近くに停止したそうりゅうからタラップで名無し猫の甲板上へ簪にシャルとクロエが上がって来る。
「これから私は艦橋に行きますが、シャルとクロエさんはどうしますか?」
一応シャルは研究班、クロエは技術班に席を置いているので艦橋に行く必用は無いのだが。
「研究班の所は後で行くよ、今回の調査データを出すだけだからね。」
「私も後ほどに、あと簪様付きのメイドとしてはお部屋に戻るまでご一緒します。」
まあそう言うだろうなと簪は思った、この2人何かと自分と一緒に行動したがるから。
(あとクロエさん、メイドの件は辞退したんですけど。)
艦隊に所属する事になったクロエは何故か簪付きのメイドになると宣言したのだ。
もちろん簪はクロエに考え直す様には言ったのだが、何しろ彼女は技術班の責任者だからだ。
クロエに余計な仕事を押し付ける事になると簪は思ったのだが、彼女の意思は固く、結局また押し切られてしまったのだ。
「よう帰ってきたな更識艦長。」
シャルとクロエの事で何時も押し切られとしまうなと自己嫌悪に陥ってしまいそうな簪に声が掛けられる。
「西村班長、はい只今帰還しました。」
作業用のツナギと帽子にサングラスの初老の男性は艦隊の補給と整備を統括する西村 庄司だった。
ドックでは束がもっとも信頼を寄せている技師で、配下の工員達と共に今回名無し猫の乗員として抜擢されたのだ。
「おうご苦労さん、何かトラブルは・・・ってお前さんに限ってそれは無いか。」
西村班長はそう言って笑う、普段は鬼の班長と皆に恐れられているが、少なくとも簪は怒られた経験が無かった。
まあこの辺は束に言わせると孫娘と思っているので甘いとの事らしいが。
「まあ幸いな事に無かったですが。」
簪の言葉に西村班長は満足そうに頷く。
「派手なドンパチやらかしても艦内システムの不調は無いし、艦体に掠り傷程度しか付けねからなお前さんは。」
「簪だからね当たり前だよ、西村班長、只今戻りました。」
「はい簪様は北方海の守護天使様ですから・・・御機嫌よう西村様。」
西村班長の言葉にどや顔で答えるシャルとクロエに、簪は困った表情を浮かべる。
「よう2人共ご苦労さん・・・こいつらは何時も通りか。」
苦笑しつつ西村班長は肩を竦めて答えると、簪を見て言う。
「取り合えず整備と補給に入る、ああ更識艦長、さっき戦車隊のお譲ちゃんが来てたぞ、まだ戻っていないと聞いて落胆して帰ったが。」
どうやら愛里寿は簪の帰りを迎えてくれるつもりだったらしい、そうりゅうの到着が戦闘の為に予定より遅れた為駄目だった様だが。
「ありがとうございます西村班長、後で会いに行ってきますよ。」
悪い事したなと簪は思い後で謝っておこうと考えて西村班長に答える。
「ああ、そうやってくれ、出来ればあのお譲ちゃんの悲しそうな顔は見たく無いからな。」
片手を挙げそう返答すると西村班長はそうりゅうの整備と補給を指揮するため艦内に戻って行く。
一方シャルとクロエは・・・
(良かった愛里寿ちゃんは帰った後か、彼女が居ると簪にべったりだから。)
(愛里寿様とはすれ違いですか・・・あの方が居ると簪様のお世話を邪魔されますから。)
戦車隊長と揚陸艦長を担う島田 愛里寿は簪が帰還すると業務の合間によく名無し猫に尋ねてくる。
理由はもちろん簪に会う為だ、そして次の業務の為帰るまでずっと傍らに居ようとするのだ。
お蔭でシャルとクロエはまるで姉妹の様に仲の良い2人を見せられるのだ、しかも自分より年下だから邪険にも扱えない。
特に簪のお世話役を自認するクロエとって困る相手だった、何しろ愛里寿は傍に居るだけでなく、世話も焼きたがるからだ。
2人がそんな事を考えているとはもちろん気付いていない簪である。
「それでは艦橋に行きましょうか・・・どうかしましたかお2人共?」
「何でもないよ簪。」
「はいまいりましょう簪様。」
名無し猫の艦橋に簪達3人が入っていくと、相川 清香は山田 真耶と話しているところだった。
ギルドの事務筆頭である山田 真耶が何故此処にいるのか、それは彼女が艦隊編成に伴い名無し猫副長兼参謀に就任したからだ。
「お帰りなさい更識艦長、デュノアさん、クロエさんもお疲れ様。」
3人に気付いた清香が挨拶してくる。
「皆さんご苦労様です。」
同じく気付いた真耶も同様に挨拶してくる・・・振向いた為容姿に合わない胸部装甲を揺らしながら。
「大丈夫だよ簪、君だって十分あるよ。」
「簪様は身体のラインが奇麗なのでご安心を。」
「・・・2人共何で私に言うんですか・・・と言うか空しくなるから勘弁して下さい。」
「?」
{ははは・・・」
簪のある部分を見てシャルとクロエは慰めの言葉を掛けるが、彼女は余計落ち込んだ表情を浮かべる。
原因となった真耶は事情を飲み込めず不思議そうな表情であり、清香はただ笑うしか出来なかった。
まあ当事者の中で簪のが一番小さ・・控えめなのは事実だったが。
「えっと・・・定期哨戒中のむろと救助以外は問題無しです、詳しい報告は後で提出します。」
取り合えず気を取り直し簪は清香と真耶に報告する。
「はい、分かりました更識艦長。」
先程のやり取りを理解出来ず首を傾げながら真耶が答える。
「了解です更識艦長、今日はゆっくりお休み下さい。」
微妙な表情を浮かべつつ清香は答える。
「はい、それでは失礼します。」
そう言って簪はシャルとクロエと共に艦橋を出て行くのだった。
研究室にデータを届けると言うシャルと一旦別れ簪はクロエと共に名無し猫にある居住区に向かった。
そうりゅうと名無し猫に交互に乗艦する簪や乗員達は両方に部屋を持っている。
まあ双方艦の規模に比べ乗員が少なく居住区画に余裕が有るからだが簪は少し贅沢かなとは思う。
「それでは食事の時間になりましたらお迎えにあがりますので。」
簪の部屋の前まで来るとクロエはそう言って頭を下げて言う。
「あ、うんそれじゃその時に。」
そこまでしなくてもと思うがクロエは簪が断っても来るだろうからと何も言わずそう答えておく。
その言葉に頷き自分の部屋に戻るクロエを見送り簪は自分の部屋に入ると机に座って今回の戦闘レポートをパソコンで纏め始める。
「簪様、お食事の時間です。」
暫らく経つとノックの音と共にクロエの声が聞こえる、ふと時計を見ると19時を過ぎている。
思ったより熱中して様だ、簪はレポートを一旦セーブし立ち上がるとクロエの声に答える。
「クロエさん今行きます。」
部屋を出てクロエと名無し猫の食堂へ向かう簪はその途中シャルと合流する。
そして3人は名無し猫の食堂に到着、言うまでも無いがそうりゅうの食堂に比べて広いし、メニューも豪華だ。
「それじゃ暫は何を食べ・・・」
シャルが話し掛け様とした時、簪は突然後ろから抱きつかれ思わず悲鳴を上げそうになる。
「簪、やっと会えた。」
その声と抱きついてきた者が小柄な事で簪はそれが誰か気付く。
「愛里寿ちゃん、ただいま。」
顔を後ろに回し、自分の背中に顔を埋める愛里寿に優しく挨拶する簪。
「い、何時の間に・・・?」
「き、気付きませんでした。」
いきなり現れた愛里寿にシャルとクロエは流石は島田流戦車術の継承者なのかと驚愕させられる。
「お帰り簪。」
埋めていた顔を上げ愛里寿は微笑みながら挨拶を返す。
戦車揚陸艦アークロイヤルの艦長であり乗せられているセンチュリオン戦車隊の隊長でもある愛里寿。
戦車隊の中でも高いシーサーペント撃破率を誇るだけでなく、過去に数度揚陸艦でも撃破した事がある。
実は艦隊が編成されるまで簪は愛里寿の事をよく知らなかった。
だが愛里寿は大洗商会の西住 みほを通して知っていたらしく初対面の時から懐かれてしまったのだ。
なお愛里寿とみほはボコという茶色の熊の人形好きが縁で仲が良いらしい、簪はその包帯や眼帯のボコを見て最初は引いた覚えが有る。
「それで愛里寿ちゃん、一旦離れてくれると嬉しいんだけど。」
どうもこの姿勢では話しにくい為簪はそう頼のんだのだが。
「・・・・・・」
再び顔を埋めて愛里寿は離れ様としないので簪は困ってしまう、自分の両隣に居るシャルとクロエの視線も怖いのでそろそろ離れて欲しいと思っているのだが。
「隊長、それではまともに話が出来ませんよ。」
そんな愛里寿に嗜める様に話し掛けてくるのは副隊長兼参謀の1人であるルミと言う名の女性だった。
彼女の後ろには同じく副隊長兼参謀であるメグミとアズミも居る。
愛里寿は冷静沈着で判断力に優れた隊長であるが、性格は内気で人見知りが激しいため、この3人や部下達など身内の者しか心を開かない。
そんな中簪は愛里寿が身内以外で心を開く唯一の人間だった。
「・・・うんそうだった、ごめん簪。」
そう言って愛里寿は離れる、簪は安堵すると微笑んで答える。
「気にしていませんから、ああせかっく迎えに来てくれたのに到着が遅れて申し訳なかったですね。」
先程愛里寿が迎えに来てくれたのに会えなかった事を簪は謝る。
「ううん、私は気にしないから、こうやって会えたし。」
嬉しそうに愛里寿は微笑んで答える、そんな2人を見ていると本当の姉妹の様に見える。
シャルとクロエも悔しいがそれは認めざるを得ない、それは副隊長兼参謀役の3人も同じらしく。
「く・・・我々の隊長が・・・」
「分かるわ・・・でも隊長のあんな笑顔を見さられたら・・・」
「ええあの笑顔は私達では・・・」
・・・まあこの3人もシャルとクロエと似たような者達だから仕方が無いのかもしれない。
ちなみにテーブルを二つほど隔てた所で「うお!!美少女2人いい・・・」とか「美しい姉妹愛だ!」とか叫んでいた工作班の男どもがいたが、おやっさんこと西村班長に「この馬鹿どもが!!」と言われ折檻されていた(笑)。
まあそんな騒動(?)も収まり簪は愛里寿やシャルとクロエ、副隊長兼参謀役の3人と共に食事をする事になる。
もちろん簪の隣を愛里寿が占め、残った席をシャルとクロエが争い、新たな騒動が起きたことは言うまでも無い。
簪はそんな状況に苦笑しつつ、これからどうなるのかと考えるのだった。
後に史上最強の艦隊と言われるN諸島派遣艦隊セキュリテイーブルーの物語が始まる。
登場メカニック
名無し猫 修正
・篠ノ之 束所有の工作及び補給艦。
・現在はセキュリテイーブルーに移籍。
・モデルは工作艦明石。
・艦長は更識 簪と相川 清香が交代で務める。
・乗員も簪班と清香班が交代で勤務。
・副長兼艦隊参謀は山田 真耶。
・工作及び補給担当は西村 庄司。
武装:艦載砲×3
:機関砲×2
:多連装噴進弾発射機×1
搭載艇:小型高速艇
:中型輸送艇
:工作艇