依頼を受けた織斑 一夏達を水晶島に連れてゆく事になった私は今更ながら、この仕事を請けるべきではなかったと思い始めていた。
まほろばの艦橋でもめているISから来たヒロイン2人、セシリア・オルコットと凰 鈴音を見ながら・・・
ちなみに今回私が指揮を執っているのはそうりゅうではなかった。
そうりゅうは前回の航海で受けたダメージが予想以上に酷く、長期のドック入りを余儀なくされたのだ。
この為、巨大シーサーペントに対する、監視及び調査は一時中断され、ギルドに所属する商会が持ち回りで海域を哨戒する体制に変更された。
こうして私はまほろばの艦長に復帰する事になる。
あと、調査の一時中断で一番落胆したのがシャルだった、まあそれが私と会えなくなるという理由なのには困ったしまったけど。
それにしてもあの2人、よくもまあ揉める事が多い、いや揉めるというより張り合うといった方がいいかもしれない。
それはまほろばに乗った直後から始まった・・・
まず揉めたのが部屋割りだった、まほろばには2人1組の個室があり、2人と1人に別れてもらうのだが、どちらも織斑 一夏との同室を希望したのだ。
「一夏の世話なら私がするわ。」
「いえ、それは私がいたしますわ。」
居住区画に案内したところで、どちらが一緒の部屋にするかで揉めたのだ。
結局、私が「風紀上男女一緒の部屋は認められません。」と言って、女性2人で同室にさせた。
もちろん2人共大いに不満そうだったが、艦の上では艦長の権限が絶対という事は彼女達も知っている筈だから文句は言わせなかった。
この後も2人は何かと騒ぎを起こし、私を悩ませ続けた。
そして今も艦橋で始めたのだ。
島に到着後の上陸場所について聞くため、3人に来てもらったのだけど・・・
凰 鈴音は目的の施設近くを、それなら早く着けるものの道はかなり険しく危険が多い、を主張。
セシリア・オルコットは遠いが道は比較的平坦で危険は少ない、但し時間は多く掛かる、を提案。
肝心の織斑 一夏そっちのけで揉め始める始末だ、そのうち提案の中身からずれ始め、日頃の彼に対する態度について言い争いになってゆく。
流石に織斑 一夏が不味いと思い止めようとするも2人に一喝されてしまい更にヒートアップしてしまう。
艦橋に居た相川副長と乗員達は呆れ顔だ。
その中、私はイライラが次第に高まってゆくのを抑えきれなくなっていた。
「大体鈴さんは一夏さんに強く当たりすぎですわ。」
「一夏にははっきり言った方が良いに決まっているわ。」
「2人共今は上陸場所について・・・」
限界だった、私は艦長席から立ちがると3人を睨みつけて叫んでしまう。
「さっさと決めて下さい、決まらないのなら適当な所でボート事放り出してあげます。」
突然の私の怒りに、3人だけでなく乗員の皆も驚いた表情を浮かべて固まってしまう。
鎮まり返る艦橋、気まずい空気が流れる中、暫らくは誰も口を開こうとしなかった。
「・・・御免艦長、ちゃんと結論を出して伝えるから。さあ2人とも行こうぜ。」
織斑 一夏はそう言うと、唖然としている2人を連れて艦橋を出て行った。
それを見て私は一旦艦長席に座ったが、再び立ち上がる。
「相川副長、暫らく指揮をお願いします。何か有ったら知らせて下さい。」
「了解です艦長・・・その・・・怒られて当然だと私も思います。」
どうやら相川副長達にも心配させてしまった様で、私はとても恥かしくなってしまった。
「ありがとう相川副長。」
そう言って私は逃げる様に艦橋から出てゆくのだった。
私は一旦艦長室に向かおうとしたが、風に当たりたくなり甲板に出る。
そして水平線を眺めながら激しい自己嫌悪に襲われていた。
酷く感情的になってしまった事でだ、最近たまにこうなるのだが・・・
例えばあの巨大シーサーペントと対峙した時もそうだった。
何だか最初の頃の様に周りを見れなくなっている、最近の私は更識 簪そのもの。
彼女として思考し行動する、最早ゲームをプレイしているとは言えなくなっている気がするのだ。
さっきの事だって、ああ何時も通りな2人だな、と第3者的に見れば怒る事など無い筈なのに。
そんな事が続いた為か最近私は妙な考えに囚われる事が多くなった。
自分がゲーム世界に来て性別を変えられた、これは更識 簪という少女の妄想の産物ではないのかと。
お前はこの世界の更識 簪なのだ、いい加減そんな妄想は忘れろ、そんな事を言われている様な感じだ。
何だか自分が更識 簪にどんどん取り込まれ一つにされて行きそうでとても怖かった。
自分の身体を抱きしめ、私はその恐怖を払おうとする。
こんな思いをするなら受け入れてしまった方が楽ではないのか?
私は首を振ってその考えを頭から追い出す、このままでは永遠に思考のループから逃げ出せなくなってしまう。
それにこれでは艦の指揮に障害が出てしまう、仮初とはいえ私は乗っている娘達の艦長なのだから。
「あれ、更識さん?」
そんな私に声を掛けてくるのは織斑 一夏だった。
「って大丈夫なのか?顔青いぞ。」
余程私の状態が酷く見えたのか彼が心配そうに聞いてくる。
「大丈夫ですよ、少々疲れただけですから。」
そっけないかなとは思う、これではアニメで2人が出会った時みたいだなと内心苦笑する。
あの簪の様にやがて私も彼に心を開いてゆくのだろうか?想像出来ない話だ、今は・・・
「そうか・・・ああ、さっきは本当に申し訳なかった、二人にはよく言い聞かせておくから。」
効果があるか疑わしいが、謝罪の言葉が真剣なのは嘘ではない事は私にも分かる。
「もういいですよ、私も感情的になり過ぎていましたし。」
最近の恐怖感からいらついて当たってしまった事は確かだったので彼の謝罪を受け入れる。
「そうかありがとう更識さん、いや艦長。まああの2人も俺の事を考えてくれているのは分かっているんだけど。」
そう思っているならもう少し彼女達の気持ちに答えてあげれば良いと思うのだけどそれは望み薄か。
私の今の状態を察して心配出来るくせに、彼女達からの好意に気付けないのはいかにも織斑 一夏らしい。
「さあ、そろそろ艦内へ戻った方が良いですよ、日が落ちるとかなり冷えますから。」
とはいえ、彼との会話で多少は気が楽になった点は感謝すべきだろう。
「それから心配してくださって感謝します織斑さん。」
「ああ、気にしなくていいぜ、どうってことないからな。」
アニメと同じイケメンスマイル全開で答える彼に、私は本当に良い男だなと思ってしまう。
そのうち私も彼に引かれて行くのだろうか?、まさか?、そんな事は想像もしたくない。
第一そうなれば私は完全に更識 簪になってしまう、先程の恐怖が蘇りそうになり、考えるのを止める。
「行きましょうか。」
「ああ。」
私達は連れ立って艦内に戻った。
なおこの後、甲板での会話の事がばれ、というか織斑 一夏が大して気にせず話した、所為で私は2人に睨まれてしまった、この男には先程の感謝の気持ちを返して欲しいと思った。
あと、相川副長。貴女が何を考えているか分かりますが、そんな事ありませんよ・・・まったく。