「これでよし。」
私は書いた報告書を確認し、誤字や脱字を確認してから保存する。
「~簪ちゃん~終った?~」
後ろから覗き込んでくるのは本音だ。
「終りましたよ本音。」
前回の仕事の報告書を作成していた私に、本音は付き合ってくれたのだ。
「それじゃ~これ食べようようよ~」
そう言って彼女は冷蔵庫に向かい扉を開けると、箱を出してくる。
「イチゴの~ショートケーキと~モンブランだよ~」
箱に書いてある店名は近所にあるお菓子専門店、本音のお気に入りのお店だ。
「でももう直ぐ夕食だけど大丈夫ですか?」
時計を見ると18時を過ぎているので聞いてみたのだけど。
「何~言ってるの簪ちゃん~これは別腹なんだ~よ~」
いかにも当然だと言う本音に、私は苦笑する。
女の子にとってお菓子はそうだと言うらしいが、自分にとっては関係無いと思っていたのだけど。
この世界に来て、女の子になった私はその通りだど実感させられていた。
兎に角甘い物に抵抗が無くなってきたいる、食事前だというのに・・・
「そうですね、じゃお茶入れますね、紅茶でいいですね本音?」
「OKだよ~」
結局私はお菓子の誘惑に勝てず、本音と2人のお茶会となるのだった。
「う~ん、美味しいよ~」
ショートケーキを食べながら本音はうっとりしている。
「くすくす、本当に幸せそうですね本音は?」
「そうだよ~これがあればもう何も~要らないよ~」
ケーキだけで幸せになれるのは女の子ならではないだろうか、私は思う。
「簪ちゃん~は違うの~?」
「そりゃまあ嬉しいですが。」
私はまだ彼女みたいには成れていない様だった、いや成りたい訳ではないのだけど。
とはいえ美味しいことは確かで、確実に女の子の方へ向かっているなと少々危機感がある。
自分で入れた紅茶を飲み、残りに手を付け様とした時、突然事務所の扉が開かれる。
「更識 簪は居るか!?」
突然の来訪者は、ハンターギルド長の織斑 千冬だった。
何時もと違う慌てた様子に私と本音はケーキを食べ掛けた状態で固まった。
織斑 千冬、彼女を語るのに一番合っている言葉は、冷静沈着だと私は常日頃思っている。
いやこれは私以外の人達に聞いても同じだろうと言える。
親友の束さん曰く、「ちーちゃんが冷静でなくなるのは、自分が冷静な人間と言われた時だね。」
そんなギルド長が冷静さを欠いている姿は今まで見た事がなかっただけに驚かされた私達だった。
「居たか、直ぐに艦を出してくれないか?急ぐんだ!」
「落ち着いて下さい織斑ギルド長、出すにしても事情を教えて下さい。」
私の前に立ち一気に言葉を出してくるギルド長を、私は押し止める。
傍らで本音はケーキを咥えたまま未だに固まっている。
「・・・ああ、すまんな。先張り過ぎた様だ。」
何とか冷静さを取り戻してくれた様で私はほっとする。
「本音、大丈夫?」
「う、うん大丈夫。」
何時もの間延びした口調が消えている。
「兎に角何があったんですか?」
織斑ギルド長の話によれば・・・
街に住む子供たち数人が海に出たまま今になっても戻ってこないらしい。
心配になった親達がギルドに相談に訪れ、偶々その場に居た織斑ギルド長が対応した。
そして彼女は捜索を約束し、私達の所に来たと言う事の様だった。
「状況は分かりましたが・・・」
思わず考え込んだ私を見て織斑ギルド長が心配そうな表情を浮かべる。
「問題が有るのか?」
「今動かせる艦が有りません。」
「本当か?」
衝撃を受けた織斑ギルド長が私の肩を掴んで聞いてくる。
「そうりゅうはまだドックから出られない状態なんです。」
艦体のダメージは予想以上に酷いらしく、束さんも頭を抱えていると言っていた。
「まほろばは暫らく航海の予定が無いので、乗員の皆に休暇を出しているんです、今から呼び出しを行っても今晩中にさえ集まるどうか分かりません。」
その言葉に織斑ギルド長が唇を噛む。
「他の商会には聞いたんですか?」
後はうち以外の商会に頼るしかないと思い私は尋ねてみたのだけど。
「・・・ほとんど出払っている、後はここが頼りだったんだが。」
私の肩から手を外し肩を落とすギルド長。
暫し沈黙が事務所内に続く。
「そうなると・・・束さんに相談するしかありませんね。」
「束にか?・・・そうだなそれしかないか。」
ドック責任者であり優秀な技師である束さんなら何か良い考えを出してくれるかもしれない。
「では早速行きましょう、本音は後を・・・」
「私も~行くよ~それを聞いて~何もしないなんて出来ないよう~」
まあ確かにそうかもしれない、そう考えてメモを姉宛に書いて置いてから事務所を出る。
「束は居るか!?」
ドック事務所に真っ先に入り織斑ギルド長が叫ぶ、後から付いて来た私達は息も切れで声が出せない。
「ギルド長?それに簪様、本音様?」
突然の来訪に驚いた表情で答えるのはクロエさんだった、事務所には彼女以外の姿は無かった。
「あいつは何処行った?早く出てこないと・・・」
「ギ、ギルド長?」
流石にクロエさんも何時もと違う織斑ギルド長に目を白黒させている様だった。
「落ち着いて下さい織斑ギルド長、クロエさんが戸惑ってます。」
私は彼女の肩に手を掛けて落ち着かせる、本当に今日は珍しい光景を見させられている気分だ。
「・・・すまんクロエ、悪かったな。」
何とか落ち着いてくれた様で私は息を付く。
「それでクロエさん、
束さんは?」
「あ、はい、束様は朝からラボに入っております・・・当分出てこられないと思います。」
「くっこんな時に・・・」
ギルド長は拳を握り締めて呻く。
束さんはラボに入ると何日も出てこない事は珍しくない、前に1週間も出てこなくてクロエさんがとても苦労させらた事があった。
「一体何があったのですか?」
聞いて来るクロエさんに先程あった織斑ギルド長の話をする。
「なるほど分かりました、暫らくお待ち頂けますか?」
彼女はそう言って端末の前に座り操作を始める。
見守る事数十分、クロエさんがこちらを見て聞いて来る。
「使える物があるかもしれません、どちらに行かれるのですか?」
それを聞いて、私は肝心の目的地を知らない事に気付く。
「・・・旧ドックだ。」
旧ドック、港から少し離れた所にある、かって使われていた施設だ。
確か港に新しいものが出来た為、10年以上前に閉鎖された筈だ。
「でも~あそこって立ち入り禁止~だよね~」
古いうえにドック内を知る人間が居ない為、危険と判断され誰も入れない事になっている所だ。
「どうやら探検家気取りで行ったらしい、子供達の間では有名な所らしいからな。」
なるほど子供特有の冒険心と言う訳だ、しかし何て危ない場所に。
「だとすれば都合が良いかもしれません、皆様付いて来て頂けますか。」
クロエさんはそう言って、壁に有るキーの束を取る。
「一体何が出て来るんだ?」
織斑ギルド長の問いに、クロエさんは意味深な笑みを浮べ答える。
「きっと役に立つ筈ですギルド長。」