北方海の守護天使   作:h.hokura

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No.19ー束からの依頼ー

「束さんが?」

それは簪がセキュリテイーブルー本部のある港に戻って来た時の事だった。

『簪ちゃんに頼みたい事が有るのでラボに来て!』

到着後ギルド本部にクロエと共に顔を出した簪は千冬から束の伝言を伝えられたのだ。

「何かあったのでしょうか?」

「さあな・・・あいつの考えている事なんぞ知りたくもないがな。」

「私もです千冬様。」

ウンザリした表情で答える千冬とクロエに簪は苦笑する、まあ何かあれば最初に被害を受ける2人だから仕方の無い話なのだが。

ギルド本部を出た簪とクロエはドックに向かい、その施設内にある束のラボの前に立つ。

「そう言えば束さんのラボに招待されるなんて初めてですね。」

それなりに長い付き合いだが簪は束のラボに入るのは初めだと気づいて言う。

「私としては簪様をご招待したくは無かったのですが。」

「?」

深刻そうな表情を浮かべて言うクロエの姿に簪は首を捻る、まあその理由を直ぐに知る事になるのだが。

持って来た鍵でドアを開けクロエは簪と共にラボ内に入って行く。

「えっと・・・クロエさん?」

元々はロビーだったと思われるそこは様々なものが乱雑に積み上がられておりまるで廃棄物置き場の様だった。

「簪様、絶対積み上がっている物に触らないで下さい・・・下手をしたら全てが崩れて下敷きになりますので。」

それはとても冗談に聞こえず簪は思わず引きつった表情を浮かべるしか無かった。

慎重に歩きながらクロエは簪をロビー奥にある階段に誘導して行く。

「クロエさん、エレベーターは使わないのですか?」

階段の横にエレベーターが有ったがクロエは見向きもせず通り過ぎていったので気になった簪が尋ねる。

「もう何年も前から動きません、束様は直す気が無いのです。」

深い溜息を付きながら答えるクロエの答えに簪はなんとなく納得してしまっていた。

優秀な技師であるが興味の無い事にはまったく無頓着な束の性格を簪は思い出したからだ。

納得した簪と疲れた表情のクロエは階段を4階まで登ると廊下を束の居る部屋まで歩いて行く。

『束さんのひみつけんきゅうしつ』

でかでかとそう書かれたプレートが掛かったドアの前に立つ簪とクロエ、なお書かれたものに当然2人は突っ込まなかった。

「束様、簪様をお連れしました。」

ノックをしてそうクロエが呼びかけるが返答が帰ってこない。

「束様、束様?」

更にクロエが声を掛けるがやはり帰ってこなかった。

「束様入ります。」

クロエはそう言ってドアを開け中に入る、もちろん簪も彼女に続く。

「・・・束様?」

部屋の中はさっきのロビーでクロエが言っていた状況になっていた、そう積み上げられていた物が崩れ足の踏み場も無かった。

そして束の姿はそこには見えず簪とクロエは困惑した表情で顔を見合わせる。

「・たす・・けて・・・クー・・ちゃん・・」

「えっ!?」

どこからともなく聞こえて来る声に簪が室内を見まわしている傍でクロエが深い溜息を付く。

「・・・ですから普段から整理して下さいとあれほど。」

そう言うとクロエは崩れ落ちた物をどかしながら一際積み上がった所までたどり着くとそこを掘り返し始める。

「ぷっはぁぁ・・・」

やがてそこからクロエによって掘り出された束に簪は目を丸くしてしまう。

「助かったよクーちゃん!」

涙目になった束が抱き着こうとするがクロエはそれを避けるとジト目で睨みつける。

「大丈夫ですか束さん?」

クロエに再び睨みつけられ更に涙目になった束に簪が声を掛ける。

「あっ簪ちゃん、久しぶりだね。」

簪に気付き束が嬉しそうに答える。

「束様・・・」

「う・・・分かっているよクーちゃん。」

暫し束に対するクロエの説教が行われるのだった。

「それで束さんが頼みたい事とは何なのでしょうか?」

説教が終えクロエが部屋の中をある程度片づけて話が出来る状態になったのはあれから1時間後だった。

束同様掘り出されたソファに座った簪はクロエが入れてくれたコーヒーを飲みながら尋ねる。

「うん実はある場所まで束さんを連れて行って欲しいんだよ・・・あとクーちゃん、このコーヒー冷たい気がするんだけど。」

対面に座り簪にそう答えた後束は傍らに控えていたクロエに恐る恐る聞く。

「何かご不満でも束様?」

「いやぁ不満なんてないよクーちゃん。」

先程よりキツイジト目で睨みつけられた束は引きつった笑みを浮かべるしかなかった、ちなみにコーヒーは冷たいうえに砂糖抜きだった。

まあクロエにしてみれば束がまた部屋の中を崩壊させた怒りに加え簪に片づけを手伝わせてしまった後悔が有ったからなのだが。

「それで束さんを何処へ連れ行けばいいんですか?」

そんな状況に苦笑しつつ簪は更に尋ねる。

「あのねっブラット島までお願いしたいの。」

「ブラット島ですか?」

簪はその島が中央海との接続海域に近い所に在る事を思い出す。

「うん実はね・・・」

ドックの技師の1人が街の図書館にあったブラット島の記録を調べていて何かを見つけらしいのだと束は事情を説明する。

「そこでその技師は調査の為に向かったらしいんだけど・・・」

そこまで言って束は深い溜息を付くと続ける。

「もう3日も経つのに戻って来ないんだよ。」

簪とクロエが顔を見合わせる。

「戻って来ない・・・何らかの事故にあったということですか?」

クロエが不安そうに束に尋ねる。

「その可能性が高いね、ちなみに調査に行ったのは技師と友人のハンターらしいんだ。」

束の言葉に暫し考えていた簪が尋ねる。

「その技師が見つけたものと言うののは何か分かっているのですか?」

「それについては詳細ははっきりしなくて。」

技師は大発見だと言うだけでそれが何かを報告する事無く通信が絶たれてしまった。

「その技師達の救出と何を見つけたかを調べるのを簪ちゃんにお願いしたいんだ。」

普段は見せない真面目な表情を浮かべながら要請して来た束に簪は頷いて答える。

「分かりました束さん、それで何時出発を?」

そうりゅうが中央港を出発したのはそれから2時間後の事だった。

『今回はまともな話だったか・・・まあそれでも嫌な予感は消えんが。』

出港時本部から入った通信画面上で千冬はそう言って肩を竦めて見せる。

『更識艦長には今更だと思うが慎重に頼むぞ。』

「了解ですギルド長。」

通信を終えた簪は進路をブラット島へ設定し機関・ダメコン担当に指示を出す。

「メインモーター半速前進に。」

「メインモーター半速前進。」

機関・ダメコン担当が復唱するとそうりゅうは進路をブラット島へ向け進み始める。

「それにしても何を見つけたんだろうね?・・・正直言って悪い予感しかしないけど。」

簪隣の席に座ったシャルが不安げな表情で呟く。

束の所の技師が発見したものだけに、発令所の乗員達も同様に不安そうな表情を浮かべている。

まあ束やその関係者が関わるとろくでもない結果に陥るのが常だから仕方の無い話だったが。

皆に厄介者(笑)扱いされている束だが現在艦載火器管制室にクロエの監視の元軟禁されていた。

まあ本人はそんな扱いに気づいていない様だったが、あと束への対応で簪の世話が出来ないとクロエが嘆いている事も。

その所為か束への対応がかなりきついとは火器管制室の乗員達の言である。

幸いブラット島へ航海中は大きな事件も起こらず到着出来た、束が小さな騒ぎを起こしてはクロエの制裁を受ける以外は。

「さてブラット島へ到着しましたが・・・これからどうするんですか束さん?」

共用ディスプレーに映し出されているブラット島を見ながら簪が束に尋ねる。

「ひゃぁ御免なさいクーちゃんもうしませんから・・・」

だが束はその問いに答えず怯えた兎の様に(笑)になっていた。

一体何をされたんだろうかと簪は自分の隣に控えているクロエを見る。

「束様、簪様がご質問されていますが。」

「イエスマム、目的の場所はブラット島近くの海底です!」

クロエの冷たい声に正気に戻った束が姿勢を正しながら答える。

「海底にですか?」

技師の残していった資料によれば目的の場所は海底にある、だから潜水艇を持っているハンターの友人を巻き込んだらしいと束。

「分かりましたクロエさん丁型潜水艇の準備をお願いします。」

丁型潜水艇は甲型潜水艇より大型の潜水艇であり主に調査や輸送に使われる艇だった。

「はい簪様、20分ほど時間を頂きたく。」

クロエはそう言うと艦後方の甲板に搭載された丁型潜水艇へ向かった。

20分後準備の終わった丁型潜水艇はそうりゅうから発進するとブラット島の海底へ向かった。

その潜水艇を操るのは簪であり、同乗者はクロエと束にシャルの3人に護衛役の千束とたきなだった。

当初簪はシャルを束の依頼に連れて行く積もりは無かったのだが、彼女は行くと譲らなかった。

「もちろん僕も行くよ・・・当然だよね。」

そんなシャルの説得を簪は早々に諦めてしまった、ちなみにクロエは苦笑していたものの束は気にしてもいなかった。

ちなみに千束とたきなは最近そうりゅうに赴任した島田商会所属の陸戦隊員である。

シーサーペントの使者事件で簪が囮役をやったと聞いた愛里寿が心配し千束とたきな以下の陸戦隊を乗せる様迫ったのだ。

まあ本当は愛里寿が搭乗したがったのだが、3姉妹に反対され陸戦隊を派遣する事で落ち着いた経緯があったりする。

簪としては少々大げさな気はしたのだが、泣きそうな顔で嘆願する愛里寿の前に受け入れるしかなかった。

潜行後暫くして外部ディスプレーに映し出された海底に立つオブジェを見ながら簪が束に尋ねる。

「束さんあれが?」

尋ねながらまるで竜宮城だなと簪はこちらの世界に来る前に見たあの有名な話を思い出して内心苦笑する。

残念ながらこの世界には該当する童話は存在してはいなかったが。

「うんどうやらそうみたいだね・・・それにしても海の底にこんなものがあったなんて束さんも驚きだよ。」

束は補助席から立つと簪の後からディスプレーを覗き込んで来るのだが位置的な関係で後ろから抱きつく形になってしまう。

「「・・・(むっ)」」

その光景にクロエとシャルが嫉妬の目を向けてくるが、鋼の神経の持ち主である束がそんなものを気にする事は無かった。

「おおお!私もあのボリューム包まれてみたい・・・」

「何を言っているんだか・・・」

目を輝かせてそんな事を言う千束に呆れた声と表情を浮かべるたきな。

お陰で操縦室は混沌とした雰囲気に包まれたのだが。

簪は束のボリュームのある胸部装甲と良い匂いを意識しない様にするのに必死で気付けなかった。

「そ、そうですね・・・あの束さん離れてくれませんか操縦がしずらいので。」

もう消えてしまったと思った男の意識の発現に戸惑いを誤魔化す様に束に言う簪はだったが。

「う~ん・・・何恥ずかしがっているのかなあ簪ちゃん。」

恥ずかしがる簪のほっぺたを指で付きつつ束がからかって来る、シャルとクロエの機嫌が更に悪くなったのは言うまでも無い。

流石にシャルとクロエの殺意の波動に簪も気づき何とか束を引き離すと潜水艇をオブジェ(竜宮城?)へ接近させて行く。

「あそこから入れそうですね。」

周りを旋回させながら中に入れそうな場所を探していた簪は壁に空いた出入口らしきものを見つける。

潜水艇が入れるの確認した簪は慎重に操縦しながらオブジェの中に侵入して行く。

暫く進むと広い空間に出る潜水艇、計器を確認した簪は上方に空間のある事に気付く。

潜水艇を一旦停止させ外部ディスプレーで周囲を警戒しつつゆっくりと浮上させて行く簪。

やがて潜水艇は小さい桟橋が設置された場所に浮上する。

「束さん・・・あそこに接岸している潜水艇はもしかして?」

「うん一緒に向かったハンターのだね。」

接岸されている同じ丁型潜水艇をディスプレー上に見た簪が束に確認する。

返答を聞いた簪は自分達の乗った潜水艇を隣に並べると停止させ操縦席から立ち上がる。

「到着しました、それでは行き・・・」

そう言って操縦室後方を振り向いた簪はシャルとクロエのジト目に言葉を途切れさせ固まる。

「えっと?」

そんな態度に戸惑っている簪にシャルとクロエは顔を見合わせて頷くと行動を起こす。

「シャル?」

シャルが簪の左腕に自分の腕を絡ませてくる。

「クロエさん・・・?」

続いてクロエが簪の右腕に同じ様に絡ませてくる。

「あの・・・2人ともどうしたのですか?」

「「何でも無いです簪(様)。」」

「それなら束さんも。」

束が後ろから簪に後ろから抱き着こうとしたが・・・

「「束(様、さん)は駄目です!!」」

事態が収拾するのにそれから数十分も掛かった、なおそれを煽った千束がたきなに叩かれていたのは余談である。

潜水艇から降りて桟橋に立った簪は疲れ切っていた、事態を収拾させるのに多大な気力を使ったからだ。

ちなみにシャルとクロエは機嫌が戻っており、束は何時も通りに能天気な状態で簪は納得できない思いだったが。

「潜水艇には誰も乗っていません艦長。」

潜水艇内の確認を終え戻って来たたきなが簪に報告する。

「皆奥へ行ったと言う事ですか・・・」

オブジェの奥へ向かう通路の入り口を見て簪は言う。

「一体この奥に何があるというのでしょうか?」

クロエが暗い為先が見えない通路を見ながら不安そうに言う。

「行ってみれば分かるよクーちゃん。」

能天気に答える束にクロエは深い溜息を付く。

「まあ束さんの言う事にも一理あるとは僕も思うけどね。」

シャルが肩を竦めながら言う。

「確かにその通りですね、それでは行きましょう。」

簪は苦笑しつつ皆を見渡ながら言うと一同はオブジェの奥へ進み始めた。

その通路に照明らしきもの見当たらないかったが簪達は持って来たライトを使う必要が無かった。

「通路の壁自体が光っていますね・・・これはただの遺跡とは思えませんね。」

クロエが通路を見回しながら指摘する。

「例の先史文明の話・・・都市伝説の類だと思っていたけどあがち否定できないね。」

同じ様に通路を見ながらシャルが続ける。

先史文明、かってこの世界の文明が始まる前に有ったと噂されるものだった。

特に北方海ではその遺跡ではないかと言われる物が時々発見される。

もっとも多くの学者は否定的で本格的な調査はまったく行われてこなかった。

先頭でL2A2を構え周囲を警戒している千束とたきなに簪達は続きながらながら奥へ向かう。

「そうだとすれば技師とハンターが何かに巻き込まれたと可能性が高いですね、皆さん警戒を忘れずに。」

シャルとクロエだけでなく千束とたきなも頷いて見せる。

「うんうん何が出るか束さんワクワクするよ。」

まあ束だけは相変わらず能天気な事を言っていたが誰も突っ込もうしなかった。

通路を1時間程歩いた簪達はやがて黄金の輝きを放つ巨大なピラミッド(?)が置かれた部屋に出た。

「これは?」

簪が見上げながら呟くが、誰も呆然とした表情で見上げるだけで答えられなかった。

「簪様!あそこに誰かが。」

呆然とピラミッドを見ていたクロエがそれに気付いて簪に声を掛けなが指し示す。

クロエの声にピラミッドを見た簪はピラミッドの傍に倒れている男性に気付く。

思わず駆け寄ろうとした簪だったが千束に制止させられる。

「艦長待って下さい、たきなちゃん!」

そう言って制止した千束はL2A2を構えながらたきなと共に慎重にその男性に近寄って行く。

男は千束達が近づいて行ってまったく動こうとしなかった。

「気を失っているみたいです艦長。」

慎重に近づいた千束は覗き込み男が完全に意識を失った状態である事を確認すると簪に報告する。

「束さん彼は技師の?」

簪が尋ねると男の顔を見た束が首を振って答える。

「見た事の無い顔だね、多分ハンターの方じゃないかな。」

技師と共に此処に来た友人のハンターらしいと束。

「錦木隊長、起こせますか?」

兎に角話を聞く必要があると思い簪は尋ねる。

千束は頷くと身体を揺すって起こそうと試みる。

「起きて。」

「う・・・」

暫く揺さぶられていた男は呻くと目を開け呆然としていたが簪に気付くと驚きの表情を浮かべる。

「も、もしかして守護天使か?」

守護天使は止めて欲しいと簪は思ったが何時もの通りそう言う前に先を越されてしまう。

「そうです守護天使様です。」

ドヤ顔でクロエが答えるとシャルと束も頷いて見せる。

「貴方はドックの技師と共に此処に来たハンターですね。」

そんな皆を見いて内心溜息を付きつつ簪は男に尋ねる。

「ああ・・・そうだ・・・」

ハンターの男は両手で頭を抱えつつ答える。

「技師の方はどうされてのですか?}

クロエが男に尋ねると彼は表情を歪ませピラミッドを見て言う。

「多分あの中に居る筈だ。」

その言葉に簪達がピラミッドを一斉に見る。

「あの中に・・・そもそもあれは一体?」

シャルがそう呟いた時だった、ピラミッドが突然光だし金属音が辺りに響き始める。

「「「・・・!?」」」

その光と金属音に簪達は思わず目を閉じ耳を塞いでしまう。

そしてそれは唐突に消えもう一度ピラミッドを見た簪は男がまた一人床に倒れている事に気付く。

「ハーリー?」

現れた男を見て束が声を掛ける、どうやら彼が行方不明になった技師だと簪は思った。

再び千束とたきなは技師に近寄り様子を確認する。

「あああ・・・!!」

技師は目を見開きながら呻いていたが、突然起き上がり様子を見ていた千束に迫る。

千束は予期していたのか咄嗟に身を屈めるとL2A2のストックで技師の腹に一撃を食らわせる。

「うご・・・」

よろめいて座り込んだ技師の額に、千束とたきなはL2A2の銃口を突き付ける。

「この馬鹿が何をしてるんだか・・・」

束がそう言って技師の後に立ち頭を叩くとようやく正気に戻ったのか周りを見渡している。

「篠ノ之ドック長?」

そして束が居る事に気付き惚けた顔を向けながら呟く。

「目が覚めたかいハーリー?」

腕を組み束が呆れた表情を浮かべながら聞くと技師は周りを見渡し簪達に気付いた様だった。

「え・・・っと守護天使が何でここに?」

「お2人の救助を束さんから依頼され此処に来ました、ところで一体何が起きているんですか?」

もう守護天使の件は諦めた簪が戸惑っている技師に話し掛ける。

「そ、それは・・・」

ハーリーが答えようとした時だった、先程の金属音がまた響き始める。

「簪ちゃん離れて!」

皆の中で簪が一番ピラミッドの傍に居る事に気付いた束が危険を感じて叫ぶが・・・

次の瞬間ピラミッドの発した光に皆視力を奪われてしまう。

そして先程の様に収まった時には簪の姿は消えさっており束達はただ呆然とするしか無かった。

「・・・?」

突然光に包まれた簪が次に気付いた時、辺りは暗闇の世界に居た。

どちらを見ても暗闇の世界、ただ足元はしっかりとした感触があったので簪は慌てずに済んだ。

「・・・どうやら私だけ連れてこられたようですね。」

束達の気配がしない事から自分だけがあの光に巻き込まれた様だったので簪は安堵の溜息を付く。

その時だった前方に光の柱が現れた、簪はそれをじっと見つめながら腰の後ろにあるホルスターから銃に似た多目的ツールを抜き出す。

これは武器を持てない簪の為に束が開発したもので照明弾や信号弾、ゴム弾などを撃てるものだ。

ツールの上部カーバーを開け太ももに括り付けたポーチから簪はゴム弾のカートリッジを取り出すと装填しカーバーを戻す。

そして何をするでもなくただ光る柱に意を決した簪は近づいて行く。

「・・・汝に問う・・・われの力を欲するか?」

呆然としていた者達の中で一番早く我に帰った束がハーリーの首根っこを掴んで問い質す。

「説明しなさい、何が起こっているのかを・・・」

何時もと違って真剣な表情の束にハーリーは目を白黒させながら答える。

「て、天使も審判を受けさせられているんじゃないかと。」

「審判?それって・・・」

ハーリーの返答に束が眉を顰めながら呟く。

「この遺跡に隠されている力を欲した者が継承出来るかを管理者と名乗る奴が試すんですドック長。」

「その力って何なの?」

その言葉に束が手を離しハーリーに問い質す。

「・・・それがよく覚えていなくて、聞いた事は確かなんですが。」

頭を振りながらハーリーが束に答える。

「その審判の内容は覚えているの?」

ハーリーは首を横に振る、どうやらそれも記憶に残っていならしいと束。

「束様、簪様は・・・」

クロエが不安げな表情で束に尋ねる。

「その力が何か分からないけど・・・大丈夫クーちゃん!」

先程のシリアスな表情を何時ものドヤ顔に戻して束は宣言する。

「大丈夫って・・・束さん、本当にですか?」

シャルがその豹変ぶりに戸惑いつつ聞いて来る。

千束とたきなも不安そうな表情で顔を見合わせる。

「皆心配性だね・・・簪ちゃんが力に溺れるなんてありえないね!」

目の前で光る柱から問い掛けられた質問に簪が首を捻りながら答える。

「力・・・貴方のですか?」

「そうだ・・・この世界を支配出来る・・・力・・・だ。」

その言葉に簪は一瞬目を見開くが直ぐに微笑み返すときっぱり言う。

「いえ私はそんな力は要りません。」

「・・・?」

柱は簪の拒否に戸惑った様に光を明滅させる。

「もう一度聞く、我の力を・・・」

「申し訳ないですが興味ありません。」

何だか押し売りの対応をしているみたいだと簪は苦笑しつつ答える。

「私は周りの人達を守れる力があれば満足です・・・身に合わない力は己を滅ぼしかねませんから。」

「・・・・・」

束はドヤ顔でそう言い切ると困惑しているシャル達を見渡しながら続ける。

「ここ北方海だけでなく中央海や南方海でも守護天使として絶大な影響力を持ち・・・」

そう指を振りながら断言する束。

「最強の潜水艦そうりゅうを完璧に扱える、これだけでも簪ちゃんは現在最強の力の持ち主だよ。」

言い切る束にシャルとクロエは顔を見合わせる。

「でも簪ちゃんは決してその力に溺れる事なんて無いんだから!」

「それが汝の・・・答えか?」

再度の拒否に柱は暫く沈黙した後問い掛けて来る。

「はい、自分にはこの世界を支配出来る力なんて要りませんから。」

「そうか・・・長い間この問い掛けをしてきたがようやく汝の様な人間に会えた・・・」

柱はそう言うと再度簪に問い掛ける。

「合格だ・・・汝に何か願いがあれば叶えよう・・・」

その言葉に簪は暫し考えた後答える。

「どんな願いでも良いのですか?」

ピラミッドが突然光だし金属音が広間に響き渡る。

「また!?」

シャルの叫びに束達が一瞬ピラミッドを見るが眩しい光に目を閉じる。

そして光と金属音は唐突に消え再び束達がピラミッドへ目を向けると。

「「「簪(ちゃん&様)!!」」」

「「艦長!?」」

ピラミッド脇に立つ簪に束やシャルとクロエは嬉しそうな、千束とたきなは驚きの声を上げる。

そんな束達に簪は微笑むと言う。

「皆さんここを直ぐに離れます。」

丁型潜水艇が海底のオブジェから出ると急速に離れて行く。

「流石だね簪ちゃん。」

潜水艇の操縦室で簪から姿を消している間にあった事を聞いた束がドヤ顔で頷いている。

「確かに・・・でも何だか悔しいけど。」

「・・・そうですね。」

最初から簪がそんな力に惑わされないと確信していた束の姿にシャルとクロエ嫉妬してしまっていた。

「前にそんな話を束さんとしたからなんですが。」

随分前だが束から『もしこの世界を支配できる力を貰えたとして簪ちゃんはどうする?』と聞かれた事があったのだ。

その時簪は光の柱と会話した時と同じ答えを返した、だから束は確信を込めて断言出来たのだ。

「!?艦長あれを。」

モニターを見ていた千束が指さしながら叫ぶ。

簪や束達が千束の声にモニターを見ると、あのオブジェ(竜宮城モドキ)が動き出すのが映し出されていた。

「確か簪ちゃんは願いとして人の手の届かない場所へ行って欲しいと言ったんだよね。」

「ええ、どうやら叶えてくれる様ですね。」

皆が見守る中オブジェはそばにある海底の巨大なすり鉢状の穴の淵に移動するとその穴の中に沈んで行った。

「あそこは未だに深さの分からず人が辿り着けない場所です。」

簪は潜水艇をその穴の上まで移動させるとカメラを下方に切り替え沈んで行くオブジェを写す。

「これで当分は大丈夫ですね・・・もっともそれ程遠くない時期に人はあそこに辿り着くかもしれませんが。」

モニター上でオブジェが小さくなって消えて行くのを見まがらクロエが呟く。

「そうだねクーちゃん、まあ次にあれを見つけた人間が簪ちゃんの様に賢明な判断をしてくれる事を期待するしかないね。」

クロエの呟きに束が皮肉の籠った言葉で答えると簪達は苦笑顔を見合わせて苦笑する。

「それでこの事をどう報告する積もりなの簪?」

モニターから目を離したシャルが簪に問い掛ける。

「・・・一応織斑ギルド長や姉さんには報告します、まあ他にはどうでしょうか、一笑にされるだけの気がしますが。」

「まあそうなるだろうね。」

「はい私もそう思います簪様。」

肩を竦めながら束が言うとクロエも同意を示す。

「誇大妄想の類に思われるのは確実だね。」

シャルがそう答え、千束とたきなも同様に頷くのだった。

オブジェが視界だけでなくソナーからも消えると簪は潜水艇を発進させそうりゅうに向けるのだった。




丁型潜航艇
・主に海底調査を担う商会で使われている小型潜航艇。
・各種センサーと海中作業のマニピュレーターを装備。
・武装は無く速力も遅い為戦闘には向いていない。
・特定のモデルは無し。
多目的ツール
・照明弾、信号弾、ゴム弾等を撃てる銃型のツール。
・開発者は篠ノ之 束。
・装弾はカートリッジ式。
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