「私が海獣討伐船団の責任者、ラバニラ王国第1王女セニアです。」
王女と名乗った少女に簪は驚きを隠せなかった。
彼女が王女である事もだが言葉が通じたと言う点が特にだった。
最初は異世界故に言葉が通じないのでは無いかと簪は心配したのだが、どうやら杞憂の様だった。
「これも何らかの強制力なんでしょうか?」
簪は溜息を付きながらそう呟く、自分をゲームに似た世界にISのキャラとして転生させた様に。
「はけんかんたい?そうりゅう?貴女方は海獣とどういう関係なのですか?」
王女は簪の言葉を理解出来ず困惑している様だった、まあそれは簪の方も同じなのだが。
「我々も連中と戦う者ですセニア王女。」
兎に角シーサーペント、こっちの世界では海獣、と戦っているのは確かなので簪はそう答える。
「戦う・・・貴女とこの船は何処の国に所属しているのですか?」
さてこの点についてはどう答えたものかと簪は考える、まさか別の世界から来ましたと言っても理解して貰えるか自信が持てなかった。
とはいえ状況を確認しなければ今後どう動けば判断出来ない。
「それを含めてお話ししたいのですセニア王女。」
セニア王女は暫く簪の顔を見つめた後頷いて答える。
「分かりましたお受けいたします。」
当然騎士達は反対したがセニア王女は簪との話し合いを行う為そうりゅうに小舟で向かう。
既に簪はそうりゅうの甲板にシャルとクロエと共に出て待機している。
「異世界か・・・簪の言葉を疑う訳じゃないけど。」
「はい、ただここが北方海では無い事は確かですが。」
簪が王女と話している間、派遣艦隊との通信や現在位置の確認を乗員達が行ったのだが。
結局通信は出来ず、現在位置の確認もここが北方海で無いと分かっただけだったのだ。
「まあ確かに簡単に信じられるものでは無いと私も思ってますよ。」
シャルとクロエの言葉に簪は苦笑しつつ答える。
それはISキャラの居るゲームに酷似した世界に転生させられた彼女だから理解出来たと言えるかもしれない。
そんな事を3人が話していると、セニア王女と護衛の騎士達が乗った小舟がそうりゅうに近づいて来る。
鎧を身に着け腰に剣を差した自分達と同じくらいの王女を3人は興味深げに見つめる。
もちろんセニア王女も同年齢の簪達を同じ様に興味深げに見ていた。
やがて小舟が到着し王女が騎士達に助けられて甲板上に上がって来る。
騎士達は腰の剣に手を置き何時でも抜ける様にしている、もちろん簪の方も武器を携帯した乗員達が後方に控えていた。
そうりゅう甲板上で双方とも暫し無言でいたがまず王女が話し掛けて来る。
「この場を設けて貰った事を感謝しますかんざし殿。」
「いえこちらこそセニア王女。」
甲板上で簪と王女は向き合うとそう挨拶を交わす。
「・・・それでこの船とかんざし殿はいずれの国の者達なのでしょうか?」
確かにそこが一番聞きたいところだろうなと簪は思い、どう答えるべきか考える。
そんな考え込んでしまった簪を見て王女は何か期待に満ちた表情を浮かべ聞いて来る。
「もしかしてかんざし殿とこの船は天が遣わされたものなのでしょうか、だとすれば我々は救われます。」
王女の言葉に簪はそうでは無いと答えようかとした時だった。
「はい簪様は守護天使様ですから。」
何とクロエがドヤ顔でそう答えてしまったのだった、いやそれだけでは終わらなかった。
「だから心配しなくても簪が皆を助けてくれるよ。」
「シャルまで・・・」
2人の答えに簪は慌ててしまう、何しろここは北方海では無いのだ、いくら何でも・・・
「やはりそうでしたか・・・」
「「「おお!」」」
感激した王女と騎士達は膝を着いて簪を見る。
「はあ、ここでもこうなるんですね。」
クロエと共にドヤ顔しているシャルや頷いている護衛の乗員達を見ながら簪は深いため息を付くのだった。
その後簪は王女から現在の状況を聞かされる。
海洋に接するラバニラ王国にその海獣が現れたの数週間前の事だったと王女。
その出現は唐突であり、多くの船が瞬く間に犠牲になった。
急報を受け王国の船が討伐に出たものの多くが返り討ちになり、ついに王女自身が騎士や兵達を引き連れて出陣して来たのだが。
結果はこちら側の武器がまったく効かず王女は自らの船を体当たりさせて刺し違え積もりだったのだと言う。
「その時守護天使様が現れて下さったのです。」
何時の間にか自分の事を守護天使と呼ぶ王女に、後ろでドヤ顔のクロエとシャル、乗員達を見ながら簪は深い溜息を付く。
「海獣ですか・・・こちらではそう呼ばれているんですね。」
発令所の艦長席に座りながら簪は呟く。
王女は「シ、海獣は我らが守護天使様に任せて大丈夫。」(もちろん言ったのは簪では無い。)に感激して帰っていった。
その後発令所に戻った簪達は状況を確認しているところなのだが。
「まああの王女の話によればね、それにしてもシーサーペント、いえ海獣は唐突に現れたみたいだけど。」
隣の補助席に座ったシャルが言う。
「それが私達が異世界に来てしまった原因なのでしょうか簪様?」
後に控えるクロエが簪に尋ねて来る。
「そう考えるのが妥当でしょうね・・・そして海獣を排除する事が元の世界に戻る条件かもしれません。」
これが自分を引き込んだ世界の仕業ならと簪は推察するのだった。
「つまりその条件をクリアーしない限り僕たちは北方海に帰れない訳だ。」
シャルは深い溜息を付きながら簪の言葉に続ける。
「どちらにせよ放置は出来ません、例えここが異世界であってもシーサーペントの脅威に怯える人達が居るのなら。」
そう言い切る簪にシャル達は顔を見合わせて微笑み合う。
いかにも簪らしいと皆思って・・・まあシャル達にも依存が有る訳では無く、そうりゅうによる海獣への対処が決まったのだった。
王女達と別れた簪達のそうりゅうは最初にシーサーペント、いや海獣が現れたと王女が言っていた海域に向かって行く。
そこは岩礁帯に囲まれた海域でそうりゅうは浮上航行の状態で侵入する。
「レーザー及びソーナーでの監視を厳重にお願いします。」
簪がそう指示を出しながらそうりゅうの進路を細かく調節しつつ海域の捜索を進めて行くのだったが。
暫く経って共用ディスプレイに映し出されている周囲の映像を見ながらクロエが呟く。
「見つかりませんね・・・違う所にでも行ったんでしょうか?」
既にこの海域に入って1時間経過したがシーサーペントを発見出来ないでいたからだ。
「まあシーサーペントと海獣が同じ生態か分からないから何とも言えない・・・」
「艦長!ソーナーに反応あり、方位020よりこちらへ接近して来ます。」
クロエの呟きにシャルが答えようとした瞬間にセンサー担当が振り向いて報告して来る。
皆が共用ディスプレイを見ると海面を割ってシーサーペントが出現する姿が映し出される。
「急速潜航します、クロエさん座って!皆もベルト装着を。」
指示を受けたクロエが補助席に座り他の者達同様ベルトを締めるの確認した簪がそうりゅうを急速潜航させる。
急速潜航したそうりゅうは一旦シーサーペントから離れる進路取る、戦うにはこの海域は狭すぎると簪が判断したからだ。
「シーサーペント追って来ます、距離3千。」
センサー担当が複合ディスプレイを見ながら報告して来る。
「総員戦闘配置、艦首発射管全管魚雷装填。」
艦内にアラーム音が響き、発射管に魚雷が装填されて行く。
「総員戦闘配置に着きました艦長。」
艦載火器管制室と機関管制室からの配置完了の報告を機関・ダメコン担当が行う。
「艦首発射管に魚雷の装填完了。」
ディスプレイ上の表示を見て火器管制担当も報告して来る。
「了解です、進路をシーサーペントへ向けます。」
報告を聞いた簪はそうりゅうを旋回させるとシーサーペントへ向ける。
「1番から2番魚雷発射用意!」
「目標データ入力・・・良し。」
簪の指示で魚雷に目標であるシーサーペントのデータ入力完了を火器管制担当が報告する。
共用ディスプレイにこちらへ迫って来るシーサーペントが映し出されているが、簪を始め発令所の皆は落ち着いている。
まあ彼女達すれば何時もの事だからだが、一番の理由が皆が簪をを信頼しているの大きい。
「魚雷1番から2番発射して下さい。」
「魚雷発射します!」
火器管制担当が簪の指示で発射させる。
それを確認した簪はそうりゅうを急速潜行させ、命中前にシーサーペントの下をすり抜け様とする。
「目標に命中します。」
すり抜けた直後に火器管制担当が叫ぶ。
「総員衝撃に備えて下さい。」
簪の言葉にシャルとクロエ、乗員達がそれぞれ何かに捉まり衝撃に備える。
次の瞬間背後からの衝撃にそうりゅうが激しく揺れる。
「深度を上げます、マルチセンサーポスト作動用意。」
そうりゅうが海面上にマルチセンサーポストを上げられる。
「目標の消滅を確認しました艦長。」
センサー担当の報告と共にどす黒い海面に浮かぶシーサーペントの破片が共用ディスプレイに映し出される。
「これで王女の願いを・・・」
だがシャルが安堵の声を上げ様とした時だった、先程の衝撃とは別の物がそうりゅうを襲う。
「これって?」
簪はこれが異世界へ引き込まれた時に受けた衝撃と同じだと一瞬で気付くと皆に警告し様としたが。
「皆さんまたあの時と同じものが来ます、気を付けて・・・」
下さいと簪が言い終わる暇も無く激しい衝撃に全員が意識を失うのだった。
「王女様、あれを!?」
そうりゅうの後を追って王女の率いる船団は岩礁帯に囲まれた海域に向かっていた。
見張りの騎士からの報告にセニア王女は船室から飛び出して来る。
「何が起こったのですか?」
王女が尋ねると騎士は前方を指さす。
そこには大きな水柱が上がるのを見え、遅れて衝撃音が聞こえて来る。
「天使様!?」
その光景に王女が悲痛な声を上げる。
直ぐにでも王女はそこに向かいたかったが、騎士達に安全を確認して来るまで待つ様に説得されてしまう。
やがて危険が無い事を確認され王女の乗る船が、水柱の起こった海域に到着する。
そこにはどす黒く変色した海と浮かぶ海獣の破片が悪臭と共にあるだけだった。
王女は天使様の乗った鋼鉄の船を探させたが、見つける事は出来なかった。
「まさか沈んだのでは?」
騎士が青ざめた顔で王女に尋ねて来る。
「・・・いえ天使様の船がそんなに簡単に沈むとは思えません。」
王女は遥か彼方の水平線を見つめながら確信を込めて言う。
「天界に変えられたのでしょう・・・深く感謝いたします天使様。」
膝を折り手を組むと王女はそう言って祈る。
「はい王女様。」
周りの騎士や船乗り達も王女の様に祈りを捧げるのだった。
「・・・っう、皆大丈夫ですか?」
また闇に沈んだ発令所に意識を取り戻した簪の声が響く。
暫くして照明が戻って来る、流石に2度目となれば乗員達も慣れた様だった。
「艦内と乗員に異常無しです艦長。」
機関・ダメコン担当の報告に簪は艦長席に深く身体を預けながら安堵の溜息を付く。
「それにしても行くのも帰るのもこれじゃたまったものでは無いね。」
「まったくです・・・そちらの都合で行き来させてこれではやっていられません。」
同じ様に補助席に深く身体を預けながらシャルとクロエが愚痴る。
「まあそうですね、取り敢えず浮上します。」
そんな2人に苦笑しつつ簪はそうりゅうを浮上させる。
海面を割って浮上したそうりゅう司令塔上に簪はシャルとクロエと共に出て来る。
「やはり消えていますね、変色海域が。」
そうりゅうが向かっていた変色海域は最初から存在して居なかった様に消えていた。
「それもそうですが、時間も私達が衝撃を受けた時刻から数分しか経ってません簪様。」
クロエの言う様に時計は簪達が意識を失う程の衝撃を受けたと思われる時刻から精々10分も経っていない事を示していた。
「まるで白昼夢ですね、シャルやクロエさんに同じ記憶が無ければ信じられないところでした。」
水平線を見ながら簪は肩を竦めながら言うと、シャルとクロエも頷いて見せる。
「それで簪、これって報告するのかい?」
シャルの問いに簪は首を振って答える。
「いえ止めて置きます・・・正気を疑われるだけですからね。」
異世界に行って海獣(シーサーペント)を倒してきました、そんな事を報告したら異常扱いは大げさでも長期休暇を取らされるだけだろう。
「私達だけの話にしましょう、乗員全員納得してくれるでしょうから。」
乗員達も多分同じ気持ちだろうからと言う簪にシャルとクロエも同意する。
だからこの件はその時そうりゅうに乗艦していた者達だけの秘密とされたのだった。
・・・ただ簪は後日アークロイヤルが同じ様な事態に巻き込まれる事なるとはこの時点で思いもしなかった。
17:10 変色海域の調査終了。