北方海の守護天使   作:h.hokura

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No.03ー採掘船を救助せよ1ー

洋上を一隻のボートが漂っていた、燃料も尽きたそれはただ波に弄ばれるのみ。

そしてそのボート上に1人の少女が乗っていたが、ぐったりとして動こうとはしなかった。

「お、お父さん・・・必ず・・・助けを・・・」

少女はそんな言葉を呟き続けていたが、それに耳を傾ける者はおらず彼女の命は消えかけていた。

そんな時だった、少女の乗るボート近くの海中に黒い影が現れ、それはどんどん大きくなっていく。

やがて水しぶきをあげ海上に姿を現したのは、青いカラーを纏った潜水艦であった。

だが意識の無い少女は気付かないままボートに揺られ続けていた。

「ユリア、こうなったらお前だけでもここから逃げるんだ。」

「そんな・・・お父さん、私1人だけなんて。」

「お前だけだったら何とか逃げられる、俺達が注意を引き付けるからな。」

「そして助けを呼んで来てくれ、頼めるのはお前だけだユリア。」

「分かりましたお父さん、必ず助けを呼んできます、だから・・・」

そこでユリアは意識を取り戻し、自分が固いボートの底でなく、柔らかいベットの上に居る事に気づく。

「ここは・・・?」

ベットの周りは白いカーテンで囲まれていて自分が何処に居るか分からなかった。

助けられたのだろうか?燃料が尽き漂流している所を・・・

彼女がそう思っていると、カーテンが開けられ誰かが覗き込んでくる。

「どうやら気付いた様だね、気分はどうだい?」

ボディースーツタイプのつなぎの上に白衣を着込んだ女性が話し掛けてくる。

そうりゅうの専属医師になった須藤 美波だった。

「はい、それほど酷くは・・・あの此処は?」

ユリアの答えに美波は気だるいそうな表情で答える。

「それは良かった、ああここはそうりゅうの医務室だよ。」

「そうりゅう・・・セキュリテイーブルーのですか!?」

突然起き上がりそう聞いて来るユリアに美波は思わず後ずさってしまうのだった。

医務室のドアからノックの音がすると、美波は立ち上がると答える。

「入ってくれ艦長。」

ドアが開けられ簪が入ってくる、それをユリアがじっと見つめる、守護天使については話には聞いていたものの会うのは今回が初めてだからだが。

「そうりゅう艦長の更識 簪です、はじめまして。」

簪は微笑んでユリアに話し掛けてくる。

「あ、はい始めまして、市ノ瀬 ユリアと言います、助けて頂いてありがとうございます。」

思わず緊張してしまうユリア、同じ歳の様だけどやはり伴っている空気が違うと感じてしまう。

「いえ気にせずに・・・それでお父さん達を助けてほしいそうですが、状況を教えて下さい。」

そんなユリアの態度に内心苦笑しつつ簪は状況を尋ねる。

ユリアと父親達は新しい鉱石、通称K鉱石を探して北方海域に採掘船で来て、H島の入り江で試掘を始めた直後にシーサーペント達の襲撃を受けてしまった。

幸い用心の為に設置した機雷で何とか防いでいたが、突破されるのは時間の問題だった、その為ユリアの父親は娘だけでも逃がそうと、島の反対側からボートで脱出させたらしい。

「お父さんを皆を助けて下さい、お願いします天使様。」

ユリアは簪の両手を握り泣きながら懇願する。

「分かりました、必ず助けますから安心して下さい、あと天使は・・・」

「よろしくお願いします天使様。」

天使と呼ばないでと言おうとした簪だったがユリアは聞いてはくれなかった。

その様子を面白そうに見ている美波が簪は恨めしかった。

発令所に戻った簪は直ちに名無し猫と連絡を取る。

『なるほど状況は分かりました、でもそうなると海上からの攻撃は危険ですね。』

連絡を受けた、今回は名無し猫の艦長を担当している相川 清香は状況からそう答える。

へたをすれば入り江の奥にいる救助者達に攻撃が及ぶ恐れがあるからだ。

『となれば以前に行なった様に島に戦車隊を上陸させ入り江から追い出してもらうしかありませんね。』

副長でもある山田 真耶が提案してくる、かってT島群でやった作戦だ。

「それが最善でしょね山田副長、手配をお願い出来ますか?」

簪もそれが今回はもっとも適していると判断して真耶に要請する。

『了解です更識艦長、相川艦長もそれで構いませんか?』

『はいOKです山田副長、その作戦で行きましょう。』

清香も賛成の様で、これで作戦が決まった。

ちなみに艦隊の方針決定は簪・清香・真耶の3人の合議で決める事になっている。

最初は簪が全て判断してと言う話しだったが、そうりゅう一隻を指揮するのとは違うからと、この体制にしてもらったのだ。

『それではサトラガとアークロイヤルを向かわせますね、両艦とも何時でも出撃出来る体制で待機中ですので直ぐに出発出来ると思いますので、会合地点を後で連絡します。』

「わかりました、それでは後ほど。」

連絡を終わり一息付くと簪は発令所の各担当3人に命じる。

「それでは本艦もH島へ向かいます。」

「「「了解です艦長。」」」

皆の復唱に簪は頷くと傍らにいるシャルとクロエに顔を向ける。

「と言う訳でシャル、この付近の繁殖地探しは一旦中断します。」

「分かったよ簪、状況が状況だからね、僕は構わないよ。」

頷いてシャルは答える、今回の任務は彼女の要請による付近の繁殖地調査だった。

「クロエさん、そうりゅうには問題はありませんね。」

「はい簪様、そうりゅうは何時でも最高性能を発揮出来ますのご安心を。」

専任技師としてそうりゅうの全てを知るクロエの言葉に簪は満足そうに頷く。

3時間後・H島近海

そうりゅうは深度を保ったまま会合地点に到達していた。

艦長席に設置されたディスプレイで到達を確認した簪が指示する。

「深度を上げます、マルチセンサーポスト準備。」

「マルチセンサーポスト・・・準備よし。」

センサー担当の報告にそうりゅうを操舵し深度を上げてゆく簪。

「深度よし、マルチセンサーポスト作動。」

大型共用ディスプレイにそれまで表示されていた海図が縮小し海上の様子が映し出される。

「レーダーに反応、こちらに接近中の艦船を2隻確認。」

センサー担当が複合ディスプレイ見ながら報告してくる。

「時間通りですね。」

ディスプレイでサトラガとアークロイヤルの2隻を確認すると簪は満足そうに頷いて言う。

「浮上します。」

艦体から盛大な泡を吹き出させながらそうりゅうは浮上する。

「両艦への通信をお願いします。」

「了解です艦長。」

簪の指示を受け、センサー担当が両艦へ呼び掛けを開始する。

『それでは私達は島の反対側から上陸すればいいのですね更識艦長。』

無線を通じて艦長兼戦車隊長の愛里寿が確認してくる、普段と違い凛々しい声だ。

「そうです、彼女が脱出した海岸から上陸後、島の中央を突破し、採掘船の居る入り江に行って下さい。」

『分かりました更識艦長。』

『そして追い出されたシーサーペント達を更に追い立ててそうりゅうの待つ海域に誘導、それがサトラガの任務と言う訳ね。』

愛里寿の返事に続いて話を進めるのは、サンダース商会所属のサトラガ艦長であるケイだった。

「はいケイ艦長、よろしくお願いしますね。」

『OKカンザシ、私に任せておけば大丈夫!!』

愛里寿と違い、何時もと変わらないフレンドリーかつ明朗快活なケイに簪は苦笑する。

会合地点で集結した3隻は無線による作戦会議を行なっていたのだった。

「それでは作戦開始です・・・全員無事で港に帰りましょう。」

『当然です更識艦長。』

『その通り!絶対誰の命も失わせないわ。』

簪の言葉に2人は心強い返事を返してくるのだった。

H島に接近した3隻は予定通り、戦車隊を揚陸させる為入り江の反対側へ向かうアークロイヤル、入り江へ向うサトラガ、待機海域に向うそうりゅうに分かれる。

救出作戦がいよいよ開始されようとしていた。




用語集
シーサーペント
この世界では人間にとって最大の天敵と呼べる存在。
人間や他の海洋生物を自分達が生きる為に襲ってくる。
その生態や起源については研究されてはいるがまだ謎が多い。
ハンター
主にシーサーペントを狩る事を生業する者達の総称。
他に密輸や密猟の取り締まりや救難等様々な依頼を請け負うこともある。
駆逐艦
ハンターが主に使用する艦艇、流氷や岩礁の多い北方海では大型艦はあまり使われない。
商会の規模によっては小型の魚雷艇やクルーザー等を使用するハンターもいる。
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