北方海の守護天使   作:h.hokura

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No.14-繁殖地より脱出せよ2ー

ブリッジに到着したシャルと簪は機器を点検する。

「通信機は駄目だね、うんともすんとも言わないね、簪そっちは?」

溜息を付いてシャルが言う。

「・・・レーダーは駄目ですね、航法システムは・・・こっちもですね。」

機器から顔を上げて簪も溜息を付く、予想はしていたが思ったより船のダメージは酷い様だった。

「エンジンがやられ、他の機器も駄目になったので放棄したんでしょうね。」

このクルーザーを放棄した理由を簪は推測して言うとシャルは頷く。

そして2人はクルーザーを放棄した乗員達がどうなったかについては語ろうとはしなかった。

「簪、武器を甲板に出して置いた。」

ブリッジに武器の持ち出しを終えた愛里寿が入って来る。

「ご苦労様、エンジンの修理が終わる前にサバイバルボックスを運び込んでおきましょう。」

3人はクルーザーから降りると、林の中に置いて置いたボックスを運び込む。

そうこうしている中にクロエがエンジンルームから戻って来る。

「簪様、エンジンの修理が終わりました、ただ完全にとは言えず、申し訳ありません。」

どうやらエンジンの方もクロエのスキルをもってしても完全な修理は出来なかった。

「仕方がありませんよ、動ける様になっただけでもクロエさんに感謝しなければ。」

気落ちするクロエにそう声を掛ける、ろくな設備の無い所で取り敢えず使える様になっただけでも幸いだと簪は思うからだ。

「それで簪直ぐに出発を?」

シャルの問いに簪は暫く考え込んだ後、皆を見渡して言う。

「時間を掛けても良い結果になるか判りません・・・ですので出来るだけ早く脱出すべきだと思います。」

夜になれば多少はシーサーペントの活動は収まるかもしれないが、もし襲われた場合に闇夜では分が悪いと簪は考えた。

結局シャル達も反対する事も無く早期の脱出が決まったのだった。

とは言え出来るだけシーサーペントに気付かれない様、連中が餌を幼生体に与えている時間に脱出する事になった。

「では行きましょうか・・・」

クルーザーは入り江から静かに出て来ると進路を外洋に取る。

操縦するのはもちろん簪、そしてクロエはエンジンを見守り、シャルと愛里寿は見張りに付く。

出来るだけ速力を上げず、と言っても元々それほど出なかったが、島を離れて行く。

「今の所問題無いようですが・・・」

クルーザーを操縦しながら簪は呟く、もっともこれで済むとは彼女もシャル達も考えていなかったが。

そしてその予測は簪達にとって最悪の形で起こる。

「後方からシーサーペントが接近して来る!」

後方を監視していた愛里寿が叫ぶ。

「速力を・・・クロエさん?」

簪がクルーザーの速力を上げながらクロエに尋ねる。

「10ノットくらいが限界です簪様。」

それでは振り切れそうも無いと簪は判断する。

「クロエさん一旦操縦を変わって下さい。」

クルーザーの操縦をクロエに変わってもらうと簪は甲板に出て後方を見る。

そこで簪は小型の、それでもこんなクルーザーには脅威だが、シーサーペントが迫って来るの見る。

「簪・・・」

後方の監視をしていた愛里寿が不安げな表情で話し掛けて来る。

「・・・」

何時もならここで愛里寿を安心させる言葉を返す簪だが、今回に限りそれは出来なかった。

引き離す事も出来ず、対抗する為の武器も無い状態では流石の簪も打つ手は考えつかなかったからだ。

だが簪はこんな理不尽は到底受け入れられなかった、ここで諦めると言う選択を選ぶ積もりも無い。

ふと甲板上に愛里寿が持ち出して来た小型噴進弾発射筒を見付けると簪はそれを持ちシーサーペントに向ける。

「簪!?」

愛里寿が驚いた声を上げる、今まで簪がそんな事をした事を見た事が無かったからだ。

言って置くが簪に噴進弾発射筒を扱った経験など無い、そう言った類のスキルを持っていないからだ。

それを知っている愛里寿が驚いた声を上げるのも仕方が無い話だ。

驚く愛里寿を横目に簪は噴進弾発射筒の照準を合わせる、安全装置は掛かっていない、何時でも発射出来る様外してあったからだ。

簪は決して自棄になっている訳では無かった、最後まで諦めたくないと言う意志を貫き通うそうとしていたのだ。

呼吸を一旦止めトリガーを引くと小型噴進弾が発射される・・・がここでスキルを持っていなかった事が簪に裏目に出る。

発射の際の衝撃と音の所為で簪は足を踏み外し、船室の壁に頭をぶつける羽目に陥ったのだ。

「・・・!?」

付いていない事にショックで手放してしまった発射筒が止めを刺す様に簪の頭に衝突した。

お陰で簪は火花が散ると言う言葉を実際に見る事になり意識を一旦手放してしまう。

「・か・・かんざ・・・簪。」

涙声で誰かが話し掛けて来る、簪はそれで何とか意識を取り戻す。

「あ、愛里寿ちゃん・・・あっシーサーペントは!?」

慌てて立ち上がろうとしてまだ残っていたショックで、思わず自分に声を掛けていた愛里寿に抱き着いてしまう簪。

「簪、無理しないで。」

体格的には簪の方が大きかったので、危うく押し倒しそうになるも、鍛え方が違うのか愛里寿は踏みとどまる。

余談だが押し倒しされても良かったと愛里寿は後に思ったそうだが(笑)。

「シーサーペントは・・・」

愛里寿が指さす方を見た簪は去って行くシーサーペントを見る。

「鼻先で爆発したら急に方向を変えて。」

そのくらいでシーサーペントが獲物を諦めるなどありえない事を知っている簪と愛里寿は顔を見合わせる。

「簪大丈夫って・・・ああ!?」

前方から駆けつけて来たシャルは次の瞬間クルーザーの横に浮き上がって来た物を見て声を上げる。

もう1匹現れたのかと簪と愛里寿もそちらを見るが、幸いな事にそうでは無かった。

クルーザーの脇にあらわれたのそうりゅうだったのだ、それを認識した途端簪は再び意識を手放すのだった。

 

「捜索していたらシーサーペントを発見して急行したんですが、まさか更識艦長達を発見するとは思いませんでした。」

医療室で意識を取り戻した後発令所に来た簪に、艦長席に座った清香はそう言って微笑む。

「助かりました相川艦長、それで繁殖地の方は?」

「もう間もなく到着します、指揮を交代しますか?」

艦長席のディスプレイを確認した清香が報告し、簪が指揮を執るか確認して来る。

「いえ、そのまま指揮を相川艦長が執って下さい・・・正直言って今立って居るだけで精一杯なので。」

体力的にも精神的にも流石に簪も限界だったので、そのまま清香に指揮を取る様に言う。

「了解です・・・でも緊張させられますね。」

緊張した面持ちで清香はそのまま指揮を執る。

「接近中のシーサーペントを確認、2匹です。」

「1番及び2番魚雷発射用意。」

報告と共に共用ディスプレイに接近して来るシーサーペントが表示されるの見て清香が指示を出す。

「目標データ入力終了。」

「発射!」

そうりゅうから魚雷が発射され接近して来たシーサーペントを粉砕する。

「浮上、噴進弾の発射用意を。」

撃破を確認した清香はそうりゅうを浮上させ大型噴進弾での繁殖地攻撃に移る。

海面を割ってそうりゅうが浮上すると格納庫の扉が開けられ噴進弾が引き出され発射用レールに設置される。

「目標方位090、軸線良し。」

噴進弾の照準を繁殖地に合わせる清香、何匹かのシーサーペントがそれに気付き阻止しようと接近して来る。

「噴進弾発射!」

清香の指示で発射用レールから噴進弾が打ち出されると炎と煙を噴出して繁殖地に向かって飛んで行く。

「・・・3・2・1・今!」

火器管制担当が告げた瞬間共用ディスプレイ上に激しい閃光が現れ、そうりゅうに振動が伝わって来る。

無人の島に有った繁殖地はこうして消滅したのだった。

 

浮上航行中の司令塔上に簪が出て来たのは全てが終わってから数時間後の事だった。

繁殖地攻撃後に簪は再び医療室のベットに戻り、今ようやくまともに動ける様になったのだ。

「こちらに居らしたんですね更識艦長。」

風に当たっていた簪に同じ様に司令塔上に出て来た清香が声を掛けて来る。

「ええまったく今回は酷い目に会いました・・・愛里寿ちゃん達はどうですか?」

清香に振り向き苦笑しつつ答えた簪は、愛里寿達の事を尋ねる。

「3人とも部屋で今も休んでいますね、本当にご苦労様でした。」

簪だけでなく愛里寿達もまたダメージが酷かったらしく寝込んでいるのだった。

「頼まれても2度と御免ですがねこんな事は・・・」

肩を竦めて言う簪、兎も角長い一日はこうして終わったのだと実感しながら。

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