北方海の守護天使   作:h.hokura

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No.17ー北方海のロミオとジュリエット?ー

洋上に小型の漁船が1隻漂流していた。

「駄目だもう燃料がねえ。」

20代前半の男性が操作盤から顔を上げて悔しそうに後ろに居る女性に言う。

「仕方は無いわ、急いで出て来たからで貴方の所為じゃないわ。」

女性はそう言って男性を慰める。

「そうだけどよ、くっそもう少しでイリオモテ島なのに・・・」

航法用ディスプレーを見ながら男性は悔しそうに言って海上を見る。

「救難信号を出すしかないか、でも下手をすれば親父達に連れ戻されかねない。」

2人は顔を見合わせて溜息を付く、だがグズグズしていてはシーサーペントに襲われる可能性があるのだから。

その時2人は悩んでいる姿を海中から見られていた事に気付いていなかった・・・そして。

漁船前方の海面から何かが浮き上がって来るのに気づき男性は操舵室あった手銛を取って甲板にでる。

もちろんこんなものでシーサーペントを相手に出来ないのは男性には分かっていた。

しかし自分の腰に捉まって来る女性を守らないといけないと浮上して来る影を睨みつける。

だが男性の悲壮な思いは直ぐに意味が無くなる、青いカラーまとった巨大な潜水艦の出現によって。

「ねえこれって?」

「ああ俺達幸運だったかもしれないな。」

派遣艦隊所属そうりゅうの姿を見て2人は安堵の表情を浮かべ頷きあうのだった。

「艦長、漂流中の漁船の乗員を救助しました・・・若いカップルです。」

連絡を受けた火器管制担当が振り向いて報告して来る。

「カップルですか・・・こんな所で何をしていたんでしょうか?」

簪の隣に控えていたクロエが不思議そうに呟く。

「まさか愛の逃避行と言う訳じゃないとは思うけどね。」

補助席に座るシャルが冗談半分に言って来る。

「まさかとは思いますが・・・」

この時点でシャルの言っていた事が本当だとは簪も思っていなかった。

「・・・艦長、先程救助したカップルなんですが、天使と話させて欲しいと言ってるそうですが。」

救助後潜水し操艦を変わろうとしていた簪に電話を受け取った機関・ダメコン担当が報告して来た。

「天使ですか?」

報告を聞いて簪は困った表情で答える、大体その名で呼ばれる時はろくでもない事になるからだ。

「分かりました、後をお願いしますね。」

発令所を出て簪は救助した2人がいる食堂へ向かう。

「あ艦長、こちらです。」

食堂に入った簪を乗員が呼ぶ、傍の机に並んで座って居る2人が話をしたいというカップルの様だった。

「お待たせしました、派遣艦隊所属そうりゅう艦長の更識 簪です。」

並んで座る2人の前に立ち簪がそう言うと顔を見合わせるカップル、戸惑っているのがよく分かる光景だ。

まあこういう反応は何時もの事なので簪は気にもしないが。

「えっと俺はビーン、こっちはリヤだ・・・その本当にあんたが守護天使なのか、いや疑う訳じゃないんだが。」

ビーンと名乗った男性がそう聞いて来る、彼が思っていた天使のイメージ(神秘的な美女)と違った所為で。

一方リヤは簪を見て自分の二つ下の妹を思い出して別の意味で驚かされていた。

「そう呼ばれているだけです・・・それでお話と言うのは?」

2人の前の座席に座りながら簪が聞くと再び顔を見合わせた後簪を見ながらビーンが答える。

「二つの島の争いを止めて欲しいんだ。」

ビーンとリヤの話によれば、2人の住む島は近い事も有り互いに協力しながら生きていたがある出来事により対立する事になったらしい。

それは両島が半分づつ漁を行っていた海域に流れて来る魚が急激に減ってしまったからだった。

「原因をめぐってお互い相手が悪いって言い合いになって、今や一触即発の状態だ。」

溜息を付きつつビーンはリヤを見て続ける。

「俺達はそんな事が無かったら結婚する予定だったんだ、だがこのお陰で引き離される寸前だ。」

「そう言う事ですか・・・」

簪はビーンの話を聞いてまるで転生前の世界のロミオとジュリエットの物語みたいだと不思議な気分になっていた。

ちなみにこの世界にはそんな物語は存在していなかった。

「しかし艦隊としては簡単に介入する訳にはいきません。」

派遣艦隊はあくまでもシーサーペント対処が主任務であり、そう言った住人同士の争いには関与出来ないからだ。

ちょうど警察が民事に介入出来なかった転生前の世界の様に・・・

簪の返答にビーンは悔しそうな表情を浮かべ、リヤは両手で顔を覆い嗚咽を漏らし始める。

「艦長・・・」

見ていた乗員がどうにかなりませんかと言った感じで話し掛けて来る。

「取り敢えず織斑ギルド長を通して漁師ギルドに連絡をしてみましょう。」

問題が漁場であるならばそれが最適だと簪は考えたからだ、少なくても派遣艦隊が口を挟むよりは。

「ああ頼む守護天使。」

「お願いします守護天使様。」

必死の表情で訴えて来る2人に簪は「天使は止めて欲しい。」と言えず苦笑するしかなかった。

数時間後そうりゅうはQ-1及びQ-2島の中間海域にある漁場に接近していた。

織斑ギルド長を通して漁師ギルドに連絡を取ったところ簪に漁師ギルド長の代理として争いを収められる権限を委任される事になった。

『天使殿であれば誰も文句は言いません!』

無線越しでも耳鳴りがする声に簪を含め発令所の人間が引きつった表情になったのは言うまでも無い。

何だか責任を負わされてしまった感はある簪だったが。

兎も角ビーンの父親が率いる支部とリヤの父親が率いる支部を順番に回り事情を確認する積もりだったのだが。

「艦長!レーダーに複数の反応が有ります、通常の船舶だと思うのですがどうも様子が変です。」

両島の漁場に入って暫くしてセンサー担当が複合ディスプレイを見ながら報告して来る。

「表示を共用ディスプレイに出して下さい。」

簪の指示で共用ディスプレイに複合ディスプレイの表示が映し出される。

「・・・これってもしかして。」

「疑いの余地無しですね。」

シャルとクロエが表示された画面を見て言うの聞きながら簪は苦笑しつつ頷く。

「正に一触即発と言う所ですか。」

共用ディスプレイに十数隻の船が対峙している様子が映し出されていたからだ。

「あの2人を発令所まで連れて来て下さい。」

「はい艦長。」

火器管制担当が艦内通話機を通してビーンとリヤを呼び出すと数分後2人が現れる。

「どうやら貴方達の懸念が当たった様ですね。」

2人に共用ディスプレイを見る様身振りで示しながら簪は言う。

「・・・ああ当たったみたいだな。」

ビーンは簪の言いたい事を察して苦渋に満ちた、リヤは悲しみ満ちた表情になるのだった。

「マルチセンサーポスト作動。」

そうりゅうは深度を上げると洋上にマルチセンサーポストを出す。

そして共用ディスプレイに洋上の様子を映し出す、2組の漁船群が対峙する光景を。

「映像を拡大して下さい。」

ズームアップして一方の漁船群の先頭に居る船が映し出されるとビーンは溜息を付いて言う。

「親父だ。」

続いてもう一方の先頭に居る船が映し出されると今度はリヤが悲しそうに呟く。

「父です。」

そんな2人を見ながらシャルが簪に聞く。

「それでどうするの簪。」

艦長席に座る簪は暫し考えると皆に告げる。

「全員座席へ・・・クロエさんとお二方も。」

全員に着席する様に簪は指示する。

「艦長、魚雷・艦載火器管制室及び機関管制室問題無し。」

その報告を聞いた簪は発令所を見渡し全員が着席しているのを確認して指示を出す。」

「機関半速・・・少々荒っぽくなりますから注意して下さい。」

簪のその指示でビーンとリヤ以外の者達は彼女の意図を察していた。

「では行きます。」

洋上で対峙する漁船群の中心にいる船の舳先に立ってにらみ合うQ-1島とQ-2島のギルド支部長。

「へっようやくこれで決着をつけられるな。」

「そうだな覚悟は良いかな。」

2人の言葉に両者の漁師達が手銛を構えて相手を睨み遂に激突かと思われた時だった。

「「!?」」

突然目の前の海面を割って現れた物体に今まさに突撃を指示しようとした2人は動きを止められてしまう。

双方の間に海中から浮かび上がって来たのは巨大な潜水艦だった。

「しゅ、守護天使のそうりゅう!?」

漁師の1人が驚愕の声を上げ、その場に居る全員は茫然とそうりゅうを見つめる。

誰しもが何故此処に守護天使が今現れたのか分からなかったからだ。

『両漁師ギルド支部の皆さん、争いを止めこちらの指示に従って下さい。』

周囲に響き渡ったのは少女の声に漁師達は顔を見合わせてから自分達の支部長を見る。

「「・・・・・」」

険しい目でそうりゅう見つめる2人の支部長だったが、彼らに対抗する手段など存在しなかった。

北方海いや世界最強の潜水艦と守護天使相手では・・・

簪の警告で両者は引き離された後、両支部長はそうりゅうに乗艦する様連絡を受ける。

憮然とした表情で迎えのボートに乗せられ2人はそうりゅうに向かう。

甲板に上がった2人は当然睨み合うのだが、乗員の「艦長がお待ちです。」との言葉と圧に大人しく艦内に入った。

強面の支部長2人だが相手は少女達と言ってもシーサーペントと常に戦っている歴戦の人間達だ。

もちろん支部長2人だって危険な海で生きる者達だが実際にシーサーペントと相対しているそうりゅう乗員とは年季が違うと言えるからだ。

艦内に入った2人はそうりゅうの食堂に通されると、席に座って待って居た少女の前に立つ。

その少女を見て憮然とした表情だった2人は今度は困惑した表情で顔を見合わせる事になる。

「・・・お座りください、お二方。」

まあ何時もの事なので簪は気にしない・・・むしろシャルとクロエや乗員達の怒りが強い様だが。

「そうりゅう艦長の更識 簪です。」

「Q-1島ギルド支部長アークだ。」

「Q-2島の支部長合場。」

2人は困惑した表情のまま答えるが、それに構わず簪は話を始める。

「今回の両島の間に起こっている問題について私が裁定を行います。」

簪の言葉に2人は困惑から怒りに表情を変える。

「「それは一体どう言う事だ!?」」

対立しているわりには気が合っているなと簪は思って苦笑する。

「言った通りですが・・・ちなみに漁師ギルド長から委任を受けています。」

そう言って漁師ギルドから艦隊司令部を通して送られて来た委任状を見せる簪。

「まず配下の漁師達を引かせて下さい、あと原因調査が終わるまで争う事は禁止しますので。」

委任状を見て茫然とする2人の支部長に簪は冷静に告げる。

「ちょっと待ってくれどうしてそんな事に、第一これって俺達の頭越しな話じゃないか、納得出来ん!」

アーク支部長が椅子を蹴飛ばす様な勢いで立って簪を怒鳴りつける。

「ああ当事者を無視て事だろ、俺も納得出来ん!」

合場支部長は立ち上がらなかったがやはり怒りの表情で簪の事を睨みつける。

そんな強面の2人に対し簪は落ち着いた表情で話を続ける。

「お2人では解決は望めない・・・漁師ギルド長は貴方達のお子さんからの話で判断されたんです。」

「そ、そんな事認められるか!第一ビーンの奴が何と言おうと・・・」

「まったくだ、リヤがそんな事言うはずが・・・」

その言葉に2人は目を向くと更に逆上した様で、合場支部長も立ち上がって簪に反論してきた。

「落ち着いて下さい、これは決定事項です、漁師ギルド長の指示に異論を唱えるのですか?」

冷静な簪の言葉に2人は押し黙る。

「決定に従わない場合ギルドからの追放もありえます・・・私にはその決定権も有る事をお忘れ無く。」

2人は茫然とした表情で座り込むが、直ぐに顔を上げて簪に迫る。

「息子にビーンに会わせてくれ・・・こいつの娘と居るんだろう。」

「リヤに娘と話を・・・こいつの息子と一緒など許せん。」

そんな2人に簪は首を横に振って答える。

「息子と娘さんはそれを望んでいませんので会わせる事は出来ません。」

「俺達は親だぞ!」

「そうだ何の権利があって言うんだ。」

2人は怒りに顔を真っ赤にして言って来るが簪はそれに対しても冷静に対応する。

「息子と娘さんは既に成人ですので、2人の意志が優先されます。」

自分達より二回りも違う簪の言葉に2人は遂に切れ掴みかかろうとしたが。

音がして構えられるサブマシンに2人は動きを止められてしまう。

「船の中では艦長である私の権限が全てです・・・それは2人もお分かりですね。」

船の中では最高責任者の艦長(船長)が全てを支配する、それは2人も知っている、何しろ自分達だってそうしているからだ。

「それではお帰り下さい・・・言って置きますが先程の通達を実行願いますね。」

2人の支部ギルド長は憮然とした表情で乗員に案内され自分達の船に戻って行ったのだった。

指示通り漁船群はそれぞれの港に戻っていった、それを共用ディスプレイ上に見ながら簪は傍らに立つビーンとリヤに言う。

「一応貴方達の意志を尊重しましたが、良かったのですか?」

ビーンとリヤは自分達の父親の元に帰る事を事態収拾まで拒んだのだった。

「構わないさ・・・戻れば絶対引き離される、守護天使が言ったとしてもな。」

「はい、私も同じです。」

結局そうなるだろうなとは簪も思ったので2人の意志を聞いてその通りにしたのだった。

「・・・それにしてもあの親父をやり込めるなんて流石は守護天使だな。」

感嘆した表情でビーンは言う、最初に会った時の印象とは違うと思って。

「そうですね、私も父にあそこまで言えた人は母を除き知りません。」

自分の妹に似ていたと思ったが全然違うのはやはり守護天使様だとリヤは思った。

そんなビーンとリヤからの畏敬の念の籠った視線に簪は居心地が悪くてしょうがなかった。

ちなみにシャルとクロエ、乗員達がその様子を楽しそうに見ていた。

「・・・それでは調査に出発します、総員配置に着いて下さい。」

「「「はい艦長。」」」

「「ああ簪(様)。」」

シャルとクロエ、それに乗員達が楽しそうに返答する光景に簪は溜息を付くのだった。

「どうやら原因はここじゃ無いみたいだね。」

2時間後そうりゅうの発令所でシャルは自分の座って居る席のディスプレーを見ながら呟く。

シャルの指揮の元海流や餌となるプランクトンなどを調査したのだが、どれも異常は認められなかったのだ。

「となると原因は別の海域と言う事ですかシャル?」

共用ディスプレイに表示された漁場の調査結果を簪は見ながら確認して来る。

「そうだね可能性が高いのはこの漁場に向かって来る魚達の産卵場かもしれないね。」

映し出されていた漁場の調査結果が縮小され産卵場の海図がシャルの操作で表示される。

「産卵場で何か異変が起こり結果数が激変したと僕は思っているんだ。」

その推測に簪達発令所に居る者達は改めて海図を見る。

「その原因を突き止め回復させれば両島の争いを解決できますね、そうすればあの2人も・・・」

クロエはそう言ってホッとした表情を浮かべ言う。

「確かにその通りですが・・・問題はその原因です。」

そう言って簪はシャル見る。

「そうだね・・・場合によっては最悪な事も想定した方が良いかもしれない。」

「まさか?」

2人の会話でその最悪の事態を察したクロエが不安そうに聞く。

「そう・・・シーサーペントが原因かもしれないと言う事ですクロエさん。」

簪の言葉に発令所に重い空気が流れるのだった。

「そろそろ目的の海域に到着します、総員戦闘配置に。」

更に3時間後簪の指示で艦内にアラーム音が鳴り響き乗員達が配置に着いて行く。

発令所にも交代で休んでいた火器管制担当とセンサー担当が戻って来て配置に着く。

ちなみにシャルとクロエについては簪とシフトを一緒にしていたので既に発令所に居たのは言うまでもない。

「艦長、総員戦闘配置に着きました。」

振り向いて報告して来た火器管制担当に簪は頷く。

「潜航します。」

浮上航行していたそうりゅうは簪の操作で潜航して行く。

「マルチセンサーポスト作動。」

洋上にマルチセンサーポストを上げそうりゅは進んで行く。

ここは大小様々な岩礁が存在する海域で簪は気を抜けなかった。

「艦長ソーナーとレーダーに複数の・・・シーサーペントの反応が!」

前方に大きな岩礁を確認した瞬間センサー担当が報告して来る。

咄嗟に共用ディスプレイを見る簪達、そこには岩礁の周りに居る多数のシーサーペントの姿があった。

「画像を拡大して下さい・・・シャルこれは?」

広がる光景を見てシャルは苦虫をかみ潰した表情を浮かべて簪に答える。

「ああ・・・間違いなくシーサーペントの繁殖地だね、漁場に魚が来なくなったのはこいつの所為と言う訳だ。」

シーサーペントによってこの海域で誕生した魚達が餌にされてしまったのが今回の原因だと分かった瞬間だった。

「取り敢えず排除します、最早Q-1島とQ-2島の漁場の問題だけでは済みませんから。」

監視の点で言えばまったくの死角だった海域だ、こんな所で大量にシーサーペントが発生したら被害はQ-1島とQ-2島だけは止まらないと簪。

派遣艦隊として見過ごせない事案だった。

「1から8番の艦首発射管に魚雷装填、噴進弾の準備も急いで下さい。」

「1から8番に魚雷装填、噴進弾の準備急いで!」

簪の指示を火器管制担当が復唱すると艦首発射管に魚雷装填が装填され、魚雷・艦載火器管制室が噴進弾の準備を開始する。

「メインモーター全開、総員衝撃に備えて下さい。」

乗員達はもちろんシャルとクロエも座席に座りベルトを締めて待機済みだった。

「メインモーター全開!」

機関・ダメコン担当が復唱と共に艦長席のディスプレーの出力レベルが上がったのを確認した簪はそうりゅうを岩礁に向ける。

「シーサーペント3匹がこちらに向かって来ます。」

共用ディスプレイにそうりゅうに向かって来る3匹のシーサーペントが映し出される。

「1番~4番発射用意。」

「1番~4番に目標データ入力良し、用意良し。」

火器管制担当が接近して来るシーサーペント3匹の目標データを入力し発射用意が整う。

「1番~4番発射。」

そうりゅうの発射管から4本の魚雷が発射されシーサーペント達に向かう様子が共用ディスプレイに表示される。

繁殖地を守ろうとシーサーペント達は逃げる事無く我が身を盾にして魚雷に吹き飛ばされる。

「左舷より4匹のシーサーペント接近。」

「5番~8番発射。」

更に押し寄せて来るシーサーペントをそうりゅうから発射された4本の魚雷が撃破する。

「残りが押し寄せてくる前に叩きます、噴進弾の準備は完了してますか?」

「はい艦長。」

火器管制担当の返答を受け簪はそうりゅうを急速浮上させる。

海面を割り浮上したそうりゅうの水密格納庫の扉が開かれ噴進弾が引き出されると発射用レールにセットされる。

「噴進弾は発射準備良し。」

火器管制担当がディスプレーを見て報告する。

「目標の正確な方位をお願いします。」

簪の指示にセンサー担当が複合ディスプレイを見て返答する。

「方位020です。」

簪はそうりゅうの艦首を目標である繁殖地に向けさせる。

「方位020良し、発射!」

点火した噴進弾が発射用レール上を通って空中に飛び出ると一直線に繁殖地に向かって行く。

「目標まで1分。」

共用ディスプレイ上に繁殖地へ向かって飛翔する噴進弾の航跡が海図上に表示されているのを簪は静かに見つめる。

「3・2・1・今!」

次の瞬間共用ディスプレイに写っていた繁殖地に火柱が立ちそうりゅうに激しい轟音と振動が伝わって来た。

やがてそれが収まるとかって繁殖地が有った岩礁は跡形も無く消え去った姿が共用ディスプレイに映し出される。

その周りには爆発に巻き込まれバラバラになったシーサーペントの死骸が浮かぶ。

「付近に反応は?」

簪の問いに複合ディスプレイをスクロールして確認を終えたセンサー担当が答える。

「付近にシーサーペントの反応ありません。」

発令所内の張り付詰めた緊張感が薄れシャルとクロエ、乗員達が安堵の溜息を付く。

「これで漁獲量が戻ると良いのですが。」

「直ぐには無理だけど徐々に回復して行くと思うよ。」

シャルは簪の呟きに肩を竦めながら言う。

「問題は2島の人達がそれを待てるかですね。」

クロエが心配そうに言う。

「まあそれはあの2人に期待するしかないでしょうね・・・取り敢えずもどりましょうか。」

そうりゅうは潜航するとその海域を離れて行くのだった。

 

翌日簪は両島の支部長を漁場の中心海域に呼び寄せた。

「・・・繁殖地を処理したので今後漁獲量は回復して行くと思われます。」

シャルが再び食堂に来た2人の支部長を前に自分のタブレット端末を使って説明していた。

「時間はどの位かかるんだ?」

Q-1島支部長が憮然とした表情で聞いて来る。

「予想ですが半年は見て貰わないと、それでも完全に元通りになるかは保証出来ません。」

こればかりは自然に任せるしかない為シャルもはっきりとは言えない様だった。

「ですので両島共に漁獲量を調整して公平に漁をして頂く事になります。」

簪がシャルの説明を受けて両島の支部長に今後の事について伝える、一応漁師ギルド長と相談して決めた事だった。

「「・・・・」」

2人が不服そうな事は簪に内心溜息を付き、考えていた対応の許可を漁師ギルド長に取っておいて良かったと思った。

「言って置きますがこれは漁師ギルドの決定です、違えば処分が下されます。」

「それくらい分かっている。」

「言われるまでも無い。」

だがそう言いながら2人の支部長の表情にはこの後どう決着を付けてやろうかと言う気が満々なのは傍に居たシャルとクロエにも分かったほどだ。

まあ今回の件は既に終了しており簪はこの後に対しての権限が無いと2人の支部長は考えているのだった。

派遣艦隊としてQ-1島とQ-2島だけに関わっている訳にはいかないだろう、そうなれば自分達で決着を付けられると。

「分かりました・・・所で今後両島が指示を守っているかを見る為監視役を置きますのでその了承をお願いします。」

「「!?」」

この後の事をどうしようか考えていた2人は簪の言葉に驚愕した表情を浮かべる。

「その監視役ですが貴方方のお子さん達であるビーンとリヤのお二方にやって貰います。」

2人のそんな思惑等簪はお見通しだった、だから漁師ギルド長に進言し双方の関係者の中から監視役を選ぶ事にしていたのだった。

幸い事に適任者が2人も居る、お互いの島の事を知り、決して自分達に有利な事をしないと分かっている者達が。

「ビーンとリヤには監視と共に今私が持っている権限も移乗されます・・・もちろん漁師ギルド長の許可も得てますので。」

驚愕に表情を凍り付かせながら簪を見つめて来る2人の支部長に意地の悪い笑みを浮かべ合図する。

「そう言う訳だオヤジ、漁師ギルドの指示は必ず守って貰うぜ。」

「お父さん、ギルドから除名されれば皆が困りますので是が非でも従って頂きます。」

待機して居たビーンとリヤが座って居る簪の後に現れて自分達の父親いや支部長達に告げる。

こうなっては2人にはなす術は無かった、漁師ギルドだけで無くセキュリティーブルーまで出て来ているのだから。

支部長達の思惑は果たされる事は無く2人はただ項垂れてそれを受け入れるしか選択肢しか残されていなかった。

 

「流石だね簪。」

「ええそうですねシャルロット様。」

海域を離れて行くそうりゅうの指令塔上でシャルとクロエは何時もの如く簪を称賛していた。

「・・・全て私がやったと言う訳では無いのですが。」

確かにビーンとリヤを監視役にと提案したのは簪だが、彼女一人の力で進んだ訳ではないと思っているのだが。

「しかしあの2人・・・悪いとは思うけど、傑作だったね。」

自分の息子と娘にあそこまで言われ父親としても支部長としても立つ瀬が無いだろうとシャルは意地悪く言って笑う。

「まあ将来的には一つのギルド支部になるでしょうね、あの2人が居ればきっと。」

何しろビーンとリヤの母親達を中心にした島の女性達が、今回の事で一致団結して動き始めているからだ。

船の上では怖いもの知らずの支部長達もその猛攻には抗しきれない訳で今更ながら女性の凄さを実感している簪だった。

とは言え自分も今はその女性(少女)なのだがと内心苦笑を禁じ得ない簪は肩を竦めると言う。

「では帰りましょうかシャル、クロエさん。」

「うん簪。」

「はい簪様。」

そうりゅうは潜航すると進路を退避港へ取り速度を上げて向かって行くのだった。

 

13:00 漁師ギルドの依頼完了

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