気を失っていたのはそれほど長くなかったと愛里寿は意識を取り戻して暫くそうぼんやりと考えていた。
「・・・!?メグミ、ルミ、アズミ、皆大丈夫ですか?」
そして状況を思い出し慌てて3人に声を掛ける。
「・大丈・夫・・です隊長。」
「あたた・・・一体何が?」
「目の前で火花が散ったあ。」
3人は愛里寿の声で意識を取り戻して起き上がって来る。
「メグミとルミは乗員の様子を、アズミは艦の状況を確認して。」
「「「了解です隊長。」」」
指示を受け、メグミとルミは艦内の各部に連絡を入れ、アズミは艦内電話でダメコン班を呼び出す。
その間愛里寿は艦長席から立つと艦橋の窓に向かい外を確認する。
「ここは・・・何処?」
アークロイヤルの周りの様子が先程とはまったく違っている事に愛里寿は気付く。
何しろ流氷とどんよりとした空が広がる海域だったのが、今ではそれらが一切見えないのだから。
「隊長、乗員に大した怪我はありません。」
メグミがそう報告して来る。
「艦に大きな損傷は認められません、航行及び戦闘に支障は無いそうです隊長。」
ダメコン班からの報告を伝えるアズミ。
「幸いですね・・・後は私達は今何処に居るのかですね。」
3人が戸惑った表情を浮かべるのを見た愛里寿は外を見る様にと身振りで示す。
「「「・・・・?」」」
外を確認した3人は更に戸惑った表情を愛里寿に向けるのだった。
事の起こりはアークロイヤがこの海域で多発した電波障害を調査する様に依頼された事だった。
そして目的の海域に到着して調査を開始したアークロイヤだったが突如全ての計器が狂い、次に激しい衝撃が遅い愛里寿達は意識を失う羽目に陥ったのだ。
「隊長、名無し猫とはまったく繋がりません。」
通信担当の傍らに居るルミが結果を伝えて来る。
「他の艦とも駄目ですか?」
「はい。」
お手上げだと言う表情で愛里寿の問いに答えるルミ。
「航法システムも駄目ですね、装置に故障は無いのですが。」
航海担当と共に航法システムを確認していたメグミが次に伝えて来る。
「周囲に何か反応は?」
センサー担当席の傍らに立つアズミに愛里寿が尋ねる。
「左舷9千に船影らしきものを確認しました。」
一緒に複合ディスプレイを覗いていたアズミが顔を上げると報告する。
愛里寿はその報告を聞くとルミを見る、直ぐに意図を察した彼女は通信担当に指示を出す。
「緊急周波数で呼び掛けて。」
「了解です。」
通信担当が呼びかけを開始するが・・・1時間後アークロイヤルはその海域に到達していた。
「結局通信は駄目でしたね。」
ルミが溜息を付きつつ言う。
「まあ状況からしてその余裕が無いのかもしれないけどね。」
アズミが双眼鏡で前方を監視しながら答える。
レーダーで捉えた船影は明らかに何かと、いや反応からシーサーペントと戦っていたからだ。
「・・・見えて来たけど何これ?」
双眼鏡を覗いていたアズミが戸惑った声を上げる。
その声に愛里寿が艦長席から立ち上がるとメグミから双眼鏡を受け取りアズミの隣に立つて前方を見る。
「・・・」
愛里寿が見た光景は船達がシーサーペントと戦う所だったが。
「見た事の無い船、いえあれはもしかして・・・」
見慣れない船だったが愛里寿に思い当たるものがあった。
数週間前に簪が見ていた本に描かれていた『帆船』とそっくりだったのだ。
ちなみに何故そんな船に興味を持ったのかと聞いた愛里寿に簪は「ちょっとね・・・」と言って曖昧に笑うだけだった。
今愛里寿達の前で展開されているのはその帆船とシーサーペントとの戦いだった。
「隊長?」
「総員戦闘配置に付いて、艦載砲射撃用意。」
アズミの問い掛けに愛里寿が指示をする。
「はい隊長、総員戦闘配置、艦載砲射撃用意。」
「艦載砲射撃用意繰り返す艦載砲射撃用意。」
アークロイヤルに搭載されている艦載砲が旋回し砲門が仰角を上げる。
「船に当たらない様注意して下さい、引き離すだけで十分です。」
双眼鏡で戦闘状況を見ながら愛里寿が言う。
「隊長射撃用意完了しました。」
「撃ち方始め。」
「メリヤ王女これ以上持ちません!」
弓矢隊を率いている兵士が悲壮な表情で報告して来る。
「しかし下がる訳にはまいりません・・・それにしてもまた海獣が現れるなんて。」
伝説としてメリヤ王女達の時代伝えられていた海獣の存在、今それが復活しラバニラ王国は再び危機にさらされていた。
「伝説の・・・守護天使様が現れてくれれば。」
海獣と共にそれを倒した守護天使の存在、メリヤ王女は幼い頃から飽きる事無く読み続けて来た。
海獣が復活したのであれば守護天使様も必ず現れると王女はそれを支えに恐怖に圧し潰されそうなりながらも兵士達を鼓舞しようとしていた。
だがそれも限界に達していた、既に1隻は沈み残った船も損傷が酷い、最早これまでかと王女と兵士達が思った時だった。
飛来音がして海獣の前面に数本の水柱がたったのだ。
「!?」
何が起きたのかとその光景に固まった王女に見張りの兵士が報告して来る。
「お、王女様、後方から見た事の無い船が接近して来ます!?」
その報告に後方を見た王女は自分達より巨大な船が近づいて来るの見た。
「もしかしてあれは・・・守護天使様!?」
「「「おぉぉ!!」」」
王女の言葉に絶望に陥っていた兵士達が歓喜の声を上げる。
接近して来た船は王女の船達の傍に来ると今度は眩い光の矢を海獣に放ち始める。
海獣は光の矢が命中すると絶叫を上げ逃げ出して行く。
「守護天使様がいらして下さったのですね。」
王女は突然現れた巨大な鋼鉄の船に膝を甲板に着くと兵士達と共に祈りを捧げるのだった。
「シーサーペントが逃げ出して行きます。」
見張り員が報告して来る。
「射撃止め・・・機関停止。」
そう指示をすると愛里寿は左舷見張り所に出て双眼鏡で帆船達を見る。
「・・・?」
服装もまた見慣れないがそれより愛里寿を困惑させたのは船上に居る人々が膝を甲板に着に付けこちらを見ている事だった。
まるで自分達に祈りを捧げている様にしか見えなかったからだ。
「隊長これって一体?」
傍らに来て同じ様に双眼鏡で見たアズミが戸惑った声を上げるが、愛里寿にも分かる訳もなく溜息を付くしか無かった。
「ボートの用意を・・・私が直接尋ねてみます。」
愛里寿の指示にアズミが慌てて止めようとする。
「待って下さい隊長、危険です!」
だが愛里寿の一睨みにそれ以上続けられなくなる。
「危険は承知です、ですが今は状況を出来るだけ早く確認する必要があります、それが指揮官としての務めです。」
例え危険でも指揮を執る者として自ら状況の把握を行うべきだ・・・これもまた簪に影響を受けた結果だったりする。
こうなってはどうしようも無いとアズミは思い愛里寿の指示を伝える為艦橋に戻るのだった。
降ろされたボートに愛里寿と護衛が乗り込むと帆船に向かう。
一方アークロイヤはアズミ指揮の元周囲を警戒すると共に愛里寿達を見守る。
帆船に到着した愛里寿は船上に居た奇妙な服いや鎧だろうか着た者達に声を掛ける。
「派遣艦隊所属アークロイヤル隊長の島田 愛里寿です、貴方達の指揮官と話をしたい。」
話し掛けられた者達は顔を見合わせると「暫くお待ちください。」と言って1人が走って行く。
暫くして他の者とは違う衣装に身を包んだ女性とその周りを囲む数人の者達が現れる。
そして先程の様に膝を着き祈る様な姿勢を取って女性は言う。
「助けて頂き感謝いたします守護天使様。」
「守護・・・天使様・・・?」
自分にとって余りにも聞き慣れたその名に愛里寿は目を見開くのだった。
「私はラバニラ王国第1王女セニアと申します。」
そんなセニアに愛里寿は戸惑いつつも答える。
「申し訳ないのですが私は守護天使様ではありません。」
「えっ!?」
愛里寿の返答にセニアは驚愕に満ちた表情を浮かべるのだった。
「それではラバニラ王国に伝わる伝承に守護天使様の事が書いてあると言う訳ですね。」
王女の船の船室に案内された愛里寿と急遽呼ばれた来たアズミが居た。
「はい古代から伝わる王国の伝承に守護天使様が現れ海に潜れる鋼鉄の船で海獣を倒したと。」
その伝承を聞いて愛里寿は考え込む、守護天使と言う名と海に潜れる鋼鉄の船と言う話を聞いて。
「隊長これは偶然でしょうか?」
アズミもまたその伝承を聞いて同じ様に考えたのか尋ねて来る。
「そうとも思えません・・・これほど偶然が重なるなんて・・・」
何より愛里寿が間違い無いと確信出来たのは伝承に載っていた守護天使の名前『カンザシ』だった。
「あのアリス様・・・貴女はやはり守護天使様ではないのですか?」
不安に溢れる目で愛里寿を見ながらセニア王女が聞いて来る。
「申し訳ありません私は守護天使ではありません・・・」
愛里寿の返答に絶望的な表情になる王女だったが。
「ですが心配には及びません私は守護天使の・・・妹ですので。」
「隊長!?」
思い掛けない愛里寿の言葉にアズミは驚愕の声を上げてしまうのだった。
「妹様なのですかそれでは!?」
希望が生まれたのか王女はすがる様に愛里寿に聞いて来る。
「はいですからご安心下さい、守護天使の妹としてお役に立って見せますので。」
そう愛里寿としては自分は簪の妹と思っていても現実には違う。
愛里寿は島田家の一人娘で、簪は更識家の娘で商会長である楯無の妹なのだから。
だがこの世界では簪と愛里寿の実際の関係を知る者など居ない、だから堂々と姉妹であると言える。
「あの隊長いくら何で・・・」
アズミが言いかけるが愛里寿の一睨みで沈黙してしまう。
『あの時の隊長の目は余計な事を言えば容赦しないと伝えていて心底怖かった。』
後にアズミがメグミとルミに涙目になりながら言った台詞である。
王女に全て任せて欲しいと言って愛里寿はアズミと共にアークロイヤルに戻って来る。
「私達はこれより海獣を殲滅しラバニラ王国を救います。」
戻った愛里寿は力強くそう言うとアークロイヤルを発進させる。
「・・・それにしても守護天使が既にこの世界に来ていたなんて驚きですね。」
「異世界に来ても守護天使って訳ね。」
帰って来た愛里寿の説明を聞いてメグミとルミが感心していた。
「でアズミは何でそんな疲れた表情している訳?」
「後で話すわ。」
アズミの答えにメグミとルミは不思議そうな顔をするが何故か聞くのが怖かったので追及はしなかった。
王女の話によれば海獣いやシーサーペントが現れたの伝承に残っていた海域らしい。
ちなみに何故か王女達と普通に話せた事を帰って来てから気付くアズミだった。
「総員戦闘配置に着いて下さい、レーダー及びアスディクの監視を厳に。」
目的の海域に到着すると愛里寿が即座に指示を出し、乗員達が配置に着いて行く。
「それにしてもその海獣がシーサーペントだとすると奴もこっちの世界に来たって事になるわね。」
メグミが双眼鏡で前方の海を見ながら疑問に思った事を呟く。
「今だけでは無く過去に一度ね・・・最早これって偶然とは言えないんじゃないかしら。」
その呟きにセンサー担当の傍らに居るアズミが肩を竦めて答える。
「何者かの意図があったと言う事?だとすればそれって一体・・・」
ルミが腕を組みながら2人に問うと、艦長席に座る愛里寿がアズミ達に言う。
「どんな意図が有るとしても私達が行う事は変わりません。」
その言葉にアズミ達は顔を見合わせて苦笑する、愛里寿らしいと思って。
ちなみに簪もその時同じ様な事を言ったのだが愛里寿達が知る由も無かった。
「隊長!左舷5千にシーサーペントらしき反応が。」
センサー担当が複合ディスプレイから振り向いて報告して来る。
「シーサーペントはこっちに向かって来ますか?」
冷静に愛里寿が問い掛ける。
「いえ・・・我々から離れて行きます隊長。」
困惑した声でセンサー担当が答える。
「シーサーペントが襲ってこないで逃げるって言うの?」
その報告を聞いてアズミが疑問の声を上げ、メグミとルミも顔を見合わせる。
「・・・シーサーペントが離れて行った海域に何かありますか?}
そんな中愛里寿が問い掛けて来る。
「岩礁が有ります、かなり大きなものです。」
報告を聞いた愛里寿は暫し考えるとアズミに指示をする。
「偵察用の気球の用意を・・・本艦は現在位置で待機します。」
「はい隊長、偵察用気球を準備急いで!」
一瞬怪訝な顔をしたもののアズミは直ぐに指示を実行する、愛里寿の判断の確かさを知っているからだ。
「速力を落として。」
「警戒を忘れないで、シーサーペントが1匹とは限らないわ。」
メグミとルミも判断の確かさは信じているのでそれぞれの役目を果たす、その辺は長年共に戦ってきた者同士故だ。
「隊長、偵察用気球準備完了です。」
「直ちに発進させて下さい、目標はシーサーペントが離れて行った岩礁です。」
アークロイヤルの後甲板から放たれた気球がケーブルを引きながら岩礁に向かう。
「気球が岩礁に到達します。」
「カメラの映像を共用ディスプレーに。」
艦橋前部に有る共用ディスプレーに偵察用気球からの映像が映し出される。
「「「「・・・・」」」」
それを見た艦橋に居た者達は愛里寿を含めて全員絶句してしまう。
「繁殖地ですね・・・つまりあのシーサーペントは仲間に知らせに行ったのですね。」
不可解だったシーサーペントの行動の理由を理解し愛里寿言う。
「あいつら此処でもやる事は変わらないらしいわね。」
アズミは深い溜息を付きつつぼやいて見せる。
「でもどうするの?今のアークロイヤルの火力じゃあ・・・」
アークロイヤルには多連装ロケット弾がまだ装備されていなかった、直接戦う事を想定していなかったので後回しなっていたのだ。
愛里寿は暫し岩礁の映像を見て思案していたがふと顔を上げて言う。
「岩礁の後方にある小島に多連装ロケット弾ランチャーを揚陸出来ますか?」
繁殖地のある岩礁のかなり後方に小島が見える。
「出来ない事は無いと思いますが・・・あそこでは射程ギリギリになりますね。」
ルミが気球から送られているレーダーの情報を複合ディスプレイ上に見て答える。
「それに隊長、展開中に気付かれると厄介ですが・・・」
メグミが懸念を示す、上陸し発射機を展開するのには時間が掛かるのでそこを襲撃される恐れがあるからだ。
「揚陸後アークロイヤルでシーサーペントを引き付け時間を稼ぎます。」
愛里寿の言葉にアズミが表情を曇らさて言う。
「隊長まさかご自身でそれをなさる積もりですか?」
そう聞きつつもアズミは愛里寿がどんな答えを出すか確信があった。
「もちろん私がやります、発射機部隊の指揮はアズミが取って下さい。」
確信した通りの答えにアズミは天を仰ぎ、メグミとルミは苦笑を浮かべるのだった。
アークロイヤルは岩礁に居るシーサーペントに気付かれない様に大きく迂回し小島に向かう。
「揚陸用意・・・上陸部隊の準備は完了してますか?」
艦長席に座る愛里寿が共用ディスプレーに映し出される小島を見ながら指示を出す。
『こちら上陸部隊、揚陸準備完了です隊長。』
報告を聞いた愛里寿は共に残ったメグミに頷いて見せる、ちなみにルミはアズミと一緒に上陸部隊の方にいる。
「接岸を開始して下さい。」
メグミの指示でアークロイヤルは小島の海岸線に接岸、開かれた艦首突端の扉から道板を繰り出しデリック・アームによって固定させる。
『では行ってまいります・・・隊長ご武運を、メグミ後をお願いね。』
道板をロケット弾ランチャーを積んだ2両のハーフトラックと護衛のセンチュリオン2両が降りて行く。
「接岸を解除、道板を収容後アークロイヤルは待機海域へ向かいます。」
「了解です隊長。」
ハーフトラックとセンチュリオンが射撃位置に向かうのを確認し愛里寿は次の指示を出す。
「今回も押し切られたわね・・・」
展開地点に到着しロケット弾の発射準備を指揮しながらアズミがぼやく。
「ははは・・・何時もの事だけどね。」
それを聞いてルミは困った様な表情を浮かべると肩を竦めながら答える。
アズミとルミにしてみれば頼もしいと思う反面出来れば危険な事をしてほしくないと言う気持ちが強い。
「良くも悪くも更識艦長に影響を受けているからね隊長は・・・」
愛里寿は簪の指揮官としての言動に多大な影響を受けている。
それが隊長としての能力を高めているの確かだが、幼い頃から愛里寿と居たアズミ達にしてみれば悔しい思いがある。
「まあ愚痴を言うのは後にしましょう、今は自分達のすべき事をしないとね。」
2人は溜息を付くとランチャーの射撃準備を急ぐ、敬愛する自分達の隊長の為に。
「隊長、岩礁まであと3千です。」
一方岩礁前の海域に戻って来たアークロイヤルは繁殖地に接近して行く。
「射撃用意・・・時間を稼ぎます。」
搭載された艦載砲を繁殖地の周りに居て守ろうとしているシーサーペント達に向ける。
「隊長射撃用意完了です。」
火器管制担当の隣に立って居るメグミの報告に愛里寿が頷くと射撃開始を指示する。
「撃ち方始め。」
主砲が射撃を開始しシーサーペント達の周りに着弾して水柱を上げる。
シーサーペント達は繁殖地に接近して来たアークロイヤルに気付くと威嚇の絶叫を上げながら迫って来る。
「取舵一杯、全速前進。」
舵を切りアークロイヤルは繁殖地前の海域からシーサーペント達を引き離して行く。
「上陸部隊に連絡を、予定通りシーサーペントを誘導中と。」
「了解です隊長。」
愛里寿の指示に通信担当が答える。
アークロイヤルは艦載砲を打ちつつ進路を巧みに変えながらシーサーペント達を繁殖地から引き離すのだった。
「アークロイヤルより通信、予定通りシーサーペントを誘導して岩礁より誘導中。」
「了解、ルミ射撃準備は?」
通信士から報告を受けアズミが射撃担当の傍に居るルミに尋ねる。
「最終座標を確認・・・射撃準備良し。」
手を上げつつルミが射撃準備が整った事を伝えて来る。
「隊長に連絡を、何時でも射撃可能と。」
報告後シーサーペント達を繁殖地から引きはがしたアークロイヤルから通信が入る。
『射撃開始して下さい。』
アークロイヤルからの通信を受けアズミが命令を下す。
「射撃開始!」
2両のハーフトラック上にある多連装ランチャーからロケット弾が次々と発射されて行く。
「隊長、上陸部隊より射撃開始の連絡です。」
「艦尾カメラの映像を共用ディスプレーに。」
艦尾に設置されたカメラが愛里寿の指示で作動し共用ディスプレーに繁殖地が映し出される。
次の瞬間、繁殖地に火柱が幾つも上がり、その衝撃音がアークロイヤルまで轟いて来る。
その衝撃音を聞いたシーサーペント達が慌てて繁殖地に戻ろうとするが。
「今です、シーサーペント殲滅を開始して下さい。」
誘導の為敢えて命中させていなかった艦載砲が正確な照準でシーサーペントを葬って行く。
通常であればシーサーペント達も避けるのは容易だったかもしれなかったが、繁殖地の危機に動揺し次々と沈められてしまう。
「隊長・・・シーサーペントの殲滅を確認。」
「繁殖地も完全に破壊されました。」
報告を受け愛里寿は深く頷くと指示を出す。
「進路を小島へ、上陸部隊を収容します。」
そしてアークロイヤルが小島に進路を取り、到着してアズミ達を収容して海域を離れようとした時にそれは起こった。
「艦長また電波障害が!!」
アズミの絶叫に愛里寿はそれがアークロイヤをこの世界に呼び込んだ現象が再び起こると確信する。
「総員衝撃に備えて下さい・・・またあれが来ます。」
「りょ、了解です隊長。」
指示を受け乗員が慌てて艦内放送で愛里寿の言葉を伝え様とするが間に合わずアークロイヤは激しい衝撃に震える。
「王女様光が!」
監視して居た騎士からの報告に王女は慌てて船室を飛び出し甲板に出る。
天使の妹様が向かった海域に眩い光が見え、それが唐突に消え去るのを王女は見たのだった。
「直ぐに偵察の船を。」
王女の命を受け騎士達を載せた船が光の見えた海域へ向かう。
数時間後戻った騎士達の報告は・・・
「王女様数多くの海獣の死骸を確認しました、生き残ったものは無い様です。」
「・・・そうですか、それで天使の妹様の船は?」
報告を聞いた王女は暫し考えた後騎士に尋ねる。
「周りを捜索しましたが発見出来ませんでした王女様。」
それを聞いた王女は膝を着くと祈る様に手を組んで言う。
「私達の願いを叶え元の世界にお帰りになったのですね・・・妹様に深い感謝を。」
王女の言葉に周りに居た騎士達や船員達が同じ様に祈りを捧げる。
この日、ラバニラ王国に新たな伝承が生まれる。
再び起こった王国の危機を守護天使様の妹が救ったと言う伝承が。
「た・隊・・長大・丈夫ですか・・」
愛里寿は尋ねられながら意識を何とか取り戻していった。
「何とか・・・他の皆さんは?」
声を掛けてくれたアズミに手伝ってもらいながら立ち上がった愛里寿が問い掛ける。
「何とか・・・」
「また目の前で火花が散るのを見る羽目になるなんて。」
メグミとルミがお互いを支えながら立ち上がりつつ答える。
「良かったです、艦内の状況の確認を急いで下さい。」
「「はい隊長。」」
直ちに状況確認に動くメグミとルミを見ながらアズミが外を見る。
「どうやら戻って来られたようですね。」
艦橋から見た洋上の様子は先程まで居た海域と違い、流氷とどんよりとした空模様の広がる北方海特有のものだった。
「しかし行き帰りがこの様ではたまったものではありませんね。」
艦長席に座り愛里寿は深い溜息を付きつつ言う。
「隊長、アークロイヤルに損傷無し、乗員も数名が掠り傷を負った程度です。」
確認を終えたメグミが報告して来る。
「ご苦労様です・・・」
そこまで言って愛里寿は言葉を切って時計を凝視してしまう。
「隊長どうしましたか・・・って嘘!?」
愛里寿の視線を追って時計を見たルミが同様に言葉を失う。
「「・・・・」」
アズミとメグミもそれに気付き言葉を失っている。
「少なくてもあの現象に巻き込まれて数十時間経っていた筈です。」
だが現実には最後に愛里寿達が時計を確認した時刻から数十分しか経っていなかった。
「ははは・・・もう何が何やら・・・」
引きつった笑みでそう呟くアズミの言葉は、その場に居た者の気持ちを表していたのだった。
この現象に有った数日後、退避港に帰港した愛里寿は休暇中の簪に会いに行った。
「どうしたの愛里寿ちゃん?」
2人だけで話したいと言って部屋に尋ねて来た愛里寿に簪が聞く。
「実は報告していない、いえ出来なかった事が有って・・・多分簪なら理解出来る筈。」
そう言って愛里寿は異世界に行ってラバニラ王国を海獣から救った話をするのだった。
当然聞いたそれを聞いた簪が驚いたのは当然だろう、自分達だけが遭遇したものだと思っていただけに。
もっとも簪が衝撃を受けたのは自分の事がラバニラ王国で伝承になっている事だったが。
「そんな風に伝わっているのですか・・・天使として・・・」
簪としては最早笑うしかなかった、愛里寿の方は「流石は北方海の天使です。」と喜んでいたが。
「でも愛里寿ちゃん無事に戻ってこれて良かったわ、王国の方も危機を乗り越えられた様だし。」
それにしても自分だけでは無く愛里寿まで送り込むとは一体この世界は何をしたいのだろうかと簪は今更ながら考えてしまう。
「天使の妹として恥ずかしくない働きが出来たと思います。」
ドヤ顔で言う愛里寿に簪は苦笑を返すしか出来なかった。