは小型のクルーザーの様だった、但し一般の船では無い、各部に改造を施された特殊な船。
「何処かのハンターの船だったみたいだね・・・放棄されて大分経っている様だけど。」
取り敢えず簪と愛里寿はクロエとシャルに先導されクルーザーに乗り込む。
「船体の状況は?」
簪がクロエに尋ねる。
「船体の損傷は酷くないのですが、機関の方は修理が必要な状態です簪様。」
発見した時に簡単に調べた結果をクロエは教えてくれる。
「それ以外に・・・こっちは愛里寿に見てもらった方がいいかもしれない。」
シャルがクロエに続いてそう言うと船室の一つに簪と愛里寿を案内する。
薄暗い部屋の中に乱雑に置かれた木箱の数々。
一つの箱の蓋を外しシャルは身振りで簪と愛里寿に中身を見る様に促して来る。
「これは・・・」
「武器ですね。」
木箱の中に入っていたのは何丁ものサブマシンガンだったのだ。
それ以外にも携帯式の小型噴進弾発射筒や弾薬類が入った木箱の数々。
どうやらこの船の所有者であったハンターチームの持っていた武器類の様だった。
「確かにこれは愛里寿ちゃんにお任せした方が良いですね。」
簪はそう言って部屋を見渡しながら溜息を付く。
「それで機関を修理するとしてどの位掛かりそうですかクロエさん?」
発見した武器類の確認を愛里寿に頼んだ後、簪はクロエに質問する。
「2時間程掛かります、但し完全な修理は無理だと思います簪様。」
どの程度動けるのかは修理してみなければ分からないとクロエ。
「・・・仕方ありませんね、クロエさんお願いします。」
頷くと早速機関室に修理向かうクロエ、それを見送った簪は今度は愛里寿に質問する。
「武器の方はどうでしたか?」
「問題は無い、全て使用可能。」
武器の点検を終えた愛里寿が部屋を見渡し答える。
「分かりました・・・いくつか持ち出しましょう、選択は任せても?」
4人の中で武器類の扱いが出来るスキルを持っているのは愛里寿だけだった。
だから持ち出す武器については愛里寿に任せる簪だった。
「うん任せて。」
愛里寿の返事に微笑むと簪は今度はシャルに話し掛ける。
「それではブリッジにいきましょうシャル。」
「そうだね、こっちだよ。」
シャルと簪は2人でブリッジに向かった。