更識 楯無と西住 まほ、この2人はある意味天敵同士だと言えるだろう。
片や若いながら商会を取り仕切る敏腕商会長、片や同じ年ながら西住商会で最強の戦車隊を率いる隊長。
共に優秀な女性達だがある一点で相いれない関係なのだ、それはずばり2人の妹達に関してだ。
北方海の守護天使こと更識 簪と弱小と言われた大洗商会を立て直した西住 みほ。
姉である楯無とまほはそんな簪とみほを溺愛しているのだ、そして自分達の妹こそ優れていると言って譲らない。
この2人の出会いはT島群でのシーサーペント掃討作戦の時だった。
「何を言っているんですか、そんなのみほが居たからに決まっている。」
「あらそんな事は無いわ、簪ちゃんのお蔭です、絶対に。」
作戦成功の功労者をめぐって楯無とまほは自分の妹がそうだったと言って大喧嘩を繰り広げたのだ。
よりによって妹達の前でだ、まあその結果簪とみほから説教を食らう羽目になったのだが。
もちろんそんな事で2人が懲りる事が無かったのは言うまでも無い。
兎も角楯無とまほはこれ以来顔を会わせる度にどちらの妹が優れているか当事者以外に意味の無い論争をしていた。
お陰で今では商会ギルド内では誰も知らない者の居ない話で2人の妹である簪とみほを悩ませている。
これはそんな困った姉である楯無とまほの話。
その日ギルド主催の会議が開かれる事になり商会長の楯無と西住商会長の秘書役としてまほが出席する事になった。
そして会議室で鉢合わせする2人はもちろん睨み合うが、流石に公式的な場でやり合う事は避ける。
一応商会長としての外聞を優先する楯無、母であり商会長であるしほの秘書役を務めなければならないまほ、だったからだが。
ちなみにこの2人の動向にギルド職員やしほが内心ハラハラさせられていたのは何時もの事でだった。
会議は無事終わりその後はパーティーが開かれる時になってこの2人がいよいよ対峙する時が訪れた。
「・・・・」
「・・・・」
じっと相手の顔を見つめ合う2人、既に周りに居た者達は遠方に退避済みだった。
「・・・お久しぶりですね西住隊長様。」
「ええお久しぶりです更識商会長殿。」
互いに敬意の籠っていない言葉で挨拶する2人。
体感的に数度も温度が下がった状態にギルド幹部や商会長であるしほを含めて誰も見ているしかなかった。
何しろこの状態になったら彼女達の妹でなければ収拾のしようがないからだ(2人には良い迷惑だが。)
「守護天使様の活躍は素晴らしいですね、まあ乗っている艦が優秀ですからね。」
そうりゅうの性能のお陰でお前の妹は活躍しているだよな、とまほ。
「いえいえ大洗商会もご活躍だとか・・・あそこは優秀な方が一杯おりますからね。」
お前の妹だって優秀な商会員が居るから活躍出来てんじゃねえのか、と楯無。
更に下がる体感的温度に最早彼女達の周りだけでなくパーティー会場全体が北方海奥海域の状態に陥っていた。
この時会場の室温を上げた方が良いんじゃないかと真剣に考えたと後に従業員が証言したらしい。
「まあそりゅうは優秀ですわね、とは言え艦長の簪ちゃんが居ればこそですわのに、西住隊長様が知らないとは驚きですわ。」
「確かに優勝な商会員達ですが隊長であるみほが居ればこそです、更識商会長殿は認識不足ですね。」
「「ふふふふ・・・」」
会場内をブリザードが猛威を振るっているとその場に居る者達は思い一刻も早く逃げ出したい心境だった。
とは言え2人の迫力の前に海千山千の商会長達やギルド幹部達さえも身動きを封じられており、前回同様時間切れを願うしかなかったのだが。
「でもこんなに思っているのに簪ちゃん最近冷たい?」
「みほのやつこの頃態度が冷たい?」
お互いふと漏らしたその一言で何時もと違った展開に事態は進む事になる。
はっとした表情を浮かべ2人は見つめ合う、だがそれは先程までとは様子が違っていた。
「そうなのよ簪ちゃん、この前連絡した時なんか、『姉さん私は大丈夫ですから商会長の職務を気にして下さい。』って。」
「そうだみほも、『隊長なんだから自分の戦車隊の事を第一にしてお姉ちゃん。』と言われたんだ。」
妹達や周りから見れば至極当然の話だと思うのだが、妹至上主義の2人にとってみればまったく違うのだ。
2人とっては商会長や隊長の責務など妹達に比べれば些細な事だと思っているからだ。
まあ当の妹達が聞いたら呆れて姉達を説教するだけだろう、何時もの如く効果が有るかは大いに疑問だったが。
「まったく私は簪ちゃんが居てくれれば何も恐れる物など無いのに・・・」
「みほが居てくれれば私に出来な事など無いのに・・・」
そう言った2人は再び見つめ合いそして手を取り合うとこう叫ぶのだった。
「みほは分かっていない!!」
「簪ちゃんは分かっていないわ!!」
そんな事はもちろん無い、みほにしても簪にしても自分達の姉の事は分かり過ぎる程分かっていた。
仕事以外、特に自分達妹に関しては完全にポンコツになってしまうと。
だが姉達はそれに気付く事も無く妹達は自分達姉の『愛』を分かっていないからだと考えたのだった。
「こうなったら簪ちゃんに私の愛を理解して貰わないと。」
「みほに私の愛を理解させなければ。」
2人は見つめ合い手を取り合いながら決意を新たにする、簪とみほにとって甚だ迷惑な事に。
ちなみに2人以外の面々は突然意気投合した事で会場内の温度が上昇し胸をなでおろしていた。
それが簪とみほに2人の意志が向いたお陰だと知りつつ・・・
これ以後更に楯無とまほのアプローチが更に過激になって簪とみほが頭を抱える事になるのはまあここに記するまでも無いだろう。