外観ははいふりで中身は宇宙戦艦の方だったりしますが・・・
北方海と中央海の接続海域に近いピアーズ島は数十匹のシーサーペントに襲われ窮地に陥っていた。
「このままじゃ・・・港に侵入されてしまいます西住殿。」
「・・・そうなれば我々の負け。」
指揮車であるIV号戦車の中で装填手の秋山 優花里が悲痛な声を上げ、操縦手の冷泉 麻子がその結果を冷静に述べる。
大洗商会の戦車隊は港の傍の丘に集結し砲撃でシーサーペント達の侵入を防いでいるがそれも限界に近づいていた。
「分かっています、でもここで諦める訳にはいきません。」
車長席に座っている戦車隊長の西住 みほは悲壮な思いで答えると通信手の武部 沙織に聞く。
「沙織さん全車の弾薬の状況はどうですか?」
「皆弾薬が切れそうだって、どうしようみぽりん。」
涙目になりながら沙織が報告してくる。
「砲弾は命中しているのですが、悔しいです。」
砲手の五十鈴 華が照準器を覗きながら本当に悔しそうに呟く、彼女は正確に砲弾を命中させているがその勢いは衰える事は無い。
だが次の瞬間シーサーペント達が今まで見た事の無い規模の水柱と轟音に包まれ多量の肉片と体液をまき散らし沈んで行く。
「みほさんこれは?」
華が驚いた表情でみほを見る。
「どうやら助けが来たようですね。」
「え!本当でありますか西住殿?」
「でも一体どなたが・・・」
砲塔左右のハッチを開けて顔を出してその様子を見た優花里と華が言う。
「た、助かったのみぽりん?」
茫然とした表情で聞いて来る沙織にみほが答える。
「ええもう大丈夫ですよ沙織さん。」
「それにしてもこれだけの威力・・・普通の戦車砲や艦載砲ではありえません。」
体液でどす黒くなった海面に浮かぶ大量の肉片を見ながら華が呟く。
「いえ出来る艦艇が1隻だけ有ります五十鈴殿。」
優花里がハッチから出て戦車上に立ちながら海上を指さす。
「え・・・あの船が?」
こちらに接近して来る船に気付き華が茫然とした表情で声を上げるのを見ながら優花里が言葉を続ける。
「セキュリテイーブルー直轄艦のやまとなら。」
ピアーズ島に優花里がやまとよ呼んだセキュリテイーブルー直轄艦である大型戦艦が接近して来る。
その姿は多少相違点があるがはいふりに出て来た大和型超大型直接教育艦にそっくりだった。
艦体のカラーはセキュリテイーブルーと言う事なのか青であった。
そして指揮は艦橋では無くそうりゅうと同じ仕様、ただ広さも乗員の数も倍になっている戦闘指揮所で執られている。
その戦闘指揮所の艦長席に座り指示を出しているのは北方海の守護天使こと更識 簪だった。
「ソナー及びレーダー、状況を報告して下さい。」
「シーサーペントの反応は全て消滅しました。」
簪の指示に複合ディスプレイを確認したセンサー担当が報告する。
「了解しました、監視はそのまま続行、大洗商会戦車隊に通信を・・・状況を聞いて下さい。」
「はい艦長、大洗商会戦車隊応答願いますこちらやまと・・・」
通信担当がピアーズ島の大洗商会戦車隊を呼び出し始める。
「やまとから通信が入って来た・・・こっちの状況を聞いているよ。」
沙織が通信機から振り向いてみほに伝える。
「やまとへ返信、戦車隊及び島の住人達は全員無事、救援を感謝すると。」
「OKだよ、こちら大洗商会戦車隊、やまとへ戦車隊及び住人に・・・」
通信機を操作して沙織がやまとへみほの言葉を伝える。
「戦車隊及び島の住人は全員無事の事です艦長。」
通信担当からの報告を聞いてほっとした表情を浮かべる簪。
「艦長予定位置に到着しました。」
操舵担当の報告に簪は表情を引き締めると次の指示を出す。
「両舷停止、島田隊長、陸戦隊の出撃準備を。」
「両舷停止。」
「了解、陸戦隊出撃準備に入ります。」
機関担当と陸戦隊指揮官である愛里寿が簪の指示を復唱する。
数十分後停止したやまと艦尾左舷側にある小型艇用ゲートが開き格納庫からクレーンに吊り下げられたアムトラックが現れる。
『アムトラック1より管制室へ発進準備完了しました。』
『管制室了解、これより降ろします。』
通信を交した後アムトラック1は海上に降ろされロックが解除されると発進して海岸へ向かう。
作業を終えたクレーンは一旦格納庫に戻ると後続のアムトラックを次々と引き出し海上に降ろして行く。
一方先に発進したアムトラック1は大洗商会戦車隊が待機して居る丘近くの海岸に上陸して停止するとハッチが開いて愛里寿が降りる来る。
そこにみほは優花里を伴なってやって来る。
「ご苦労様です、やまと陸戦隊長の島田 愛里寿です・・・みほ無事で良かった。」
「はい救援助かりました島田隊長、うん何とかね愛里寿ちゃん。」
形式通りのあいさつの後2人はほっとした表情を浮かべて微笑み合う、そんな彼女達の傍に後続のアムトラックが上陸して停止する。
「それでは説明と被害調査に入りましょう。」
「ええ。」
愛里寿と共にアムトラックに乗ったみほと優花里は一旦IV号戦車まで戻ると乗り換え街へ向かう。
街では不安な表情を浮かべた住人達が待っており、みほは愛里寿と一緒に危機は去ったと説明を行う。
その後島の各所を愛里寿はみほと共に見回り被害状況の調査を開始する。
2時間後愛里寿から簪に報告が入って来る。
「艦長、島田隊長から通信です、『調査を終了、港湾や蒸留施設等に問題無し、帰投する。』との事です。」
「了解です、大洗商会戦車隊の撤収の方は?」
「間もなく完了との事です。」
通信担当の報告に簪が頷くと指示を出す。
「大洗商会揚陸艦の出発準備が出来たら私達も一緒に帰投しますので準備を。」
「「「「はい艦長。」」」」
乗員達がそれぞれの作業を開始する姿を見ながら簪は呟くのだった。
「まさか私がやまとを指揮する事になるなんて思ってもいませんでしたね。」
そう簪が何故超大型直接教育艦モドキのやまとを指揮することになったのか?
それを説明するには数か月前に起こった出来事について語る必要がある。
「旧ドックの調査ですか?でもあそこは・・・」
久々に商会のある港に戻って来た簪は千冬に呼び出されギルド長室に来ていた。
旧ドック、10年以上前に閉鎖された所であり簪はそこで行方不明になった子供達を救助に行った事がある。
簪を呼び出したギルド長である千冬、そして本音とクロエと一緒になって。
あの後旧ドックは危険過ぎると判断され完全に立ち入り禁止となったと簪は商会長である姉から聞いていた。
「ああ閉鎖されている、だが最近束の奴が旧ドックの資料を見付けてな・・・興味あるものを発見したらしい。」
千冬は隣でドヤ側で座って居る束を苦笑しつつ見ながら説明してくれる。
「ちーちゃんの言う通り!あの旧ドックって思った以上に宝の宝庫みたいなんだよ。」
千冬の言葉を受け束は興奮した様子で話しだす、なおこの場にはクロエも来ており困った表情を浮かべながら簪の傍らに控えていた。
「特に11号ドックにある秘密が有るらしくてね、ぜひ調査したいんだよ。」
束は手に持っていた11号ドックに関する資料を簪に見せてくれる。
「一体何が有るのですか?」
「どうやら大規模なプロジェクトがそこで進められていたみたい、残念ながら何かまでは分からないんだけどね。」
簪の質問に束は残念そうに答える。
「・・・正直言って知りたくもないんだが、こいつが納得しないので困ってしまってな。」
ろくでもないものだとだろうとギルド長としては放置して置きたいらしいのだが束が調査を主張して譲らなかったと千冬。
「まあそう言う訳で簪ちゃんに調査して貰おうと言う訳なの・・・私もギルド長と同じで気が進まないのだけど。」
同席して居る更識商会長である楯無がそう言って溜息を付いて見せる、彼女としても妹である簪を危険に晒したくはないからだ。
「大規模なプロジェクトと言うのは気になるね、束さんそれについては分からないのですか?」
そんな中クロエ同様に簪に同行して来たシャルが束に尋ねて来る。
「残念ながらそのプロジェクトについての資料は見つけられなくてね。」
断片的な資料しか見付けられなかったと束は腕を組み残念そうに答える。
「まあそう言う訳で旧ドックの調査を更識艦長に依頼したい・・・馬鹿兎が迷惑を掛けさせて申し訳ないが。」
「ぐすぐす・・・酷いよちーちゃん、私は馬鹿じゃないよ。」
「直ぐばれるウソ泣きをするな、あとちーちゃんは止めろと言っている。」
何時もの掛け合いをする千冬と束を見て苦笑しつつ簪は姿勢を正し答える。
「分かりました織斑ギルド長。」
「それにしてもまた此処に来るとは思いませんでした。」
そうりゅうのマルチセンサーポストを通し共用ディスプレーに映し出される旧ドックを見ながら簪の傍らに控えるクロエが呟く。
「それについては私も同じ気持ちですねクロエさん。」
操艦しつつ簪もその時の事を思い出しながら言う、正直言ってまた来る事になるとは思わなかったと。
「ふ~んそうなんだ・・・僕だって分かっていたら参加したかったのに。」
「私もです。」
そんな2人に嫉妬したシャルと愛里寿がそう言って拗ねた様子を見せる。
「あの時は緊急だったので・・・シャルや愛里寿ちゃんには申し訳なかったですが。」
子供達の救助を急がなければならず時間が無かったと簪が弁明するとシャルと愛里寿は溜息を付いて答える。
「それは分かっているんだけどね。」
「その辺の状況は理解はしている積もりですが・・・」
当時シャルは巨大シーサーペント監視が凍結され、ギルドの研究室に籠っていたのであの騒ぎを知る事が出来なかった。
一方愛里寿も艦隊が組織される前だったので当然関り様が無かった。
そう考えれば仕方の無い話なのだが、シャルと愛里寿にしてみれば中々割り切れないのだ。
「そろそろ到着しますね、ソーナー及びレーダーに何か反応は有りますか?」
そんなシャルと愛里寿に苦笑しつつ簪は艦長席のディスプレーを見ながら確認する。
「双方とも有りません艦長。」
「浮上します、総員警戒配置に付いて下さい。」
そうりゅうを浮上させつつ簪が指示すると艦内にアラーム音が鳴り乗員達が配置に付いて行く。
そして旧ドック前面にそうりゅうは浮上して使われなって久しい港に接近すると接岸せず停止する。
桟橋の破損が激しくそうりゅうを接岸させるには危険が大きかったからだ。
停止したそうりゅうからボートを使い簪は上陸する積もりだった。
この上陸班(調査班)は簪が指揮を自ら執り、シャルとクロエに護衛役の愛里寿以下十数人がメンバーだった。
ボートが接岸し桟橋に上がった簪は静寂に包まれた旧ドックを見渡す。
「それでは行きましょう、全員警戒を忘れずに。」
愛里寿は頷くとL2A2サブマシンガンを持って先頭に立ち簪達はその後に続いて旧ドックの中に入って行く。
旧ドックの中は暗くあちこち崩れた場所が有り、簪達は懐中電灯を点け慎重に進んでいた。
「11号ドックはかなり奥になりますね・・・通路がちゃんと残っていると良いのですが。」
束から旧ドックの地図データを渡されていたが、内部は長期間放置されており真直ぐにたどり着けるか簪は懸念していた。
「それもありますが地図が正しいか心配です、旧ドックのデータは欠損が多くて正直正確性に疑念がありますから。」
クロエが地図データをタブレット端末に映し出しながら簪は別の懸念を口に出す。
旧ドックのデータについてはクロエが言う通りこの10年の間に消されていたり行方不明になっているものが多い。
原因は例の如く役所仕事の所為で、お陰で満足な調査がなかなか行う事が出来なかったのだ。
「もしそうであるのなら調査をその時点で中止し戻る積もりですが・・・」
出来ればそうならない事を祈っていた簪の願いが通じたのか、簪達は迷う事も無く11号ドックに辿り着く。
「・・・もしかしてこれで幸運を使い果たしたって事無いよね。」
扉の前に立ったシャルが縁起でもない事を言い出す、まあここまで順調過ぎたからだったのだが。
「笑えませんねシャルロット様。」
「何があっても簪は私が守るから安心して。」
シャルの言葉にクロエが深い溜息を付きながら呟き、愛里寿がアピール(?)して来る。
「では早く済ませましょうシャル、クロエさん、島田隊長お願いします。」
簪は苦笑しつつ扉の開閉レーバーに手を掛けて回そうとするが、まったく動かない。
「鍵が掛かっているみたいですね、クロエさん開けられますか?」
下がった簪の代わりに扉の前に立ったクロエが鍵を調べるが暫くして振り返って答える。
「完全に壊れていて無理みたいです、壊すしかありませんね。」
「仕方ありませんね、お願いします島田隊長。」
愛里寿は頷くと連れて来た隊員に指示を出す。
「小型爆薬を使用して鍵を破壊、安全を第一に。」
指示を受けた隊員は持って来た爆薬を鍵にセットすると愛里寿に報告する。
「セット完了です隊長。」
「了解です、皆下がって下さい。」
安全距離まで下げる様指示を出す愛里寿に従い簪達は扉から離れる。
「点火。」
「点火します。」
距離を取った事を確認した愛里寿が命じると隊員がリモコンのスイッチを押す。
鈍い爆発音が暗闇になれた目には眩しい光を上げ響く。
愛里寿を見ると頷いてみせたので扉の前に全員で戻ると、半開きの状態になっているのを簪は確認する。
「さて何が出て来るのやら・・・全員警戒を忘れない様に、では突入します。」
扉を開け簪達は11号ドックに突入する。
「何も見えませんね、まあ予想した通りですが。」
クロエが言う通り中は深い暗闇に覆われ何も見えなかった、懐中電灯を向けても光は暗闇に吸い込まれるだけだった。
「かなり広い空間みたいですね、照明弾を使ってみましょう。」
簪は腰の後に付けていた照明弾発射銃を抜くと安全装置を外し上に向ける。
「では発射します。」
引き金を引くと照明弾が打ち上げられ数秒後周りが明るくなる。
「「「「!!??」」」」
そこに在ったのは巨大な船いや大口径の砲を乗せた砲塔を持つ戦艦らしきもの、巨大すぎて一部分しか視界に捉えられない。
やがて照明弾が消え暗闇が戻ってくる、だが簪達は受けた衝撃により言葉を発する事が出来ないでいた。
「・・・クロエさん今のは?」
「はっきりは言えませんが戦闘艦ですね、でもあれほど巨大な艦は私は見た事がありません。」
我に帰った簪の言葉にクロエが信じられないと言った表情を浮かべ答える。
「どうやらどんでもないものを見付けたみたいですね。」
普段通りの口調で愛里寿が今の状況を述べる、もっとも声には微かな震えが入っており彼女も動揺していない訳ではなかった様だが。
「取り敢えず一旦戻った方が良いみたいだね・・・持って帰る訳にもいかないしね。」
シャルの言葉に簪は頷くと次の行動を指示する。
「数発照明弾を上げますので写真をお願いしますクロエさん。」
「はい簪様。」
残っていた照明弾全て使い取れるだけの写真を撮った簪は11号ドックを出て急いでそうりゅうに戻ると港に向かったのだった。
1週間後簪達は千冬と束と共に旧ドックに本格的な調査の為やって来た。
「織斑ギルド長、発電船からのケーブルの接続完了しました。」
11号ドックの大型ゲート前の海面に止められたギルド所属の発電船から引かれた電源ケーブルの接続が終った報告が千冬に上がる。
「よし・・・発電開始、束そっちは大丈夫か?」
ドックの管制室で照明システムを操作している束に千冬が確認する。
『こっちはOKだよちーちゃん。』
「よし照明を点けてくれ。」
数秒後11号ドック内が明るく照らされ簪達をそこに有る物の姿を見る。
「これは・・・」
千冬はそれを見上げて絶句している。
「これ程とは思いませんでしたね。」
「はい想像を超えています。」
簪達もあの時見ていたとはいえやはりはっきりとその姿を見ると驚きは隠しきれなかった。
もっとも簪は千冬達とは別の意味で驚いていた、どう見てもそれが日本海軍の戦艦大和に見えたからだ。
「・・・いえ敢えて言えばはいふりの超大型直接教育艦の方ですね。」
「何か言った簪?」
「いえ気にしないで下さい。」
この世界に来る前に見ていたアニメに登場した艦ですとは言えず簪は誤魔化す様に首を振って答える。
「こんな大型の戦闘艦が此処に隠されていたんですね。」
護衛の為の部隊を率いて来ていた愛里寿がその戦艦を見上げながら言う。
「うんこれには束さんもびっくりだよ、大規模なプロジェクトってこれの事だった様だね。」
管制室から千冬達の所に戻って来た束が同じ様にその戦艦を見上げながら言う。
「問題は何故そのプロジェクトが表に出て来ていない事だが・・・」
これほどの巨大な艦を建造したのなら何らかの情報が残されている筈なのにと千冬は疑問を呈する。
「そのプロジェクトについて戻ってから再度調査してみたのですが新たな情報は得られませんでした。」
持って来たタブレット端末を見ながらクロエが報告する。
「そうならこいつを調査すれば何か分かるかもしれないねちーちゃん。」
「ちーちゃんと呼ぶな・・・まあ確かにそうだな、早速開始しよう。」
千冬は簪達を見て頷くと先頭に立ってその戦艦に乗り込んで行く。
「ふふふ・・・技師として腕がなるわ。」
不気味な(笑)を浮かべて突撃しようとする束の首根っこを千冬が捕まえると苦言を呈する。
「張り切るのは良いが暴走するなよ束。」
「嫌だなちーちゃん、私は何時も冷静だよ。」
「どの口が言うか、お前は暴走した事しか無いだろうが、クロエこの馬鹿が余計なことしない様にしっかり見張ってくれ。」
ドヤ側で答える束に深い溜息を付き千冬はクロエにそう頼む。
「お任せください千冬様、束様よろしいですね。」
「イエスマム!」
クロエの視線を受け背筋を伸ばしながら青い顔で答える束に簪達は苦笑しつつ千冬と束に続いて艦内に入って行く。
こうして廃棄されたドックに残された巨大戦艦の調査が始まったのだった。
調査の結果、この巨大戦艦はとある商会が対シーサーペントにおいて主導権を握る為建造したものだったらしい。
だが技術力や資金が足りず商会は建造を途中で断念、しかし解体する資金も無く放置され忘れ去られてしまったと分かった。
「だから私としてはそのままにしておくつもりだったんだが・・・」
千冬が深いため息を付くと隣でドヤ顔している束を見ながらギルドの会議室で集まった者に説明を始める。
「束が言うには各部に最新技術を取り入れば現在でも通用する艦になるらしい。」
その説明に簪は束がお得意の魔改造をする積もりだなと思い内心苦笑する。
「そしてこの戦艦をセキュリテイーブルーの直轄艦として運用してはどうかと更識商会長から提案が有った。」
千冬を挟んで反対側に座る更識商会長の楯無も何故かドヤ顔だった。
楯無にしてみれば簪がそうりゅうより大きく安全である戦艦で、巨大シーサーペント対応から外れるならその方が良いらしい。
「確かに様々な事態に対処出来る遊撃隊として運用出来る直轄艦隊があればと思っていたが・・・」
派遣艦隊や他の海域を担当する艦隊以外にセキュリテイーブルー指令部が直接動かせる艦隊を千冬は求めていた。
他の艦隊を時に補完し特別な事態が有った時に直ぐ対応出来る事はセキュリテイーブルーとって理想的だと簪も千冬から聞いていた。
「とは言え艦隊を想定していて単艦でやる積もりでは無かったが。」
「この戦艦なら一個艦隊分の能力を単艦で発揮出来るよ、搭載スペースも十分だから陸戦隊を乗せられるしね。」
束の発言に愛里寿の目が光りグッと手を握るのを傍に居た副隊長兼参謀のルミが気付き複雑な表情を浮かべる。
「直轄艦として運用する為の根回しも予算もOKよ。」
「とまあそう言う事で更識艦長、察しの通りこの戦艦の艦長を頼みたい。」
全ての外堀を束と楯無に埋められてしまった千冬は溜息を付きつつ簪に艦の指揮を執ってくれる様に要請する。
「私としては構いませんが、巨大シーサーペントへの対応はどうされるのですか?」
自分のスキルなら戦艦の指揮は問題無いし、元男として大和を動かせるのはロマンだと簪は思うが重要な任務がどうなるか気になった。
「それについてだが、そうりゅうの方は相川艦長指揮下の乗員達に任せ、名無し猫の方は新たに養成した者達を当てる。」
以前から千冬はそうりゅうと名無し猫の運用を簪達だけに任せるのは問題だと考えていた。
だからギルドの養成学校や海洋学校と連携して乗員の養成を行っていたのだ、まあこんな事態を想定した訳では無かったのだが。
「それから直轄艦にも養成の終わった乗員達を配属させるので更識艦長任せたぞ。」
新たな体制で付近の哨戒と巨大シーサーペント対応を引き続き派遣艦隊が行い、簪達を遊撃部隊として運用したいと千冬。
「北方海だけでなく今後は中央海や南方海との連携も遊撃部隊に担って貰う積もりだ。」
思っていたより大きな話になって来たなと簪は内心苦笑しつつ千冬の説明を聞く。
「束、戦艦の改修にはどの位必要だ?」
「う~ん3ヶ月あれば十分だよ。」
ピースサインをしながらドヤ側で答える束を見て千冬は溜息を付くとクロエを見て言う。
「引き続きこの馬鹿の監視と進捗管理を頼むぞクロエ。」
「はいお任せください千冬様。」
「もう~心配し過ぎだよちーちゃん。」
「お前に関しては心配し過ぎる位がちょうど良い。」
そんな束の能天気な台詞を切り捨る千冬だった。
この後戦艦の名前と新設される陸戦隊の協議が行われ、艦名はやまと(もちろん簪の提案)に決定した。
そして陸戦隊については当然愛里寿が名乗りを上げ、議論が沸騰したが後日島田商会長と相談の上で判断する事になった。
まあ娘に甘い島田商会長の事だから最早決定した事に変わりが無いとはその場に居た者達の認識だったが。
その後簪は新旧の乗員達と共にやまと運用の為の訓練を3ヶ月掛けて終える。
愛里寿も引き継ぎと陸戦隊の編成を嬉々(ルミ談)として終え意気揚々とやまとに乗艦して来た。
一方当然の様にシャルは新たな研究班、クロエは技術班を率いて乗り込んで来る。
こうしてセキュリテイーブルー直轄艦やまとは活動を開始し、その最初の任務がピアーズ島への救援任務だった。
「艦長、陸戦隊の収容及び揚陸艦の出港準備完了です。」
やまとの艦長席でここまでの事を思い出していた簪に乗員が報告して来る。
「それでは帰港しましょう、警戒態勢は維持したままでお願いします。」
揚陸艦を引き連れて帰港して行くやまとをピアーズ島の住人達は見えなくなるまで手を振り続けながら見送るのだった。
17:00 ピアーズ島における大洗商会救援任務終了