海面上にマルチセンサーポストを出しながら航行していたそうりゅうが海面を割って浮上する。
そして司令塔上に潜水艦用艦内服に防寒ジャケット姿の見張り員と簪がシャルとクロエと共に出て来る。
「緊急救援信号を確認出来ますか?」
艦内通話機を通して簪が発令所に問い掛ける。
『・・・微弱ですが受信しています・・・やはり島の方からです。』
火器管制担当からの返答を聞いて一斉に双眼鏡がそうりゅうの左舷側に見える島に向けられる。
その直後島の上空へ信号弾が打ち上げられる。
「ボートの用意を急いで下さい、あと海上及び海中の監視を厳にお願いします。」
「はい艦長。」
指示を受け甲板に出て来た乗員がボートの準備を開始するのを見つめる簪。
「シーサーペント絡みの遭難では無い様ですね。」
クロエが島を見ながら同じ様に双眼鏡で見ている簪に話し掛ける。
数時間前そうりゅうは救難信号を受けこの海域まで救援の為来たのだった。
「その様ですね・・・とは言え注意が必要ですが。」
直接の原因にならなくても、救援に来た船が襲われる事は珍しい話では無いからだ。
「そう言えば遭難した船はこんな所で何をしていたんだろうね。」
シャルが手袋越しに指をさすりながら呟く、この海域にはこれと言った航路や漁場では無いから疑問に思ったのだ。
「小型の資源調査船だったみたいですから、島か海底の探査中だったのでしょうね。」
その途中で何らかのトラブルに見舞われ遭難したらしいと簪が答えるとシャルとクロエは納得した表情を浮かべる。
「艦長ボートの準備完了、何時でも出発出来ます。」
甲板で準備をしていた乗員の報告に簪は頷くと指示を出す。
「それでは出発して下さい、余計な事かもしれませんが注意を怠らない様に。」
「了解です艦長。」
指示を受けた乗員4人よる救助班はボートに乗ると島に向かう。
そうりゅうから出発したボートが島の岸辺に接近すると信号拳銃を持った男が手を振っているの見えた。
「要救助者を発見しました艦長。」
救助班の1人が無線でそうりゅうに報告を入れボートをそちらに向ける。
ボートを岸辺に乗り上げさせ救助班のメンバーが上陸し要救助者に近づきながら声を掛ける。
「ペギー商会の方ですね?」
要救助者の男が頷くと答える。
「ああそうだ・・・あんた達は派遣艦隊のそうりゅう乗員か?」
救助班の背後に見える巨大潜水艦を見て男が聞いて来る。
「ええそうです、ではそりゅうまで来て・・・」
「いや待ってくれ、そうりゅうならいや守護天使なら頼みたい事があるんだ。」
男の言葉に救助班の面々が顔を見合わせる。
「・・・シーサーペントの使者ですか?」
連絡を救助班から受けた簪がその男の話を聞く為上陸して来たのだが。
聞かされた話は簪にとって耳を疑う様なものだった。
「少なくても俺が出会った連中はそう言っているんだ。」
救助されたペギーと言う名の資源調査商会員(商会員は彼1人)は後ろを見ながら答える。
そちらに目を向けた簪は木の陰からこちらを不安そうに見ている自分と同じくらいの少女に気付く。
「・・・この島に住人は居なかった筈ですが。」
この海域には無人島しかないと簪は思っていたので驚いた表情を浮かべる簪。
「他の島から流れて来た連中らしいな・・・」
何らかの理由で生まれ育った島を捨てて誰も居ない無人島に隠れ住む人々が少数だが存在する。
ペギーはこの海域で遭難し島に漂着したところをそんな境遇の少女に助けられたらしい。
「それで助けられた礼に何か出来る事はないかと聞いたら・・・出たのがシーサーペントの使者だ。」
少女や他の渡り人達からペギーが聞いた話によれば、数日前島にその使者が現れてこう言ったそうだ。
「我々はシーサーペントの使者だ、この島で生きていきたいのなら貢ぎ物だせ、そうすれば守ってやろう。」
そう言ってその少女を始めとした若い女性を引き渡せと言われたのだ。
「・・・それってもしかしなくても。」
「ああそうだな、明らかに・・・嘘っぱちだな。」
簪とペギーは顔を見合わせると深い溜息を付く。
第一シーサーペントの使者って一体何のだろうと簪は思う、様は対抗する術を持たない人々を脅かしているだけではないかと。
しかもその代償に若い女性を差しだせなんて容易く彼らの意図が想像できてしまう簪とペギーだった。
「ところでその使者って何で海を渡って来たのですか?」
まさかシーサーペントの様に生身で海を渡って来た訳では無いだろうと簪は思って問う。
「彼女の話じゃ海岸に乗り上げて来た真っ黒な船の前扉が下に開きそこから降りて来ららしい。」
「それって上陸舟艇の様ですね。」
話からしてその船は海岸に乗り上げ船の前扉を降ろして人員や物資を揚陸させる上陸舟艇だと簪は気付く。
かってプレイしていたゲームでも出て来た船だった、あまり使い道のないものだったと簪は記憶していたが。
「ハンター崩れの連中が関わっているみたいですね。」
何かやらかしてハンターギルドを追放された者達が食い詰めてこんな事を考えたのだろうと簪。
黙って聞いていたペギーと少女を見ながら簪は続ける。
「だとすればこれは私達派遣艦隊の仕事ですね・・・お引き受けします。」
「そうか助かる、良かったな。」
聞いたペギーがそう言うと少女も嬉しそうに頷いて見せる、その光景を見て簪はもしかしてと考える。
だがそれは今どうでもいい事だと簪は思い頭からそれを追い出す。
「それではシーサーペントの使者とやらを迎える準備に入りましょう。」
深い闇が海域を覆う頃砂浜に数人の人影が佇んていた。
「そうりゅうへ、状況を報告願います。」
佇んで居るのは先程の少女と同年代の者達だった、そしてその中の1人がベールで隠したマイクセットで通信していた。
『今の所付近に船影無しです・・・艦長やはり危険です。』
その少女は簪だった、ちなみに他の者は先程の少女以外全てそうりゅうの乗員達だ。
そう簪は囮役の引き渡される少女達の1人として参加しているのだった。
もちろんシャルとクロエや乗員達に猛反対されたのは言うまでもない。
「囮役なんて正気かい簪!?」
発令所内にシャルの悲鳴にも似た声が響く。
「簪様、お考え直し下さいいくらなんでも・・・」
悲痛な声を上げながら説得しようとするクロエの声が続いて響き。
「「「艦長無茶をしないで下さい!」」」
火器管制担当を始めとした発令所メンバー3人の悲壮な声が続く。
「「「「「艦長・・・」」」」
騒ぎを聞きつけて他の乗員達が集まって来て一時発令所は大混乱になってしまった。
結局「艦長として乗員だけを危険に晒す訳にはいきません。」と言う簪の決意に皆折れるしかなかった。
何しろこうなると簪を説得するのは無理だとシャルとクロエ、乗員達は知っているからだ。
「こうなったら艦長を絶対守るのよ。」
「もちろんです私達が連中に絶対手を出させません!」
囮役と護衛役の乗員達が使命感に燃えたのは言うまでも無い。
「戦う術が無い事がこれ程悔しいと思った事はありません。」
「僕も同感だね・・・」
シャルとクロエは自分達が簪の役に立てないと嘆いていたのも・・・
「貴女は加わる必要は無いのだけど。」
「そうだぞお前までそんな事しなくても。」
一方簪とペギーは囮役に加わりたいと言って来た少女と話をしていた。
「でも自分達の事だし・・・それに貴方がここまでしてくれたから。」
そう言って少女はペギーをじっと見詰める、彼は困った表情を浮かべ簪を見る。
「説得は無理の様ですね、彼女の事は我々に任せて下さい、けっして危険な事にはさせませんから。」
少女とペギーを見ながら簪はそう言って苦笑する、恋する女は頑固だなと思いながら。
まあベクトルは違うが頑固な点では簪もそう変わらないのだが。
そんな混乱を経てシーサーペントの使者捕縛作戦は開始されたのだった。
「無理はしませんし皆を信じていますから大丈夫ですよ。」
未だに心配そうな乗員の声に簪が答えると『本当に気をつけてください。』と言われて通信が切れる。
それから1時間が経った頃再びそうりゅうから通信が入る。
『艦長、この海域に接近中の船舶を確認、速力12ノットで島に向かっています。』
沖合に潜水して海域を監視していたそうりゅうが目標を捕捉した様だった。
「予定通り目標の後方に付いたら戦闘体制で待機して下さい。」
『了解です艦長、くれぐれもご自愛ください。』
分かってますと答えて通信を切ると周りに居る乗員達と少女に伝える。
「シーサーペントの使者が来ます、打ち合わせ通りお願いしますね。」
乗員達と少女が頷くの確認し簪は通信機のチャンネルを切り替え護衛役の乗員を呼び出す。
「間もなく使者と接触予定です、そちらの準備は完了しましたか?」
『こちらの準備は完了、何時でもOKです艦長。』
簪が後方にある岩陰を見るとMP5サブマシンガンを持った乗員が手を振って見せる。
「よろしくお願いしますね、ではそのまま待機を。」
通信を切ったところで前方の海を監視していた乗員が報告して来る。
「艦長現れました。」
乗員が指さす方を見た簪は前方の海上からこちらに接近して来る上陸舟艇を確認する。
見た所識別番号も付けておらず明らかに違法な事に関わってますと言っている様なものだった。
簪達が見つめる中接近して来た上陸舟艇は艦首を海岸に乗り上げて停止すると扉を降ろしてくる。
そして降ろされた扉の上を通って降りて来る5人の黒装束の男達、よく見れば腰に拳銃を身に着けている。
「我シーサーペントの使者・・・貢物はお前達か?」
先頭に立つ男、多分彼がリーダーなのだろうが大げさな言い回しでそう告げてくる。
「そうでございます、シーサーペントの使者様。」
俯きながら簪がか細い声で答える、他の囮役の乗員達や少女は同じ様に俯いて座って居る。
「そうかお前達の献身にシーサーペント様も喜ぶだろう、さあ来るのだ。」
そう言ってリーダーが簪の腕を掴もうと手を伸ばして来た時だった。
「ところでシーサーペントの使者って名乗って貴方達は恥ずかしくないんですか?」
突然掛けられた声に男の手が止まる。
「な、何だと!?」
すくっと立ち上がりベールと艦内服の上に着ていたローブを取った簪を見て男達が驚いた表情を浮かべ叫ぶ。
「残念ながらここまです皆さん。」
簪の声に座っていた乗員達や少女が同じ様にベールとローブを取って立ち上がる。
「我々は派遣艦隊です、海賊行為により皆さんを拘束します。」
「くっセキュリティーブルーが何でこんな所に!?」
対抗する術の無い者達しか居ないと思っていた彼らは突如現れた簪達セキュリティーブルーに動揺する。
「だがお前達だけなら・・・」
目の前に立つ簪達がまだ少女だと思った男達は腰に付けていた拳銃を抜いて向けようとするが。
男達の前の砂場が響いて来た銃声と共に跳ね上がり動けなくなる。
そして気付いた時にはMP5を持った少女達に周りを囲まれている事に気付き茫然としてしまう。
「大人しく従って下さい、そうして頂けないなら多少は痛い目にあってもらいますが。」
たかが少女と思っていた様だが簪も乗員達も対シーサーペント戦において常に最前線で戦ってきたのだ。
ちんけな海賊モドキなどに後れを取る事などありえない、まあそれだけでなく簪を絶対守ると言う事もあったからだが。
この状況にリーダーを始めとした男達が抵抗する意思を失い銃を砂場に落とし手を上げて投降する姿勢を示した時だった。
機械音がして扉が上がり始めると共に舟艇の機関が動きだす。
「ま、まて俺達を置いて行くつもりか!?」
リーダーが慌てて手を伸ばすがその前に扉は閉じ、舟艇は後進で砂場から抜け出して離れて行く。
「守護天使、舟艇が逃げるぞ!」
後方の岩陰からペギーと島の男達が駆け寄って来る、海賊が投降したら来てくれる様に頼んでいたのだ。
「大丈夫ですよ、取り敢えずこの人達を拘束するのを手伝って下さい。」
海岸からある程度離れた舟艇が旋回し沖合へ出て行くのを見ながら簪はペギーと男達に頼む。
「まあ天使がそう言うなら・・・」
そう言ってペギーは男達と共に海賊達を縛り上げて行く。
出来れば天使を連呼しないで欲しいと思いつつその様子を見ていた簪にそうりゅうかた通信が入る。
『こちらそうりゅう、海賊船を確認、これより拿捕を開始します。』
舟艇に乗っていた連中は仲間が捉えられた時点で見捨てる選択をした、元々利害だけで繋がっていたから躊躇などしない。
しかし派遣艦隊の人間が居たと言う事は艦船も近くまで来ており、逃げられる訳は無いと考えられないのは所詮小悪党だからだろう。
海岸線を離れた舟艇は旋回をすると沖合に向けて速度を上がて行く。
だが舟艇の進行方向の海面が割れ巨大な潜水艦が現れた時点で彼らの運命は決まった。
浮上したそうりゅうは後部甲板の艦載砲を向けると舟艇の周りに砲弾を放つ、慌てた海賊は進路を変えようとするが。
司令塔後方の格納庫上に装備された3連装機関砲2基からの曳光弾を舟艇の艦橋両舷を通過させられ逃亡の意志を奪われる。
観念した海賊達は両手を上げて甲板上に出て並ぶ、こうしてシーサーペントの使者事件は無事解決したのだった。
夜が明ける頃艦隊司令部から要請を受けて来たみかさが島に到着し海賊達を収容する。
「助かったぜ天使。」
「・・・いえこちらこそ協力して頂き感謝します。」
ペギーの天使呼びに引きつった笑みを浮かべつつ簪は答える。
まあそんな笑みになったのは彼の呼び方だけで無くあの少女や島に居た人々さえも「天使様。」と呼んでいる所為もあったが。
「艦長、みかさから海賊の収容を終えたと通信が有りました。」
通信を担当していた乗員が報告して来るのを聞いた簪は頷くとペギーを見て言う。
「それでは我々は引き上げますが・・・本当に残られると言う事で良いのですね?」
「ああどうせ俺は天涯孤独の身だしな・・・彼女と此処で生きて行く積もりさ。」
隣に立って右腕に捉まる少女を見ながらペギーは嬉しそうな表情を浮かべて答える。
捕らえた海賊を収容するみかさの到着を待っていた簪にペギーが「俺は此処に残る。」と伝えて来たのは夜が明ける直前だった。
理由はあの少女の事を好きなったからで、相手の彼女もそれを受け入れてくれたとペギーは照れながら説明した。
「分かりましたギルドへの報告はセキュリティーブルーを通してやって置きますので・・・お二方もお幸せに。」
「ありがとう天使様。」
少女も幸せな笑みを浮かべつつ礼を言って来る、まあ天使と呼ばれるのには恥ずかしいが2人が幸せなら良いかと簪は思う事にする。
ペギーと少女そして島の人々に見送られそうりゅうとみかさは島を離れて行くのだった。
あと幸せそうなペギーと少女を見てシャルとクロエが「「私(僕)達も簪と・・・」」と言っていたのは余談である。
05:45 救助及び海賊の捕縛完了。