『海中より現れた鋼鉄の船、それに乗る守護天使と共に王国の危機を救う。』
・・・ラバニラ王国に伝わる伝承より。
絶叫を上げて船団に迫ってくる巨大な海獣。
「皆さん怯まないで下さい、弓隊は攻撃の用意を。」
鎧を見付けた一人の女性が船の上で叫ぶ。
船に乗って居る兵士達が弓を一斉に構える。
海獣は更に迫り先程の女性を含め皆緊張に震えている。
「今です、撃て!」
女性が命じると兵士達が一斉に弓から矢を放つ。
「「「「ああ!?」」」」
だが放たれた矢を浴びても海獣は進撃を止める事も無く船団に迫ってくる。
「駄目です王女様、早くお下がりを!」
傍らにいた兵士が女性いや王女に進言するのだが。
「下がる・・・何処にですか?私達の後には自らを守る術の無い民達がいます、我々に下がる場所などありません。」
悲壮な決意を浮かべ王女様は迫って来る海獣を見る。
「何としても退ける・・・我々にはそれしか無いのです。」
「・・・っつ。」
意識の戻った簪は非常灯以外消えた発令所を見渡す。
「皆さん大丈夫ですか?」
「・・・何とかね、一体何が?」
「私も何とか・・・簪様。」
「だ、大丈夫です艦長。」
「痛たた・・・えっと大丈夫です。」
「頭をぶつけましたが大丈夫です艦長。」
そう声を掛けるとシャルとクロエに火器管制や機関・ダメコン、センサー担当の娘達が答えて来る。
「照明の回復は?」
「ちょっとお待ちください。」
簪が問い掛けると暫くして照明が回復する。
「そうりゅうのダメージの確認を急いで下さい。」
指示を受けダメコン担当が魚雷・艦載火器管制室と機関管制室と連絡を取ってダメージの確認を始める。
「艦長、そうりゅう各部に問題無し、乗員にも大きな怪我人は居ません。」
確認を終えたダメコン担当が報告して来る。
「了解です、深度を上げます、マルチセンサーポストの用意を。」
そうりゅうを操艦し深度を上げる簪、やがてマルチセンサーポストが海上に出る。
「レーダーに何か反応ありますか?」
「暫くお待ちください。」
センサー担当は簪の指示を受け複合ディスプレイを確認している。
「それにしても一体何が起こったのかな?」
艦長席隣の補助席に座って居るシャルが聞いて来る。
「私にもはっきりとは分かりませんが・・・」
そうりゅうは海面の異常な変色を調査する為、艦隊司令部の要請で問題の海域へ来たのだったが。
潜水しその海域に接近したそうりゅうは突然激しい振動に襲われ、簪達は意識を失ってしまったのだ。
「艦長!レーダーに反応があります、距離3千・・・複数の船舶とシーサーペントらしきものが。」
発令所内に緊張が走る。
「正確な位置をこちらへ、総員戦闘配置。」
「位置情報を転送します。」
「総員戦闘配置、繰り返す総員戦闘配置。」
そうりゅう艦内にアラーム音が響き、発令所内の照明が必要最低限にまで落とされる。
「これよりそうりゅうは目標海域へ向かいます。」
度重なる弓の攻撃にも海獣には効果が無く王女達は追い詰められたいた。
既に1隻の船が沈められ、残りの船も大小の傷を負っており、兵士達には絶望感が広がっている。
指揮を執る王女もまた絶望感に押しつぶされながらも戦う意志を失ってはいなかった。
「総員槍の準備を・・・例え刺し違えてもやつを倒すのです!」
王女自ら槍を構える姿に兵士達も自らを奮い立たせる。
「そうだ王女様が居るんだ負ける訳には・・・」
「皆王女様に続け!騎士団の意地を見せろ!!」
咆哮を上げ迫る海獣、だが次の瞬間・・・
激しい音と水柱が後方に上がり海獣は慌てて進路を変えてしまう。
「一体今のは・・・?」
目標海域に到達したそうりゅうがマルチセンサーポストで捉えた光景に簪達は戸惑いを隠せなかった。
「あれって船?」
シャルが共用ディスプレイに映し出されている船を見て声を上げる。
「あの様な船見た事ありません、異様にマストが大きいですし、それに布が張られいる様に見えるのですが。」
クロエもその船を見て困惑する、様々な船舶を知っている彼女も見た事が無かったからだ。
火器管制や機関・ダメコン、センサー担当の3人も驚いた表情を浮かべ見詰める中、簪は別の意味で戸惑っていた。
「あれって帆船?でも何故そんな船が・・・」
簪が転生前にやっていたゲームには確かに登場していたものの、この世界ではほとんど見かける事の無い船。
それに簪以外まだ気付いていない様だが、船上に居る人々が持つ槍や身に着けている鎧の様なもの。
今自分がとんでもない世界に居る事を簪は確信するのだった、とは言え今はそんな事を考えている場合では無い。
「魚雷1番発射用意、近接信管をセット。」
「魚雷1番近接信管をセット・・・目標データ入力完了・・・発射用意良し。」
火器管制担当が指示を復唱する、シーサーペントと船団の距離が近い為簪は後方で爆発させる積もりだった。
「発射!」
そうりゅうの艦首発射管から放たれた魚雷はシーサーペントの後方に接近し設定通り起爆する。
爆発で進路を変えたシーサーペントは船団から急速に離れて行く。
「追撃するの簪?」
離れて行くシーサーペントを共用ディスプレイで見ながらシャルが問い掛けて来る。
「いえまずは状況の確認をした方がいいでしょう・・・彼らに聞きたい事がありますから。」
シーサーペントから茫然とした人々が乗った船団に映像が切り替わった共用ディスプレイを見ながら簪は言った。
自分達から離れて行く海獣を茫然と見ていた王女は今度は海面を割って現れた物に更に茫然とさせられる。
それはまったく見慣れない形をした船の様だった、しかも海の中から出て来る船など王女は今まで見た事など無かった。
「お、王女様?」
配下の兵や騎士達が動揺して王女を見る。
「皆さん落ち着いて下さい、ここは刺激せず相手の出方を見ましょう。」
まだ敵か味方かは分からなかったが、王女はこの船に不思議と悪意を感じていなかった。
そうやって見守る中、船の中央にある塔の上に人が現れた事に王女達は気付く。
その姿に気付いた兵や騎士達は王女守る為に周りを取り囲むと槍や剣を構える。
「この船団の責任者の方はいっらしゃますか?」
王女は塔の上に現れた者を見て驚く、何しろ自分と年齢のさほど変わらない少女だったからだ。
「私が海獣討伐船団の責任者、ラバニラ王国第1王女セニアです。」
セニア王女の返答に指令塔上の簪は驚いた表情を浮かべつつ自分も名乗る。
「派遣艦隊所属そうりゅう艦長の更識 簪です。」
これがラバニラ王国王女セニアと北方海の守護天使更識 簪の時空を超えた出会いだった。