北方海の守護天使   作:h.hokura

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季節外れの話になってしまいました。



No.09-退避港の幽霊ー

何処までも続く水平線、見渡す限り他の船は見えない。

「・・・・・」

見ていた双眼鏡を下ろす。

「艦長。」

司令塔上でそうやっていると、ハッチを潜って乗員が上がってくる。

そうりゅうの機関・ダメコン担当の娘だった。

「発電機の応急修理完了しました・・・やはり通常の3分の1がやっとの様です。」

その報告に私は溜息を付いて答える。

「そうですか・・・そうするとろくに動けないですね。」

「はい、精々2ノット位で航行するのが精一杯です。」

機関・ダメコン担当の娘も同じ様に溜息を付いて報告する。

「兵装とセンサーの方はどうですか?」

「魚雷発射管と噴進弾の発射装置は使用不能です、使えるのは後部甲板の艦載砲と機関砲ですね。」

私は後部甲板の艦載砲と司令塔の機関砲を見る、これでは満足に戦えそうも無い。

「あとレーダーが回復しました、ソナーの方は電力不足な上に衝撃で回線がやられたらしく修理は望めそうもありません。」

「無線の方は?」

「そちらの方もソナー同様修理は望めそうもありません、一応緊急救援信号システムは作動してますがあれでは・・・」

「有視界まで来ないと駄目ですね・・・」

正に最悪な状況だった、まあ先程までの何も出来ない状況に比べればましかもしれないけど。

 

何故そうりゅうがこの様な状況になってしまったか?

それは今から数時間前に起こった事が原因だった。

 

私達はそうりゅうの新装備の試験の為、まほろばと共に港からかなり離れた海域に来ていた。

試験そのものは順調だったが、そこを数匹のシーサーペントに襲撃されてしまったのだ。

そうりゅうはその時試験中だった為動けず、まほろばが対応してくれのだが、運が悪い事に一匹が迎撃を突破して来たのだ。

辛うじて潜水して直撃は避けられたのだが、至近距離を通過された衝撃で艦はコントロールを失い、海底に叩きつけられ数百メートルも滑走する羽目になった。

ようくもまあ艦体がバラバラにならなかったものだ、この辺は束さんに感謝すべきなのかもしれない。

だがまったく無傷という訳にはいかなかった、特に致命的だったのは燃料電池が浸水で使用不能になってしまった事だった。

これによりそうりゅうは全ての電力供給を絶たれ海底で身動きが出来なくなった。

その後予備電源を回復させやっと浮上は出来たのは1時間も経っての事だ。

だが直後の点検で発電機が故障している事が判明、浮上しても電力の回復が出来なかった。

お蔭で航行も兵装とセンサーを動かす事も出来ず、そうりゅうは洋上に浮かぶ鉄の塊と化した。

私は発電機の応急修理を急がせた、こんなところを襲われたら対処出来ないからだ。

そしてようやく応急修理が終ったのだが、結局最悪の状況なのは変わりが無かった。

何しろまともに動けず、情報を満足で得る事も出来ず、戦う力も殆ど無いのだから。

 

見張りを別の娘に頼み私は発令所に帰って来た。

電力不足の為、発令所の照明は非常用のみなので暗かった。

「レーダーの方はどうですか?」

私はセンサー担当の娘に聞く。

「作動は問題ありません、現在周囲に船影無し。」

戦闘の混乱でまほろばとは離れ離れになってしまっていた。

今頃必死に捜索しているだろう、せめて通信が出来ればいいのだけど。

そんな時、インターホンが鳴りセンサー担当の娘が出る。

「艦長、見張りからですが島影らしきものを確認したそうです。」

「レーダーの方はどうですか?」

センサー担当の娘が複合ディスプレイを操作しながら答える。

「こちらも確認しました、前方30キロです。」

「マルチセンサーポスト作動。」

私の指示で発令所前方にある共用ディスプレイに映像が映し出される。

最初は小さく細かい所は分からなかった島は、画像が自動的に拡大されると明瞭になる。

さほど大きな島では無かったが、港と施設が有る様だった。

ただし港には船は見えず、施設の方もかなり荒れ果てているけど。

「退避港ですね、もっとも使われなくなって大分だっている様ですが。」

退避港とは嵐やシーサーペントの襲撃などで漁船や貨客船が一時的に退避する港の事だ。

多分近くに漁場が有った頃のものだろうけど、何らかの理由、シーサーペントの大量発生、で廃棄されたものかもしれない。

そうりゅうの修理は期待出来そうも無いが、海上を行く手も無く彷徨うよりはましかも知れない。

「ここに一時的に退避しましょう。」

最悪、陸地へ逃げればシーサーペントからは逃れられる、もっともそんな事は考えたくも無いけど。

「「「了解です艦長。」」」

乗員の娘達の復唱を聞きながら、私は港にそうりゅうを入港させる。

 

『艦長、発電機と無線機ですが破損が酷く使い物になりそうもありません。』

接岸後、機関管制室の娘達に施設の状況確認に行って貰った。

余り期待はしていなかったが、やはり放棄されて大分経っている様で、施設の大半は使用不能だった。

「分かりました、帰って来て下さい・・・お疲れ様。」

無線を切り私は溜息を付く、まあ雨露を避ける位は出来そうだけどやはり落胆は隠せない。

「取り合えず救援が来るまでここで待機します。」

こうして私達はこの退避港で一夜を明かす事になった。

 

日が落ち周囲は真っ暗になって行く。

食事を終えた私達は交代で当直を務め、休むシフトを決める。

そして深夜を迎えた頃・・・

「・・・!?」

妙な気配を感じて眼が覚めた私は艦長室のベットから起き上がり周囲を見渡す。

艦長室にはこれといって何も無いのだが・・・気になって眠る気にならない。

仕方なく私は艦長室を出ると発令所に向かう。

「どうかされましたか艦長?」

発令所に来た私を見て直の娘が聞いてくる。

「ちょっとね・・・何もありませんか?」

「はい、今のところはレーダー及び見張りに何も・・・」

私はやはり気の所為かなと思った時。

「「「艦長!・・・ああここに居た。」」」

休んでいる筈の娘達が発令所に駆け込んで来た。

「どうしたんですか?そんなに慌てて。」

何だか全員顔が青い、震えている娘も居る。

「えっと艦内に変なものが・・・」

 

居住区画に私達はやって来た、そこには就寝していた娘達全員が不安そうな顔で待っている。

「見たのは全員ですか?」

「いえ、ただ変な気配を感じたの全員ですが。」

私の質問に一人が答える。

「居たのよ!そこに影みたいのが。」

「落ち着きなさいってば。」

座り込んで半泣きなっている娘を他の娘が落ち着かそうとしている。

それを見ながら先程答えてくれた娘が状況を説明してくれる。

「最初はトイレに行った娘が通路で何か見たと戻って来て・・・見間違いだと思った他の娘が確認に行ったらしいんですが。」

取り乱している娘を見ながら続ける。

「通路で、彼女が言うには・・・影を、それも人の様な・・・」

周りに居た娘達も顔を青くして聞いている。

「他に見た人はいますか?」

私は皆を見渡しながら聞く。

「先程言った通り、はっきり見たのはこの娘だけです、ただ・・・」

「変な気配は皆感じていると?」

そこに居る者が全員頷いてみせる。

「・・・・」

ここに来る前に発令所で艦内の警備状況を調べたのだけど、ハッチは全て閉鎖されており、何者かの侵入の形跡は無かった。

見たのは一人だけの様だけど全員が何か感じたというのは偶然とは思えない、第一私自身だって。

そんな中一人の娘が遠慮がちに話しかけてくる。

「あの・・・艦長、実は私着いた時から妙な感じを受けていて。」

「着いた時から?この港にという事ですか?」

彼女が頷いて続ける。

「私、その霊感が強いのか時々そんなものを感じてしまう事があって・・・」

「何処からか分かりますか?」

「多分ですけど施設の後ろにある森の中からだと思います。」

施設からそれ程離れていない所に森があった事を私は思い出す。

その場に居る者に沈黙が落ちる。普段なら笑話になってそうだが、この時点で笑おうとする者など居なかった。

「分かりました、皆さんは待機していて下さい。一人が怖いなら皆で寝ても今夜は構いません。」

そう指示すると私は艦長室に戻りクローゼットからジャケットを引っ張り出し羽織ると、通路に出て設置してある非常用BOX、緊急時に使用する物が入っている、から大型ライトを取り出す。

「艦長・・・まさか?」

霊感のある娘を含めた3人の娘達が追いかけて来て、私の様子を見て驚いた表情する。

「はい、確認してきます。」

「「「そ、そんな・・・夜が明けてからでも。」」」

心配そうに私を見て3人の娘達が言う。

「このままでは皆が不安で眠れないでしょう、今後の事を考えると早めに確かめる方が・・・」

下手をすれば翌日以降に影響が及ぶ恐れがある、こういう事は早めに解決すべきだと私は思ったのだ。

「それなら私も同行します。」

霊感のある娘が申し出てくる。

「いえ貴女は・・・」

「なら私も行きます。」

残った二人のうち一人が同じ様に申し出てきて私は戸惑う。

「二人の気持ちには感謝します、でも何があるか分からない、危険ですよ。」

「それを言うなら艦長だって・・・私が居れば気配が分かる分何とかなります。」

怖さを押し殺しながら霊感のある娘が言う、確かに彼女が居れば気配を察知しやすいのは確かだけど。

「そうですよ、艦長だけに危険な事をさせられません。私これでも腕に覚えがあります、連れって下さい。」

護身術を習っていると彼女は言うのだけど、果たして今回の相手に効果あるかは・・・

とはいえ二人共引くつもりは無い様で・・・結局私が折れるしか無かった。

「分かりました二人共付いて来て下さい、貴女は戻って皆に伝えて下さい。」

残った一人に皆への説明を頼む。

「はい・・・3人とも無理をしないで下さいね。」

「もちろんですよ、では二人共出かける準備を、10分後に前部ハッチ下に集合です。」

「「はい。」」

私は二人の返事に頷くと、その場で別れ発令所に向かい、当直の娘達にも伝える。

もちろん反対されたが何とか説得し、渋々だが納得してもらった。

10分後前部ハッチ下に行くと二人が私同様ジャケットを羽織って待っていた。

「では行きましょう。」

二人は硬い表情のまま頷く。

「・・・今更ですが気が進まないなら残っていても構いませんよ。」

だが二人は首を振って答える。

「大丈夫です艦長。」

「はい、行きましょう。」

健気な二人に思わず微笑んでしまう、それと共に信頼されているんだと今更ながら思う。

ならその信頼を裏切らない様にしないといけない。

ハッチから出た私達は閉じてロックを確認すると、臨時に掛けられた桟橋を渡って艦を降りる。

辺りは暗く静かだ・・・いや静か過ぎるのか?

私達は無言で頷き合うと持ってきた大型ライトを点灯し森に向かって歩き始める。

「艦長・・・」

霊感のある娘が立ち止まり前方を見る。

「気配を感じますか?」

私の問いに彼女は頷く。

「木の間をちらちらと動いていて・・・何だか私達を・・・」

「誘っていると?」

頷く彼女を見ながら私は森の方にライトを向ける。

「誘っているって何で?」

付いて来たもう一人の娘が聞いてくる。

「それは分かりません・・・何かを伝えたがっている様な?」

3人はライトで照らされる森の木々を見る・・・伝えたがっている、何を?

「行って見ましょう、それを確かめる為に来たんですから。」

森へ向かって歩き始める私に、霊感がある娘が躊躇いがちに話掛けてくる。

「その・・・艦長手を繋ぎませんか?」

その提案に私は彼女の顔を見返す、手を繋ぐって何でまた・・・

「不安な時、手を繋ぎ合うと少しは和らぐと思うので。」

それは非常に恥かしいのだけど、真剣な彼女の表情を見て私は溜息を付き手を差し出す。

「それで不安が和らぐのならいいですよ。」

そんな顔をされては断りきれないじゃないですか、私の答えに彼女はほっとした様に手を握ってくる。

「それなら私も・・・」

もう一人の娘はそう言うと霊感がある彼女の反対側の手を握ってくる。

「構いませんよ、艦長よろしいですね。」

今更止めろとは言えず私は苦笑して頷く、しかしこうやって3人で手を繋ぎあっているって・・・

女の子達が事ある毎にこうするのは知っていたけど、自分もやることになるとは思わなかった。

私達3人は手を繋ぎながら森に入っていく。

森の中は獣道くらいしか無く、人の通った様な痕跡はまったく無かった。

「・・・さっき何かを伝えたがっているって話でしたけど一体何の為なんでしょう?」

「それは聞いて見るしかないでしょうね・・・話してくれたらですが。」

その私の答えに二人はじっと見てくる。

「艦長って全然怖がっていませんよね?流石ですね。」

霊感がある娘が感心した様に言い、もう一人の娘も同じ様な表情を浮かべている。

「現実の方が余程怖いと思っているからかもしれませんね。」

というよりも私の場合、このゲーム世界に引き込まれ、しかも性別を変えられてしまったのだ。

いわば自分という存在を否定された様なものだ、私にはそっちの方が余程恐ろしいと思う。

「・・・艦長!」

霊感がある娘が私の手をぎゅっと握ってくる。

「どうしました?」

「気配がそこで突然消えてしまって・・・」

彼女が視線を向ける方を私は見る、木々がそこで途切れている様に見える。

一旦手を離してもらい慎重に近づく私、一体何が?

「え!?」

次の瞬間足元が崩れ私は身体が落ちていくの感じる。

「「艦長!!」」

慌てた二人が腕を掴んで引き止めようとしてくれたが、勢いが付いて様で皆で一緒に落下してしまう。

「「「きゃああ!!」」」

二人だけでなく私まで女の子様な、まあ女の子なんだけど、悲鳴を上げ落下して行く。

永遠に、実際は数十秒だったのだろう、落下した感覚後、私は地面に着地し前方に放り出される。

そして何か硬い物に顔面を強かにぶつけてしまい意識が遠のいてしまった。

「艦・・長・・艦長・・・しっかりして下さい。」

肩に手を置いて呼びかけてくる声に私は何とか意識を取り戻す。

「だ、大丈夫です・・・二人は?」

「私達は大丈夫です・・・けど・・・」

・・・何かあったのだろうか?頭を振ってぼやけている目をはっきりさせ、目の前の物を見る。

「これは・・・?」

私がぶつかったのは岩かと思ったのだが、前に有るのはそんな物では無かった。

思わず後ずさった私はそれが何であるか認識して驚愕する、他の二人の様に・・・

それは・・・あちこちが破損しているが、れっきとした漁船だったのだ。

私達は暫し呆然とそれを見るのだった。

 

翌朝。

捜索していたまほろばが私達を発見してくれた。

私は直ぐに姉に更識商会の会長に連絡を入れ、漁師ギルドに伝えてもらった。

深夜見つけたあの漁船の事を・・・

数時間後。

漁師ギルドの漁業監視船がギルド長を乗せて到着する。

「間違い無いですな、行方不明になっていた船で。」

何時も私を耳鳴りにする豪快な声は今は無い、その表情は安堵と後悔が混じったものだった。

ギルド長の話によれば半年前に近くの海域で遭難し消息不明になった漁船らしい。

捜索はされたらしいが発見する事は適わなかった、とギルド長は肩を落とす。

この半年の間、ギルド長は悔いていた、見つけ出す事が出来ず。

「まあこれで家族に報告できますな、最悪な結末になりましたが。」

操業中にシーサーペントに襲われ、船は破損し乗っていた漁師達も深い傷を負ってしまったのだろう。

辛うじてここに辿り付く事は出来たが、危険を避ける為、船を港とは反対の外から見えない場所に止めたのが裏目に出て、捜索隊も発見出来なかった。

そうしている内に傷を負った漁師達は次々と亡くなってしまい・・・

「天使殿が偶然発見してくれたお蔭で肩の荷が降りました、ありがとうございます。」

ギルド長は頭を下げて礼を言ってくれるのだが、私はそれに首を振って答える。

「私にはそれが偶然とは思えないですね。」

私はギルド長にその夜にあった事を話す、妙な気配を追って行って漁船を発見した顛末を。

「・・・なるほど、それを唯の偶然と片付ける訳にはいきませんな。」

突飛な話で引かれるかもしれないと思ったのだけど、ギルド長はそうは思わなかった様だ。

「天使殿に見つけてもらいたくて呼び寄せたのかもしれませんな。」

漁船の有った場所を見つめながらギルド長は呟く、それに私も黙って頷くのだった。

 

その後、そうりゅうはまほろばの機関員の娘達の支援で発電機の機能を取り戻す事が出来た。

これで何とか浮上航行で港には帰られる目処が立ち、私達は安堵する事が出来た。

「全員黙祷。」

私の号令で、監視船とそうりゅう、まほろばの乗員達が黙祷を捧げる。

出発の準備が出来た時点で、私達は亡くなった漁師達の冥福を祈る事になった。

それで号令を掛ける役を仰せつかったのだけど・・・何故私が?

「天使殿に祈ってもらえたらならあいつらも天国にきっと行けるでしょう。」

どや顔でギルド長は言いました、いや彼だけでなくうちの乗員達に漁師連中までが・・・

私は天使と言われているだけで、本当の天使では無い筈なんですが。

そんな私の思いを他所に祈りを終えた人々は3隻の船で港を目指して出発するのだった。

 

11:50

装備試験終了。

追記 遭難した漁船を発見、収容作業を支援。

 

 




一人で書いている時、ちょっとした物音にびっくとしたりして(笑)。

次回は、IS主人公の登場予定です。

それでは。
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