ギガ島のカルデラ湖にある洞窟を3人の若者が乗ったボートが進んでいた。
「おい大丈夫なのか?」
「怖気づいたのか?上手くいけば俺達はヒーローだぜ。」
ボートの先頭に居た男が後からの問いに興奮気味に答える。
「まあ確かに原因を探り当てればな・・・」
答えを聞いた3人目の男がそう言って肩をすくめる。
「なあ・・・あれなんだろうな?」
ふと先程問い掛けた男が震えた声を出しながら前方を指さす。
言われた2人が指さされた方を見ると、前方の水中に黒い物体が有る事に気付く。
「何だ・・・?」
男が正体を確かめる為ボートを近づけてよく見ようと身体を乗り出した瞬間だった。
「ぎゃああ!!」
突然水中から飛び出して来きた黒い物体の口に噛みつかれた男が悲鳴を上げながら水中に引き込まれてしまう。
「「ひっ!?」」
突然の事に2人は悲鳴を上げて動けなくなってしまう。
「た、助け・・・ぎゃぁぁ!!」
引きずり込まれた男が一旦水面に現れ断末魔の叫びを洞窟内に響かせながら再び水中に引き込まれる。
「シ、シーサーペントがなんでここに!?逃げ・・・おわぁぁ!!」
男の1人はそれが小型のシーサーペントだと気づき慌てるが突然突き上げられる様な振動の所為で海中に落ちてしまう。
「うぁぁ!!」
そして最初の男の様に断末魔の叫びを響かせシーサーペントによって水中に引き込まれていく。
「逃げ・・・うぉぉ!」
たった一人残った男は慌て進路を変え逃げようとするが、海中から飛び出して来たシーサーペントにボートと一緒に水中に引き込まれる。
「た、助けてくれ!」
男は叫ぶが容赦なく水中に引き込まれ声は途切れる、そして後にはボートの残骸だけが残り洞窟は静寂に包まれるのだった。
ギガ島の近海にそうりゅうが到着するとボートが降ろされ島の港に向かって行く。
そして桟橋に到着すると簪とシャルが桟橋に上って来る。
「後をお願いします。」
簪はボートを運転して来た乗員に指示すると、シャルに声を掛ける。
「それでは行きましょう。」
シャルは頷くと簪と共に近くに見える街に向かって歩き始める。
「おい来たみたいだぞ!」
街の中に簪達が入って来るのに気付いた男が叫ぶと、その声に家々から出て来た人々が集まって来る。
そんな中簪は街の中心にある役所の前に到着すると、その場に居た職員に声を掛ける。
「セキュリテイーブルーより参りました、代表者の方をお願いします。」
職員はそれを聞くと「し、しばらくお待ちください。」と言って慌てて役所の中に戻って行く。
「お待ちしておりました守護天使様。」
知らせを受けてこの街の評議会議長らしい男性が出て来て簪にそう言うと頭を深く下げる。
「いえ天使は・・・」
「もう守護天使様に助けて頂くしかありません、この島をお願いいたします。」
自分の話を聞いて欲しいと簪は思わず天を仰いでしまうのだった。
今回簪達がギガ島に来た理由はセキュリテイーブルーに入って来たある依頼の為だった。
「それでシーサーペントが目撃されたと言うのは間違いありませんね。」
役所内の会議室に案内された簪達は評議会議長から説明を受けていた。
「はい、最初は我々も間違いではないかと思ったのですが・・・」
評議会議長はハンカチで顔の汗を忙しく拭きながら答える。
事の発端はカルデラ湖にある洞窟内の水中で奇妙な影が動き回っていると言う噂だった。
島の人々は質の悪い噂として信じていなかったのだが、先走った若者達が勝手に入り込み2名が行方不明、1名は瀕死の状態の所を発見される。
「その者が最後に残した証言で洞窟内にシーサーペントが居たと・・・」
もしそれが事実なら島の人々にとっては危険な話になる、だから議長はセキュリテイーブルーに調査を依頼をして来たのだった。
「シャル、島のカルデラ湖にシーサーペントが居る可能性は?」
簪が隣に座って居るシャルに問い掛ける。
「聞いた事無いね・・・シーサーペントは外洋でしか生息していないと言うのが常識だからね。」
シーサーペントは陸には上がれないのだから外洋とは隔絶された内陸の湖に現れる可能性は無い筈だった。
「人為的とも思えませんし。」
何者かがシーサーペントをこのカルデラ湖に持ち込んだと言うのも考えられなかった。
救助された青年が息を引き取る寸前に証言していた通りに小型のシーサーペントなら人が運び込めるかもしれないが。
狂暴な事は幼体のシーサーペントも成体とは変わらないのだ、とても人に扱えるものでは無い。
簪の呟きにシャルは頷くと続ける。
「何故洞窟から出てこないのかも気になるね、どうやって餌を得ているのやら。」
その事も簪は疑問に思っていた、誰かが餌を与えていないのならとっくに洞窟から出て来て島民を襲っていても可笑しくないからだ。
つまりそうする必要が無いからだとすれば・・・簪とシャルは顔を見合わせる。
「その洞窟を至急調査する必要があるね、ただ・・・」
「狭い洞窟ですからボートで行くしかないですが。」
議長の話では狭い洞窟な為ボートぐらいしか入れならしい。
だがそれではシーサーペントの餌食になるだけだ、あの若者達の様に。
残る手は水中から行く事だが効果的な武器を持って行けないという問題があったし、泳いでいては良い的になりかねない。
「・・・だとすればあれしか有りませんね。」
暫し考え込んでいた簪は深く頷くと結論を口に出す。
「ISしか。」
束が開発した水中作業用強化外骨格であるISしかないと。
「簪でも・・・」
シャルがその言葉に異議を唱えようとしたが簪は「直ぐにそうりゅうに戻ります。」と言ってボートに走って行ってしまった。
溜息を付きつつシャルは簪を追いかけてボートに戻るのだった。
翌日街近くの海岸線に戦車揚陸艦のアークロイヤルが着岸して来るのを簪はシャルとクロエと共に見つめる。
接岸を終えるたアークロイヤルは艦首の扉を左右に開き、道板繰り出してデリック・アームによって固定させる。
その道板をコンテナ車を牽引する高機動車を先頭にアムトラック数台が降りて来る。
そして簪達の前まで来て停車した高機動車から愛里寿が降りて来る。
「・・・お待たせ簪。」
普段と違い愛里寿が険しい顔つきな事に簪は苦笑する、まあそれは脇に居たシャルとクロエも同様だったが。
ISを使い洞窟を調査する事を簪が伝えた時にクロエが直ぐには納得してくれなかったのだ。
「ISは水中作業用です、シーサーペントと戦う為のものではありません簪様。」
クロエはそう言って反対した、確かにISは海底での建設作業用として開発されたものだったのだが。
「それは理解していますが、海中での機動性においては水中スクーターとは比べられないものがあります。」
それは初めて簪がISを使った時に図らずも証明された、密猟者を捕縛すると言う事で。
「武器の方も束さんの新型水中銃が有ります、まあ私も正面からシーサーペントと戦う積もりは無いですから。」
何とかクロエを説得してようやく簪はISの使用の許可を得たのだった、まあ完全には納得はしてくれなかったが。
それからシャルと他の乗員達を説得してようやく名無し猫の連絡を取ってISの輸送を頼んだのだが真耶も最初は反対した。
また説得する羽目になった簪は調査に行く前に多大な疲れを覚える事になったのだった。
まあこの後輸送を請け負った愛里寿からも連絡が入り彼女を説得する事になり更に疲れる事になるのだった。
到着した高機動車を先頭に愛里寿の指揮するアムトラック2台がカルデラ湖に向かう。
湖は静かだった、まあシーサーペントが潜んで居る状態では湖上に出たり岸辺で遊ぶ気にはなれないだろう。
「クロエさん準備をお願いします。」
高機動車の運転席から降りたクロエは助手席から降りて来た簪の言葉に未だ硬い表情のまま頷くとコンテナに向かい操作する。
コンテナがクロエの操作で左右に開くと台車に固定されたISが現れる。
「やっぱり行くんだね簪。」
後席から降りて簪の傍らに来たシャルが心配そうな表情を浮かべながら尋ねて来る。
「・・・すませんねシャル、こればかりは他人にさせる訳にはいきませんから。」
現状ISの操作を出来るのが簪しかいないのだ、その特殊過ぎる性能の為に。
「本当に簪は頑固なんだから・・・」
アムトラックから降りて来た愛里寿が溜息を付きながら言う。
まあどう言われても簪はけっして自分が行く事を止めないだうと3人は内心深い溜息を付きつつ確信していた。
だから3人の持って行き様の無い憤怒はISを開発した束に向けられていた。
束にすれば理不尽な話だが、まあ当人は気にもしないだろうが。
「簪様どうぞ。」
点検を終えたクロエが声を掛ける来る。
「ありがとうございますクロエさん。」
簪は礼を言うと台車上に上がりクロエに手伝ってもらいながらISを装着して行く、もちろん例のISスーツモドキは装着済みだ。
「ロック良し・・・簪様問題は有りませんか?」
「はい問題は無いですクロエさん。」
装着されたISを確認したクロエの問い掛けに簪が自身でも確認して答える。
「それでは。」
簪の返答を聞いたクロエは点検した圧縮酸素ボンベ付のヘルメットを簪に被せて艦内服と接続する。
「どうでしょうか簪様?」
『うんOKですクロエさん。』
クロエがヘッドセットのマイクを通じて尋ねると簪は頷いて答える。
「それじゃ海中に降ろします。」
『はいクロエさん。』
コンテナに付属している小型クレーンのリモコンを操作しクロエはISを纏った簪を一旦台車から持ち上げから湖に降ろした。
そして水中に入ったのをクロエが確認してクレーンとの接続を解除するとISは発進して行く。
「では私達も出発しましょう。」
愛里寿がそう言ってクロエとシャルと共に乗り込むとアムトラックはISを追って湖に入って行く。
ISで進む簪の視界に洞窟が見えて来る、事前の話通り水上の部分は小さく水中の方が広かった。
簪は後方から付いて来るアムトラックに合図をすると洞窟の中に入って行く。
アムトラックは入り口で停止するとその場で待機する、車内で愛里寿達はモニターに映し出された洞窟を見詰める。
洞窟内に入った簪は一旦停止すると周りを見渡す、光が入ってこないうえに水中だったので視界は悪い。
『シーサーペントの姿は見えませんね。』
慎重に進みながらもっと奥にいるのだろうか考え簪は呟くと持って来た水中銃を持ったマニュピレータで構える。
ざぁぁ・・・
その時だった海面がざわつき複数の影が上方に現れた事に簪が気付き深度を取って離れる。
現れた影は思った通り小型シーサーペントだった、離れた簪を追って潜り込んで来る。
「来ましたね!!」
簪は咄嗟にマニュピレータを動かし水中銃をシーサーペント向け発射する。
マニュピレータ越しに振動を伝えながら水中銃から打ち出された銛は真正面からシーサーペントに命中し・・・
「!?」
貫いただけで終わらずシーサーペントを水面から洞窟上方に銛で縫い付けてしまった。
絶句し思わずマニュピレータが持つ水中銃を見る簪いやシーサーペントもまた同じ様に固まって(?)いる。
確かに人間が使用するものより数倍大きい水中銃だが、いくら小型と言ってもシーサーペントを吹き飛ばすとは・・・
「・・・まあ束さんですからね。」
天災のあの人が作ったものだ、これくらい驚く事では無いなと簪は諦めに似た思いに溜息を付く。
「とぼんやりしてはいけませんね。」
我に帰ったのはシーサーペント達の方が早かった、囲むように数匹が潜り込んで来る。
多方向は襲い掛かれば対応出来ないと狩りに長けたシーサーペントは判断した様だったが。
残念ながら天災の作るものにそれは通用しなかった、簪は再びISを後退させると水中銃を連射する。
発射された銛は次々と命中し洞窟の壁にシーサーペントを縫い付けていった。
ちなみに簪が射撃のスキルを持っていないのに水中銃を扱えるのはISのアシストシステムのお陰だった。
簪はただ目標を選び攻撃を指示するだけで後はISの火器管制システムがやってくれる訳だ。
相変わらず束の考えるものはチートなんだと簪は内心苦笑するしか無かった。
戦いは20分で決着した簪の勝利で。
「でもこれ聞いたらギルド長のストレスが増えそうですね・・」
小型でもシーサーペントを艦船の重火器を使わずに倒してしまったのだ。
IS登場であれだけ厄介事が有ったのだ、これでまた騒ぎが起きるのは確実だろうなと簪は千冬に同情する。
もっとも簪にとっても他人事では無いのだが、そう例のアニメ『インフィニット・シー』絡みで。
現在絶賛放送中のシーズン2もクライマックスを向けているらしく(簪は恥ずかしくて見ていないので詳しく知らないが)。
再び簪がISで活躍したのだからこちらも話題になるのは避けられないだろう。
既に決定しているシーズン3の作成に加え4の制作も確実で、また取材攻勢に悩まされるのかと簪は鬱になってしまうのだった。
取り敢えずその件を置く事にして簪は洞窟の奥に進み、まだ孵っていなかったシーサーペントの卵を破壊する。
こちらは片側のマニュピレータに装備されたロケットランチャーを使用した、なお結果については最初の水中銃と変わらなかった。
2発撃っただけで数十個あった卵は全て破壊された、まあその煽りを受けて簪がISと一緒に数メートル吹き飛ばされてしまったが。
「さて・・・残った問題は連中がどうしてこの洞窟に侵入したかですが。」
人が運んだとか陸上をシーサーペントがここまで来くるとかは考えられないとすれば残る可能性は・・・
洞窟の更に奥に進んだ簪は眼下にあった大穴を見てその可能性に気付く事になった。
ISのセンサーの測定結果もその可能性を裏付けていると簪は確信する。
この洞窟は外海と繋がっていたのだ、しかも成体のシーサーペントが通れる規模でだ。
そして洞窟奥に広がる場所を養殖場として利用していた訳だ。
そこまでの確認を終え簪は外で待機しているアムトラックへ戻り状況を愛里寿に報告したのだが。
クロエ達は洞窟奥が養殖場だった驚きより使用した武器が規格外だった事により怒ったのは言うまでも無い。
「ふふふ・・・束様普段から申していたのに・・・いい覚悟です。」
「手伝うよクロエさん・・・ほんといい度胸だよね。」
「・・・(無言でL2A2を構える)・・・」
眼のハイライトを無くしそんな事を言う3人を見て簪が深い溜息を付きながら宥める羽目になったのはまあ何時もの事だった。
修羅場(笑)から2時間後、ISのデータから洞窟と外海をつなぐ場所を特定した簪はそうりゅうをそこへ急行させる。
遅かれ早かれ養殖場が破壊された事にシーサーペントが気付き報復の為住人達に襲い掛かるのは明白だったからだ。
「艦長!シーサーペントが3匹島に接近して来ます。」
複合ディスプレイから振り向いたセンサー担当が報告して来る。
「総員戦闘配置、全発射管に魚雷装填し発射用意を。」
簪の指示を火器管制担当が復唱しつつ指示を出し始める。
「全発射管に魚雷装填の装填開始します。」
「総員戦闘配置!繰り返す総員戦闘配置!」
乗員達が駆け足でそれぞれの持ち場に着いて行く。
「マルチセンサーポストが捉えた映像を共用ディスプレーへ。」
そう指示して艦長席に座る簪が共用ディスプレーを見る。
一瞬ちらついた後共用ディスプレー上にこちらに向かって来るシーサーペントが3匹が映し出される。
「全発射管準備良し。」
火器管制担当の報告に簪が頷くと次の指示を出す。
「メインモーター出力全開。」
「メインモーター出力全開!」
簪は進路を予定通りのコースへ変更、そうりゅうは速力を上げシーサーペントに向かって行く。
「シーサーペントまで4千。」
センサー担当の報告に簪が次の指示を出す。
「1番から4番の魚雷に目標データ入力を。」
「1番から4番への目標データ入力・・・完了です艦長。」
共用ディスプレー上に映し出されているシーサーペント見ながら報告を受けた簪が命じる。
「魚雷発射して下さい。」
「了解です艦長、1番から4番発射!」
そうりゅうから放たれた4基の魚雷が真正面からシーサーペントに突っ込んで行く。
魚雷に気付いたシーサーペント達が慌てて避けようとするが2基が先頭に居た奴に命中し一瞬で肉片に変わってしまう。
一方左右に分かれて魚雷を避けたシーサーペント達にはそれぞれ1基づつの魚雷が追跡して行き命中する。
絶叫を上げながら海面上をのたうち回るシーサーペント2匹に簪は止めの攻撃の指示を出す。
「5番及び6番に目標データ入力完了後発射して下さい。」
「入力完了後発射します。」
火器管制担当が復唱して放たれた2基の魚雷がのたうち回っていた残りのシーサーペント達に命中しバラバラに吹き飛ばす。
後に残されたどす黒い体液を共用ディスプレー上で見た簪がほっと一息着くと発令所に安堵の雰囲気が流れる。
「戦闘配置を警戒配置へ・・・皆さんご苦労様でした。」
こうして突如湖に現れたシーサーペントから始まった謎の事件は終息したのだった。
「それにして・・・まさか繁殖場所になっていたとは想像出来なかったよ。」
簪隣の席で紅茶を飲みながらシャルが溜息交じりにそう呟く。
「私も洞窟が外海と繋がっていたとは想像出来ませんでした簪。」
補助席でミルクティーを両手で持ちながら座って居た愛里寿が艦長席の簪を見ながら話し掛ける。
ちなみにアークロイヤルは先に帰還させ愛里寿はちゃっかりそうりゅうに乗り込んで来ていた。
「それは私もです愛里寿ちゃん・・・まあ今回はISのお陰で何とかなりましたが。」
話し掛けられた簪がコーヒー、もちろんクロエが直々に用意したものを飲みながら答える。
「そは幸いでしたが・・・やはり束様には釘を刺して置いた方がよろしいと思います。」
給仕を終え簪の傍らに控えて居たクロエがまだ納得出来ないと言った表情で言う。
「確かにそうだねクロエさん。」
「まったくです。」
クロエの言葉に同意するシャルと愛里寿に簪は苦笑しつつ宥める。
「まあほどほどにして下さいね。」
この後束が3人にどんな目に会わされたかはご想像にお任せする。
なお簪が思った通りISの活躍によりインフィニット・シーは更に注目され、彼女を深く悩ませる事になった。
11:45 カルデラ湖に出現したシーサーペントの掃討を完了。